Sep 22 〜 Sep 28 2024
テイラーのイメージ戦略危機, 2つの企業転落のシナリオ, WFH終焉, Etc.
今週NYでは国連総会が行われ、そこで任期終了までにガザでの停戦合意、ウクライナ紛争の方向転換を図る時間が未だ残されているとスピーチしたのがバイデン大統領。
また今後米軍は中国による台湾占領を阻止するために太平洋側の軍事力強化を図る意向も語り、自ら再選を断念した決断については「権力に居座るよりも大切なことがある」と語って喝采を浴び、
高齢と不人気による離脱ながら、国際的な面目は保たれた形になっていたのだった。
その一方で今週末のアメリカを脅かしたのが過去2年で最大規模のトロピカル・ストーム”ヘリ―ン”。日本の半分弱のサイズのフロリダ州全域で
洪水が警告され、風速は130キロ以上。メキシコ湾岸エリアの一部では6メートルの高潮を記録し、広範囲に渡る強制避難命令が出ていたモンスター・ハリケーン。
アメリカのハリケーンは、年々規模が大きく、数も増え、ハリケーン・シーズンも長くなっているけれど、
もちろんその原因は気象変動、それも海水温度の上昇によるもので、トロピカル・ハリケーンが発生する水温は25度。
現在メキシコ湾の平均的な海水温度は26〜30度で、ハリケーン被害は避けられない状況。
しかしフロリダ、ルイジアナ、アーカンソー等、最も被害を受ける可能性がある州ほど、気象変動を否定する共和党が強く、
環境問題への取り組みに消極的という悪循環をもたらしているのだった。
別離契約漏洩&トラヴィス絶不調、テイラーが迎えたイメージ戦略危機
公に交際をアピールして以来、今週で1周年を迎えたのがテイラー・スウィフトとNFLカンサスシティ・チーフスのトラヴィス・ケルシー。
9月初旬には2人が別離に際して交わしていた契約書がインターネット上に漏洩し、それによれば別れの発表は9月28日。
メディアの騒ぎが落ち着くのを3日待ってからケルシー側が公式声明を発表するというのがタイムライン。
その声明内容は、ケルシーの「個人的な成長」にフォーカスし、別れを「人生の出来事の1つ」と位置付けながら、ケルシーが今後もスポーツ界におけるキャリアと目標達成のために
更なる献身を続けることを宣言するというもの。
ケルシーの代理人は当然ながら契約書の存在と内容を否定したけれど、契約書はケルシーが所属するPR会社のロゴ入りで、かなり信ぴょう性を感じさせていたのだった。
契約書漏洩以来、テイラーとケルシーは努めて一緒に時間を過ごしており、チーフスVS.ボルティモア・レイブンズのNFL開幕戦に姿を見せたテイラーは、その後ケルシーを伴ってNYに飛び、
テニスの全米オープン決勝の観戦中に仲睦まじい姿を披露。その後2人はブルックリンのホット・スポット、”ルカリ”で食事をし、
モデルのカレン・エルソンの結婚式にも2人揃って出席。チーフスのシーズン第2戦である対シンシナティ・ベンガルズの試合もテイラーが観戦に訪れ、別離契約書の存在を行動で否定していたのだった。
しかし肝心のケルシーは今シーズン絶不調。9月22日のシーズン第3戦にはテイラーがスタジアムに姿を見せず、ケルシーの浮かない表情が注目を集めたけれど、
フットボール・ファンとコメンテーターがこぞって指摘していたのが、ケルシーがオフシーズン中にテイラーのエラス・ツアーに同行し、南米、ヨーロッパでパーティー三昧をしていたせいで、
トレーニングや体調管理が疎かになったのが彼の不調の原因であること。
ケルシーは10月5日で35歳を迎え、フットボール・プレーヤーとしては残されたキャリアが短い存在。フィラデルフィア・イーグルスでプレーしていた弟は昨シーズンを最後に引退しており、
通常ならば年齢を考慮して、摂生とトレーニングに努めるべき段階。にも関わらず旅行やパーティー三昧を続けていたことからケルシー本人だけでなく、彼のキャリアを顧みないテイラーを批判する声が聞かれ始めたのが昨今。
そもそも2人が交際をスタートした1年前には、保守右派が 「この関係はジョー・バイデンを再選に導くためのマーケティングの一環」という陰謀説を拡散していたこともあり、
現在インターネットのギャンブル・サイトでは「2人は大統領選直後に別れる」、「来年のスーパーボウル前に別れる」、「年内に別れる」等、
2人の別れに賭ける人々が非常に多いとのこと。
しかし、テイラーは初デートからそのファッション、公の場でのキスに至るまで、最も効果的なタイミングとマーケティング効果を狙ってロマンスをデザインしていると言われるだけに、
契約書が漏洩した段階で変更したと言われるのが別離のプラン。そのためケルシーとの交際は継続が見込まれるものの、
