Dec 8 〜 Dec 14 2024
ビリオネア・ポピュリズム、暗殺者がセックス・シンボル…、
曖昧になる政治、善悪、犯罪の定義
大統領就任式を待たずして、既に大統領として振舞っていると指摘されるトランプ氏であるけれど、今週発表されたのが来年1月20日の大統領就任式のドナー・パッケージ。
ブラック・タイの晩餐会やプライベート・ディナーを含む複数のイベントのチケットが纏めて購入できるドナー・パッケージのお値段は最低5万ドルで、最高は100万ドル。
トランプ就任式運営委員会は政治的非営利団体で寄付への限度額が無いことから、メガリッチは政権からの優遇措置と引き換えに、ドナー・パッケージ以外にも多額の祝い金を払うのが常で、
つい最近マー・ラゴでトランプ氏と関係改善ディナーをしたばかりのメタCEO、マーク・ザッカーバーグは早速100万ドルを寄付。次いで長年トランプ氏と不仲だったジェフ・ベゾスも、ワシントン・ポスト紙のハリス氏支持表明を
取り止めさせた時点でこの状況を読んでいたとあって、同じく100万ドルを寄付。
委員会への品物ギフトについては200ドルを超えると連邦選挙委員会に報告され、トランプ氏個人への高額ギフトはIRS(国税局)への申告義務があるのは一般人同様。
第一期政権下でトランプ氏は、海外の要人からのギフト100アイテム以上、金額にして25万ドル相当を国税局に申告漏れしており、それに含まれていたのが日本の安倍首相が贈ったゴルフ・クラブ。
2016年の大統領選でヒラリー・クリントンの当選を予測し、トランプ対策を全くしていなかった安倍政権は、選挙直後に安倍首相が直々にトランプ・タワーを訪れ、
”President Elect”となったトランプ氏と最初に会談した国家元首となったけれど、その時に持参したのが当時で40万円相当のゴルフ・クラブ。これをきっかけに両氏のゴルフ外交が始まったけれど、
トランプ氏がマー・ラゴに安倍首相を招いた際のディナーで、そのクラブについて「The Most Beautiful Weapon」と賞賛のスピーチをしたことが国税局にとって申告漏れを裏付ける証拠になっていたのだった。
日本のメディアでは石破首相が当選後のトランプ氏に「短い電話であしらわれた」と報じる様子が見られたけれど、
ルックスコンシャスなトランプ氏を外観以外で取り込むには、安倍氏のようにギフトが必要であることは外務省が熟知しているはずのことなのだった。
貧困層が熱烈に支持するビリオネア・ポピュリズム
今週発売になったトランプ氏のフレグランス「ファイト、ファイト、ファイト」をプロモートするために、トランプ氏が先週末ノートルダム寺院内で撮影されたジル・バイデン夫人とのスナップを使用して
「敵さえも抗えない香り」とキャプションをつけて自らのSNSにポストしたことが物議を醸していたけれど、そのトランプ氏の不在中に、久々にFOXニュースに出演したのがメラニア夫人。
出演理由は、自ら手掛けるリミテッド・エディションのクリスマス・オーナメントと、この秋出版した自叙伝をプロモートするためで、オーナメントはごく普通の飾りのにUSAという文字と国旗のモチーフがあしらわれただけで1つ90ドル。
トランプ氏のフレグランスも男性用、女性用が共に199ドルという高額ぶり。
トランプ氏はキッチン用品からフットボール、そして399ドルのゴールド・スニーカーに至るまで、ありとあらゆる選挙キャンペーン・グッズを販売しており、中でも著作権ゼロ、平均価格7ドル、普及版は1〜3ドルの聖書を
TRUMPブランドで$60ドルという超高額で販売したことには無信教が多いリベラル派が反発。逆に”神のしもべ”であるはずのキリスト教右派は、このボッタくり聖書ビジネスに加担して、プロモートする様子が見られたのだった。
ここで問題になって来るのが一国の大統領が選挙が終わってからも、えげつないほどに自らのプロダクトを販売して、利益を上げても良いのかということ。
過去にもヒラリー・クリントンが児童書を執筆してベストセラーになったり、フランスのサルコジ大統領夫人となったモデル兼シンガーのカーラ・ブルーニがCDを発売したことがあったけれど、どちらも利益は全額チャリティへの寄付。
前トランプ政権下では、プライベート・クラブであるマー・ラゴの多額のメンバーシップ・フィー、ワシントンDCに当時オープンしたばかりのトランプ・ホテルの高額宿泊費や飲食代という形で、
トランプ支持者やサウジアラビアを始めとする諸外国要人からの献金が舞い込んでおり、トランプ氏が前回の大統領任期中に増やした個人資産は16億ドル。アドバイザーを務めたイヴァンカ・トランプ&ジャレッド・クシュナー夫妻が
増やした個人資産は6億4000万ドル。
