2024年2週目のアメリカは、先ず月曜の連邦議会で、トランプ次期大統領の勝利認定が行われ、そのプロセスは4年前とは異なり 至って事務的で、従来通りの30分という所要時間。
そして木曜には故カーター大統領の国葬が執り行われたけれど、今週アメリカで最大報道になっていたのはカリフォルニア州で起こった あり得ない規模の山火事のニュース。
過去8ヵ月間、通常の10%以下という降水量で極めて乾燥したコンディションに、大型ハリケーン並みの強風が加わったことで
あっという間に広がった山火事は、 州内の最低5箇所で猛威を振るい、その中に含まれていたのがウィザースプーン、ベン・アフレック等のセレブリティが数多く暮らす高級住宅街で、その
平均住宅価格は450万ドル。
18万人に強制避難命令が出され、1万2000以上の建物が消失した火災は、現地のメディア・クルーも「こんな規模は観たことが無い」と語る大惨事で、被害総額は予想が付かない上に、
住人達はどの程度保険でカバーされるかも分からない状態。
LAでは山火事に備えてプライベートな消火栓を設置しておくと住宅価値が上がることから、現地では住民がその自宅専用消火栓を使って自力で消化に当たる様子も見られたけれど、
ソーシャル・メディア上で繰り広げられていたのは、この惨事を政治に利用した悪質な陰謀説やアグリーな論争。
トランプ氏は、日頃から敵視している民主党のカリフォルニア州知事、ガヴィン・ニューソンに対し「ニューソンがワカサギ保護を優先したせいでLAに十分な水が行き渡らない」と批判を展開。
この”ワカサギ”は現地の複雑な水供給事情の象徴とされる魚ではあるものの、ワカサギが水供給とは無関係なのは地元民なら理解していること。
しかしレッドステーツの政治家やトランプ支持者はこれを真に受けて「山火事の原因はニューソンの詐欺政策で、気象変動なんて起こっていない」、「ニューソンに刑事責任を問うべき」と猛攻撃。
同様にLA市長、そしてLGBTQ初の消防局長もX上ではボロクソ状態。また「MAGAに逆らった天罰」という見下しツイートが見られたかと思えば
ドナルド・トランプ・ジュニアに至っては、カリフォルニア州が DEI(Diversity, Equity and Inclusion/多様性、公平性、包摂性)を推進した民主党支持者が多いことを皮肉って、
「DEIじゃなくて、DIE(死ぬ)にするべき」とツイート。
一方、民主党支持者も ハリウッドで数少ないトランプ支持派の俳優、ジェームス・ウッズが自宅全焼の様子をソーシャル・メディアに投稿した様子を見て、
お返しとばかりに「正直言って気の毒というより、気が晴れた」というリアクション。災害時には無条件で支え合うアメリカン・スピリッツは、
感情レベルまで達した政治見解の相違によって、少なくとも現時点では消え失せているのだった。
今週、トランプ氏が大物議をかもしたのが、グリーンランドとパナマ運河を買収か軍事作戦によってアメリカの所有にし、
メキシコ湾をアメリカ湾と改名するプラン。
北米大陸の一部でありながらデンマーク自治領で、欧州と見なされるグリーンランドをトランプ氏が手に入れたい理由は、ロシアからの脅威を含む国家安全保障のため。
「グリーンランドの市民はデンマークがグリーンランドに対して法的権利を持っているかさえ知らない。市民投票によって独立して、アメリカに加わるかもしれない」と言いながらも、
決して否定しなかったのが軍事力行使の可能性。この発言があった火曜日にはトランプ・ジュニアがグリーンランドを訪問。アメリカ領土になることを見越してか、早くもドキュメンタリーの撮影を開始しているのだった。
「売りに出した覚えはない」と反論したデンマークは EU、及びNATO加盟国であることから、トランプ発言にはドイツ、フランスなども不快感を表明したけれど、
アメリカのもう1人の次期大統領、イーロン・マスクが 昨年末から執拗に干渉を始めたのがEU政治。特に英国政府に対しては60回以上に渡るツイートで批判を展開。野党極右勢力に大歓迎される一方で、
ドイツでは ”ネオ・ナチス”で知られるAFD党への支持を表明し、ショルツ首相の反感を買ったばかり。しかし極右のイタリア首相、ジョルジャ・メローニは
マー・ラゴに招くフレンドリーな関係で、NATO加盟国に軍事費負担の圧力をかけながら、政治的影響力を高めようとしているのが次期政権。
