July 14 〜 July 20 2024

Maunjaro, Closing Chain, IVY Club, Etc.
オゼンピックより優秀…, 有名レストラン・チェーン閉店ラッシュ, IVYリーグ・クラブの苦戦, Etc.


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、当然のことながら先週土曜日のトランプ前大統領暗殺未遂事件とその容疑者、およびセキュリティ問題について。
容疑者トーマス・マシュー・クルックス(20歳)は地元のガン・クラブのメンバーとは言え「笑えるほど的に当たらない」程度の狙撃の腕前で、学生時代は虐めの対象になっていたとのこと。彼は多くの銃撃犯のようにマニフェストを残しておらず、ソーシャル・メディア上のプレゼンスも皆無。そのため動機の解明はほぼ不可能な状態。セキュリティ問題については、クルックスが発砲したルーフトップは前日に警備の必要が指摘されていただけでなく、当日のイベント中には ルーフトップで銃を所持する彼の姿に気付いた複数のトランプ支持者が警備員に通報しており、クルックスが発砲する1時間前には既にシークレット・サービスのスナイパーが向かい側の建物のルーフトップに陣取り、 26分前にはクルックスに向けて銃を構えていたという証言も浮上。そうかと思えばこの事件とは無関係に、数週間前からイランがトランプ氏暗殺を計画していることを情報筋が掴んでおり、 暗殺未遂が起こった際のずさんな警備は その情報を受けてトランプ氏のガードを強化した直後であったと言われるのだった。
それとは別にインターネット上では、トランプ氏の暗殺未遂を 約3カ月前に銃弾が右耳をかすめる詳細に至るまで正確に予測していた予言者が話題になっていたけれど、 予言が語られたのは4月9日の皆既日食を前後してアップされたYouTubeビデオで、「かなり妄想的で怪しい印象」と言われるキリスト教信者が運営するチャンネルでのこと。 ビデオにゲストで登場した2人の”自称予言者” のうちの1人が語ったのが暗殺未遂そっくりのプロットで、予言によれば「それによってトランプ氏が覚醒し、更に彼に神の力が加わった」とのこと。 しかし事件の描写以外があまりに現実離れした内容であることから、アンチ・トランプ派は逆にその予言に対していろいろな意味で懐疑的になっていたのだった。
その一方で今週月曜から4日間に渡って行われた共和党大会では、トランプ氏大絶賛の指名演説が続き、既に選挙勝利を確信してのプレセレブレーション・モード。 副大統領候補には、オハイオ州選出で2年前に上院議員に選出されて政界入りした元ヴェンチャー・キャピタリスト、J.D.ヴァンス(38歳)が指名され、 トランプ氏が勝利すれば、新政権が超右寄り、超保守路線となること、ヴァンスがトランプ氏同様にプーチン大統領を好むことからウクライナが見捨てられる懸念、 彼の支持基盤が米国製造業の源を担うオハイオ州ということで、対中国政策が特に貿易面で一層厳しくなること、しかし中国が台湾に攻め入った場合は台湾が対価を支払わない限りは見捨てられること等が予測されていたのだった。
週明けには、既にトランプ支持で知られていたイーロン・マスクがトランプ・キャンペーンに対して毎月4500万ドルの寄付を約束したことが報じられたけれど、 トランプ氏とマスクは過去数ヵ月間に急速に仲を深めており、第二期トランプ政権が実現した場合に トランプ氏がマスクにオファーしたとウォールストリート・ジャーナルが報じたのが大統領アドバイザーのポジション。 でもマスク以上に新政権上層部に食い込もうとしているのは、前政権でトランプ氏の娘、イヴァンカと夫のジャレッド・クシュナーに美味しいところを取られていたドナルド・トランプ・ジュニア。 共和党大会ではトランプ前大統領の最年長の孫である彼の長女、ゴルファーのカイ・マディソン・トランプ(17歳)にスピーチをさせる一方で、 J.D.ヴァンスの人選にも関与した様子を窺わせ、共和党のキング・メーカーとして政治力拡大を図っている真最中。
そのため残りの選挙戦の段階からJ.D.ヴァンス、トランプ・ジュニア、イーロン・マスクというアクとエゴの強い3人の対立を予測する声も聞かれるけれど、 民主党側からは週末になって、数日以内にバイデン大統領が出馬断念を発表するという噂が流れ始めているのだった。



