Aug 18 〜 Aug 24 2024

DNC 2024, Swifties Vote For?, Fake Royal, Etc.
テイラーを怒らせたトランプの失態, パイプカット&不妊手術が増加中, Fakeロイヤル, Etc.


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、月曜から4日間の日程で、シカゴで行われたDNC(Democratic National Convention)、すなわち民主党大会の様子。
初日月曜は バイデン氏の功績に感謝しながら、新世代にバトンを渡した決断を評価する趣旨で、翌日は筋金入りの民主党支持者にアピールするべく、 党最大のスター、オバマ夫妻がキーノート・スピーカーとして登場。3日目は中道派、無党派層にアピールする内容でクリントン元大統領、オプラ・ウィンフリーがスピーチを行った後、 副大統領候補となったティム・ウォルツがナショナル・ビューとなるスピーチを元教師&フットボール・コーチの経歴を感じさせる モチベ―ショナルな語り口で披露。お膳立てが整った最終日にカマラ・ハリスが新大統領としてのビジョンを語るという構成。 やはり民主党大会の方が誰もが知る政治家やセレブリティが次から次へと登場するとあって、エンターテイメント性の高い党大会になっていたのだった。
中でも、最も話題が集中したと同時に、会場を最大に盛り上げたのがミシェル・オバマ夫人のスピーチ。その内容やスマートなユーモアの数々から、スピーチ・ライターの優秀さが窺えたけれど、 観衆を見事にコントロールしながら、時間を感じさせない小気味良いペースと抜群の説得力、迫力で完璧にこなした様子は圧巻。 私は個人的に決してミシェル夫人のファンではないものの、あのスピーチの才能は「凄い!」の一言。 その後登場したオバマ氏が「ミシェル・オバマの後にスピーチをする自分は馬鹿だ」と語って笑いを誘っていたけれど、そのセンテンスは決してジョークには聞こえなかったのだった。
逆に声色と容姿がすっかり弱々しく感じられたのがクリントン元大統領で、今回はクリントン氏にとって連続12回目の党大会のスピーチ。 そして今後は党大会スピーチの数が限られてくるであろうことは、クリントン氏本人も演説で認めていたことなのだった。



