Sep 8 〜 Sep 15 2024

Pet Eater, Taylor & Con Artists, Etc.
ペットを食べる移民とテイラーの大統領選インパクト,
J.P.モルガンを襲ったTikTok小切手詐欺, Etc.



今週米国メディアの報道が集中したのは、言うまでも無く火曜日夜に行われたハリス氏VS.トランプ氏のディベート。アメリカ国民の6700万人がストリーミングやTVで視聴したと言われ、 先週開幕したNFLの試合の平均視聴者数が2900万人であったので、その2倍以上に当たるメガ視聴率。
ディベートの軍配は巧みにトランプ氏の神経を逆なでしたハリス氏に上がっていたけれど、私が知る限り公の場所で トランプ氏が独裁者好きであること、「プーチンのような独裁者がトランプ氏を好むのは、おだてれば簡単に手懐けられるから」という内容をトランプ氏に面と向かって明言した女性はハリス氏が初めて。 ディベート後にメディアが無党派層を対象に行ったアンケート調査によれば、大半がハリス氏勝利を認めたものの、「ディベートによって既にどちらに投票するかを決めた有権者の心が変わることは無いだろう」という意見が圧倒的。
一方ウォールストリートでは、ディベート翌日にトランプ氏のソーシャル・メディア企業、トランプ・メディア&テクノロジー・グループの株価が10%以上下落。これは今年3月の上場以来の最低水準。 トランプ・メディア&テクノロジー・グループの株式は、機関投資家が全く手を出さず、代わりにトランプ支持の個人投資家が株価を支えている銘柄。 しかし株主達は昨今ベアリッシュなムードで、逆に盛り上がっているのが空売り筋。今月だけでトランプ・メディアのショート・トレーダーは3500万ドルの利益を上げていることがレポートされているのだった。
逆にディベート翌日に急騰したのがカマラ・ハリス氏が大統領に当選した場合の経済政策で恩恵を受ける銘柄。 中でもファースト・ソーラーの株価が15%以上、ソーラーエッジ・テクノロジーズの株価が8.5%の上昇を見せ、ハリス政権が誕生した際には 環境関連株が有望となる様子を窺わせていたのだった。



ペットを食べる移民とテイラー支持表明のインパクト


今回のディベートでトランプ支持者が訴えていたのが、放映局ABCTVのホストがハリス氏に肩入れしていたということで、そのことは トランプ氏自身もディベート翌日に「自分が何を言っても否定され、まるで3対1の闘いだった」とFOXニュースに愚痴っていたほど。 特にトランプ支持者が腹を立てていたのは、トランプ氏が「オハイオ州スプリングフィールドでは、不法移民が犬や猫などの地元住民のペットを食糧にしている」と発言した際に、 ディベートのホストでABCの看板アンカー、デヴィッド・ミュールが「ABCニュースはそのような事実は確認してない」と訂正を入れたシーン。
デヴィッド・ミュールがそうせざるを得なかったのは、アメリカではトランプ氏が語ったデマに警鐘を鳴らす報道がディベート当日のトップニュースの1つだったため。 そのデマを高視聴率のディベートを通じて拡大したとなれば放映局の責任を問われる訳で、彼の訂正はトランプ陣営以外からは適切と判断されていたのだった。
ちなみにこんなデマが生まれたオハイオ州スプリング・フィールドは、過疎化と労働力不足で困窮していたことから、昨年ハイチから1万5000人の移民を受け入れた町。 ハイチはギャング団が支配する深刻な政情不安に陥っており、1万5000人は人道的措置として合法的に一時受け入れをした移民。当初、現地では労働者不足が解消され、 経済が活性化したことで歓迎ムードであったけれど、それが様変わりしたのが昨年11月。無免許の移民が運転する車がスクールバスに突っ込み、11歳の少年が死亡する事故が起こったこと。 以来、保守右派の扇動で盛り上がったのが反移民運動で、死亡した少年の両親が「息子の死をへイトや人種差別に利用しないでほしい」と訴えたにも関わらず、 ハイチ移民への差別はどんどん広がり、問題のデマもそんな保守右派がXにポストしたのが始まり。
そのデマのネタになったのは、同じオハイオ州でも別の町に住む米国籍の女性が猫をさらって来ては虐待していた容疑で逮捕された事件。 それを「スプリング・フィールドのハイチのからの不法移民が地元住民のペットをさらって来ては食糧にしている」と捻じ曲げた投稿がされて、それを事実確認無しに拡散したのが、 トランプ氏の副大統領候補でオハイオ州上院議員のJ.D.ヴァンス。 スプリングフィールドの関係者は、「そのような事態は起こった形跡も証拠も無い」と噂を全面否定したものの、 ヴァンスは「これがデマだという証拠が提示出来ないことが事実である証」、「自分はセカンダリー・インフォメーション(ソーシャル・メディアのシェアやリツイート)で沢山の証言を得ている」とデマの正当性を主張。 まともな人間では論破不可能な屈折した思考回路を披露していたのだった。
この「ペットを食べる不法移民」説が広まって以来、ソーシャル・メディア上には、トランプ氏がハイチの移民から猫を守る姿を ジェネレーティブAIでクリエイトしたMEMEが多数登場。 トランプ氏自身も自らのソーシャル・メディアでMAGAハットを被った猫のビジュアルをポストしていたのに加えて、 週半ばにはトランプ氏の「犬や猫を食べている」というディベート発言の音声を使ったラップ・ソングも登場。茶番を通り越して、馬鹿げたレベルになっていたのだった。
そんなMEMEやジョークで人々が笑っている中、移民に対する偏見の鎮静化に努めていたスプリング・フィールドでは、 ディベート2日後に市民センターに爆弾を仕掛けたという脅迫が寄せられ、子供が学校に通えない事態が起こっており、 小さな町がとんでもない事態に巻き込まれているのだった。




