Nov 17 〜 Nov 23 2024

Buyers Remorse, Immigration Raid, Etc.
投票総数の行方、政治のパラドックス、不法移民狩り, Etc.


トランプ氏が政権主要ポストの指名を急ピッチで行う中、実は未だ行われているのが大統領選挙の開票作業。今回の投票者総数は1億5600万人以上、そのうちの約200万票が今週末の時点で未開票。 それでも結果が出るのは、アメリカの選挙が総得票数ではなく州ごとに獲得する選挙人で決まるためで、今も開票作業が行われているのはカリフォルニアなど人口が多いブルーステーツ。 今週の時点でポピュラー・ヴォートと呼ばれる総得票数はトランプ氏49.9%、ハリス氏48.2%。 選挙人の獲得数ではトランプ氏312人、ハリス氏226人でトランプ氏の圧勝であるけれど、ポピュラー・ヴォートに関しては 選挙前の世論調査結果とほぼ同じ拮抗状態。 残票数からトランプ氏が共和党大統領候補として2004年のジョージ・W・ブッシュ以来、20年ぶりにポピュラー・ヴォートで勝利するのは確実ではあるものの、 アメリカが真二つに分断されている状況は全く変わっていないのだった。



続出する「こんなはずじゃ…」


政治的に中立のメディア、Politico/ポリティコが今週記事にしたのが、選挙直前まで卵とミルクの値段に腹を立て、「不法移民が何百万人も不正投票している」と主張し、激戦州で選挙前から20件もの訴訟を起こしていた共和党支持者が、 トランプ勝利以降、突如「経済は良好、選挙は正当で不正無し」という主張に鞍替えした様子。
しかしハードコアMAGAの歓喜を背景に、徐々に押し寄せているのが選挙結果のリアリティ。 まずトランプ政権の経済政策の柱であるTariff(関税)導入により原料を含む輸入品が値上がることから、 小売業、製造業で見込まれるのがコスト高と経営難。そのため経営者たちがTariff導入前に在庫を抱えるためにボーナス減額、もしくは無支給、加えて来年にはレイオフがあり得ることを従業員に通達し始めており、 選挙後にグーグル検索でトレンディングに浮上しているのがTariff。X上では「どうして投票前にリサーチしないのか?」という指摘やMEMEが溢れているのだった。
また今回の大統領選挙では伝統的に民主党支持だったアラブ系、パレスチナ系アメリカ人の55%がトランプ氏を支持。特にスウィング・ステートでトランプ氏勝利に貢献したけれど、その勝利を受けてアラブ・アメリカン団体が トランプ氏に送付したのが 支持と引き換えにトランプ氏が合意したレバノンとガザ地区での即時停戦に動くよう求める書簡。 ところがトランプ氏はそれを無視し、代わりにイスラエル大使に指名したのが「ウエスト・バンク(ヨルダン川西岸)やガザは存在しない、あるのはイスラエル領土だけ」と語るほどの反パレスチナ思想を持つ元共和党大統領候補、マーク・ハッカビー。 さらには外交を取り仕切る国務長官に「ハマスは残酷なアニマルだ。奴らを亡ぼすまで手を緩めない」と語ったマルコ・ルビオ上院議員を指名したことで、「裏切られた」と怒りを露わにしているのが現在。
加えて危機感を高めているのが既往症を持つ人々や、ACA(アフォーダブル・ケア・アクト/医療費負担適正化法:別名オバマ・ケア)によって社員の健康保険料を安価に抑えている中小企業主。 既往症を持つ人でも加入できるACAは、バイデン政権下で政府から補助金が支給された結果、特に南部のレッド・ステーツで数百万人の保険料支払いがほぼ半額になり、加入者数も2倍に増加。 その補助金制度が失効するのが2025年で、議会が延長法案を可決しない限り、保険料の支払いは平均79%アップ、一部の州では2倍に膨れ上がるのだった。
しかしオバマ嫌いのトランプ氏がACA潰し、もしくは骨抜きを狙っているのは周知の事実。議会も共和党が僅少差で過半数を占めていることから、マイク・ジョンソン下院議長が早くも示唆したのが 補助金打ち切り。その分の政府予算は新トランプ政権下での減税財源に回されるのは共和党内では織り込み済み。
アメリカでは保険が無ければ、一晩の入院費が冗談抜きで1万ドル。 保険がカバーした場合でも 日本を含む先進国とは比べ物にならないほど医療費は高額。 要するにミドルクラス以下がこれまで受け取っていた医療補助金が、減税という形でACAを利用する必要が無い富裕層に流れ込むのが新政権下。そのため貧富の差以上の問題をもたらすのは時間の問題なのだった。
そんなACA骨抜き政策を立証するかのように、トランプ氏は今週 ACAと深く関わる高齢者・低所得者の医療保険、メディケア・メディケイド担当に元トークショー・ホストで、自分が経営に関わる胡散臭い健康食品のプロモートで議会証言を求められた過去がある ”ドクター・オズ”こと メメット・オズを指名。オズはトランプ政権内3人目のTVホストで、3人とも指名されたセクターは未経験。今週木曜には司法長官にノミネートされていたセックス・トラフィッカー、マット・ゲーツがようやく 指名を辞退したけれど、それでも政権ポスト指名リストには未だ性的虐待容疑を問われた人物が3人残っているのだった。