ケルシーが本調子を取り戻さない限りは、テイラーにとってのイメージダウンになることから、「自分ではコントロールできない状況にフラストレーションを感じている」と言われるのが現在のテイラー。
加えて民主党支持者のテイラーが、カマラ・ハリス副大統領に支持表明をしたのは周知の事実であるけれど、カンサスシティ・チーフスはミズーリ州というレッドステーツのチームとあって、
彼女の政治思想とは異なる団体。オーナーの家族から、クォーターバックの妻までもがトランプ支持者で、
しかもチーフスのキッカー、ハリソン・バトラーは、6月に行った大学卒業式のスピーチで、
「女性の本当の幸せは家庭に入り、子供を産むことにある」と女性から大顰蹙を買いながらも、保守右派の間で彼のジャージーが飛ぶように売れる現象を巻き起こしており、
そんな保守軍団、チーフスのグッズ売り上げや視聴率に貢献するテイラーは、政治的アイデンティティ・クライシスを迎えているとも言われて久しいのだった。
さらにはテイラーと6年交際して昨年、エラス・ツアー直前に別れた俳優のジョー・アルウィンが、「契約書漏洩」報道に便乗して
「だから自分はコントロール・フリークのテイラーと別れた」というテイラー叩きを微力ながら行っており、向かうところ敵なしだったテイラーも現在はイメージ戦略で難しい局面を迎えているのだった。
ナイキと23&Meに見る企業転落のシナリオ
先週CEOの交代劇が報じられたことで7%アップしたのがナイキの株価。CEO交代劇による株価急騰は、
8月にスターバックスでも見られていたけれど、昨今はCEOの給与が破格とあって、業績悪化の責任もCEOに押し付ける傾向が顕著。
しかしナイキに関してはCEOの失策が業績とブランド・イメージを急速に悪化させた顕著な例で、その退任によってナイキ社内が安堵と喜びに包まれたと報じられたのが現CEO ジョン・ドナホー。
ドナホーはeBayとベイン・アンド・カンパニーの元CEOで、ナイキのデジタル・ビジネス促進のために 彼を全面的に信頼して迎え入れたのがナイキの名物名誉会長フィル・ナイト。
しかしドナホーは流通コストをカットし、オンライン販売を強化するために、長年の小売パートナーへの卸売りを激減させ、小売パートナーとの関係が悪化。
その小売店側はナイキのスニーカーが入荷せず、空いてしまった陳列棚にOne、HOKAといった新進ブランドを迎えたことで、逆に売り上げを伸ばしており、
One、HOKAの大躍進はそれぞれの商品力もさることながら、ナイキの戦略ミスにも大きく起因していたのだった。
加えて”スニーカー・ヘッド”の思考を理解しないドナホーは、”ダンク”のような何十年も前のモデルが再び流行すると信じ、そのプロモートや需要を満たすための
バジェットと労力の無駄遣いをする一方で、新商品、新テクノロジーの開発を疎かにしたことから、ナイキが失ったのが多くの優秀なデザイナー。
加えてブランドとしてのクールなイメージも失われ、若い世代はナイキのビッグ・ブランドのイメージを嫌ってマイクロ・ブランドに移行。
年上世代は、履き心地でOne、HOKA、ニューバランスを選ぶというブランド転落のシナリオが完成。
今年6月には業績悪化と売り上げ見込みの下方修正を発表し、株価が20%下落する事態に陥っていたのだった。
彼に代わってCEOに就任するのは、ナイキで32年間のキャリアとブランドの黄金時代を築き、既に引退していたエリオット・ヒル。
しかしナイキのカルチャーとスニーカー需要を理解するエリオット・ヒルがCEOに就任しても、優秀なスタッフを多数失い、
タイガー・ウッズやOneのパートナーであるロジャー・フェデラーのように トップ・アスリートがナイキとの広告出演契約より、小規模ブランドの共同オーナーになることを好むのが今のご時世。
そのため「ナイキの建て直しはそう簡単ではない」というのがウォール・ストリートのアナリストの見解なのだった。
もう1つ業績不振が伝えられたのが遺伝子分析ビジネスの先駆者的企業、23andMe。
祖先や遺伝子健康データへの関心の高まりに乗じて 起業家アン・ウォジスキによって2006年に設当された同社は、当時ウォジスキの夫だった Googleの共同設立者
セルゲイ・ブリンを含む投資家から 14億ドルの資金を調達。取締役会には著名な投資会社セコイア・キャピタルのパートナーを含む錚々たるメンバーが名を連ね、
シリコン・ヴァレーで最も期待を集める企業の1つであったのは周知の事実。