オゼンピックより優秀…、肥満治療薬、次のステップ


先週アメリカン・キャンサー・ソサエティが発表した最新のレポートによれば、がんは予防が可能で、全てのガンは6つのライフスタイル習慣が原因になっているとのこと。
その筆頭に挙げられたのはアメリカのがん発症原因の40%を担い、がんによる死亡原因の50%を担っている喫煙。残りの5つは肥満、アルコール摂取、運動不足、不健康な食生活、 そして日に当たり過ぎることで、アメリカでは死には至らなくてもメラノーマ(悪性黒色腫、皮膚がんの1種)の件数が非常に多いのだった。 この6つライフスタイル習慣のうち、32種類の発がんに関連し、そのうちの13種類の直接的な原因になっているのが肥満。
見方を変えれば、肥満を防げば、がんもある程度防げることになるけれど、つい最近発表された大規模な研究データによれば、専門家が ”GLP-1” と呼ぶ オゼンピックやウェゴビーといった 肥満治療薬を服用している患者たちは 乳がん、大腸がん、膵臓がん、卵巣がん等の発症が約20%減少しているとのこと。 さらに毎週GLP-1を摂取する患者が向こう15年間にがんで死亡する確率は、摂取していない患者の半分であると結論付けられており、 専門家はGLP-1が 甲状腺がん、腎臓がん、肝臓がんなど、肥満が原因のがんの予防に役立つという見解を示しているのだった。
そんなポジティブな報道が続くこともあり、オゼンピックとウェゴビーの製造元、ノヴォ・ノルディック社の株価はエヌビディアほどでは無くても上がり続け、 同社は米国内での更なる需要拡大に対応するため、ノースキャロライナ州に41億ドルを投じた新施設を建設中。 向かうところ敵なしに思われたのも束の間、先週の週明けには突如株価が下落。その理由はアメリカ医学ジャーナルが行った過去12ヵ月の臨床調査で、 オゼンピック、ウェゴビーが体脂肪を平均8.3%落としたのに対し、同じ”GLP-1”の後発で イーライ・リリー社が発売したモンジャ-ロ、ゼップバウンドが、それを大きく上回る15.3%の体脂肪を落とした結果が発表されたため。 医学ジャーナルでは、「二社製品の副作用、効果はほぼ同じ」と結論付けられていたものの、ライバルに2倍弱の効果が認められたことでノヴォ・ノルディック株は下落したのだった。
そうして迎えた今週にはノヴォ・ノルディックとイーライ・リリー、双方の株価が下落する事態が起こったけれど、 その理由はスイスの大手製薬会社 ロシュが、水曜日にGLP-1の経口薬、CT-996が 限られた臨床データながらも、 糖尿病ではない肥満患者が4週間服用した結果、平均で6.1%の体脂肪を落としたという好結果を発表したため。 この数値はオゼンピック、ウェゴビー、モンジャ-ロ、ゼップバウンドには及ばないものの、市場競争力が望めるのは経口薬である点。 先発の4製品は全て注射型で それが摂取のストレスになることから、例え脂肪を落とすスピードが遅くても 多くの人々が注射型より経口薬を望むは明らかなのだった。
この発表を受けてノボ・ノルディックの株価は欧州市場で4%、イーライ・リリーの株価は米国市場で約3%下落。 独自に肥満治療薬を開発するデンマークのバイテク企業、ジーランド・ファーマの株価にいたっては8.4%も下落。逆にロシュの株価は4%アップしているのだった。
ロシュ社は今年1月に抗肥満薬開発会社、カルモット セラピューティクスを買収しており、今週発表されたCT-996薬はカルモット セラピューティクスが開発した2つの抗肥満薬のうちの1つ。 もう1つは CT-388 と呼ばれ、こちらも既に有望な初期データを発表しているのだった。 しかしロシュ社のCEO テレサ・グラハム氏は買収完了直前の2023年12月のインタビューで、「経口肥満治療薬が広く利用されるまでには 数年を要するかもしれない」と語っているとのこと。したがって発売が何時になるかは定かではないけれど、株価は噂だけでも動くのが常。 そしてこの発表によって、今後製薬会社が経口の肥満治療薬開発に更にしのぎを削ることが確実視されるのだった。



大手レストラン・チェーン閉店ラッシュ、レッド・ロブスター倒産の原因は?