テイラーを怒らせて「終わった!」と言われたトランプ


先週のこのコーナーで、トランプ陣営がカマラ・ハリスのキャンペーン・スナップに写っていた聴衆について「ジェネレーティブAIによってクリエイトされたディープ・フェイク」だとクレームをつけたエピソードをご紹介したけれど、 今週物議を醸していたのは トランプ氏が自らのソーシャル・メディア、トゥルース・ソーシャルに8月18日に投稿した写真左上のポスト。
そこには「Swifties For Trump」と書かれたTシャツを着用したテイラー・スウィフトのファンと思しき若い女性達の複数の写真、 「アイシスのテロ計画失敗によりテイラーのコンサートが中止になったことで、スウィフティーズがトランプ支持に回り始めた」というヘッドライン、そして「Taylor Wants You To Vote For Donald Trump」という メッセージをあしらったテイラーの画像がフィーチャーされ、それに対して トランプ氏が「I accept!」、すなわち支持を受け止めたと表明しているのだった。
しかしこのポストはジェネレーティブAIによってクリエイトされたディープ・フェイクで、唯一本物だったのは投稿のビジュアルの中の2枚のスナップに登場している19歳のジェナ・ピヴォワルチク。 これが撮影されたのはウィスコンシン州で行われたトランプ・キャンペーンで、現場で「Swifties For Trump」のTシャツを着ていたのは彼女1人。 彼女自身は嘘偽りのないスウィフティーズであるけれど、それ以外の場所で テイラー・ファンが「Swifties For Trump」Tシャツを着用する様子は見られていないのだった。
それもそのはずで、テイラーは2020年の選挙の際に「Biden Harris 2020」クッキーを焼いた様子をインスタグラムで披露。バイデン氏を支持しただけでなく、 2018年の中間選挙でもテネシー州の民主党候補をサポートした民主党支持者。 2020年には”打倒トランプ” のツイートもしており、「白人至上主義と人種差別に火をつけ、(選挙結果によっては)略奪が起こり、やがて銃撃が始まると暴力の脅しをしておきながら、自分の道徳観を誇示するなんて どういう神経をしているのか」 と、トランプ氏を厳しく批判。同じく2020年に公開されたテイラーのドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」では、自分の政治的ポジションを公に語る決断について「歴史の正しい側に立つ必要がある」と語っているのだった。
そのテイラーは共和党保守派が多いテキサス生まれで、同じくレッド・ステーツのテネシー州からカントリー・シンガーとして世に出たとあって、 多くのカントリー・シンガー同様、以前は共和党を支持。しかしレッド・ステーツであるケンタッキー出身の女優、ジェニファー・ローレンスがハリウッドで成功を収めるプロセスでリベラル派に変わったり、 南部出身者がブルーステーツの大学に進学してリベラル派に傾倒するというのは全く珍しくないこと。 テイラー自身はカントリー・シンガーから世界的なポップ・シンガーになるプロセスでリベラル派に転向したと言われ、今ではLGBTQ+コミュニティをサポートし、女性の中絶権利を熱心に擁護しているのは周知の事実。 したがってトランプ氏を支持するはずがないことは スウィフティーズであれば理解していることなのだった。
一方、ポップカルチャーに疎いトランプ氏は、6月に行われたヴァラエティ誌とのインタビューで、 「テイラー・スウィフトは本当にリベラルなのか、あれは演技ではないのか?」とインタビュアーに尋ね、「リベラル派のカントリー・シンガーが成功できるなんて驚きだ」と語るなど、 トランプ氏の脳内ではテイラーが未だカントリー・シンガーである認識を露呈。しかしテイラーが若い世代を中心に多大な影響力を持つことは理解しており、 今回のジェネレーティブAIによる写真を使ったポストは、トランプ氏および、トランプ陣営のテイラーに対する曖昧な知識から行われたという見方が有力。 その程度の認識とあって、トランプ氏は投稿の写真がディープ・フェイクであることが報じられ、本来なら釈明をするべき状況で、新たにスウィフティーズを名乗る若い女性が トランプ支持を語るビデオを公開。このビデオについては女性のIDもオーセンティシティも確認されていないのだった。
テイラー自身は 今回のトランプ氏の投稿に非常に腹を立てていることが伝えられ、公にはコメントを控えているものの テイラーの関係者が今週メディアに語っていたのは、トランプ氏が「いろいろな意味で、終わった」というコメント。 事実、普通にポップ・カルチャーをフォローしている人なら熟知しているのが、「テイラー・スウィフトを怒らせてはいけない」ということ。
テイラーは若かりし彼女に痴漢行為を働いたジャーナリストに対し、1ドルの賠償金を求めるために訴訟を起こして勝利し、事実上の制裁を加えたのに始まり、 アップル・ミュージックが設けた「無料トライアル期間のダウンロードにはアーティストに報酬を払わない」という一方的なポリシーに抗議。 それを僅か数日で撤回させたこともあり、さらには自分に無断で売却された原盤権を巡る 通常なら極めて不利な裁判で、再レコーディングをして販売する権利を勝ち取っており、 相手が大企業でも、音楽業界の重鎮でも 自分が敵と見なす相手とは とことん闘っては勝利して来た存在。
そのテイラーは今年の春先、バイデン陣営が背水の陣を強いられている最中に、バイデン氏への支持表明を求められていたことがNYタイムズによって報じられていたけれど、 今となって囁かれているのは、民主党側は最初からバイデン氏に出馬を断念させる方針が固まっていて、テイラーからの貴重な支持表明が無駄にならないように根回しがされていたという説。 それ以前にテイラーはファンの行動心理を理解しているマーケティングの達人なので、「最も有効なタイミングで支持表明を行うはず」という見方が有力。 一方スウィフティーズはテイラーの表明を待たずして 既にカマラ・ハリス支持で結集を見せており、「@Swifties4Kamala / @スウィフティーズ・フォー・カマラ」のXアカウントは 僅か3週間ほどの間に6万人以上のフォロワーを獲得しているのだった。
今回の選挙では2016年にトランプ氏が勝利した時に比べて、ベビーブーマー世代の有権者が2000万人この世を去り、 代わりに4000万人のジェネレーションZが選挙権を獲得。「若い世代は投票所に行かない」日本とは異なり、アメリカのジェネレーションZは「避難訓練」と言えば火災ではなく、 銃乱射事件に備える避難であったことから銃規制を望み、気象変動を自分達の将来を左右する問題として捉え、マイノリティ人種の割合が高いとあって差別にも敏感で、 非常にポリティカルな世代。したがって若い層へのアピールが選挙戦の行方を決めると言っても過言ではない状況になっているのだった。