ディベート直後にメディア・フォーカスを見事にさらっていったのがテイラー・スウィフトによるカマラ・ハリス支持表明。 テイラーは8月に行われた民主党大会に登場して支持表明をする噂が流れていたけれど、「テイラー・スウィフトほどのマーケティングの天才ならば、もっと絶妙なタイミングで支持を表明するはず」という声が当時から飛び交っており、 実際にその通りのタイミングでの支持表明となったのだった。
テイラーが2億3800万人のインスタグラムのフォロワーに発信したのが以下のメッセージ

★ ★ ★

「多くの皆さんと同様に 私も今夜のディベートを観ていました。もし未だ観ていないのなら、身近な問題や貴方にとって重要なテーマに対する候補者のスタンスを知る絶好の機会です。 私は有権者として候補者が提案する政策や今後の展望について、できる限りの情報を得るようにしています。最近、AIで生成された「私」が大統領選でドナルド・トランプを支持する画像が彼のソーシャル・メディアに 投稿されたことを知りました。それは私にとってAIに対する危惧と、誤情報拡散の危険性を本当に実感させるものでした。 そのため私はこの選挙における有権者としての自分の立場を明確にする必要があるという結論に至りました。誤情報と闘う最も明確な手立ては真実です。
私は 2024年大統領選挙でカマラ・ハリスとティム・ウォルツに投票します。@kamalaharrisに投票するのは、彼女が権利と正義のために戦っているからで、 権利と正義を貫くには戦うリーダーが必要です。彼女は落ち着きと才能を持ったリーダーだと思います。この国は混乱よりも、穏やかな指導者によって、もっと多くのことが達成できると私は信じています。 私はカマラ・ハリスが副大統領候補に@timwalzを選んだことにも感銘を受けました。彼はLGBTQ+の権利、体外受精、そして女性の中絶の権利を何十年も擁護してきた人物です。
私は自分でリサーチをして、自分の決断をしました。皆さんも自分の責任でリサーチをしてし、自分の責任で決断して下さい。 今回初めて投票する人たちは、投票に事前登録が必要であることを忘れないでください。 また先行投票の方が遥かに簡単に投票が出来ると思います。登録場所と先行投票の日程と情報はリンクで紹介します。愛と希望を込めて。
テイラー・スウィフト、 Childless Cat Lady

★ ★ ★

最後の”Childless Cat Lady”は以前このコラムでもご説明したJ.D.ヴァンスへの嫌味を込めたユーモア。 支持表明のポストには”Childless Cat Lady”を強調するかのようにテイラーの愛猫、ベンジャミン・ボタンもテイラーと一緒に登場。
今回の大統領選では とにかく猫が重要な役割を果たしているけれど、テイラーがポストした投票登録のウェブサイトには24時間も経たないうちに33万人がアクセス。 カマラ・ハリスのウェブサイトでは、スウィフティーズのマストハブ・アクセサリー、”フレンドシップ・ブレスレット”の販売がスタートしているのだった。



