Oct 13 〜 Oct 19 2024

Trump, Musk, Combs, Win or Lose...
予測市場はトランプ勝利, テスラ株主がマスクを信頼しない理由, コムズ訴訟水面下の動き, Etc.


今週のアメリカでは既に一部の州で先行投票が始まっているとあって、最も報道時間が割かれていたのが大統領選関連のニュース。
それに次ぐ報道時間になっていたのがハリケーンの被害とその復旧関連のニュースであったけれど、 FEMAこと緊急事態管理庁が問題視したのが、インターネット上で拡散される陰謀説のせいでFEMAの職員に対する被災者からの敵意、非協力的な態度が復旧の妨げになっている現状。 この陰謀説は トランプ氏が選挙演説の中に「バイデン政権が不法移民のために災害対策費を使い切った」、「被災地が共和党支持のレッドステーツであるため、救済を遅らせている」と語ったことからスタートし、 保守右派がその陰謀を更に膨らませて拡散したことで、現地では事実と信じて疑わない人も多く、今週にはFEMAの職員の殺害を試みた人物が逮捕される事態が発生。
また共和党下院議員の超トランプ派議員、マージョリー・テイラー・グリーンが X上で拡散した「ハリケーンは天候をコントロールしている民主党の仕業」というデマは、 被災地を含むレッド・ステーツで「民主党と民主党に多額の献金をする大金持ちが、ハリケーン被害を大きくして被災地を二束三文で手に入れようと画策している」という陰謀説に発展。 復旧の遅れで苛立つ被災者がの怒りを更に煽っていたけれど、陰謀説を信じる人々にとっては ハリケーンのメカニズムを開設しながら デマを否定するローカルTV局の気象予報士は敵の回し者にしか見えないようで、 先週末から今週にかけて複数の気象予報士が受け取ったのが殺人予告。 気象予報士が悪天候の八つ当たりの矛先になるのは決して珍しくないものの、さすがに殺人予告は前代未聞で、今の時代では陰謀説に巻き込まれることが 命賭けのリスクになる様子を垣間見せていたのだった。



予測市場は ”ダンシング・トランプ”の勝利


今週末の段階で11月5日の大統領選まで20日を切ったけれど、今回は記録的に多くの有権者が先行投票を行っており、 これは選挙当日に何等かの投票妨害が起こる事を危惧したり、当日の投票所の待ち時間の長さを嫌ってのこと。
NBCが行った世論調査では、トランプ氏、ハリス氏が共に48%の支持を獲得するデッドヒート状態。9月後半にハリス氏のリードに追いついてアップビートなのがトランプ・キャンペーンで、 逆にハリス陣営はこのところガス欠気味。NYタイムズ紙も、このままではスウィング・ステーツでハリス氏が完敗する可能性があると予測しているのだった。
そんな中、今週注目を集めていたのが 複数のプレディクション・マーケットで行われている大統領選結果の賭けの動向。 予測マーケットの大手 ”Kalshi/カルシ”では 55%がトランプ氏、45%がハリス氏の勝利に賭けており、”Polymarket/ポリマーケット”ではその割合が56%対44%、”PredictIt/プレディクティット”では 54%対49%でいずれも 過半数がトランプ氏勝利に賭けている状況。 長年選挙分析を行う人々の意見では、プレディクション・マーケットの方が世論調査よりも支持率がダイレクトに数値に反映されると言われており、 それに対して世論調査では人々が本心を約20%トーンダウンして回答するというデータも得られているのだった。
しかし今回の大統領選は男性がトランプ氏を支持し、女性がハリス氏を支持するという男女格差が大きく、予測市場で賭けをする大半が男性であることから 「鵜呑みに出来ない」との指摘も聞かれるのが実情。
以前よりハリス氏のエナジー・レベルが下がっている一方で、トランプ氏が絶好調かと言えばそうでもなく、スピーチで大統領選挙を「1月」と語ったり、今週火曜にフィラデルフィアで行われたイベント中には、 関係者と観客2人が体調不良で運び出されたことでトランプ氏の集中力が殺がれてしまい、後半に予定されていた質疑応答セッションを ディスコ・タイムでごまかす異例のイベントを展開。 ヴィレッジ・ピープルの「YMCA」を含む、トランプ・キャンペーンが流すことをアーティストから禁じられている楽曲に合わせて、トランプ氏が両手のこぶしを動かすだけの お得意のダンス・ムーブを見せていたけれど、39分間にも及ぶ長いディスコ・タイムで踊り続けていたのは もっぱら一部の支持者と場を持たせようとした主宰者。
しかしそんなイベントでも支持者が疑問を抱かないのがトランプ氏の強みで、実際トランプ支持者は「トランプさえ勝利すれば、経済は上向き、不法移民は全員強制送還、昔ながらの価値観が復活し、 何を言っても差別や虐待と見なされない言論の自由が復活する」と、トランプ勝利後のアメリカに楽観的。 これに対してハリス支持者は「これだけ国が負債を抱えて、自然災害で国費を失い続けたら、誰が大統領になっても経済がそう簡単に良くなるはずがない」と現実的で、 「環境問題、銃規制に取り組み、妊娠中絶撤廃を阻止して、最高裁に保守とリベラルのバランスを取り戻すべき」という問題山積の中、「それを逆方向に進めるトランプ第二期政権だけは避けなければ」という考え。 男性脳の方が楽観的で、女性脳の方が現実的であることを思うと、今回の選挙が候補者だけでなく、支持者でもジェンダー対決になる様子が納得できるのだった。



