Aug 11 〜 Aug 17 2024
トランプ リスプがヴァイラル,米国メガスポーツ大会三昧,スタバ時価総額爆上げ新マジカルCEO,Etc.
パリ五輪も終わって、アメリカの関心事が大統領選に絞られた今週発表された世論調査では、遂にカマラ・ハリス副大統領が僅かながらもトランプ氏を抜いて優勢に立ったことが報じられたけれど、
トランプ陣営にとってショッキングだったのは、トランプ氏の強みであるはずの経済政策においてもハリス氏を信頼する声が高まったこと。
そんなトランプ陣営が週明けから訴えていたのが、ハリス陣営がジェネレーティブAIを駆使して、8月7日にデトロイトの空港で行われたキャンペーン・イベントにまるで大勢の参加者が居たかのような
フェイク・フォト(写真上、左上)を発信したという批判。ハリス氏の背後の副大統領専用機エアフォース2に「聴衆の反射が一切写っていない」というのがそれを立証する証拠と主張していたけれど、
エアフォース2の機体は局面で鏡のような平面ではないので、正面のものがそのまま機体に反射されないのは容易に想像がつくところ。それでも納得しなかったトランプ陣営は
複数メディアが個別に撮影した数多くの写真の存在によって、ようやくフェイク・フォト説をギブアップしたのだった。
この騒ぎでメインストリーム・メディアが再び取り沙汰したのが、2021年の大統領就任式の翌日にトランプ氏の当時の報道官が「トランプ氏の就任式に詰めかけた観衆は、オバマ氏の就任式より遥かに多かった」と主張し、
スカスカの現場の写真をフォトショップ呼ばわりし、当時のワシントンDCの地下鉄利用者数や、ホテルの宿泊者数がオバマ氏の就任式時のより遥かに少ないデータを提示されても、
「フェイク・メディアの報道」と決めつけて、事実を認めなかったトランプ氏の様子。
そのため今週メディアで取り沙汰されたのが「何故トランプ氏にとって観衆のサイズがそこまで大事なのか?」という疑問。
トランプ氏と共和党予備選を最後まで争ったニッキー・ヘイリーは「観衆の数で争ったところで、相手を悪く言ったところで選挙には勝てないことをトランプ氏は悟るべき」と
メディア・インタビューで語っており、劣勢になって来たトランプ氏へのフラストレーションが共和党内でも高まっている様子を露呈していたのだった。
再び失敗したXインタビューのリスプ&不思議な発言
戦況が不利になってきたトランプ陣営が盛んにプロモートしていたのが、今週月曜東部時間午後8時からX上で行われる予定だったイーロン・マスクによるトランプ氏のインタビュー。
しかし昨年行われたフロリダ州知事、ロン・ディサンティスの出馬宣言インタビューの時と同様にテクニカル・プロブレムに見舞われ、40分以上遅れた上に、音声のみのインタビューになるという大失態をリピートしたのがXとイーロン・マスク。
そのインタビューには、民衆のヴァイオレンスを煽る発信内容が飛び出すことを危惧するEUから 事前に言動を慎むよう圧力が掛かっていたとのことで、
そうなってしまうのは8月1日にイギリスで起こったテイラー・スウィフトをテーマにしたダンスクラスで 13人の女児が殺傷された事件の容疑者について、
ソーシャル・メディアを通じて「昨年ボートで英国に渡った不法移民」というミスインフォメーションが拡散され、保守右派が英国各地で抗議活動と称する複数の暴動を起こす事態に発展したため。
マスクはそんなEUの圧力を「ボンジュール!」という挨拶で交わしたものの、インタビュー翌日にマスクとトランプ氏を訴えたのが全米最大の労働組合の1つであるUAWことUnited Auto Workers/アメリカ自動車労働組合。
理由はトランプ氏がストライキ中の労働者を雇用主がどう扱うべきかを話し合っていた際に、「ストをする従業員は全員辞めさせれば良いだけ」という内容を語ったためで、
UAWは「両氏がストライキを含む法律で保護された労働組合員の権利を脅かす発言をした」として提訴したのだった。
昨年のストライキで勝利を収めたUAWには、今後テスラの工場労働者が加わる意向を示しており、
その反発は理解できるところであるけれど、UAWは賠償を得ようとしている訳ではなく、
トランプ氏の労働者に対する強硬な姿勢と過激な発言に人々の関心を集め、既に支持表明をしているハリス氏が有利になるように
援護射撃をしたと言われるのだった。
でもインタビューについて最も多くの人々が話題にしたのは、トランプ氏の話し方が英語でLispと呼ばれる発音障害に聞こえた点。
Lispは「S」が「Thick/シック」の「Th」のように発音され、「Z」が 「This/ディス」の「Th」のように発音されることで、「Th」が正しく発音できない日本人が「Think(考える)」を「Sink(沈む)」と発音してしまうのとは逆の状況。
こうした発音の違いは、日本人には聞き分けられないケースが殆どであるものの、欧米人には大きな違和感となる発音の違い。
そのためトランプ氏に対して「歯の詰め物でも取れたのか?」といった憶測や 「バイデン氏の舌がもつれたスピーチを真似ているうちに、普通に話せなくなったのでは?」といった冗談交じりの憶測が飛び交う一方で、
Lispの音を嫌う人々をイライラさせていたのだった。
それと共に物議をかもしたのが、トランプ氏がタイム誌の表紙になったカマラ・ハリスのイラストについて語ったコメント(以下原文)。
「 I saw a picture of her on Time magazine today. She looks like the most beautiful actress ever to live. It was a drawing, and actually, she looked very much like our great First Lady Melania. She didn’t look like Camilla [Kamala], that’s right. But of course, she’s a beautiful woman, so we’ll leave it at that, right?