前政権の要職ポストで最も個人資産が多かった アムウェイ経営一族のビリオネア、ベッツィ・デボスは教育長官という通常ならお金儲けとは無縁のポジションに就任中、
最低2億2500万、推定で4億1400万ドルの資産を増やしているのだった。
第二期トランプ政権要職には、トランプ氏を除いて13人のビリオネアが指名され、その個人資産総額は100億ドル以上。アドバイス機関であるDOGE(政府効率化局)のイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワニーという2人のビリオネアを加えた全員が
そのポジションと利益相反に当たるビジネスに関っており、就任中の規制緩和や政府プロジェクトで更に資産を増やすのは織り込み済み。
ちなみにバイデン政権の主要ポストはビリオネアがゼロで、個人資産総額は1億1800万ドル。そうなるのは、ほぼ全員がトランプ政権メンバーのような本業ビジネスを持っていないため。
世の中ではトランプ氏をポピュリズムと捉える傾向にあるけれど、ポピュリズムとは本来は既成の権力構造やエリート社会の既得権益の覆しを人民に訴えてその実現を目指すもの。
しかしアメリカではその扇動役を果たしているのが 世界中の既得権益を独占するマルチ・ビリオネア達で、貧困層ほど彼らを熱烈に支持する 不思議な社会を形成しつつあるのだった。
グッズ販売、クラウドファンディング…、アメリカ国民がサポートする暗殺者、ルイージ・マンジョーネ
12月9日に逮捕されたのが12月4日早朝にマンハッタンのヒルトン・ホテル前でアメリカ最大の健康保険会社ユナイテッド・ヘルスケアのCEO、ブライアン・トンプソン(50)歳を射殺した容疑者、ルイージ・マンジョーネ(26歳)。
この日のアメリカの夜のトークショーでは、ホストが逮捕のニュースを語った途端に起こったのがブーイング。これはマンジョーネに対するブーイングではなく、逮捕に対するブーイング。
マンジョーネが逃走中の先週末には ワシントン・スクエア・パークで 彼のそっくりさんコンテストが行われ、SNS上では ネットフリックスによるドラマ化を見越したキャスティング予測が行われ、
先週末の「サタデーナイト・ライブ」でも マンジョーネ関連のジョークが笑いを誘っていたのだった。
そして彼がペンシルヴァニア州のマクドナルドで店員の通報によって逮捕されると、直後からそのマクドナルド店舗には最悪の1つ星レビューが殺到。ボイコット運動にも見舞われた一方で、マンジョーネのXアカウント閉鎖には猛抗議が寄せられ、
イーロン・マスクが「自分が知らない間に取られた措置。アカウント閉鎖についてレビューを行う」と弁明ツイートをしたほど。
さらにはオンライン上にはルイージ・マンジョーネ・グッズが溢れ、2つのクラウド・ファンディング・サイトで彼の弁護費用の寄付が募られる一方で、
彼の弁護士にも弁護料の支払を直接申し出る人々が現れる始末。
ルイージ・マンジョーネがここまでヒーロー扱いされるのは、アメリカ国民の誰もが健康保険会社の好業績の裏側にある 利益追求の悪行に怒りを抱いているためで、
特に最大手のユナイテッド・ヘルスケアは保険金申請の30%を拒否する悪名高き存在。AI導入により拒否効率まで上げているとのこと。
そもそもアメリカの健康保険会社は、たとえ深刻な病状でも 保険料支払い判断を遅らせ、患者の体力と精神力を散々蝕んでから、
保険会社と組んだ悪徳ドクターが病状も確認せず、署名だけを行う「治療の必要性無し」の医療判断と共に支払拒否を突き付けては、
患者達に絶望と嵩んだ医療費負担を押し付けて来たビジネス。
ユナイテッド・ヘルスケアでは、脳卒中で倒れた人々や転倒した老人のアフターケアの保険金支払い拒否率が 2020年の10.9%から、2022年には22.7%に急増。
すなわち脳卒中患者、及び転倒して動けなくなった老人の5人に1人以上が治療費の支払を拒まれるという信じられない事態が起こっているけれど、
その要因を担っているのが2021年にCEOに就任したブライアン・トンプソンによる徹底した弱者切り捨てポリシーであることは、NYタイムズ紙が具体的な数字を挙げて報じていた事実。
一方のルイージ・マンジョーネは、メリーランド州の不動産デヴェロッパーの裕福なファミリーに生まれ、アイヴィーリーグの名門、ペンシルヴァニア大学卒。彼の従兄弟はメリーランド州の共和党政治家で、
彼自身は2023年までカリフォルニアのオンライン企業でソフトウェア・エンジニアとして働いていたとのこと。数年前に事故で腰に致命傷を負った彼は、
性交渉も不能と言われるほど 腰痛に苦しみ続けたけれど、今やその彼を「セックス・シンボル」ともてはやしているのがソーシャル・メディア。
警察やメディアが マンジョーネが犯罪者であることを必死で強調しているにも関わらず、彼をサポートする声は既にヨーロッパにも波及しているのだった。
