Aug 4 〜 Aug 10 2024
カマラ陣営のハイブリッド戦略、米国消費シフト、ディオールBag原価バレ, Etc.
今週日曜で、選手村の食事から競技審判まで、様々な物議を醸したパリ五輪が終わろうとしているけれど、
今週最大のニュースになっていたのは週明けのマーケット・クラッシュのニュース。
過去1カ月間で日本円が対ドルで盛り返しを見せ、先月末の日銀会合に注目が集まっていた中、政策金利0.25%の引き上げと、その後も段階的利上げの意向が示されたことで、
危機感を覚えたのが これまでほぼゼロ金利だった日本円を借りて、米国債券などのハイリターンの資産を購入して利ざやを稼ぐキャリー・トレードをしていた人々。
その危機感をパニックに変えたのが先週金曜に発表された米国雇用統計で失業率が上昇していたこと。これによって高金利が続いたアメリカの利下げがほぼ確実になったことから、
円キャリー・トレード解消の動きが 電光石火のスピードで進行したのが週明けの世界的マーケット・クラッシュのトリガー。
その解消が終わるまで、市場が荒れ続けるとの予測が聞かれる中、その後の日銀が「経済・物価の反応を確認しながらの、適時の利上げ」という緩いポリシーに言い替えたことで、
まだまだ不安定ながらも一難去った印象を与えたのが市場動向。
しかし大手テクノロジー株の一部については、その株価下落の要因は「成果が得られないAIに、多額の資金を費やし過ぎる懸念」との分析も聞かれ、
様々なリスクが複雑に入り組む様子を窺わせていたのが今週。
そんな中、アメリカは大型ハリケーンから格下げされたトロピカル・ストーム”デビー”が猛威を振るい、道が河川に変わる洪水、大規模な停電や強風、突風による被害、鉄砲水や土砂災害といった大被害をもたらしているけれど、
威力が衰えているはずなのに被害が大きいのはデビーが通常よりも移動速度が遅く、その分各地域にもたらす雨量と被害が増えるため。
2024年に入ってからアメリカで起こった 被害総額が10億ドル以上の自然災害数は7月10日時点で15件。
デビーや現在カリフォルニアで起こっている山火事も、新たにそのリストに加わることになるのだった。
初のZOOM大統領誕生なるか? リモート新時代の到来!?
今週火曜日には、民主党大統領候補のカマラ・ハリスが副大統領候補を発表したけれど、大方の予想を裏切って選ばれたのが国民の4分の3がその存在を知らないと答えていたミネソタ州知事、ティム・ウォルツ。
カマラ・ハリスは彼が加わったキャンペーンの初日に彼を”コーチ”と呼んでいたけれど、そのニックネームは17歳から24年間兵役をこなしたウォルツが、その後学校教師とフットボール部のコーチを兼任した経歴から来ているもの。
ウォルツは猟銃を所有するハンターで、州知事選に立候補した際には 銃規制に圧力を掛けるアメリカン・ライフル・アソシエーションが彼をバックアップしたけれど、就任後にはリベラル派らしく銃規制に着手。
株を一切所有せず、下院議員時代には議員によるインサイダー取引を取り締まる法案を提出。彼が副大統領になった場合に受け取るサラリー23万5000ドルは、現在の州知事の給与の2倍以上であることが報じられているのだった。
一部では「リベラル過ぎる」と指摘されたウォルツの人選であるけれど、カマラ・ハリスの選挙キャンペーンは指名直後の2日間で3600万ドルの寄付を集め、木曜に発表されたアンケート調査では
遂にトランプ氏を5%リードしたことも伝えられる状況。
そんなハリス・キャンペーンで、選挙までの準備期間不足を補う手段として有効活動され始めたのがZOOM。
既に「White Dudes for Harris / ホワイト・デュード(白人男性) フォー・ハリス」、「Win with Black Women / ウィン・ウィズ・ブラック・ウィメン」、「White Women: Answer the Call/ホワイト・ウィメン:アンサー・ザ・コール」という
3つの寄附金集めのイベントがズームを使って行われ、集まった金額は1600万ドル以上。
支持者達はイベント開始時間の数時間前からウェイティング状態で待機しており、開始直前にはログインが集中した結果、ZOOMがクラッシュする事態も起こっているけれど、
これを受けてZOOMは ハリス・キャンペーンのために参加人数の上限を10万人以上に引き上げたことがレポートされているのだった。
ハリス側は時間不足を補うために、ZOOMを通じたリモート・キャンペーンを含むオンラインでのアピール、及び組織化を進めており、
4年前のコロナ・ウィルスのロックダウン以降、有権者が仕事やプライベートで使用しているZOOMによって、支持者にパーソナルなアプローチが出来ると自信を深めているとのこと。