TikTokに煽られた若者がこぞって小切手詐欺


アメリカで大きく報じられたのが、TikTok上でヴァイラルになった小切手詐欺を促す動画に触発されて、 数千人がJ.P.モルガン・チェースから不当に大金を引き出したニュース。しかも驚くべきことは、その若者の一部は小切手のシステムを理解しておらず、 自分が行ったのが詐欺罪である意識を持っていないこと。
今もアメリカ社会で支払の際に頻繁に使われる小切手は、銀行に入金してから全額のが口座に振り込まれるまでに3〜4日を要するのが常。 その間、小切手の額面が何回かに分けて口座に入金されるけれど、もし小切手を切った側の銀行口座に額面の金額がなければ当然小切手は不渡り。 その場合、不渡りが判明した段階で既に口座に振り込まれた全額が差し引かれるというシステムだけれど、 不渡りが判明する前に振り込まれた金額は引き出しが可能であることから、その時間差を利用した詐欺事件は珍しくないのだった。
その手口の1つが自分に対して小切手を切って、それを他行の自分の口座に預金し、不渡りが判明する前に入金されたキャッシュを引き出すというもの。 これはネットフリックスのドラマ「ファインディング・アナ」の主人公となった実在のフェイク・ソーシャライトで、2017年に詐欺罪で有罪となって服役したアナ・ソロキンが、 一文無しになった時に当時住居代わりにしていた高級ホテルから宿泊費の支払を迫られた際にも行った手口。 10万ドルの小切手を自分に切った彼女は、不渡りが判明する前の7万ドルが振り込まれたところで全額を引き出し、ホテルへの支払や、その後の旅行費に当てていたのだった。

TikTokでヴァイラルになった事件では、アメリカ最大手銀行、J.P.モルガン・チェースのATMでバグが発生し、小切手をATMから預金した途端にその全額が引き出せたようで、 そのことに気付いたTikTokerが情報を拡散。その結果、数千人が行ったのが 自分宛に不渡りを承知で多額の小切手を切り、それをチェースのATMで預金し、 入金が確認された途端に全額を引き出すという小切手詐欺。 チェースが不渡りを確認して キャッシュを取り戻そうとした時には、全額が引き出されて取り戻せない状況になる訳で、 チェース側が異常な件数の小切手詐欺に気付いた時には時既に遅し。 チェースは それがTikTokチャレンジではなく、立派な犯罪であることをメディアを通じて警告し、バグも程無く修復されたけれど、未だ被害総額が明らかになっていないのだった。
チェース側は詐欺を行った全員を警察にレポートする意向を明らかにしたけれど、これを行った多くはジェネレーションZ。生まれて初めて切ったのがこの犯罪のための小切手だったケースも少なくないとのこと。 彼らは今回のことを銀行のATMバグによって得をした程度にしか理解しておらず、「ATMから100ドルを引き出そうとしたら、1000ドルが出て来たので着服した」ような感覚で、 犯罪に手を染めたという意識はゼロ。だからこそ自分のIDが知られている銀行からお金を奪おうという馬鹿げた試みができるのだった。
オンライン・バンキングが当たり前になった今でも、アメリカ社会で小切手が生き残っている理由は、 支払に生じる数日の時間差を、「体裁を保ちながら支払を遅らせる手段」として利用出来るため。 実際に支払期日までにキャッシュが用意できないケースでは、あえて不渡りの小切手を切って時間を稼ぎ、その間にキャッシュを工面するというのは 家賃の支払や、 取引先への支払に頻繁に用いられる手段。不渡りの小切手にはペナルティが生じるものの、それを支払うだけで信用を失うことなく、支払までの時間が稼げることに利点を見出す人は多いのだった。 また給与や賞金、賠償金などは 小切手で渡すことにより、紛失などの理由で換金されない可能性があり、支払う側がお金をセーブ出来るのも事実。 アメリカでは国税局も税金払い戻しも小切手で行うケースが多いけれど、その約21%が毎年換金されずに終わるので、政府機関も小切手のシステムで恩恵を受けているのだった。
したがって近年では使用件数が激減したとは言え、これだけのメリットがある小切手がアメリカの金融システムから暫く消え去ることは無いのは確実で、 今回の事件は若い世代に対して、親や銀行が小切手に関する適切な教育をする必要性を感じさせていたのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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