株主がテスラとイーロン・マスクを信用しない本当の理由


先週金曜日、アメリカの株価が最高値を更新した日に株価が8.7%下落したのがテスラ。 理由は前日に発表されたサイバー・キャブ(ロボタクシー)のお披露目が失望のリアクションに終わったため。
今年4月にプランが発表された際には 「イーロン・マスクを史上初の1兆ドル長者にする」とまで言われたテスラのロボタクシーは、EVの売り上げ不振で下落を続けていたテスラ株を復活させた明るいニュース。 それだけに本来は8月に行われる予定だったお披露目イベントが10月に先送りされた際にも下落していたのがテスラ株。 先週木曜のイベントで、自らサイバー・キャブから降り立ってプレゼンテーションを行ったマスクは、ステアリングもブレーキ&アクセル・ペダルも無い、 AIテクノロジーを駆使したサイバー・キャブと共に、最高20人までが乗車できる”ロボ・バン”を披露。 「車の中で居眠りをしているうちに目的地に到着する」と、普通のタクシーで当たり前に出来ることを サイバー・キャブの利点としてアピールしていたけれど、 これはテスラのセルフ・ドライビング・テクノロジーでは未だ実現していないこと。
テスラのセルフ・ドライビング・モードは、今も人間がドライバーズ・シートに座ってステアリングに手を添えていることが義務付けられており、 これまでセルフ・ドライビングで記録された事故は467件、死者は14人。今年に入ってからも政府機関から安全性の問題を改めて指摘されたばかりの未完成テクノロジー。 その一方でグーグルが開発し、2021年に既に実用化されていた無人タクシー・サービス、”ウェイモ”は 現在4都市でビジネスを展開中。2200万マイル(3520万キロ)のサービス実績を誇っており、 これに比べると、テスラのサイバー・キャブは4年以上遅れを取っていると専門家は指摘。
しかもマスクと言えば、開発のタイムラインには極めて楽観的で、これまでに期限を守ったことが無い存在。 さらにはテクノロジーについてもオーバー・プロミシングで、開発前に大きな成果を打ち上げることでも知られており、 株主の間では既にロボタクシーが掲げる2026年のタイムラインが守られないことは織り込み済みなのだった。
また株主は、マスクがどの程度サイバー・キャブに時間と情熱を注ぎ込めるのかにも疑心暗鬼の状態で、現在マスクが最も熱心になっているのはトランプ氏を大統領に再選すること。 マスクは今回の勝敗を左右するペンシルヴァニア州で、10月中にトランプ氏の選挙イベントで3回応援スピーチを行い、トランプ氏を支援する政治基金を自ら設立して7900万ドルを投入。 そして第二期トランプ政権が誕生した場合、彼が率いることになっているのが 政府予算の運用効率をジャッジする新機関。 そのポジションによって、マスクはスペースXに多額の政府資金を投入させると見込まれ、彼の時間とエネルギーが政府機関とスペースXに注がれるのは 既にマスクが複数企業の経営でオーバー・キャパシティであることに不平不満の声を上げて来たテスラ株主にとっては決して歓迎できないこと。 それもあって今週世界中で話題になったスペースXのロケットを発着台に戻す快挙も、テスラ主要株主は諸手を上げて祝福出来なかったことが伝えられるのだった。
でも株主がマスクに以前ほど信頼を置かなくなった最大の理由は、X(元ツイッター)の経営状況。 買収時にマスクに融資した金融機関に大損失をもたらしたXの経営状態は悪化の一途を辿り続け、 マスクによる買収から僅か2年足らずでXの時価総額は80%も下落。 そのあり得ない転落ぶりのせいで、マスクの経営手腕やビジネス判断、及びその言動には以前より株主から厳しい目が向けられるようになっているのだった。