実際に会場までドライブし、入場待ち等に時間を要し、スピーチを聞いてから帰路に就くと、半日掛かりになってしまうのがアメリカ。
リモート・イベントは支持者、特にカマラ・ハリスの支持基盤である郊外に住む既婚女性にとっては時間的、労力的な負担が掛からない事が指摘され、
各州を訪問して行うトラディショナルな選挙活動とのハイブリッドになっているのがハリス・キャンペーン。
さらに今週報じられたのが、ハリウッドの映画監督 デビッド・リンチ(78歳)が、長年のヘビー・スモーキングが祟って
肺気腫という慢性肺疾患を患っているニュース。リンチ監督と言えば、TVシリーズの「ツイン・ピークス」、アカデミー賞作品候補となった
「マルホランド・ドライブ」、「ブルー・ヴェルベット」、「エレファント・マン」等で知られるけれど、「肺気腫の診断を除けば健康」と語る彼は
引退の意思はなく、今後は物理的移動が難しいことから撮影現場には出向かないものの、リモートでこれまで通りの活動を行っていくと宣言。
遂に映画監督までもがリモートで仕事をこなせる時代になったことが話題になっていたのだった。
オフィスと在宅のハイブリッド勤務が当たり前になった今、選挙キャンペーン、映画監督業等、これまでインパーソンが当たり前だったエリアに
リモート・テクノロジーが幅を利かせてきたことで、今後のリモート・ワークに更なる可能性を見出す声も上がっているけれど、
大統領選挙を振り返ると、2008年にグーグルの猛烈なバックアップで当選したのがオバマ大統領。そして2016年の選挙戦で初めてツイッターをフル活用したのに加えて、
フェイスブック上でロシアが拡散したディスインフォメーションにも助けられて勝利したのがトランプ氏。今回の選挙では「初のZOOMプレジデントが誕生するか?」という関心事も出て来たけれど、
通常リベラル派が多いシリコンヴァレーは、現時点でトランプ支持、ハリス支持で真二つに割れている様子が伝えられるのだった。
マクドナルド格安セットでは、もはや釣れない貧困層、アメリカで進む消費者シフト
先週、マクドナルドの2024年第2四半期の業績が発表されたけれど、それによれば世界各国で珍しく減少傾向に転じたのが既存店舗の売上。
特にアメリカではこの時期に、パンデミック後の値上げで離れた客足を取り戻すための戦略として格安セットを販売しており、
にもかかわらず売り上げを落としたことで、経営陣は低所得者層のマクドナルド離れが顕著になった事実を突き付けられたのだった。
格安セットはマックダブル・バーガー、もしくはマックチキン・バーガーにチキン・ナゲット4ピース、フライドポテトのスモール・サイズ、それにコーラ等のソフト・ドリンクがついて5ドルというもの。
これによってマクドナルドが取り戻そうとしていたのは、年収4万5000ドル未満、そして年収4万5000ドル以上〜7万5000ドル未満という アメリカで最も年収が低い2つの消費者層。
これら2つの消費者層はパンデミック以降、急速に価格を吊り上げたファストフード・チェーン全体から遠ざかる傾向にあり、
代わりにスーパーで買い物をして自宅で食事をする節約に切り換えているとのこと。
そんな低所得者層にとって 格安セットは「たとえ5ドルでも払う価値はない」、「1度食べれば十分」とジャッジされたようで、
マクドナルドは今後、これまでよりも上の客層をターゲットにしなければならない状況になっているのだった。
ニューヨーク連銀によれば、米国のクレジットカード負債総額は、先月末の時点で1兆1400億ドルとなり過去最高に達したところ。
さらにデータによれば アメリカ国民の預金額も減少傾向にあり、早い話が 現在の米国の消費は借金と、貯金の食い潰しで賄われているもの。
そんな中、高額家庭用品を販売するウィリアムズ・ソノマでは価格帯が上のアイテムほど売れなくなり、それより大衆的な品揃えのアマゾン・ドットコムでも目立ってきたのが、
消費者がより安価な製品への購入に切り換える傾向。
その一方で大衆ディスカウント・チェーンのウォルマートは、通常より高所得の客層を獲得し始めていることを最新四半期の業績と共に明らかにしているのだった。
すなわち消費自体は未だ衰えていないとは言え、消費者が これまでより低価格帯の商品や低価格帯の小売店にシフトするスライドダウン現象が起こっているのが現在のアメリカ。
とは言ってもウォルマートにシフト・ダウンしてくる消費者層は多くても、最低価格帯の小売業であるダラー・ジェネラル、ダラー・ツリー、ファミリー・ダラーといったディスカウント・チェーンは最低所得層を失う中、
