July 28 〜 Aug 3 2024

Childless Cat Lady, The Most Chaotic July, Etc.
”子無し猫女”の逆襲, 歴史上最もカオスな7月…!?, Etc.


先週から開幕しているパリ五輪は、放映局NBCがストリーミング・サービスを通じて全競技をライブ配信することから、日頃脚光を浴びないスポーツに 特に若い世代からの関心が注がれていたのが今週のアメリカ。
チームUSAは、NBAプレーヤーや女子体操のシモーヌ・バイルスを除くと、通常のオリンピックに比べてスーパースター・アスリートが少ないとあって、無名選手でも注目を集めれば見込まれるのが オリンピック後のエンドースメント、すなわち企業スポンサーとの契約。 また今回のオリンピックは観客動員が通常大会とは異なることが見込まれていて、その理由は観客達が種目よりも開催場所で観戦予定を立てていること。 昼はヴェルサイユ宮殿で行われる乗馬、夜はエッフェル・タワー前で行われるビーチ・バレーボール等、観光地として人気の場所で インスタグラマブルな光景が捉えられるスポーツが 観客を集める傾向にあり、パリでのオリンピック開催が100年ぶりであること、生きている間に二度と体験できないイベントという意識も歴史的なロケーションでの 競技観戦の人気を高めているのだった。
欧米の旅行者の間では、長きに渡って「富裕層がバカンスに出掛けた後の夏のパリは味気ない」というイメージが定着しているけれど、 企業エグゼクティブからトム・クルーズ、アリアナ・グランデを含むセレブリティ、世界の富裕層が暑さを我慢してパリに集結しているのがオリンピック期間中。 参加選手によれば、パリの暑さは「2021年の東京大会よりも遥かにマシ」であることが伝えられるのだった。



対ハリスで批判を模索するトランプ陣営


7月21日にバイデン氏が大統領選出馬断念を表明してからというもの、アメリカで急上昇しているのがストリーミングを含むニュース番組や、ニュース・サイトへのアクセス。
大統領選挙まで約100日の段階で、与党候補者が現職大統領から副大統領に入れ替わるという歴史的どんでん返しが起こり、しかもそれがトランプ氏暗殺未遂事件の直後とあって、 ソーシャル・メディア上に溢れているのが事実と陰謀説の区別がつかないディスインフォメーションとミスインフォメーション。そのため人々が事実確認のために メインストリート・メディアの報道をチェックしていることが指摘されていたのが今週。
バイデン氏の選挙キャンペーンを引き継いだとは言え、本当に時間が無い状態で民主党大統領候補の座を手中に収めたカマラ・ハリス副大統領は、 先週1週間だけで集めた献金総額は2億ドル。特筆すべきはその3分の2が初めて政治家に寄付をする有権者から寄せられたものであること。 またハリス・キャンペーンには先週1週間だけで、37万人のボランティアが登録され、”オバマ氏立候補時以来の盛り上がり”になっていたのだった。
この新しい対戦カードになったことで、攻め方が難しくなったと言われるのが共和党側。ここで言う攻め方とは候補者の個人攻撃という意味で、 保守派のインフルエンサーから トランプ・キャンペーン関係者が現在必死で模索中なのが、女性&黒人有権者を遠ざけることなく ハリス氏を攻撃するスローガン。 バイデン氏が出馬を断念する前には、共和党からハリス氏を「DEI副大統領」と呼ぶ声が聞かれたけれど、 DEIとはDiversity, Equity and Inclusion、すなわち多様性、公平性、包摂性で、学校や職場で様々な人種やバックグラウンドの人々を平等に支援し、活躍の場を与えるためのポリシー。 バイデン氏が2020年の選挙時に副大統領を選ぶ際、事前に「黒人女性から選ぶ」と宣言してハリス氏を指名したことから、当時から共和党が繰り広げていたのがハリス氏が「性別と人種で選ばれた」 という批判。すなわち「DEI副大統領」とは、マイノリティであるだけで、実力が無いという侮蔑。 しかし大統領候補になったカマラ・ハリスに対してDEI攻撃を展開すると、「黒人や女性には大統領になる資格が無い」と言っているようにも聞こえることが懸念され、 特に女性蔑視発言が多いトランプ氏が女性をネタにするのはタブー中のタブー。
そこでトランプ氏は、ハリス氏の不思議な笑い声にネタにして「Laffin' Kamala(笑うカマラ)」というニックネームをつけて、2016年の選挙の際に ヒラリー・クリントンに対して使っていた「Crooked Hillary(犯罪者ヒラリー)」のようにプロモートする一方で、 "crazy/気違い"、"nuts(気違いのスラング)"、"dumb as a rock/岩のように馬鹿"という子供の悪口レベルの批判を展開。 そして今週、黒人ジャーナリストのイベントでインタビューに応じたトランプ氏が持ち出してきたのが、2010年頃からオバマ前大統領を攻撃してきた”バーサーゲイト(出生陰謀説)”。 トランプ氏が事ある毎に「オバマ氏はイスラム教徒で、アメリカで生まれていない」と言い続けたバーサーゲイトは、トランプ氏が2016年に大統領に立候補するきっかけになった陰謀説。 ハリス氏に対しても「アメリカで生まれていない」、「カマラ・ハリスは黒人か?インド人か?最近になって黒人と言い出した。人種を使い分けている」と攻撃。 しかしハリス氏はジャマイカ出身の父親とインド系の母親との間にアメリカで生まれ、黒人の名門大学を卒業し、人種アイデンティティは常に黒人と謳って来た記録が残っていることもあって メディアは「またか…」と取り合わなかった一方で、指摘したのがオバマ氏へのバーサーゲイトで共和党が盛り上がった頃と今では時代が異なること。 アメリカで最も急速に増えているのが 複数人種がミックスした有権者で、その中には複数人種のせいで自らのアイデンティティ確立に苦しむ若者も含まれているので、その攻撃はリスキーな戦略。 もはや米国大統領選挙は白人キリスト教徒の有権者に頼っているだけでは勝てない時代に入っているのだった。
共和党議員の中にはハリス氏に対して「スタッフを直ぐに首にするパワハラ副大統領」と批判する声もあったけれど、これについては逆に「スタッフを直ぐクビにするパワハラはトランプだ」とやり返されており、 実際に前トランプ政権は、スタッフが辞めたり、解雇されて埋まらない政府ポストが100以上あり、総務長官を始めとする上層部の入れ代わりも史上最多。 さらに共和党側からは、ハマスVS.イスラエル戦争の停戦を早くから訴えていたハリス氏に対して「カマラ・ハリスはユダヤ人嫌いだ」という声が出て、ユダヤ系大口ドナーの反感を煽る動きも出たけれど、 ハリス氏の夫はユダヤ系。これについても夜のトークショーではジョークのネタになっていたのだった。
こうした失策を受けて、共和党下院議長のマイク・ジョンソンは「人間性ではなく政策で攻撃するように」とのお達しを出したことが伝えられ、 事実、国民は経済と移民問題においてはトランプ氏をハリス氏よりも信頼しているのが世論調査結果。 現時点の世論調査ではトランプ氏とハリス氏は互角で、よほどの事が起こらない限りは このままどちらが有利と言えないまま選挙に突入する現時点では見込まれるのだった。



