July 21 〜 July 27 2024

Electability, LVMH Olympic, 2nd Qtr. Result, Etc.
カマラ・ハリスの勝算、ルイ・ヴィトン五輪, 企業明暗, Etc.


先週日曜午後にバイデン氏の大統領選挙出馬断念、代わりにカマラ・ハリス副大統領を支援するという爆弾発表が行われて以来、 アメリカのメディア報道が集中したのがハリス氏の動向。
発表から24時間で、ハリス氏の選挙キャンペーンに寄せられた寄附金は何と8100万ドル。これは1日に集まった寄付金の史上最高額。 その後も寄付は増え続けて水曜までに2億5000万ドルに達したけれど、 寄付同様に急速に集まったのが、ハリス氏を大統領候補として支持する声。直後に支持表明を控えていた民主党上層部のナンシー・ペロッシ元下院議長、 チャック・シューマー上院議長、ハキーム・ジェフリーズ下院院内総務といった民主党重鎮が次々と支持を打ち出し、遂に木曜にはオバマ夫妻も支持を表明。 ハリス氏が8月の党大会で民主党大統領候補としての指名を獲得するに十分な後押しを受けたのが今週。
これによって、今まで散々バイデン氏を年寄り扱いしてきたトランプ氏が78歳にして史上最年長の大統領候補になり、 当然のことながら始まったのがトランプ氏によるカマラ・ハリス攻撃。「バイデンよりラディカルな左派」、「笑い方が馬鹿げている」といった批判が展開されたけれど、 そのトランプ氏は、カマラ・ハリスがカリフォルニア州司法長官に就任していた2011年、2013年に彼女に寄付をしていた記録が残っているのだった。
ハリス氏は黒人アジア系女性として初のカリフォルニア州司法長官、初の米国副大統領を経て、初の民主党大統領候補となる可能性が高まっているけれど、 そうなった場合、トランプVS.ハリスの闘いは 同じ高齢者であるトランプVS.バイデンよりも遥かに対照的な闘い。 トランプ氏は、前回に続いて副大統領候補に自分と同じ白人男性を選んでおり、人種&性別でマイノリティのハリス氏とは好対象。 またトランプ氏は性的虐待の罪で有罪判決を受けた身。一方のハリス氏は地方検事として性的虐待容疑者を起訴し続けて、カリフォルニア州司法長官に登り詰めた存在。 更にトランプ氏は人工中絶合憲を覆した最高裁判事6人のうち3人を指名したことをアピールして保守派の支持を煽っているけれど、 ハリス氏は逆にその最高裁判決批判によって、リベラル派はもちろん、そこまで保守になり切れない共和党女性支持者からのサポートを獲得しているのだった。



民主党はカマラ・ハリスで勝てるか?