一方のパナマ運河については、歴史を辿ればアメリカが10年を掛けて1914年に開通させた運河で、カーター政権下の1977年に結ばれた条約により 1999年まで米国とパナマが共同管理。その後パナマ政府の管理・運営になっており、
2017年にパナマが中国との国交を樹立したことで、「中国政府のパナマへの影響力が高まっている」のがトランプ氏の安保上の懸念。
パナマのムリノ大統領は、昨年末から 「パナマ運河の通航料で中国を優遇したことは無い」と、中国との癒着が無いことを主張してきたけれど、
運河の管理・運営権をアメリカが取り戻せば、通行料もアメリカに入ってくるのは言うまでもないこと。
そのためメディアの中にはパナマ運河の方がグリーンランドよりも軍事力行使の可能性が高いと見る声が少なくないのだった。
今週にはカナダのジャスティン・トルードー首相が辞任を発表したけれど、トランプ氏はそのカナダに対しても、 ”経済政策による併合”で
アメリカ合衆国51番目の州にする意向を改めて強調。既に経済が悪化して久しいカナダからの輸入品に
トランプ氏が発表している25%の関税を課した場合、カナダ経済が危機に瀕するのはトルードー首相も認めていたこと。
トランプ氏とトルードー首相の関係は完全に拗れており、トランプ氏がトルードー氏を”(米国51番目の州の)州知事”と呼んでいたことは多数のメディアが報じたエピソードなのだった。
ちなみにカナダの国土はロシアに次ぐ世界第2位のサイズで、アメリカを1.6%上回る広さ。人口は4010万人で、その90%が居住しているのがアメリカとの国境から160キロ以内のエリア。
そうなるのはカナダの産業がアメリカとの貿易に依存しているのもさることながら、国土の殆どが寒過ぎて居住には適さないため。
今週、カナダ政府はカリフォルニアの山火事の消火活動に協力し、複数の消防用プレーンを派遣したけれど、
保守右派にとっては ブルーステーツを助ける様子が面白くなかったようで、超トランプ派議員で知られるマージョリー・テイラー・グリーンは、
その様子を ”カナダ州”という言葉を用いて皮肉るツイートをしていたのだった。
1月7日火曜日にフェイスブックの親会社、メタが発表したのが 傘下のSNSで:”ファクトチェック・プログラム”を終了する意向。このプログラムは2016年の大統領選でロシアのプロパガンダやQアノンといった陰謀説がフェイスブックで拡散され、
それによってトランプ氏が当選したという批判を受けて設けられたもの。
その後2021年の1月6日の米国議会乱入直後に、フェイスブックはトランプ氏の個人アカウントを閉鎖。「もう一度同じことをしたら、自分が再選された時に(ザッカーバーグを)生涯刑務所にぶち込む」というトランプ氏の過激な発言で
天敵のように思われてきたのがザッカーバーグ。しかしトランプ氏再選後からはマー・ラゴでのディナーで協調関係を結び、トランプ氏の就任式ファンドに100万ドルの寄付を発表。長い物に巻かれる姿勢を披露していたのだった。
今後メタ傘下のSNSプラットフォームは、X(元ツイッター)同様に ユーザーにコンテンツ監視を委ねる”コミュニティ・スタイル”に移行。
そしてユーザーから報告された問題に対応するモニター部門をブルーステーツのカリフォルニアから、レッドステーツのテキサスに移すことで、モニタリング・ポリシーの偏りを防ぐとしているけれど、
これは保守派右派フレンドリーなポリシーに転換するという意味。
さらにメタ社内では 長年の共和党幹部、ジョエル・カプランが国際問題を担当。トランプ氏の長年の友人であるUFC(Ultimate Fighting Championship)社長、ダナ・ホワイトが取締役に加わり、
人事面でも共和党、トランプ寄りをアピール。
フェイスブックがこうした動きに出た背景には、トランプ政権下でAIやメタヴァース事業の優遇を受けたいという事情に加えて、
これまで行って来たファクトチェックによって、リベラル派からは「ミスインフォメーションや陰謀説、未成年への悪影響に対して十分な策を講じていない」と責められ、
保守派からは「ユーザー投稿をリベラル派の視点から厳しく削除しすぎる」と非難され続けて来たことへの不満もあるよう。
グーグル傘下のYouTubeにしても コンテンツ・モニターの導入を諦め、ユーザーからの申告に対応するコミュニティ・スタイルを実践しているのが現在。
要するに シリコンヴァレーの大手が こぞって”ポリティカリー・コレクト”に見切りをつけ、