女性有権者を敵に回したJ.D.ヴァンスの ”Childless Cat Lady”発言


今週共和党内で起こっていたのが、副大統領J.D.ヴァンスが人選ミスであったのでは?という論争。元ヴェンチャー・キャピタリストのオハイオ州選出上院議員、J.D.ヴァンスを猛烈にバックアップしたのは、 フェイスブックの設立当時からのインヴェスターで、トランプ氏の初回当選の仕掛け人の1人、ピーター・ティールやイーロン・マスクを含むシリコン・ヴァレーの有力者。 元アンチ・トランプ派から寝返って、副大統領候補となったヴァンスであるけれど、先週末からメインストリーム・メディアとソーシャル・メディアで物議を醸してきたのが、彼が3年前に語った”Childless Cat Lady”発言。
これはヴァンスがクリス・バスカーク・ショーというあまり知られていないローカル・トーク番組で語ったもので、「人は子供を持つことでより良い人間になる。私は強くそう信じる」というくだりで始まり、 「非常に多くの人々、特にアメリカの指導者層が子供を持たない人生を送っていることで 精神的な不健全に陥り、最終的には国全体に精神不安定をもたらすことを私は危惧している」と 現代のメンタル・イルネスが子供を持たない人間達のせいだと語った上で、「最も気ちがいじみた、最も精神異常な書き込みをするツイッター利用者は子供を持たない人々だ」と断言。
そこで収まるかと思いきや「民主党の将来は子供のいない政治家によってコントロールされている」、 「国に直接の利害関係がない人間に国政を任せることに 一体どんな意味があるというのか?」、 「アメリカの政治は、子供を持たず、ネコを飼っている女性の一団によって運営されており、彼女らは自分の人生における自らの(子供を持たない)選択によって惨めな思いをしているだけでなく、残りのアメリカ国民も惨めにしたいのだ」 という偏見に満ち溢れた言い分が「Childless Cat Lady/子供のいない猫女」発言の抜粋ではなく全容。
ちなみにこの発言で「子供のいない猫女」扱いされていたのは、カマラ・ハリス、ミシガン州知事で民主党の将来を担うと嘱望されるグレッチェン・ウィットマー(写真上左上)、 NY選出の若手ホープとして人気が高いAOCことアレクザンドリア・オカジオ・コルテス(写真上左下)といった顔ぶれ。 しかしカマラ・ハリスには継子が居り、夫とその前妻と3人でユニークな子育てを成功させていることもあって、前妻が彼女に代わって猛抗議。 グレッチェン・ウィットマー(52歳)とAOC(34歳)は子供を作らないと発言したことはなく、AOCに関しては「生涯子無し」認定をするには未だ若すぎる年齢。
この発言が浮上したことで、J.D.ヴァンスは子供を作らない主義の有権者だけでなく、努力しても子供が出来ない人々、継子や養子縁組の子供を育てる人々から猛烈なバッシングを浴びることになったけれど、 これに対してJ.D.ヴァンスは「アメリカは深刻な少子化に直面している」と問題を摩り替えようとしながらも、「自分の語ったことは事実」とさらに火に油を注ぐ発言を展開。
アメリカの政治が茶番であることは今に始まったことではないもけれど、 ヴァンスに対するバッシングには 程無く愛猫家が加わり、愛猫家で知られるテイラー・スウィフトのファン、スウィフティーズまでもが加わって、「猫を飼う女性を蔑視している」、「猫を差別している」と怒り始めたことから、 ヴァンスは「決して猫を差別した訳ではない」と、動物差別に関しては否定していたのだった。
これを受けて今週、アマゾンを始めとするオンライン・ショップには「Childless Cat Lady」をモチーフにした何十種類ものTシャツが登場。 ソーシャル・メディア上でも大センセーションとなり、すっかりアンチ・トランプ&ヴァンス派のパワフルなスローガンになったのが「Childless Cat Lady」。 共和党内から人選ミスの声が上がるのも全く不思議ではないのだった。



