Dec 1 〜 Dec 7 2024
身内恩赦, 女性が支払うピンク関税, スポティファイ, BTCのATH, Etc.
サンクスギヴィング休暇が明けた今週のアメリカで まず物議を醸したのが、バイデン大統領が 脱税と拳銃不法所持の罪に問われていた息子、ハンター・バイデンに恩赦を与える発表をしたこと。
「息子には恩赦を与えない」と繰り返し宣言していたバイデン氏が恩赦を与えたのは、トランプ政権下で報復目的の不適切な訴追対象になるのを避けるためと説明されたものの、 これには共和党はもちろん、与党民主党も大反発。
本来 大統領恩赦は、厳しすぎる罪に問われた犯罪者や 不当に罪を問われた前科者に対して道徳的見地から行われるもの。
その原則を破って前トランプ政権下で 娘婿ジャレット・クシュナーの父親で、トランプ氏の大口ドナーであるチャールズ・クシュナーを恩赦したことを痛烈に批判してきたのが民主党で、
バイデン氏がハンターに恩赦を与えることは 「民主党もルールを破って、大統領の特権を家族のために使います」と宣言しているようなもの。
その批判をかわすかのようにバイデン陣営は、トランプ氏のリベンジ・リストに名前が載っている政治家を含む数人に対し、罪に問われるのを防ぐ ”先制恩赦”を検討中であることを示唆しているのだった。
ちなみにイヴァンカ・トランプの義父で、ニュージャージー州不動産業者、元弁護士のチャールズ・クシュナーは、2005年に違法な選挙資金提供、
脱税、証人妨害罪で2年の実刑判決を受けて服役し、弁護士資格を剥奪されており、特に義理の弟に裁判で証言させないために売春婦を雇い、彼との性行為を録画して、
その画像をネタに脅迫していたストーリーは非常に有名。
トランプ氏の恩赦で罪が帳消しにされたチャールズ・クシュナーは、次期政権のフランス大使に指名されたばかり。
さらにトランプ氏は、娘ティファニーの義父でレバノンからの移民ビリオネア、マサード・ボウルズを中東問題上級顧問に任命。
ボウルズは、今回の選挙の激戦州で 本来なら民主党を支持するイスラム系アメリカ人の票をトランプ氏に流れさせた原動力。
しかしトランプ氏の ”娘の義父ダブル・キャスティング” には、共和党内からも難色を示す声が聞かれているのだった。
政権ポスト指名のパラレル・ワールド
政権の主要ポジションにことごとく未経験、もしくは問題山積の人物を指名しているトランプ氏であるけれど、
今週ようやく避けられる見通しが立ったのがFOXニュースのキャスターで、女性、飲酒、金銭使い込みの問題が指摘されていたピート・へグセス(44歳、写真上左)の国防長官就任。
国防総省は130万人を超える現役兵士を含む280万人のスタッフを抱え、政府最高額の予算を扱う最も重要な機関。
それを元軍人とは言え、管理職さえ未経験のへグセグが取り仕切るのは、最初から不可能と分かり切っていたこと。
へグセスが最初に問題視されたのは、2017年の性的虐待容疑で、彼は「犠牲者に賠償金を支払ったのは、職を失うのを恐れたためで、行為は合意の上」と弁明。
しかしFOXニュースには、職場内、及びパーティーやイベント等で彼に出逢った女性達から複数の性的虐待被害が寄せられていたとのこと。
さらに彼はミーティーングやイベント、番組撮影に頻繁にアルコール臭をさせて登場することが10人以上のFOXニュース関係者によって証言されており、
ルイジアナ州ではチャリティ・イベント後に出掛けたストリップ・クラブで「酔った勢いでステージに上がってストリッパーに絡んだ」等、際限なく出て来るのが彼の飲酒絡みのエピソード。
さらにへグゼスが退役軍人チャリティでトップを務めるようになってから、予算を私用のパーティーや飲み会に使いまくった結果、資金が枯渇して辞任を迫られたことも伝えられ、
遂にはへグゼスの実母までもが、彼の女性虐待や浮気を含む悪事をEメールで批判していたことが報じられたのだった。
後日、息子の出世を阻みたくないと考えた実母がFoxニュースに登場し、必死の弁明とトランプ氏への懇願を展開。しかしこれは逆に「44歳にして