バイデン氏は、7月24日夜のプライムタイムに大統領執務室からのTVスピーチで出馬断念、および民主党の次世代にバトンを渡す意向、ハリス副大統領が次期大統領に適任であることを国民に説明。 それを待たずしてハリウッドから相次いだのがカマラ・ハリス支持表明。 ビヨンセは彼女のヒット曲、「フリーダム」をハリス氏のキャンペーン・ソングに使用することを快諾。バイデン氏への出馬断念コールをNYタイムズのオピニオン・コラムで訴えたジョージ・クルーニー、ロバート・デニーロ、 アリアナ・グランデ、チャーリーXCX、デミー・ラヴァ―ト、ジェシカ・アルバ、スパイク・リー、ヴァイオラ・デイヴィス、ケリー・ワシントン、シェール、エイミー・シューマー、脚本家のションダ・ライムス等が今週中にハリス支持を打ち出しており、 オバマ元大統領出馬時以来の熱心なセレブリティ支持が集まっている状況。
数週間前までは”Unelectable”、すなわち「当選できない」という理由で、「バイデン氏に代わる大統領候補としては弱い」と言われていたカマラ・ハリスであるけれど、 今ではバイデン氏が逃した有権者を獲得する期待が寄せられているのだった。 その筆頭に挙げられるのは、トランプ氏とバイデン氏の双方を毛嫌いしていた”ダブル・ヘイター”。中でも大卒有権者と郊外住むミドル・クラス&ミドル・エイジの女性にバイデン氏よりもアピールすると言われるのがハリス氏。 特に人工中絶や避妊を含む女性のリプロダクティブ・ライツ(生殖権)を重要な選挙の争点と考える女性にとっては、最も声を大にして人工中絶合憲復活を訴えて来たハリス氏は投票意欲を掻き立てる存在。
加えてイスラム系有権者も、超イスラエル寄りのトランプ氏には最初から投票する気はなく、ハマスVS.イスラエル戦争以降のバイデン氏の対応に腹を立てて来たダブル・ヘイター。 しかし彼らも 早くから停戦を訴えて来たハリス氏には態度を軟化させているのだった。
さらにバイデン氏は、前回の選挙時に比べて黒人男性票を共和党に奪われていたけれど、ハリス氏擁立の動きが出て以来、 あっという間に結束を固めたのが4万5000人のメンバーから成る"Win With Black Women"という黒人女性グループ。僅か数日で150万ドルの寄付を集めたこのグループは、 エンターテイメント、メディア、ITといった主要セクターで働く黒人女性が過去にない形で集結。 「黒人女性票が かつてレッド・ステーツ(共和党支持)だったジョージア州を ブルース・テーツ(民主党支持)に変えたように、我々がカマラ・ハリスを次期大統領に選出する」と狼煙(のろし)を上げていたのが今週。
ウォールストリートは、トランプ氏が副大統領候補に元ヴェンチャー・キャピタリストであるJ.D.ヴァンスを選んだことで、金融機関よりVC寄りの政権になることを危惧。 またビジネス界ではこれまで、「バイデンは大統領選でトランプを支持しても 逆恨みをしないが、トランプは選挙でバイデンを支持した者に報復する」という見方が強かったことから、 「緩やかなトランプ支持を打ち出すのが、どちらに転んだ場合でも安全」という考えが広まりつつあったけれど、カマラ・ハリスに関しては 「バイデン氏のような暢気に近い鷹揚さは望めない」という見方が広まっており、「日和見トランプ支持者」が減ることが見こまれるのだった。
果たして「カマラ・ハリスで勝てるか?」は定かではないものの、人々がバイデン大統領を支持しない最大の要因であった 年齢の問題が無くなっただけで、民主党支持者の足並みここまで早急に揃ったのは驚くべきこと。 暗殺未遂事件でトランプ氏の大統領選勝利は確定と思われたのも束の間、それをぶち壊しにしたトランプ氏の共和党大会での史上最長の脱線スピーチ、 党大会を来月に控えた段階で 通常ならあり得ない現職大統領のまさかの出馬断念宣言と、 ここへ来ての二転三転ぶりは「歴史的」と言われるもの。この先もまだまだ波乱の展開が待っていることを予感させるのだった。



ルイ・ヴィトン五輪の背景


7月26日から世界のファッション首都、パリで開幕したのが夏季オリンピック。
それもあって過去の大会よりも、ユニフォームやセレモニー・アウトフィットを含むファッションに注目が集まっているけれど、 チームUSAはラルフ・ローレンが今回で9回目となる開会式、閉会式のユニフォームを担当。課税前1000ドルのブレザー、課税前325ドルのシャツに、これまでのようなホワイト・パンツではなく、ジーンズをコーディネートしたところがモダンな印象。 閉会式は、ホワイト・デニムのモーターサイクル・ジャケットで、レッド、ホワイト&ブルーの愛国心カラーを強調(写真上右から2番目)。 そうかと思えば、カナダ選手団のユニフォームは2022年の冬季オリンピックに引き続きルル・レモンが担当(写真上右)。ハイチ選手団はイタリア系ハイチ人デザイナーのステラ・ジーンがユニフォームを担当、イタリア選手団はエンポリオ・アルマーニ、韓国選手団はノースフェイスを着用しているのだった。 ホスト国であるフランスは元ファッション・エディターでスタイリストでもある カリーヌ・ロワットフェルドとベルルッティが手掛けたカラー・グラデーションの襟をあしらった何とも不思議なスーツ(写真上左)が開会式のアウトフィットで、 既に賛否両論。
そのパリ五輪は、一部ではLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)オリンピックとも呼ばれていて、その理由は同社が1億5000万ユーロ(約250億円)を投じてトップ・スポンサーの1社になっているため。 高級ブランドがオリンピックのメジャー・スポンサーになるのは初めてのことで、LVMHはパリ五輪の”クリエイティブ・パートナー”としてスタジアムの壁面にブランド名がフィーチャーされるだけでなく、 その製品がオリンピックの様々な局面で注目を集めるように計られているのだった。
例えば メダル政策を担当したのはLVMH傘下の高級ジュエリー・ブランド、ショーメ。IOC役員が着用するのはルイ・ヴィトンの服、メダルを乗せるトレイもルイ・ヴィトン。VIPやIOC関係者が期間中にたむろすホスピタリティ・スイートでは モエ・ヘネシーのドリンクが提供され、フランス選手団の開会式ユニフォームを担当するベルルッティはLVMH傘下のブランド。 同じく傘下のクリスチャン・ディオールも開会式のパフォーマンスにフィーチャーされるなど、LVMHで埋め尽くされているのがパリ五輪。
オリンピックのスポンサーシップによってLVMHがフランス国内と世界にアピールしているのは、2023年にフランス国内だけで81億ユーロと言われる同社の納税額とフランス経済への貢献。 LVMHは2023年に235億ユーロ相当の製品を海外に輸出し、フランスの総輸出額の4%を担っており、フランス国内で4万人の従業員雇用を生み出している存在。 加えてブリジット・マクロン大統領夫人の公式行事でのアウトフィットは、大統領就任直後からバッグやシューズも含めて、全てルイ・ヴィトンが担当しているのだった。
今回のオリンピックで見えて来たと言われるのは、引退が近いLVMHのCEO ベルナール・アルノーの後継者。 アルノーの5人の子供達は、全員がLVMHで上級管理職に就いており、互いに仲が良いことで知られるけれど、その顔ぶれは LVMHのイメージおよび環境部門の責任者であるアントワーヌ、 ディオールのCEOであるデルフィーヌ、時計部門を率いながら持ち株会社のマネージング・ディレクターを務めるフレデリック、現在ティファニーのブランド改革を進めている上級幹部のアレクサンドル、そしてルイ・ヴィトンの時計部門責任者のジャン。 このうち五輪パートナーシップを取り仕切っているのは長男で、2020年にスーパーモデルのナタリア・ヴォディアノヴァと結婚したアントワーヌ(47歳、写真上左から2番目)。1億5000万ユーロを投じた五輪プロジェクトはLVMHにとって史上最大のマーケティング投資であり、一流ブランドにはギャンブルと言えるリスキーな試み。それを一任されたアントワーヌ・アルノーこそが父親の後継者という見方が有力なのだった。