アメリカで パイプカット&不妊手術が増える理由


今週行われていた民主党大会で、会場の参加者が涙ぐみ、怒りを露わにするなど、エモーショナル・レベルが最も高まったのが 連邦最高裁が人工中絶の合憲を覆したことで、自分が住む州で中絶手術を受けられず、心身共に傷付いたカップルと2人の女性が壇上でその経験談を語った瞬間。
カップルは女児の出産を心待ちにしていた妊娠後期に胎児の死亡が告げられ、緊急中絶手術を行うはずの状況で、「生命に危険が無い限り、中絶は犯罪扱い」として医師に手術を拒まれて 帰宅を強要され、その後妻の容態が悪化して生命のリスクに直面するまで中絶が出来なかった様子を激白。夫が「妊娠中絶の権利は、女性だけの闘いではなく、家族にとっての重大な闘い」と聴衆に呼び掛けた際には 会場中が大喝采になったのだった。一方妻のアマンダは「ドナルド・トランプのせいでアメリカの生殖年齢の女性の3人中1人が人工中絶の権利が奪われた州に暮らしている」として、 第二期トランプ政権が全米での中絶禁止を目論んでいること、そして「中絶手術を行うドクター、手術を受ける女性の双方に刑事責任を問う」と語った悪名高きコメントを引用。 更には最高裁保守派判事が今後の避妊禁止をほのめかしていること、共和党が多数を占めるレッド・ステーツでは法律で受精卵を人と見なし、奇形の受精卵でも破棄すれば殺人扱いになることから、 不妊治療さえ行えなくなっている現状をアピールしていたのだった。
次にマイクを握った女性は第二子を妊娠中に突然流産をしたものの、地元ルイジアナ州の法律のせいで中絶手術が受けられず、病院をたらいまわしにされた悪夢の体験談を披露。 更にショッキングだったのは最後の若いスピーカーで、彼女は12歳にして継父にレイプされて妊娠。その最悪の状況で 彼女には中絶というオプションがあったものの、レッド・ステーツでは レイプでも、近親相姦でも人工中絶が認められない現状に触れて、「トランプはどんな状況でも子供が生まれて来るのは美しいことと言いますが、子供の年齢で自分の親の子供を産むことが果たして美しいと言えるでしょうか?」 と聴衆に語り掛け、会場中がスタンディング・オーベーションになっていたのだった。
11月の選挙では、複数のレッド・ステーツで人工中絶に対する現在の厳しい規制を覆す法案が州民投票に掛けられることになっており、中絶問題は選挙の行方を左右すると同時に、 女性有権者が最も熱くなる争点。 昨年2023年には 人工中絶を他州で受けざるを得なかった”中絶旅行者”の数が27万人を記録。 人工中絶の件数は、連邦最高裁が中絶合憲を覆した2022年6月から2023年6月までの1年間を 同じ期間の前年と比較すると、その数は11万7000件も増えており、 厳しい中絶規制は母体のリスクを高めるだけで完全に逆効果になっているのが現在。
加えて現在アメリカの19〜30歳の男女の間で急増しているのが、俗にパイプ・カットと呼ばれる精管切断術や不妊手術(卵管結紮術)を受ける男女の数。 連邦最高裁判決前と比べると これらの手術を受ける男女の数は約20倍になっており、手術を受ける理由は人工中絶だけでなく、 やがては避妊の権利までもが奪われることを危惧しているため。
この様子はオバマ政権下で銃規制を求める声が高まった途端、そのうち銃が手に入らなくなることを恐れた銃愛好家が 銃を買い漁ったことで売り上げが急増した状況と同様。 当時オバマ氏は保守メディアに「最も優れた銃のセールスマン」呼ばれていたけれど、銃規制を阻むロビー活動で知られるアメリカン・ライフル・アソシエーションに支持されて当選した トランプ氏が政権を握った途端、銃の売り上げが大きく落ち込んだのは何とも皮肉なパラドックス。
第二期トランプ政権が誕生した場合には、共和党保守派の意図とは裏腹に アメリカの少子化にさらに拍車が掛かることが見こまれるのだった。



