Nov 3 〜 Nov 9 2024
大統領選、インパクト、本音、今後の展開
接戦と言われたアメリカ大統領選挙は蓋を開けてみればトランプ氏の圧勝。
しかも上下両院で共和党が過半数を占めることが確実視されることで、移民の強制送還から、ウクライナへの支援打ち切りまで、
トランプ政権がやろうと思えば 向かうところ敵なしの環境が整ったのが今回の選挙。
既に9人中6人が保守派で埋まっている連邦最高裁は、次期トランプ政権中に2人の保守判事が高齢でリタイアをすることから、
後釜をトランプ氏が指名することで、保守6 VS.リベラル3 のバランスは変わらないとは言え、過半数である5人がトランプ氏による指名、すなわちトランプ寄りの判決を下す判事。
自由の国アメリカで、事実上”トランプ・オートクラシー(独裁政権)”が実現するのだった。
既に今週から世の中は次期トランプ政権への対応と対策に動き出しているけれど、
民主党支持者は暴動こそは起こさなくても、モヤモヤした不安や二日酔いの不快感と闘い、メディアのヘッドラインを見ては憂鬱になる毎日。
その証拠に選挙翌日からアメリカ国内のグーグル検索で激増したのが 「Moving to Canada」、「Moving to Mexico」。特にカナダ移住の検索は選挙前に比べて5000%アップ。
選挙翌日の夜のトークショーはアンチ・トランプ派のホスト達がお通夜のような重苦しい雰囲気であったけれど、
そんな民主党支持者の心理を代弁したのがドイツの新聞 Zeitの選挙結果を報じる見出しで、ズバリ一言「F@%k」。
同じように今週、選挙の話をするニューヨーカーが使わずにいられなかったのがFワード。
”What the F@%k” から始まる何パターンもの呆れと嘆き、失望のセンテンスが聞かれていたのだった。
次期トランプ政権で恩恵を受けるのは
選挙当日の朝からトランプ・メディア・テクノロジー株と共に上昇していたのがビットコイン。選挙翌日には史上最高値を更新したけれど、
クリプト業界がトランプ政権誕生と、アンチ・クリプト議員排除に投じた資金は1億3500万ドル以上。
その甲斐あって民主共和合わせて当選したクリプト・フレンドリーな議員は下院が261人、上院が17人。
アンチ派の当選者数(下院116人、上院12人)を大きく上回り、最もクリプト・フレンドリーな米国議会が誕生。
これを受けて仮装通貨取引所であるコインベースの株価が今週50%アップしたけれど、同じく株価が今週30%上昇したのが
トランプ氏を猛烈にバックアップしたイーロン・マスクのテスラ株。
マスクはトランプ政権で政府予算をモニターする委員会を率いると見られ、加えてスペースXのエグゼクティブが政権内の要職を確保すると見込まれるのだった。
それ以外に株価がアップしたのは金融業界で、トランプ政権下の低金利、規制緩和、減税によってキャッシュが市場に溢れ、バイデン政権に阻まれた合併、買収が再び盛んになるのは時間の問題。
「The rich get richer, The big get bigger」のシナリオに突き進むけれど、日本製鉄によるUSスティール買収はトランプ氏が大反対とあって実現は難しいと言われるのだった。
逆に株価が下がったのがナイキ、ターゲット、ウォルマート、ウィリアム・ソノマ等、トランプ氏が掲げる最低60%の中国への関税でダメージを受ける企業。
加えてトランプ氏は気象変動、地球温暖化を否定していることから、ソーラー・パネルや再生エネルギー等、環境関連株も大きく下落していたのだった。
国レベルで恩恵を受けるのは言うまでも無くロシア、イスラエル、サウジアラビアで、サウジのゴルフ・リーグとPGAの合併もトランプ政権下でファイナライズする見込み。
逆にトランプ政権が不利に働く国と言えば、前述のように輸出品に関税が課せられる中国で、トランプ政権誕生前に中国製品や原材料を輸入しておきたい企業の発注ラッシュは既に先月からスタート。
隣国メキシコも、トランプ氏がメキシコに工場を移す企業への制裁を宣言をしていることから厳しい状況。
EUは次期トランプ政権が、再びNATO弱体化、親ロシア姿勢を見せながら「アメリカ・ファースト」を貫くと懸念しており、
特にトランプ氏が選挙戦中に「同盟国の方が敵国より遥かに悪質」と語ったことを注視。
中国政府は早くも、何をするか読めないトランプ政権に対する各国の不安をチャンスと捉えており、「アメリカと渡り合える唯一のスーパー・パワー、中国」をアピールする
戦略に動くと伝えられるのだった。
トランプ氏が政権復帰後に徹底的に叩くのは
本来なら選挙の3週間後にマンハッタンの裁判所で予定されていたのが、不正会計絡みの34の容疑で有罪となったトランプ氏に対する判決言い渡し。
同じレベルの被告に対し、NY司法省は執行猶予無しの実刑判決を下していただけに、「勝利しなければ刑務所行き」と言われていたのがトランプ氏。
しかし米国史上初の犯罪歴を持つ大統領が誕生したことで実刑は帳消し。さらに2021年1月6日にトランプ氏が支持者を暴動に扇動したとして、特別検察官のジャック・スミスが立件していた容疑や、
