Oct 6 〜 Oct 12 2024
2500億ドル・ハリケーン, シリコンヴァレーの選挙, 大はしゃぎマスク問題発言, Etc.
今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは2週連続で大型ハリケーンのニュース。過去2年で最大規模と言われたヘリーンに代わって、今週フロリダ州を襲ったのは それより大きいカテゴリー4とも5とも言われたミルトン。
フロリダでは何百万人もが強制避難の対象となり、風速200メートルの暴風は沿岸部では高波、内陸部では複数の巨大な竜巻を生み出し、世紀末を絵にかいたような光景。
家屋だけでなく、ビルの一部まで崩壊した凄まじい状況をレポートしていたCNNのスター・アンカー、アンダーソン・クーパーはライブ放映中に
飛んできた瓦礫が顔に激突するアクシデントに見舞われており、ハリケーン直撃中は各地で救急活動がストップせざるを得ない事態になっていたのだった。
そんな今週物議を醸していたのが、トランプ氏が選挙演説で「FEMA(連邦緊急事態管理庁)の対応の遅れは被災地が共和党支持のレッドステーツであるため」、「国土安全省は災害対策費を
不法移民のサポートで使い果たした」というディスインフォメーションを吹聴していたこと。ホワイトハウス側は移民対策費と災害対策費は別予算であることを説明しながら情報訂正に追われていたけれど、
超トランプ派で知られるジョージア州の下院議員、マージョリー・テイラー・グリーンは、「ハリケーン被害は天候をコントロールしている民主党の陰謀」とまで言い出す始末。
一方、フロリダ州知事で共和党大統領候補でもあったロン・ディサンティスは、2022年の中間選挙直前にハリケーン被害対策でバイデン大統領と党派を超えた協力体制を取ったことで 共和党内から批判を浴びた過去があるため、
今回はカマラ・ハリス副大統領からの救援オファーの電話を拒否。「カマラ・ハリスはハリケーンの被害対策を大統領選に利用しようとした卑劣な候補者」と非難したのだった。
そんな被災者救援をそっちのけで 選挙と政治を優先させる姿勢は 民主党支持者には反発を買っていたものの、
共和党支持の被災者の間で聞かれていたのは救援の遅れ、支援物資や支援金不足の不満や怒りを、ハリス氏を含めたバイデン政権に向ける声。
そのため今週共和党議員からは、「このまま中東情勢が悪化し、ハリケーンが続けてやってきたら、選挙は共和党が有利になる」という不謹慎発言が聞かれていたのだった。
加入するには高過ぎる!?、インフレの原因になる保険の実態
投資銀行ジェフリーズの試算では、ハリケーン・ミルトンの被害総額は2500億ドルに上る見込みで、2005年のカトリーナの1925億ドルを上回る アメリカ史上最悪の経済的ダメージをもたらすとのこと。
ヘリーンの被害の復旧に手が付けられない段階で、再びミルトンが襲ったことで、フロリダ州の一部の住宅街は瓦礫の山になっているけれど、
ヘリ―ンで被災した一般世帯の99%が加入していなかったのが洪水保険。
アメリカの住宅保険では洪水被害は対象外で、別途洪水保険に加入する必要があるけれど、その保険料は非常に高額。
洪水多発エリアでは洪水保険を提供しない保険会社は少なくないのだった。
近年自然災害の数が増え、被害規模がどんどん大きくなったことを受けて、全米で保険料が値上がりしているけれど、カリフォルニアに関しては
相次ぐ大規模な山火事を受けて 大手保険会社2社が州のビジネスから撤退したほど。
目下 アメリカ国内で最も高額な保険料の支払を強いられているのはフロリダ州で、
過去6年で保険料が3倍に跳ね上がった結果、平均的な住宅保険料は年間1万1000ドル。もちろんこれには洪水保険は含まれておらず、
例え洪水保険に加入したところで、下りる保証金では被害総額をカバーしないのが通常。
NBCニュースの取材に応じたフロリダ州住人によれば、7万5000ドルの洪水被害に対して 支払われた保険金は3分の1に過ぎない2万5000ドルであったとのこと。
ハリケーンで被災しているのは企業も然りで、企業は多額の保険料を支払ってはいるけれど、それを
商品やサービスの値上げという形で消費者に押し付けており、自然災害は今やインフレ要因の1つ。
さらに多発する大規模な自然災害の影響で、政府機関も深刻な資金不足に陥っており、
中でも中小企業庁は、新たな災害対策融資のために残された資金が1億ドル未満になったことを今週警告。
議会が緊急予算を設けない限り、今回のハリケーン被災者による新規申請には対応できないとしているのだった。
ハリケーン・シーズンは年々長くなり、近年では11月まで続くこと、
現在のぬるま湯のようなメキシコ湾の水温を考慮すると、ハリケーン被害がミルトンで打ち止めになるとは考え難いのが厳しい現実。
ハリケーンが去っても、地元がノーマルな生活に戻るまではディズニー・ワールド、ユニヴァーサル・スタジオといったオーランド・エリアのテーマパークや周辺ホテルのビジネス、
及びウォルマート、ターゲット等、フロリダ州から多額の売り上げを得ている大手量販チェーンの売り上げも大きな打撃を受けることが確実視されるのだった。
大統領選、シリコンヴァレー、ビジネス界の支持動向
大統領選挙まで1カ月を切ったことで、選挙戦に関する報道も過熱気味であるけれど、
今回の大統領選、特にその資金面でウォールストリートよりも大きな影響力を持つのがシリコンヴァレー。
そのシリコンヴァレーは長きに渡ってリベラル派で知られ、2016年にフェイスブックのインヴェスターで、イーロン・マスクと共に6人のペイパル共同設立者の1人でもあるピーター・ティールがトランプ氏を支持した際は ほぼ村八分状態。