ハリー&メーガン、フェイク・ロイヤル・ツアーのバックラッシュ


暫しニュースが無かったハリー王子とメーガン・マークル夫妻が先週日曜までの4日間の日程で訪問したのが南米のコロンビア。
何が目的の訪問だったのかが全く分からないのは欧米メディアもコロンビアの国民も同様で、今や王室生まれというだけでロイヤル・ファミリーの一員とは見なされなくなったハリー王子は、 コロンビアのメディアでも準王室メンバー扱い。
英国政府機関によれば、コロンビアは現在治安が悪いことから 一部のエリアは要人の訪問が禁止されているとのことで、 にもかかわらず2人が訪れたのはコロンビアのフランシア・マルケス副大統領から招待されたため。 マルケス氏自身、過去に2回も暗殺未遂のターゲットになって状況で、ハリー王子夫妻を招待した理由はマルケス氏が世界的著名人とのコネクションを求めていたため。 そしてその著名人が何故ハリー王子とメーガン夫妻なのかと言えば、「ネットフリックスで2人のドキュメンタリーを観た」という非常に短絡的な理由。
メーガンはその招待の期待に応えるかのように、4日間で11枚のアウトフィットを披露。最も高額だったのはマルケス氏との昼食会で着用したオスカー・デ・ラ・レンタのブルーのドレスでお値段は4000ドル。 ワードローブの総額は約11万7000ドルで、1コーディネート当たり1万600ドル、1日当たり3万9000ドルという高額ぶり。 ネットフリックスやスポティファイから次々と契約を解除され、昨今では高額な生活費に見合うだけの収入が無いのでは?との憶測を呼ぶ割には、贅沢なワードローブを披露していたのだった。
しかし現在のコロンビアはメーガンのワードローブに関心が行くほど経済的な余裕が無く、国民の3分の1が貧困ライン以下の生活を送っている状況。 そんな貧困国の経済負担を増やすだけの2人の訪問は多くの人々を激怒させており、中でも費用が嵩んだのは2人のセキュリティ。 1日当たり48万8500ドルの警備費用が掛かっており、国が財政難の時に 約200万ドルの国民の血税が不必要な国賓の警備費用として無駄遣いされたのだった。 そのセキュリティの内訳は、3000人の警官と兵士、ヘリコプター、爆弾探知犬、爆弾処理班、狙撃攻撃に備えての防弾ブリーフケースや防弾シールドを装備した常駐警備員等で、 それ以外にも夫妻の滞在施設や、贅沢な食事、イベントのセットアップ、移動の費用等で、2人の滞在総額として見込まれるのが警備費の約2倍の金額。 「その巨費を貧困層の子供達の食事や、公共施設の改修、シングル・マザーへの援助等に費やすべきだった」との反発が聞かれる中、 マルケス氏には税金無駄遣いへの責任追及を求める声が高まり、ハリー王子夫妻にはコロンビアの経済状況から判断して、 招待を辞退するべきだったという非難が殺到していたのだった。
そのハリー王子は、メグジットで王室離脱をした直後にパンデミックに見舞われ、不運なスタートを切ったアメリカ進出が、 その後一向に花開かないことに焦りを感じ始めているようで、一部では「ハリー王子が王室内外の反ウィリアム勢力と結託してロイヤル・ファミリーにカムバックし、ウィリアム王子と王位を争う」といった ネットフリックスのドラマシリーズ「ザ・クラウン」のネタになりそうなシナリオも囁かれているのだった。

来週のこのコーナーはレイバー・デイ・ウィークエンドにつき、お休みを頂きます。次回は9月1週目の更新となります。日頃ご愛読下さる皆さま、特に長きに渡ってCUBE New Yorkをお買い物で支えて下さりながら 読み続けて下さるお客様にこの場を借りしてお礼申し上げます。いつもありがとうございます。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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