トランプ政権下で弱肉強食型のビジネス拡大を目指す方針で足並みを揃えたことになるのだった。
その一方で今後のSNS上で予想されるのは、陰謀説を含むディスインフォメーションが 問題投稿と判断されて削除されるまでに
大きく拡散され、社会や世論に影響を及ぼすという ”言ったもの勝ち” の状況。そのため破天荒な発言や、陰謀説のリツイートをしても さほど責められないインフルエンサーが政府や大企業のマウスピースになって
庶民を洗脳&扇動するのは時間の問題。
マーク・トゥウェインの語録に「A lie can travel halfway around the world while the truth is still putting on its shoes.(真実が靴を履いている間に、ウソは世界を半周する)」というものがあるけれど、2025年は拡散のスピードもさることながら、二転三転する情報にも人々が振り回される年になる気配なのだった。
アメリカでは年明け早々、退役軍人がニューオリンズの新年のセレブレーションに車で突っ込み、ラスヴェガスでは現役米軍兵がレンタルしたテスラ・サイバートラックで爆破自殺を図る事件が
起こったけれど、後者の捜査で明らかになったのが、自爆した米軍兵がチャットGPTのアシストを得て事件を計画していたこと。
「どの程度の爆発物が必要か」、「爆破に使用した花火の購入場所」、「銃で爆破装置を起動させるのに必要な銃弾の飛行速度」等についてチャットGPTの指南を仰いでいたことが明らかになっていたのだった。
チャットGPTは自殺や犯罪に繋がる質問には答えないようにアップデートされたはずであったけれど、実際には質問のスタイルを変えることで情報が引き出せてしまうことが判明。
その一方でチャットGPTの親会社、オープンAIは2024年12月から チャットGPT Plus、及び Proのサブスクライバーに20秒の動画制作を可能にするAI、”Sora”をリリース。
その3カ月前の20204年9月には、AIスタートアップ企業、ランウェイが動画制作の最新モデル Gen-3 Alphaを有料プランのユーザーに公開。このAIは
2023年のアカデミー作品賞に輝いた「Everything Everywhere All at Once」の制作に大きく貢献したことで知られるもの。
そのため2025年のSNSは、動画制作AIをいち早く取り入れて安価な量産体制を確立したインフルエンサーにビュワー数と収益が集まることが予想されるのだった。
AIに対する世間の関心がどんどん高まる中、今週ラスヴェガスで行われていたのが毎年恒例のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー。
そこでプレゼンテーションを行ったのが半導体メーカー、エヌビディアCEOのジェンスン・ファン。2025年はエヌビディアがその驚異的な大成長を維持できるかにも
注目が集まっているけれど、エヌビディアはトヨタを自動車分野のパートナー・リストに加え、運転支援チップとソフトウェアを提供すると発表。またカーシェアリングのUberに対しても、その1日当たり数百万回の乗車例からAIモデルのトレーニング・データを提供して、自動運転技術の開発に協力するとのことで、自動運転が大きく進化する気配を感じさせたのが彼のプレゼンテーション。
でもメインで関心を集めたのはやはりヒューマノイド・ロボット。「ロボットがChatGPTのように身近になる瞬間はすぐそこまで来ている」と語ったファンは、今後数十年でロボット市場が380億ドルに達する可能性があると予測。さらに強調したのがヒューマノイド・ロボット、セルフ・ドライビング・カーに加えて AIによって自動化・無人化された工場が当たり前になるビジョン。
彼の言葉通りにAIが進化し、人間の労働に取って代わる場合、時代遅れになると見こまれるのが現在の人口動態で予測する経済モデル。
今から30年、50年後の未来社会は 人間の予測セオリーより AIに予測してもらう方が確実と言えるのだった。
最後にカリフォルニア在住のお客様、読者の方々に、謹んでこの度の山火事のお見舞いを申し上げます。皆さまとご家族、ご友人の安全、そして一日も早い完全鎮火をお祈りしています。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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