ホワイトハウスからの最高機密書類持ち出しについても 現職大統領を起訴しないという司法省の方針の前に崩れ去る見通し。
またトランプ氏は2020年の選挙の際に、ジョージア州でバイデン氏の得票数を超える票探しを州知事に要求した選挙不正疑惑についても
訴追側の不倫問題を突いて不起訴に持ち込む悪運の強さ見せているのだった。
トランプ氏には、何を言おうと、何をしようと、その悪評がこびり付かないことから「テフロン・ドン」というニックネームがあるけれど、逆に自分を追い詰めた敵に対する執念は極めて粘着質。
そのため司法省長官や自分を訴追した検察官、民主党政治家を含む、反トランプ勢力に対しては 「大統領就任後に刑務所送りにする」と公言。
今回の選挙で決定的に溝が深まったメインストリート・メディアも次期トランプ政権で潰しに掛かると見られるけれど、既に若い世代を中心にニュース・ソースは
ポッドキャストやTikTokに代表されるソーシャル・メディアに移行しつつあり、
メインストリート・メディアはかつての影響力を失いつつあるのが現状。
前回のトランプ政権下ではFOXニュースがトランプ氏のGoToメディアであったけれど、時期政権では
スポティファイが多額のギャラで独占契約しているポッドキャスターで、選挙前日にトランプ氏への支持を表明をしたジョー・ローガンや、
イーロン・マスクによる買収以来、保守右派のプロパガンダSNSと言われるようになったXがその役割を担う見込み。
これらは圧倒的に男性利用者が多いメディアだけれど、
次期トランプ政権下では女性、移民、LGBTQ+を含むマイノリティの立場や権利は弱まり、
始まるのが白人男性至上主義社会への回帰。
さらに次期トランプ政権下で ソフトになるのがセックス・トラフィッカーを含む性的虐待者への捜査や訴追。
特にジェフリー・エプスティーン関連疑惑がこのまま全容が明かされず、スケープゴート止まりになるのは時間の問題。そもそもトランプ氏の長年の弁護士、アラン・ダーショウィッツはエプスティーンのパーティーの常連で、少女との関係は否定したものの、”未成年ではない女性”からマッサージを受けたことは認めた存在。
自身が有罪になった性的虐待に対する捜査と訴追を 「魔女狩り」扱いしてきたトランプ氏だけに、来年トランプ政権下で行われるショーン・ディディ・コムズ、アバクロンビー&フィッチの元CE0、マイケル・ジェフリーズの
性的虐待とセックス・トラフィッキングの裁判も、その不当性の立証に終わる可能性が高まってきたのだった。そうなれば どんなに証拠や証言が揃ったところで、
それらを無効にする司法トリックで無罪放免もあり得る状況。
加えて2021年1月6日の連邦議会乱入で有罪となった服役者達は、トランプ氏就任と同時に恩赦によって自由の身になることを 早くも祝っている様子が伝えられるのだった。
政府=精神支配のパワー
今回の大統領選の争点は経済と移民問題と言われたけれど、男性有権者、特にヒスパニック系の男性がオープンに、もしくは潜在的に根強く持っていたのが女性大統領を歓迎しない意識。
さらには今回の選挙では過去4年間、トランプ氏、及び共和党が煽り続けて来た「マイノリティを優遇し、白人層を迫害するWOKEカルチャーへの反発」に白人層が完全に賛同。
トランプ氏に白人票が集中的に流れ込んだのだった。
個人的に今回の選挙で痛感したのは ”Goverment/ガヴァメント(政府)”という言葉の由来。
”Govern Mental” すなわち精神を支配するというのが政府という言葉の語源で、政治とは国の運営よりも、国民を治めるためのもの。
よく政治系YouTuberなどが「政府によってコントロールされている…」と文句を言うのを耳にするけれど、
政府というのは そもそも世論や社会をコントロールする目的で機能しているのだった。
そして同じ1票を獲得するなら 低学歴、低収入、現代社会に不満を持ち、変化を好まない保守派を相手にする方が、
都市部の高学歴、高収入で、社会にさほど不満を持って居ない、理想主義、平等主義のリベラル派を攻略するより遥かに簡単で、安定した支持基盤が得られるのは推して知るべし。
とは言え、21世紀の世の中で「差別OK、移民は出て行け、女は家で子供を育てるべき」の思想を支持者に呼び起こし、
何をしようと、言おうと、決して反論が出ないだけでなく、選挙に負ければその覆しを図るほどに盲目的な支持を取りつけるトランプ氏の精神支配は、
恐ろしい一方で、凄いと思うし、それに比べると ハリス陣営は「役者が違う」と言わざるを得ないのだった。
でもこれによってトランプ氏が勝利宣言で語るようなアメリカのゴールデン・エイジが訪れるかはまた別の話。
確実に言えるのは、いろいろな意味で凄まじい変化の時代に突入していくことなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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