その上の層は未だこれらのチェーンを利用するほどは貧していないとあって、今年に入って相次いでいるのが閉店&撤退。中でも最も厳しいビジネスを強いられていた99セント・オンリーは倒産に追い込まれているのだった。
ちなみにダラー・ストア、ダラー・ツリー、ファミリー・ダラーは、コンセプト的には日本の100円ショップと同じ。しかし粗悪品が多く、完全に低所得者ターゲットのビジネスなのだった。
アメリカで2024年に入ってから4月末までの4ヵ月間に発表された小売業の閉店数は2600軒。
その中には2024年中に50店舗を閉鎖し、2026年までに全店舗の3分の1を閉鎖すると発表したメイシーズや、サックス・フィフス・アヴェニューによる吸収合併が発表されたニーマン・マーカス等も含まれているけれど、
百貨店の閉店原因はオンライン・ショッピングの拡大、若い消費者の獲得失敗が指摘されるものの、
最大の要因は貧富の差が開いて、ミドルクラスが消滅したこと、すなわち従来の百貨店のターゲット客層が存在しなくなったためと説明されるのだった。
Diorブック・トート、原価
中国の景気が予想を下回る不振とあって、減速が伝えられるのがラグジュアリー市場。
特にパンデミック以降、一流ブランドが価格を大きく引き上げて、一部の超富裕層をターゲットにした商品を増やしたことで、
数多くのラグジュアリー・ブランドが 小さくなる市場で凌ぎを削っていたのが過去数年。
そうするうちに一部の消費者層で年々顕著になったのが完全なブランド品離れ。すなわちブランド品に価値を見出さないメンタリティ。
これは一流ブランドにとっては死活問題となる一大事。
というのも高級ブランドのビジネスを支えているのは、ブランドがファッション・ショーに招待するような一部の超富裕層ではなく、ブランドに憧れて 財布やキーホルダー等、俗に言う「スモール・レザー・グッズ」や
フレグランス等を 何の見返りも無しに購入してくれる一般大衆。その一般大衆はブランドの総売り上げの75〜85%を担う極めて貴重な存在。
これは、ラスヴェガスのギャンブル収入を支えるのが、ワンハンドが$ミリオンを超えるハイローラーではなく、スロットマシンやルーレットで300ドル負けたら大人しく帰ってくれる一般大衆に支えられているのと
全く同じ状況。
そのためセリーヌ、イヴ・サンローランなどが、そんな貴重な一般大衆の引き戻し戦略として 今シーズンから動き始めたのが従来よりも安い価格帯のバッグの製作。
そんな中で先月、ウォールストリート・ジャーナルが報じたのが、アメリカで課税前価格2780ドルのクリスチャン・ディオールのブック・トートが、実は僅か57ドルで生産され、その生産を担っているのが時給2ドルで
働かされる労働者である実態。
同様のことはアルマーニ等も行っていることが伝えられ、TikTok上には驚きと失望のリアクションが溢れたけれど、それ以降、ファッション業界上層部で囁かれるようになったのが、
「ボッタくりの実態が知られることで、ブランド離れに更に拍車が掛かるのでは?」という懸念。
実際、ディオールのブック・トートの原価のニュースが流れてからというもの、ブランド品のバリューについて疑問を持つ消費者が増えたことはヴォーグ・ビジネスも報じられていた現象。
インターネットの普及で世の中の裏側がどんどん一般に知られる時代だけに、一流ブランドにとって最も知られたくない「本当の商品原価」、そして「何処で、誰が、どのように生産しているのか」が
明かされる日も近いと言われるけれど、一流ブランドの商品には生産コスト以上の費用が掛かっているのもまた事実。
セレブリティを起用したグローバル・キャンペーンを行い、ファッション・ショーは一部のVIPに対して着用する製品を提供した上で、プライベート・ジェットをチャーターしての招待。
さまざまなイベントでスポンサーを務め、一等地にアップスケールなブティックを構えるなど、一流ブランドはイメージを高め、商品を売るために多額の費用を投じている上に、エグゼクティブは億円単位のサラリーを受け取っているので、
商品価格にはそれらのブランド運営費が含まれるのは当然のこと。
結局のところ原価が知られることで 消費者が高額ブランドのバッグ本体に価格通りの価値やクォリティを見出さなくなったとしても、
「ブランドのステータス、それが購入できる財力を持つステータス、それを示す優越感に価値を見出す人々はブランド品を買い続ける」という結論に落ち着くという見方はあるけれど、
生産に携わる労働の賃金があまりに安いエシカル(倫理的)な問題は、今後も付きまとう可能性が大きいのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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