大企業、ビジネスの明暗



今週報じられたのがアマゾンのスマート・スピーカー、アレクサが数百万世帯に普及していながら、アマゾンに数十億ドルの損失をもたらしているニュース。 アマゾンは過去10年に渡って 同社のスマート・ディバイスの価格をあえて低く設定し、ディバイスを通じて違う形で大きな利益を生み出す戦略を進めて来たけれど その成果は出ておらず、最大の誤算と言われたのは アレクサとのコミュニケーションが ユーザーのアマゾンでの購入増加に繋がらなかったこと。 アマゾンがエコー・スピーカー、キンドル、ファイヤーTVスティック等を含むディバイス事業で出した損失は百億ドル単位。 現在アマゾンが目指しているのは、ディバイス・ビジネスから手を引かずに赤字を脱却することで、その一環として早ければ今月中にスタートするのが アレクサのサービスの一部有料化。しかしこれはプロジェクトに携わるエンジニアでさえ、「消費者にはアピールしない」と予測しているのだった。
一方、ネットフリックスはパスワード共有の取り締まりが功を奏したのに加えて、「ブリジャートン家」、「ベイビー・トナカイ」といったコンテンツの人気も手伝って、2024年第2四半期だけで800万人以上の新規加入者を獲得。業績は好調。 逆にストリーミング・サービスの縮小化を進めようとしているのがアップル。ストリーミングの後発であるアップルTV+は、映画やドラマ・シリーズの製作に多額の費用を投じることでハリウッドから歓迎されてきた存在。 問題はその高額コンテンツを視聴するサブスクライバーが増えないことで、今後はビジネス規模の削減に取り組むものの、どういう形で行うかが課題になっているとのこと。 内部では「そもそも、なぜアップルがストリーミング・サービスを運営する必要があるのか分からない」という声が上がっているのだった。
また今週火曜日にはテスラが2024年第2四半期の業績を発表しているけれど、世界の従業員の10%以上を解雇するなどのコスト削減を図ったにも関わらず、今四半期の利益は前年比45%減、営業利益率は前年の9.6%から6.3%に低下。 不振の要因は消費者需要の低迷と、競合他社との価格競争による利益圧迫。EV販売収益は7%減少し、2四半期連続の減少。米国内で最もチャージング・ステーションが多いテスラの主要市場、 カリフォルニア州では、第2四半期中のテスラの登録台数が24%も減少。3四半期連続の減少となっているのだった。
投資家が最も期待していたのはイーロン・マスクが「テスラの時価総額を現在の7850億ドルから5兆ドルにまで伸ばせる」とまで語った未来のドル箱ビジネス、自動運転タクシーに関する明るいニュースであったけれど、 こちらはデザイン発表イベントが8月から10月に延期されることが発表されたのみ。 そのためテスラ株は火曜日の時間外取引で7.4%下落。そのせいかトランプ氏の暗殺未遂直後には毎月4500万ドルを同氏の選挙キャンペーンに寄付すると宣言していたイーロン・マスクであるけれど、 今週には主張がすっかり取り消されていたのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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