そのDNA鑑定キットはホリデイ・シーズンのギフトとして人気を集めるほど普及していたけれど、2021年にSPAC(特別買収会社)を通じて上場した23andMeは一度も利益を計上したことは無く、
同社の時価総額はピーク時の60億ドルから現在では約1億7000万ドルに大きく下落。来年にはキャッシュが底をつくと見込まれるほど業績が悪化したのだった。
これを受けて同社株を非公開化するべきというウォジスキと取締役会が過去数ヵ月真っ向から対立。そして先週起こったのが、
23andMeの独立取締役全員が辞任するという危機的な事態。
ウォジスキは従業員に対し、辞任劇への驚きと失望を語りながらも、引き続き同社を非公開化する決意を表明。
23andMeが持つ巨大なDNAデータベースを活用した医薬品製造と治療を軸にしたビジネス計画を進めているけれど、業績悪化は
この計画で苦戦を強いられたのが大きな原因。成果を上げる前に同社資金が枯渇すると見込まれているのだった。
今週のアットランダム
秋と言えばアート・オークションのシーズン。値崩れしない投資対象として人気を保ってきたアートであるものの、2022年をピークに近年にない売り上げ低迷を記録。
最もダメージを受けているのはオークション・ハウスの最大手で、280年の歴史を持つサザビーズ。サザビーズはそのヘッドクォーターをかつてホイットニー美術館であったアッパー・イーストサイド、マディソン・アヴェニュー沿いのビル(写真上左)に移転させることになっているけれど、現在多額の借金を抱えて、その経営は火の車。運送業者への支払いを先延ばしにしているだけでなく、社内幹部は従業員に期日通りに給料を支払えるかどうか心配しているとのこと。
現在サザビーズにとって最後の命綱となっているのは、今後に締結されるアブダビのファンドとの取引で得られる10億ドルの救済金。サザビーズのCEOでビリオネア・ビジネスマンのパトリック・ドライは「昨今の財務状況悪化のニュースは誇張されている」と語り、
「サザビーズのビジネスは規模が大幅に拡大し、多様化しており、収益性も高い」としているけれど、負債額は大きいのは確かで、この秋から来年にかけて正念場を迎えるのだった。
米国司法省が今週独占禁止法違反で訴えたのがVISA。特に問題視されているのがVISAのデビット・カードの手数料で、アメリカ国内で年間にデビッド・カードで決済される総額は2021年の段階で1060億ドル。
そのうちの60%がVISAによるもの。総決済数の45%はVISAで支払うしか選択肢が無い状況なので、完全なモノポリー状態。
当然支払をプロセスするビジネスはVISAに言われるままに手数料を支払うしかない訳で、VISAカードはデビッド・カードのネットワーク・フィーだけで年間に70億ドルをチャージ。
そのうち利益は56億ドルで、極めて美味しいビジネスを繰り広げているとのこと。
アメリカでは2018年から2021年の間にクレジット・カードの決済数が6%の増加であったのに対して、デビッド・カードの決済は20%アップしており、今や米国社会における支払手段のメイン・ストリームになっているのがデビッド・カード。
それだけにVISAにとっては文字通り、”独占ドル箱ビジネス”になっているのだった。
一時はニュー・ノーマルになると思われた自宅&オフィスのハイブリッド勤務。しかし、失業率が徐々に増加傾向を辿り、新規雇用が減り、さらには大型レイオフが見込まれるとあって
今や雇用は完全に買い手市場。そのため大手企業を中心に再燃したのがRTO、リターン・トゥ・オフィスのムーブメント。今週アマゾンはリモート・ワーク完全廃止を発表。
この発表以前にもアマゾンは年間最大4週間のリモート勤務オプションを廃止しており、これは休暇を取らずして、旅先やリゾート地で仕事が出来るとして好評だったプログラム。
RTOがこのまま広がると、現在の旅行ブームも一段落を迎えると見込まれるのだった。
TikTokが今週発表したのがミュージック・ストリーミングの最大手Spotifyに対抗してスタートした”TikTok ミュージック” のアプリ閉鎖のニュース。アップル社内でも
アップル・ミュージックの存続に疑問を唱える声が聞かれるけれど、それほどまでにミュージック・ストリーミングは割に合わないビジネス。しかしTikTok自体は最も楽曲の検索に遣われるプラットフォームで、
その意味でTikTokと音楽は切っても切れない関係が続くのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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