母親に自分の言い訳をさせる」と失笑を買っていたのだった。
これらを受けてへグセスでは議会承認は不可能と判断したトランプ氏が、代わりにフロリダ州知事、ロン・ディサンティス(写真上中央)を指名すると言われ始めたのが今週。
しかしへグセス本人は辞退せずに戦い抜く決意を新たにしていたのだった。
その一方で麻薬取締局トップに指名されたフロリダ州の保安官チャッド・クロニスター(写真上右)は、トランプ氏の指名の中では極めてまともで、経験と実績を持つにも関わらず辞退を発表。
「指名は光栄であるものの、責任を背負いきれない。地元に残って職務を遂行する」というのが辞退コメント。そのクロニスターは地元タンパでLGBTQ+をサポートするプライド月間イベントを率先してプロモートし、
マイノリティ人種に対する差別のないコミュニティをスローガンに掲げて支持されてきた存在。その民主党寄りの姿勢が、承認委員会で共和党上院議員からの攻撃対象になることを懸念したのが辞退の本当の理由。
その証拠に問題だらけのへグセスを必死でかばい続けた共和党議員からは、彼の辞退について惜しむ声は一切聞かれておらず、
政府要職が実力や国益とは無関係に選ばれる様子を露呈していたのだった。
Tariffのシワ寄せは女性に!? ピンク Tariffの実態
先週、トランプ氏が打ち出したのが カナダとメキシコからの輸入品に対する25%のTariff、すなわち関税措置。
両国との国境から多数の不法移民と、フェンタニルを始めとするドラッグが流入している制裁として
打ち出したけれど、これに対して「メキシコと一緒にされては困る」と猛反発したのがカナダ。
先週末にはジャスティン・トルドー首相がトランプ氏私邸 マー・ラゴを訪れて、「25%の関税が導入されれば、既に弱体化したカナダ経済が崩壊しかねない」と説得。
それに対して「だったらカナダはアメリカの51番目の州になれば良い」とトランプ氏が語ったのは世界中で大きく報じられたとおり。
しかしアメリカにとって2大貿易パートナーであるカナダとメキシコへのTariffの影響を最も受けるのはアメリカ国民。
まずメキシコは、アメリカの輸入フルーツの50%、輸入野菜の約65%の出荷元で、アボカドに関しては全米の消費量の90%を担う存在。
加えてアメリカのビールの大半はメキシコで醸造され、ピックアップ・トラックの88%もメキシコからの輸入。
一方、カナダからは1日当たり27億ドル相当のグッズとサービスが輸入されており、原油の60%に加えて、プラスティック、医薬品、木材、紙、自動車など、
国民の生活を担う重要な輸入品のサプライヤー。
アメリカはこの2国との貿易に頼り切っており、他からの輸入や国内生産への切り替えという選択肢は無いので、
25%のTariffはそのままアメリカ国民の生活費に上乗せされるのは時間の問題なのだった。
ちなみに昨今では違法ドラッグは、アメリカ国民がオンラインで中国から個人輸入するのが最もメジャーな入手ルート。したがって
カナダとメキシコのせいにするのは若干お門違いと言えるのだった。
その中国に対しても、さらに10%の関税が課せられるけれど、中国はアパレルの90%を海外生産、もしくは海外からの輸入に頼るアメリカの25%を担う存在。
それとは別にアメリカにはピンク・タックスという言葉があり、これは実際の税金ではなく、スキンケアからアパレル、クリーニング代まで女性用グッズやサービスが
男性用に比べて割高であることを示す言葉。女性用のアパレルの方が生地の使用料が少なく、女性のスーツの方が男性用よりも縫製工程が少なく、女性用スキンケアやクレンザーは
男性用と同じ中身で容器が小さいけれど いずれも10%以上割高。生理用品への売り上げ税にしても女性だけに課せられるもの。
同じことはTariffでも起こっており、2018年の段階で女性の方がアパレルを含むファッショングッズに男性よりも20億ドル多く関税を支払っており、
これにはスキンケアやフレグランスは含まれていないのだった。