ショーン・ディディ・コムズ、新たな訴訟と水面下の動き


セックス・トラフィッキングや恐喝など複数の容疑で逮捕され現在服役中のラッパー、ショーン・ディディ・コムズに対して、今週新たに起こされたのが男性4人、女性2人からのレイプ、性的虐待に対する新たな民事訴訟。
既にコムズに対しては複数の損害賠償訴訟が起こされており、今週加わった訴えの被害は1995年〜2021年までのもの。被害時に2人の原告が未成年だったケースが含まれ、生々しく具体性のある訴状が申請されているのだった。
コムズの刑事裁判は2025年5月に予定されており、それまで保釈が認められず服役を続けると見こまれるのが現時点。 彼の場合、保釈が認められないのは海外逃亡のリスクもさることながら、「被害者に対して訴えの取り下げや、裁判証言拒否の圧力をかけるリスクがある」ためで、 ”売春&セックス・トラフィッキングの組織”とまで言われたコムズのビジネスを現在も運営し続けているのが、コムズの成人した3人の息子達。 そのうち2人は民事訴訟でコムズと共に被告として名を連ねる共犯的存在。 そのため訴訟は被害者のIDを公開した方が勝訴を勝ち取る確率が高いものの、その安全を守るために、原告全員が匿名での起訴が行われているのだった。
被害者の集団訴訟を担当する弁護士は、「コムズ以外に複数のセレブリティを含む大物の名前が被告リストに加わる」と宣言していたけれど、現在水面下で急ピッチに進んでいるのが セレブリティや実力者の敏腕弁護士が被害者に直接アプローチして示談を持ちかける動き。 コムズ主宰のパーティ―で何度目撃されたとしても、被害者が訴えない限りは罪が問えず、裁判も起こせない訳で、お金の力で社会的名声を守ろうとするオファーに被害者はあっさり陥落する傾向にあるようなのだった。
それとは別に芸能関係者が証言しているのが、未だティーンエイジ時代のジャスティン・ビーバーがコムズと関りを持った経緯。ジャスティンを見出だしたのはR&Bシンガーのアッシャー。 そのアッシャーはコムズのプロデュースでデビューした経緯があり、アッシャーが事実上、ジャスティンをコムズに差し出したと言われるのが2人の出会いで、それを裏付けるようなビデオも浮上。 そのためジャスティンがコムズと共に被告に名を連ねるような性的行為をしていた場合でも、ジャスティン自身が未成年として性的虐待被害を受けていた場合は、 それを切り札に 高額敏腕弁護士が 被害内容未公開のまま 無罪を勝ち取れるのがアメリカの裁判事情。
さらに 第二期トランプ政権が実現した場合、トランプ氏は自分を性的虐待や会計詐欺で有罪にした司法省、及び司法システムへの報復を掲げており、 その主要勢力になるのがアメリカ屈指の弁護士で、長年トランプ氏の弁護を担当してきたアラン・ダーショウィッツ。彼は 刑務所で自殺したセックストラフィッカー、ジェフリー・エプスティーンが主宰するパーティーの常連で、「女性からマッサージを受けた」ことを認め、多くの実業家と共に今もエプスティーン事件の火種を抱える存在。 奇しくもトランプ氏はエプスティーンとコムズ、それぞれホストするパーティーのゲストで、痛い腹を探られたくない友人も多いことから、 もしトランプ氏が大統領に返り咲いた場合には、それが「コムズの刑事裁判に好影響をもたらす」と予測する声が聞かれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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