アメリカ政治のパラドックス


先週、イーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワニーが率いるDOGE(政府効率化局)が設立され、掲げたのが政府出費の3分の1に当たる年間2兆ドルのコスト削減。 トランプ氏の選挙応援演説でマスクは、バイデン政権下の無駄なプログラムや、効率の悪いオペレーション、不要な人件費で政府債務が膨れ上がったと指摘したけれど、 彼が敢えて触れなかったのが政府支出増大の2大要因が年金を含む福祉と医療費であること。
事実、連邦予算を食い潰しているのは社会保障(2023年度支出額1.3兆ドル)、メディケア(1兆ドル)、メディケイド(6160億ドル)、失業手当を含む所得保障プログラム(4480億ドル)、連邦職員年金(1970億ドル)といった 本来支払うべき義務的プログラムで、その総額は3兆7500億ドル。これは年間の非利子連邦支出の69%に当たる額。 これらを支払った上で DOGEの目標を達成するには、それ以外の出費を殆どカットしなければならないけれど、 イーロン・マスクがDOGEを設立した目的は彼が経営する複数の企業が、政府関連プロジェクトでこれまで以上の多額の利益を得るため。 世界一の富豪であるイーロン・マスクの巨額の富は、米国民の税金を元に築かれたと言っても決して過言ではなく、テスラに対する助成金や減税措置はもちろん、スペースXについてはNASAと国防省の最大コントラクター。
そのためDOGEが本当に2兆ドルのコストを削減するにはソーシャル・セキュリティ、退役軍人手当、フードスタンプといった政府補助金制度に手を付けなければならないけれど、 その恩恵を最も受けて来たのは圧倒的にトランプ氏に投票したレッドステーツ。 中でもトランプ氏が圧勝したケンタッキー州オウズリー郡は、個人所得の63%が政府からの補助金で、その依存度は全米トップ。 他にもケンタッキー州内では13郡で補助金が個人所得の50%を超えているというあり得ない依存度。 逆に最も補助金の依存度が低いのは判で押したようにハリス氏を支持したブルーステーツ。
すなわち、レッドステーツのトランプ支持者はこれまで自分達の銀行口座に振り込まれていた政府補助金減額を支持していたことになり、 逆に平日の昼間からトランプ・キャンペーンに出掛けて、失業手当や、低所得者手当に生活費を依存するレッドステーツ住人への助成金カットは 民主党支持者が望んで然るべきであるけれど、実際のところDOGEはモニター&アドバイス機関。 不必要なプロジェクトをカットし、助成金を減らし、不要な官僚を解雇する権限は擁しておらず、それを行うには議会に法案として提出し、可決されなければ不可能。
DOGEの委員に加わるトランプ派の下院議員マージョリー・テイラー・グリーンは「我々の委員会により、解雇が必要な官僚が明らかになる。特に何十億ドルもの予算が何に使われているかを把握していない国防総省の官僚たちは、解雇通知を受け取ることになるだろう」と国防省を名指しにして強気の宣言をしたけれど、前述の通り国防総省はスペースXの企業評価額を左右する大口クライアントなのだった。
そんなパワー・バランスを理解している民主党側は、「DOGEこそが不要な機関」とばかりに成り行きを静観しているのが現時点。 確実に言えるのはイーロン・マスクの存在が共和党内部でかなりの火種になり始めていることで、トランプ氏の政権返り咲きをもたらしたマスクの存在が、今となっては策を持たない民主党の希望の光になりつつあるのだった。