しかし今回の選挙はシリコンヴァレーで保守勢力が増したことが伝えられ、トランプ支持の旗印になっているのがマスクとティールのペイパル・コンビ。
逆にハリス副大統領を支持しているのは、アップルの共同設立者のスティーブ・ウォツニアック、NBAダラス・マーヴェリックスのオーナーでもあるマーク・キューバン、LinkedInの共同設立者リード・ホフマン、ネットフリックスCEOのリード・ヘイスティングスらで、
民主党候補がハリス氏に代わったことで、8月末には800人のシリコンヴァレーVCがハリス氏への共同支持表明を出しているのだった。
資金面で多額を投じているのは、ダントツでクリプトカレンシー業界。PAC(選挙活動のための政治資金団体)への企業寄付の半分を担っており、
現在の証券取引委員長、ゲーリー・ゲンスラーを辞任に追い込み、曖昧な法的規制をクリアにするのがその目的。
多くのクリプト企業は特定政党は支持せず、アンチ・クリプトの議員を落選させ、クリプトカレンシーに好意的な議員の当選を目指しているのだった。
しかしトランプ氏の息子達がクリプトカレンシーの新ベンチャーを始めたこと、トランプ氏とメラニア夫人がNFT(所有証明書付きのデジタル・トークン)をコレクティブル・アイテムとして販売して、利益を得ていることから、
個人レベルではトランプ氏を支持する意見がマジョリティと言われるのだった。
それ以外に多額の寄付を行っているのは、Air B'n'Bと チャットGPTで知られるOpenAI。
どちらも新政権に恩を売っておくことで、今後の規制で優位を勝ち取れば$ビリオン単位の利益に繋がるビジネス。
一方、イェール大学経営大学院が大企業CEO 60人を対象に行ったアンケート調査によれば、何と80%がハリス氏の勝利を予想。
ちなみに60人CEOの政治的ポジションの内訳は、37%が共和党支持、32%が民主党支持、残りが無党派。
企業経営者は、トランプ氏が「ヘイト・スピーチによって国を分断し、暴力を扇動している」ことに
68%が「強く同意」、26%が「同意」と回答。また87%が「オハイオ州のハイチ移民に関して、”住人のペットを誘拐して食べている”というデマを広めたことを トランプ氏は謝罪すべき」という意見。
興味深かったのは3分の2が、「日本製鉄によるUSスチール買収を認めるべき」と回答している点で、150億ドル買収案は国家安全保障上の懸念と、政治的問題で進んでいないけれど、
バイデン氏、トランプ氏がいずれも反対の立場を取る中、纏まる可能性があるとすればハリス政権下との声も聞かれるのだった。
経済専門家の間では、トランプ氏、ハリス氏のどちらが大統領になっても、米国の負債が急速に拡大することを確実視しており、特にトランプ氏は 関税措置に財源を頼り過ぎているだけに
「アメリカ経済が何時まで持つか」と懸念される経済政策。前回のトランプ政権下で「中国に払わせた」とトランプ氏が公言する関税は、
実際にはアメリカの消費者が高額な商品価格という形で支払っており、ミシガン州の有権者アンケートでは約60%が「関税引き上げによってインフレが加速する」と回答。
有権者側も、候補者の言い分を鵜呑みにせず、徐々に知恵をつけて来た様子を窺わせているのだった。
イーロン・マスクが武装の呼び掛け?!
先週日曜に、暗殺未遂現場となったフィラデルフィア州バトラーでキャンペーン・イベントを行ったのがトランプ氏。そしてその応援演説のためにステージに上がったのがイーロン・マスク。
トランプ支持を打ち出して以来、ブルーステーツではブーイングを受けるマスクだけに、イベントでは大声援を受けて 飛び跳ねてはしゃぐ姿を披露していたのだった。
そのスピーチでマスクが 「合衆国憲法第一条の言論の自由は、合衆国憲法第二条の武装する自由によって保証されている」と語ったことが問題視されており、
これは「言論の自由は武力で勝ち取れ」という武装を呼び掛けているようなメッセージ。
そのため「またしてもトランプ支持者は選挙結果を暴力で勝ち取ろうとしている」という懸念を呼んでおり、
リベラル派はこれに対して「武装の自由は、言論の自由が保障されているからこそ認められるべきもの。マスクの主張は”反対意見を暴力で黙らせろ”という危険な思想だ」として反発していたのだった。
ちなみにイーロン・マスクのトランプ氏支持表明は選挙結果にはさほど影響を与えないと言われており、それというのも
マスクを好む人々は既にトランプ氏を支持しているため。
逆にマスクを嫌う人々はトランプ氏の事も毛嫌いしているので、マスクによるトランプ支持表明は「類は友を呼ぶ」的な扱い。
しかしトランプ氏やマスクが安易に武装を呼び掛けるのは、4年前よりも遥かに危険な行為と言われるのが現在。
というのも、現在急ピッチで銃を購入しているのは民主党支持者やリベラル派。
選挙後に内戦が起こった場合や、治安が著しく悪くなった場合の護身用で銃を購入する民主党支持者が急増しており、
彼らにとっては災害に備えて水や食糧を備蓄するのと同じような感覚。
そのためトランプ氏やマスクが、民主党支持者やリベラル派を「口先だけの羊」と思いこんで 保守右派の戦意を煽ってしまうと、
とんでもない闘いに発展する可能性があるのだった、
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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