歴史上最もカオスな7月…!?


今週で7月が終わったけれど、アメリカのメディア関係者の間で指摘されていたのが2024年7月は歴史上、最もカオスな1カ月だったということ。
先ず7月1日には連邦最高裁がトランプ前大統領の訴え通り、大統領任期中の”公務”に対する免責特権を認める判決を下し、2021年1月6日の議会乱入扇動でトランプ氏の刑事責任を求めていた 司法省は、トランプ氏の行為が公務ではないことを証明するところからやり直し。この判決は特に次期大統領がトランプ氏になった場合、事実上の好き勝手がまかり通ると解釈されているのだった。
翌日2日には、民主党議員が歴史上初めて自らの党の大統領に出馬断念を求めており、そのムーブメントが徐々に広がり、ハリス氏に大統領候補の座を譲ったのは周知の事実。 7月15日にはトランプ氏が指名した連邦判事が、トランプ氏の機密文書持ち出し訴訟を、「検察官の選び方が違憲であった」というこじつけのような理由で棄却。 その後にトランプ氏の暗殺未遂事件、バイデン大統領のCOVID-19感染が報じられ、7月19日にはクラウドストライクのソフトウェア・アップデートの欠陥が原因で、主要インターネット・サービスがダウン。 世界中に混乱が広がったけれど、アメリカ国内は猛暑による大規模な山火事が全米50箇所で起こっており、文字通り火責め状態。 7月24日にはイスラエルのネタニアフ首相が米国上下院合同会議で、ボイコットによる欠席者多数という異例の状況でスピーチを行い、 同じ日のゴールデン・タイムにはバイデン大統領が「次世代にバトンを渡す時が来た」と出馬断念を国民に説明する 歴史的TVスピーチを行い、その2日後の26日にはパリ五輪が開幕。 7月27日にはレバノンのロケット攻撃により、ゴラン高原のサッカー場で12人の子どもと若者が死亡。 7月30日にはイスラエルがベイルート攻撃でヒズボラ最高司令官を殺害。 7月31日にはイランでハマス最高政治指導者が暗殺され、ハマスはイスラエルに猛反発。更なる武力闘争の拡大を匂わせた一方で、 ヴェネズエラで7月28日に行われた大統領選挙は、現職マドゥロ氏の勝利宣言に 国民が連日大規模な抗議デモを展開。NYタイムズ紙は対立候補が30%多く票を獲得した見積りを明らかにするも、 軍事・警察を握り、集計内容を明らかにしないマドゥロ大統領の勝利が揺らぐ可能性は極めて低い状況…。
以上はかなりの抜粋で、通常なら夏休みムードで大きなニュースが9月まで起こらない時期にも関わらず、社会的影響が大きな出来事が毎日のように報じられたのが2024年7月。 最も歴史的に大きなニュースは、文句なしにバイデン氏の出馬断念であるけれど、国民の平均年齢が最も若いにもかかわらず 政治的指導者が高齢のアフリカ諸国では、 自国の政治家にもバイデン氏のように退いて欲しいという世論が盛り上がっているとのこと。もしハリス氏が大統領選で勝利した場合は 政治家の世代交代が他国にも波及すると見る声もあるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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