今日彼女(ハリス氏)のタイムマガジンの写真を見た。まるで歴史上最も美しい女優みたいだった。あれは絵だったけれど、実際彼女は我々の最も偉大なファーストレディ、メラニアにそっくりだった。そうだ、絵の女性はカミラ(カマラの間違い) には見えなかった。もちろん彼女(絵の女性)は美人だ、それだけで止めておこう。そうだろう?」
これについては、トランプ氏が「対立候補をおだてるソフト戦略に出た」という声も聞かれたけれど、その直前にトランプ氏はハリス氏に「She is Terrible」というセンテンスを2回リピートして批判したばかり。
それ以外には「トランプ氏にもボケが出て女性の顔がしっかり識別できない」という説、もしくはタイム誌のスケッチャーがカマラ・ハリスを過度に美人に描いた結果、メラニアに似てしまった(=メラニアこそが女性美の象徴)という説もあり、要するに意味が分からないというのがそのリアクションなのだった。
そのトランプ氏は既に副大統領候補にJ.D.ヴァンスを選んだことを後悔していることを側近にはオープンに語っており、
トランプ支持者の間でもヴァンス氏を指名してからトランプ氏の劣勢が始まったと考えて、彼を疫病神扱いする声は少なくないようなのだった。
パリ五輪はメガサクセス? 2028年LA五輪等、今後10年スポーツ・イベント尽くしのアメリカ
先週日曜に行われたパリ五輪閉会式ではトム・クルーズが「ミッション・インポッシブル」でお馴染みのアクション・スタントで、五輪フラッグを2028年大会が行われるLAに持ち去る演出がされていたけれど、
アメリカは次回オリンピックだけでなく、今後10年間大きなスポーツ・イベントが目白押し。
まずオリンピックの2年前、2026年にはFIFAワールドカップをメキシコ、カナダと共同開催することになっており、決勝会場を含む16の開催スタジアムのうちの11がアメリカ国内で、
事実上アメリカでの開催と言って過言ではない状況。
2031年には男子ラグビーのワールドカップを、2033年には女子ラグビーのワールドカップをそれぞれホストするけれど、この2つはどちらも開催の名乗りを挙げたのは米国のみ。
しかしアメリカではフットボールがナショナル・パストタイムとあって、ラグビーはルールさえ知らない人が多く、人気が無いスポーツ。それまでにラグビー人気を盛り上げて、利益が上がる大会に出来るかは未知数なのだった。
そして2034年にはユタ州ソルトレイク・シティが冬季オリンピックのホストに決定しているけれど、その前に米国放映権を所有するNBCユニヴァーサルとIOCが更新するのが放映権料支払いの契約。
パリ五輪はNBCユニヴァーサルにとって「ゴールド・メダルを獲得した」と言われるほどのサクセスフルなイベントで、従来のTVネットワークとストリーミングにより全競技をカバーした結果、
視聴者数は東京大会よりも77%アップ。そのメガサクセスの鍵を握ったと言われるのがソーシャル・メディア。
そもそもオリンピックは東京大会でのパンデミック規制、北京冬季大会でのタイムゾーンによる放映時間問題、リオ大会でのジカ熱の流行、ソチ大会でのジオポリティカル問題など、
過去10年間に渡りアメリカで盛り上がれない要因を抱えて来たけれど、それよりも大きな障壁になってきたのは
IOCがオリンピックの知的財産権の保護に躍起になるあまり、オリンピック関連コンテンツに関して、ソーシャル・メディア上で厳しい規制を設けていたこと。
しかしその規制がパリ大会直前に大きく緩められたことで、アスリートやそのスポンサー企業がインフルエンサー同様の自由裁量で独自の情報発信が可能になったのが
今回オリンピックがメガサクセスを収めた最大要因。
実際にNBCが独自に行った調査では、ビューワーの36%が「ソーシャル・メディア上でビデオ・クリップを観たのがきっかけで 競技をストリーミングやTVで視聴した」と答えているとのこと。
また審判のジャッジを含む様々な物議や問題プレーもソーシャル・メディアのバズを大きくしており、トラブルさえ視聴者数増加に繋がる好循環を生み出していたのだった。
次回は世界のエンターテイメントの中心地であるLAの開催。LA大会は前回1984年の開催時にそれまで赤字続きだったオリンピックをスポンサー企業とセレブリティを使って黒字経営に出来ることを立証した大会。
閉会式に当時ヒットチャートのトップを占めていたライオネル・リッチーがパフォーマンスを行うなど、現在の開会式、閉会式の華々しいスタイルを提示した大会でもあり、
自らも俳優で、エンターテイメントを積極的にサポートした当時のレーガン大統領政権下で最もサクセスフルなスポーツ・イベント兼 ビジネス・イベントであったのが当時のロス五輪。
