Nov 10 〜 Nov 16 2024
女性達のリベンジ、ビリオネア政権、トランプ家パワーシフト, Etc.
今週も週明けから、民主党・リベラル派のメディアで聞かれていたのが、大統領選の結果を受けて「何故、誰のせいでこうなった」というブレーム・ゲーム。
2020年にトランプ氏が破れた際に共和党が主張した敗因は、民主党の陰謀と不正選挙。トランプ氏への信仰を高めていたのに対して、
民主党・リベラル派は敗因をハリス氏本人、バイデン大統領、WOKEカルチャー、不正選挙防止にお金と労力を注ぎ過ぎて、
投票者獲得を怠った戦略ミス等、全てを列挙しながら露呈していたのが党のアイデンティティ・クライシス。
私が唯一賛同したのは、NYタイムズのコラムニストが滔々と書き綴ったハリス氏敗因のオピニオン記事を「退屈で読んでいられない」と批判したリベラル派コメディアンの主張。
実際に短くなる国民のアテンション・スパンの前で、退屈になりつつあるのが難しい正論。
だからといって選挙演説でブロウ・ジョブを真似たり、アーノルド・パーマーの性器のサイズを語るのは論外であるけれど、
NYポストやFOXニュースに代表される共和党メディアは英語が流暢でなくても読めて、理解できる簡単かつシンプルな英語。加えてゴシップ性とデマで興味や感情を掻き立てるポリティカル・エンターテイメント。
対するNYタイムズ、ワシントン・ポスト、MSNBCを始めとする民主党リベラル・メディアは、IQが高い優秀なジャーナリストが複数の関係代名詞を含む複雑な文法や豊富な語彙を用いた美しい文章。取材とリサーチに基づいた情報量に優れている分、
それを短時間で読む読解力を持ち、その情報が仕事や投資に有益に生かせるのは限られたエリート層。
不特定多数のニュース・ソースとしての影響力が衰えるのは無理もないと言えるのだった。
女性達の壮絶なパーソナル・リベンジ
勝利したトランプ陣営、及び保守右派メディアの勝利宣言、敗者叩きは今週に入ってさらにエスカレートしたけれど、
惨敗したように見える民主党支持者のリベンジが、パーソナル・レベルで猛チャージが掛っていたのが今週。
SNSにはトランプ氏に投票したことでサンクスギヴィング・ディナーの招待を母親や友人ファミリーに取り消された人等が嘆きのポストをしており、
彼らは当初「2016年のサンクスギヴィング・ディナーみたいに、トランプの話で喧嘩になるのかな…」程度に考えていたようだけれど、今回はディナーに招待さえされず、
その理由として突きつけられたのが「今年は気心が知れた身内だけの集まりにした」という完全な阻害と拒絶。
FOXニュースのキャスター、ジェシー・ワッターズ(写真右上)もその1人で、母親に「テーブルの席が足りないから」と、家族のサンクスギヴィング・ディナーへの参加を拒まれているのだった。
また今回の選挙では男性が圧倒的にトランプ氏に投票し、女性がハリス氏に投票したけれど、夫やボーイフレンドがトランプ氏に投票していたことを突き止めた女性達が彼らに離婚や別れを言い渡していたのが今週。
離婚弁護士への相談件数がアップした今週のソーシャル・メディア上では、以前韓国で盛り上がった ”4Bムーブメント”が女性達に呼び掛けられており、これは恋愛、セックス、結婚、出産の4つを ”Ban/廃止”するムーブメント。
今回の選挙は、女性達にとって妊娠中絶や避妊を含む自分の身体の権利や自由を守る闘いであったけれど、そんな妻やガールフレンドのハリス支持を毎日見せつけられていた男性達が、
「どうせハリスが勝つだろうと思って…」と出来心的にトランプ氏に投票したと言い訳する様子は2016年の大統領選挙でも観られた光景。その結果選挙翌日からは「Can I change my vote?(投票を変えられる?)」がグーグル検索でトレンディングになっていたのだった。
男性同様にトランプ勝利に貢献したヒスパニック系アメリカ人は、選挙の翌日からスーパーのレジに並んでいるだけで 「もうすぐお前らは強制送還だ」というハラスメントを白人層から受けるようになったようだけれど、