不法移民狩りのインパクト


先週末に報じられたのが、大統領就任と同時にトランプ氏が国家非常事態を宣言し、軍隊を導入して20万人の不法移民の大量強制送還を行う計画。 トランプ氏が指名した国境担当官トム・ホーマンは、第二次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人狩りのように、連邦捜査官、地元警察官、州兵を動員し、職場や住宅街、街頭で抜き打ちの不法移民摘発を行うことを宣言。 第二次大戦中と異なるのはICE(移民関税執行局)が、フェイス・レコグニション・システムを導入していること。
これに対してはトランプ支持のビジネス・リーダーでさえ懸念を表明しているけれど、理由は人権問題ではなく、不法移民が居なくなれば労働力不足と物価上昇に直面するため。 アメリカでは農業、建設業、製造業、ホテル、レストラン等の業界が、不法滞在者や臨時労働者に依存して人件費を大幅に抑えているのは周知の事実。 例えばノース・キャロライナ州のスウィート・ポテト農園では、収穫労働者の賃金は16キロ分を掘り出して45セント。1ドルを稼ぐためには35キロ以上の収穫が必要で、それでも働いてくれるのが不法移民。 基本的に不法移民がやっている仕事は、時給を上げたところでアメリカ人が遣りたがらない 労働条件が悪い職種なのだった。
その解決策となり得るのが、移民問題担当のトップ顧問 スティーブン・ミラーが建設を宣言している不法移民強制収容所。 20万人もの不法移民の強制送還を試みても、直ぐには諸外国の受け入れ体制が整わないことを考慮し、国防予算からの資金転用で建設を謳っているのが強制収容所。 これが本当に建設されれば、低賃金の不法移民を無償労働者にコンバートすることが可能になるのだった。
アメリカでは1865年に合衆国憲法13条で奴隷制廃止が謳われたものの、同じ13条で認められているのが服役中の犯罪者に無償労働を強いること。 多くのブルーステーツではそれが禁止されて久しいけれど、奴隷への依存度が高かった南部の州、現在のレッドステーツでは囚人無償労働が合法的に行われているのは周知の事実。 強制収容所が建設されるとすれば、安い土地が沢山余っているレッドステーツになるのは必至で、 そうなれば収容期間中に義務付けられるのが無償労働。母国による引き取りが無い場合、不法移民が余生を無償で働くことになっても不思議ではないのだった。
実際にトランプ氏は、今年10月の選挙キャンペーン中「リンカーンが南部での奴隷制を認めていたら、南北戦争は防げた」と奴隷制の肯定を発言。共和党ノース・キャロライナ州知事候補のトランプ派、 マーク・ロビンソンに至っては、「奴隷制度は悪くない。奴隷になるべき人間も居る。奴隷制度が復活したら、間違いなく何人かを買うだろう」と語り、猛バッシングを受けたけれど、 2024年現在、世界の奴隷人口は200万人。これはヒューマン・トラフィッキングで違法に売買される人々ではなく、合法的奴隷の数。 奴隷制が過去のものというのは現代人の思い込みに過ぎないのだった。
だからと言って不法移民の強制送還、強制収容所建設が本当に実現するかは別の話。費用が掛かる上に財源が明確に提示されていないとあって、共和党政治家さえ非現実的なプランと見なしているのが実際のところ。 「それを実現できるのが、公約通りメキシコとの国境に壁を建設したトランプだ」という支持者は多いけれど、彼らが認識していないのが、全長1954マイルのメキシコとの国境のうち 不法移民流入のルートとなり得るのはその半分程度で、 トランプ氏就任前の時点で 既にそのうちの700マイル以上に壁が存在していたこと。 トランプ政権下では463マイルの壁が建設されと謳っているものの、実際に新規設置されたのは僅か55マイル。残りは既にあった壁をトランプ政権下の建設に見せるために取り換えただけの作業。しかもその壁は高さこそはあっても、痩せた移民ならすり抜けられる鉄格子の幅で、トランプ氏が建設費を払わせると公約したメキシコは一銭も出さず、全額が国防予算からの捻出。
そうした前例があるので、不法移民の強制送還も実態や成果は別として、トランプ支持者を満足させる形で報道されることは確実視されるのだった。

来週のこのコラムは、サンクスギヴィングのホリデイ・ウィークエンドにつき、お休みを頂きます。アメリカ在住の皆さま、Happy Thanksgiving!!

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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