そのためIOC、アメリカ・オリンピック委員会は共にパリよりも大きな経済効果を見込んでおり、NBCユニヴァーサルとの放映権延長には強気の請求をすることが確実視されているところ。
パリ五輪についてはフランス国内、国外から「失敗」の批判も聞かれるけれど、IOCにとっては開催国の経済効果や選手や観客のリアクションなどは二の次、三の次。
一番大切なのはオリンピック最大の収入源である米国放映権料をいかに多く獲得するか、すなわちアメリカにおける視聴率。その意味で今回のオリンピックはIOCにとって大成功と言えるものなのだった。
スターバックスに1日で214億ドルをもたらした新マジカルCEO
今年に入ってからTikTokを始めとするソーシャル・メディアに多数ポストされていたのが、スターバックスの高額ぶりに苦情を申し立てる消費者の声。
「こんな小さなカップのコーヒー1杯が6ドル?」といった怒りの声が示す通り、値上げに反発した人々のスターバックス離れは顕著で、
先週のこのコラムで触れたマクドナルド同様、伝えられていたのが業績不振。
そんな中、今週月曜に報じられたのが 未だ就任から2年も経っていないスターバックスCEO ラクシュマン・ナラシンハン(写真上一番左)が月末で退任し、
9月から現在のチポトレCEO、ブライアン・ニコル(写真上、左から2番目)が業績立て直しに取り組むニュース。
すると株式市場はこのニュースを大歓迎して、スターバックス株は翌日火曜日に25%という同社始まって以来の上げ幅を記録。それに伴って企業時価総額も214億ドルアップしたのだった。
辞任するナラシンハン指揮下では、最新四半期に全世界既存店売上高が1年前の10%増から3%減へと急落。
売り上げ不振を反映して株価も20%下落しており、ナラシンハンCEO時代は「スターバックスの黒歴史」というレッテルを貼られている有り様。
逆にスターバックスに敏腕CEOを奪われたチポトレは株価が7.5%下落していたけれど、CEOに就任しただけで企業価値を214億ドルも上げてしまうブライアン・ニコルがどんな人物かと言えば、
彼はチポトレが2015年に起こった食中毒問題以降、売り上げ不振が続いていた2018年に最悪の経営状態を引き継ぎ、製品クォリティ向上、テクノロジー導入によるオーダーのスピードアップに取り組み、
飲食業界が大苦戦を強いられたパンデミックのロックアウト中も業績を回復して、売り上げを2倍にした人物。2024年に入ってからもマクドナルドやスターバックスが苦戦する中、チポトレの株価は20%以上アップ。
「インフレの影響を受けない唯一のファストフード業態」という輝かしいステータスを獲得しているのだった。
ブライアン・ニコルCEO就任期間中のチポトレ株は928%上昇しており、ウォールストリートでは”マジカルCEO”と呼ばれるほど経営手腕が高く評価される人物。
チポトレCEOに就任する前は、プロクター・アンド・ギャンブル社で10年間さまざまなブランドの管理職を務めた後、Yum!ブランドに入社。傘下のピザ・ハットでマーケティング部門を含む管理職を勤めた後、
同じ傘下のタコベルに移り、2013年〜2014年は同社社長、2015年からの3年間はCEOを勤めていた輝かしい経歴。
スターバックスのCEOに就任した途端に彼のウィキペディア・ページが登場しており、一般人の間でも知名度が高まっているけれど、それによれば彼は8月16日には50歳の誕生日を迎えたばかり。
期待を背負っているとは言え現在のスターバックスは問題山積で、コーヒー豆の価格急騰、スターバックスの成長を支えて来た中国市場での売上大不振、
マクドナルドの新業態のドリンク市場への参入、他のコーヒー・チェーンとの価格競争に加えて、スターバックスの待ち時間の長さは悪名高いもの。
さらには全米各地の店舗で組合が結成され、労働条件の悪さを指摘されるイメージダウン問題もある状況。
これだけのお荷物を背負わせるとあってブライアン・ニコルに対しては、契約ボーナスだけで1000万ドル。時間の経過と共に付与される7500万ドルの株式付与を含む最高1億1300万ドル相当の報酬パッケージが支給されるとのこと。
加えてニコルはシアトル本社に勤務する必要は無く、スターバックスがカリフォルニア州ニューポートビーチに彼のために設立する遠隔オフィスでの業務。さらには社用機での通勤も認められているとあって、
これだけの待遇で迎える”マジカルCEO”の手腕が興味深く見守られるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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