実際ヒスパニック系は 本人がアメリカ国籍でも、身内を辿っていくと必ずと言ってよいほど含まれているのが違法滞在者。
しかしヒスパニック・コミュニティでは「トランプが主張する移民強制送還は選挙に勝つためのジェスチャーで、本当は行われない」、「強制送還は犯罪者だけで、家族が居る人には逆にグリーンカードが与えられる」というミスインフォメーションが
飛び交っていたとのこと。さらにはヒスパニック男性に根強い”マッチョ カルチャー”を利用した「男が女の大統領に従えるか?」のメッセージにも乗せられたようだけれど、
SNS上では「ヒスパニックがトランプに投票するのは、鶏がKFCに投票するようなもの」と指摘されていたのだった。
ビリオネアの ビリオネアによる、ビリオネアのための…
選挙で誰が勝利しようと、大儲けするように出来ているのが大金持ち。世界の長者番付トップ10が トランプ氏の勝利翌日、11月6日だけで
増やした資産は630億ドル。イーロン・マスクとの確執で知られ、トランプ氏のリベンジ・リストに名前が入っていると言われるメタCEOマーク・ザッカーバーグと、
LVMH会長のベルナール・アルノのみが資産を減らしていたのだった。(出典: ブルームバーグ)
- 1. イーロン・マスク: +265億ドル (個人総資産:2,900億ドル)
- 2. ジェフ・ベゾス: +71億ドル (個人総資産:2,280億ドル)
- 3. マーク・ザッカーバーグ: -8,090万ドル (個人総資産:2,020億ドル)
- 4. ラリー・エリソン: +98億8,000万ドル (個人総資産:1,930億ドル)
- 5. ベルナール・アルノー: -25億8,000万ドル (個人総資産:1,730億ドル)
- 6. ビル・ゲイツ: +18億2,000万ドル (個人総資産:1,590億ドル)
- 7. ラリー・ペイジ: +55億3,000万ドル (個人総資産:1,580億ドル)
- 8. セルゲイ・ブリン: +51億7,000万ドル (個人総資産:1,490億ドル)
- 9. ウォーレン・バフェット: +75億8,000万ドル (個人総資産:1,480億ドル)
- 10. スティーブ・バルマー: +28.1億ドル (個人総資産:1,460億ドル)
中でもトランプ氏当選のために1億3000万ドルを投じたイーロン・マスクはテスラ株が上昇し、彼の買収以降、企業価値が4分の1になったXも今後は政府の通達メディアとして活用される見込み。
しかしXは選挙当日に史上最多のユーザーを失い、今週木曜にその全投稿をAI教育に使用する新ポリシーを打ち出したことで さらにユーザーが激減しているのだった。
先週から次期政権の人選が行われているトランプ氏のフロリダの私邸、マー・ラゴに入り浸り状態のマスクであるけれど、
彼と共に人選に影響力を持つのが 金融会社カンター・フィッツジェラルドのビリオネアCEOで、自身も財務長官の座を狙うハワード・ラトニック、そしてプロレス団体WWEの元CEOで、前トランプ政権の中小企業長官を務めたビリオネア、リンダ・マクマホン。
文字通り 「ビリオネアの ビリオネアによる、ビリオネアのための政権」が誕生するけれど、今週発表された主要ポストの顔ぶれは、
シリアのアサド大統領やプーチン大統領を擁護する陰謀論者、トゥルシ・ガバードが国防総省、すなわちCIAを含む情報機関のトップに指名され、未成年少女買春とセックス・トラフィッキングでFBI捜査の対象になっていたフロリダ州選出下院議員、マット・ゲーツが
その罪を裁く司法省のトップに指名されるというパラレル・ワールド人事。ゲーツに関しては、彼のドラッグ使用、性的虐待を暴く報告書が下院倫理委員会で公開される2日前に、この指名を受けて議員を辞職したことから、
彼の名を汚さずに報告書内容が闇に葬られたというオマケ付き。