アメリカでは今年5月に大手健康保険会社、スチュワート・ヘルスケアが 経営陣と投資家にそれぞれ数億円の利益をもたらしながら黒字倒産をしたばかり。
次期政権下で健康保険庁トップに指名された 保険ビジネス未経験のTVドクター、メメット・オズの管理下で、残された大手4社のやりたい放題がさらに悪化すると見込まれるのが現在。
マンジョーネの逮捕後のNYでは、街中に貼られていた彼の手配ポスターに代わって、大手健康保険会社CEOをフィーチャーしたフェイク手配ポスターが貼られ始めたけれど、
アメリカではがんを克服しても、その9%が医療費による個人破産を申請しなければならない状況。それだけに被害者のCEOに同情する声は全く聞かれていないのだった。
これを受けて大手保険会社は、保険金支払いガイドラインの見直しに動くのではなく、エグゼクティブ達のセキュリティ・ガードを大幅に強化。
マンジョーネに対する第二級殺人罪の裁判が見込まれるニューヨークでは、早くも「陪審員に選ばれたら、彼を無罪にしよう!」という呼び掛けが行われているのだった。
その他、今週の”善悪”アットランダム
週明けにはシリアのアサド政権が崩壊したけれど、誰もが驚いたのが14年近く続いた内戦の後、ダマスカスに反政府軍が攻め入ってから僅か11日で政府が陥落したスピード。
さらに人々が驚いたのが、国連やアメリカを含む複数の政府からテロリスト団体と認定されている反政府主力グループHTSのリーダー、アハメド・アル・シャラーが、
”全国民のためのシリア”という民主主義の教典のようなスローガンを打ち出したこと。これには政治記者さえも「何がどうなっているのか分からない」と混乱するコメントをしていたのだった。
同じく週明けに報じられたのが、MLBスーパースター外野手、フアン・ソトがNYメッツとプロ・スポーツ史上最高額の15年、総額7億6500万ドルの契約で合意したニュース。
NYの生活が気に入ったソトの第一希望はヤンキーズとの契約継続。しかし彼がヤンキーズに契約金と共に突きつけたのが、今シーズン、テイラー・スウィフトも観戦した
ヤンキー・スタジアムのVIPスイートの全ホームゲームでの無料提供。VIPスイートは1試合8000ドル〜2万ドルで、スーパースター、アーロン・ジャッジでさえポケット・マネーでリザーブしていることからヤンキーズはこれを拒否。
メッツがこの条件を受け入れたのが決め手になったと言われ、メッツは1試合3250ドル〜1万3000ドルのVIPスイートを提供することで、ソトに対して毎シーズン、年俸以外に100万ドル以上を15年間支払う計算。
ヤンキー・ファンの間ではソトをクロスタウン・ライバルに奪われたとは言え、この要求を受け入れなかったオーナー判断をサポートする声が圧倒的なのだった。
今週NYで無罪判決を受けたのが、地下鉄内で暴れて乗客を危険にさらした精神疾患のあるホームレス男性を取り押さえる際、首を抑えるチョーク・ホールドを6分間続けた結果、
男性が後に死亡した事件で、第2級故殺罪と過失致死罪で起訴されていた元海兵隊員のダニエル・ペニー。被害者はマイケル・ジャクソンの物まねで知られた黒人ストリート・パフォーマーで、
ドラッグ常用が指摘されるジョーダン・ニーリー。人種問題も絡んだこの裁判は女性7人、男性5人の陪審員が真二つに割れ、一向に決着がつかないことから、判事が第二級故殺罪を
取り下げた結果、僅か1時間程度の審議で 過失致死罪の無罪評決を受けたのがペリー。判決言い渡し後の法廷内では拍手が起こっていたけれど、裁判所の外では
これを人種問題と捉えるブラック・ライヴス・マター運動家が遺族と共に猛反発。
しかし暴れるニーリーを善意で取り押さえたペリーを擁護する地下鉄利用者は多く、裁判で弁護士が陪審員に尋ねたのが 「ダニエル・ペリーとジョーダン・ニーリーの何方と一緒に地下鉄に乗りたいか?」。
多くのニューヨーカーは、精神疾患を持つドラッグ中毒者がホームレスとして野放しになっていることを問題視していたけれど、
「ホームレスという言葉自体が政府予算をむしり取ろうとするプロパガンダ」と語るイーロン・マスクのDOGE(政府効率化局)が最優先で大幅削減を掲げているのがホームレス対策費。
そのイーロン・マスクの個人資産は選挙後から77%アップして、今週史上初の4000億ドルに達したばかり。
トランプ政権下では、貧困層のクレジット・カード払いの遅れや銀行の残高不足に対するペナルティも、バイデン政権下で定められた上限が取り除かれることから、
2025年からの4年間は 経済的弱者にとって徹底して厳しい時代になるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2024.