同じ仕事で男性が1ドル稼ぐのに対して、白人女性の給与は84セント、黒人女性は68セント、ヒスパニック系女性になるとは58セントという男女の給与格差を考慮すると
ピンク・タックスとピンク・タリフは、女性達に最低20%以上の経済的負担になってのしかかってくるもの。
白人保守男性の圧倒的支持で実現したトランプ政権下で、この状況が改善されることは まずあり得ないと言われるのだった。
その他、今週のアットランダム
11月4週目のこのコラムで、不法移民の強制収容所建設がプランされていることに触れたけれど、
早くもその施設のために1400エーカーの土地提供を申し出たのがテキサス州土地管理委員会。
「州が購入したばかりの広大な農地に、アメリカ史上最大の強制送還の手続き、拘留、調整のための施設を建設することをトランプ大統領と、次期国境管理官のトム・ホーマン氏に提案した」
と発表しており、土地は無料提供ではなく、リース契約で稼ごうという純然たるビジネス。既にこのプロジェクトには ”ジョセリン・イニシアティブ” という名前がついており、
これはベネズエラからの不法移民男性2人に殺害された 当時12歳のジョセリン・ナンガレイにちなんだネーミング。
不法移民の犯罪急増を謳って反移民感情を盛り上げた保守メディアとトランプ・キャンペーンであるけれど、
実際には移民による犯罪発生率はアメリカ国民に比べて遥かに低いのは数字のデータが証明するところ。
しかし印象操作で一度築かれた偏見は、事実では覆せないことを立証したのが11月の選挙で、「人間は信じたいことを信じる生き物」の特性を
利用できる側がビジネスでも政治でも勝利することを改めて痛感させているのだった。
今週ビットコインが10万ドルの大台を突破したけれど、その直前に「ビットコインは米ドルの存在を脅かすものではない」と珍しくビットコインに好意的と取れる発言をしたのが連銀のパウエル議長。
アメリカ政府は、数年前に人身売買やドラッグ取引が行われるダーク・ウェブの走り”シルク・ロード”を摘発した際、支払に使われていたビットコインを全て没収しており、
実は一銭も支払わずして世界一のビットコイン保有国。その数は21万3297。1ビットコイン=10万ドルでどんぶり勘定をすれば総額210億ドル以上。
今週にはそのうちの19億ドル分をクリプトカレンシー取引所の最大手、コインベースのウォレットに移したばかり。
ビットコイン保有国のトップ5は 2位が中国、3位が英国、4位がビットコインを法定通貨にしたエルサルバドル、そして5位はロシアかと思いきやウクライナ。
今週戒厳令が発令され、近年で初めてアメリカのトップニュースになった韓国では、12月2日にクリプトカレンシーの取引量が180億ドルに急増。
株式の取引量を22%上回る事態が起こっているのだった。
今週にはスポティファイが2024年に最もストリーミングされた音楽やポッドキャストのランキングを発表したけれど、それによれば最もアルバムがストリーミングされたのはテイラー・スウィフトで、
テイラーは6位にもレコーディングし直した「1989」がランクイン。トップ10アルバムのうち8つが女性アーティストの作品。
最もストリーミングされた楽曲はアメリカ国内でも、世界全体でもサブリナ・カーペンターの「エスプレッソ」。
ポッドキャストで最も視聴されたのは、トランプ氏を当選に導いた原動力の1人であるジョー・ローガンの"The Joe Rogan Experience/ザ・ジョー・ローガン・エクスペリエンス"。
これを聴いている大半は白人、保守右派、男尊女卑思考の男性であることから、「ジョー・ローガンのポッドキャストを聴いている」とういうのは
女性がデートしたくない男性リストの上位にもランクしているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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