一方イーロン・マスクは、トランプ氏と共和党予備選を闘ったビベック・ラマスワミと共に、政府支出削減と官僚機構合理化を目指す新機関 ”Department of Government Efficiency/政府効率化省”を率いると発表されたけれど、
リベラル派は「効率化省にトップが2人居ること自体が非効率」と冷ややかなジョークで一撃。政府機関の略称がFBI、EPA(環境保護省)等、ことごとく3文字である通例を破って、新省の略称は”DOGE/ドージ”。
これはマスクが大量に所有するクリプトカレンシーで、選挙以来100%以上価格が上昇したDogecoinにあやかったネーミング。
DOGE設立で ドージコインの更なる上昇を見込んだマスクは、今週4500万ドル分のドージコインを買い足しているのだった。
DOGE設立の影響で今週は政府プロジェクトへの依存度が高い企業の株価がこぞって下落。さらに「農薬でトランスジェンダーになる」、「自分の脳の中に入った虫に脳ミソの一部を食べられた」と真顔で語るロバート・ケネディ・ジュニアが
食品医薬品局を含むアメリカの医療と食品全般を管理する保健福祉省のトップに指名されたことで、医薬品メーカー株も大きく下落しているのだった。
トランプ家の中でのパワー・シフト
今回の選挙では、トランプ・ファミリー内でパワー・シフトが見られたことが話題になっていたけれど、前トランプ政権で 最も美味しい所取りをしたのは、政治未経験で政権アドバイザーになった娘、イヴァンカと夫のジャレッド・クシュナー。
2人はバッキンガム宮殿の国賓招待からサミットにまで登場。2019年のG20では、IMF総裁 クリスティーヌ・ラガルドやマクロン大統領の会話の輪に入れずに無視されるイヴァンカを収めたビデオが
フランス政府によって公開される事態も起こっていたのだった。
しかし今回イヴァンカは、父親の立候補と同時に「政治にはもう関わらない」と宣言。父親の刑事裁判でもサポートを見せず、姿を見せたのは暗殺未遂の際と共和党党大会の時だけ。
子供達の中ではイヴァンカを一番ひいきにしてきたトランプ氏も、今年で43歳を迎えたイヴァンカへの態度が冷めたと言われ、当選の勝利宣言の際もイヴァンカ夫妻の場所はステージの端。
後にトランプ氏は家族写真撮影に加わろうとしたイヴァンカの代わりにイーロン・マスクとその息子を呼び入れたこともレポートされているのだった。
そのイヴァンカに代わるトランプ氏のお気に入りに浮上したのは、トランプJr.の離婚した妻との間の長女、カイ・トランプ、17歳。
7月の共和党大会でスピーチを行い、共和党セレブの仲間入りを果たした彼女は、有能なゴルファーで、SNSインフルエンサー。
カイの活躍が面白くないのは、トランプJr.の現在のパートナーで元キャスターのキンバリー・ギルフォイルで、カイの知名度がアップしてからというもの、トランプJr.はカイの母親で元モデルのヴァネッサ夫人とスナップされる機会が急増中なのだった。
常にミニスカートで脚線美アピールをしているカイには、ビジネス・ベンチャーの話も来ており、前政権でイヴァンカに出し抜かれた父親の教訓から学んで、彼女はファミリー内のスター・ポジション獲得には意欲満々。
マー・ラゴに入り浸るイーロン・マスクにも 「アンクル・イーロン」と懐く様子をSNSで公開。ティーンエイジャーの実子に嫌われているマスクはメロメロ状態が伝えられるのだった。
政治専門家達はマスクとトランプ氏の関係について 「近い将来必ず衝突する」と見ているけれど、
同様に家族内でも、息子バロンを後継者にしたいメラニア、陰が薄いもののビリオネアの御曹司と結婚したティファニーを含むトランプ氏の5人の子供とその家族が、
未来のネットフリックス・ドラマになるような確執を徐々に繰り広げることが見込まれるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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