昨今のアメリカで閉店、撤退が続いているのが、銀行の支店と大手レストラン・チェーンの店舗。 前者はオンライン・バンキングが一般的になり、店舗を維持する必要が無くなったのが理由であるけれど、後者は業績不振、消費者動向の変化、インフレと高金利による経営コスト上昇を受けての コスト削減のための閉店。早い話が大手レストラン・チェーンのビジネスがここへ来て大きく傾いているのだった。
店舗閉鎖が続いているのはTGIフライーズ、アップルビーズ、デニーズ、アウトバック・ステーキハウス、フーターズ等で、一部は日本にも進出しているお馴染みのチェーン。 例えばデニーズは2023年に57店舗を閉鎖。2024年末までには更に10〜20店舗の閉鎖の予定。 6月末にはウェイトレスがオレンジ色のホットパンツ姿で接客することで知られるフーターズが44店舗の閉店を発表。 業績不振が伝えられて久しかったことから、倒産間近と噂されるのが現在。
同様にピザのファストフード・チェーンであるMODピザも、2024年第1四半期に26店舗を閉鎖。倒産説が浮上したものの、直後にエリート・レストラン・グループによって買収され、 以来店舗閉鎖はストップ。倒産の噂も払拭されたのだった。
とは言っても買収が必ずしも倒産回避には繋がらないのは、5月に会社更生法を申請して事実上倒産したレッド・ロブスターが立証するところ。 レッド・ロブスターは大手食品会社のジェネラル・ミルズによって1995年に買収された後、ジェネラル・ミルズの創業者の名前にちなんでダーデン・レストランと名付けられた新会社に分社化され、 チェーン店舗を急速に拡大。そして2014年、ダーデンはレッド・ロブスターをプライベート・エクイティ会社のゴールデンゲート・キャピタルに21億ドルで売却。 その際 ゴールデンゲート・キャピタルは、レッド・ロブスターが所有していた店舗不動産を売却することで買収資金を調達しており、それ以降のレッド・ロブスターは 家賃の支払いが営業コストに加わってしまい、利益率を大きく下げているのだった。
ゴールデンゲート・キャピタルはその2年後、2016年に株式の25%をタイのシーフード流通業者タイ・ユニオン・グループに売却。2020年には残りの株式全てをタイ・ユニオン・グループに売却。 その段階でレッド・ロブスターの最大株主として経営権を握ったのがタイ・ユニオン・グループ。 シーフードがメニューの大半を占めるレッド・ロブスターの買収は双方にメリットがあると見られたのだった。
しかし当時はパンデミックの影響で外食産業は振るわず、にも関わらずレントの出費がかさむことから経営は悪化。 その起死回生にレッド・ロブスターが仕掛けたのが ”エンドレス・シュリンプ”というプロモーション。 これは僅か20ドルでエビが食べ放題という大バーゲン企画。これがソーシャル・メディアで拡散されて大ヒットとなり、TikTok上で観られたのがインフルエンサー達が「エビを50尾食べた」などと、その数を競う様子。 それによって売り上げが大きく伸び、業績は一時的に回復したものの、決して舐めてはいけないのが肥満社会アメリカの食欲。 程無く ”エンドレス・シュリンプ”の企画はコストが利益を上回るようになり、更なる業績悪化を招いただけでなく、倒産申請に至る最後の一押しの役割を担ってしまったのだった。
レッド・ロブスターにとって ”エンドレス・シュリンプ”は 集客のためのマグネット企画。 来店客がエビだけでなく、パスタやデザート等、利益率が上がるメニューを一緒にオーダーしてくれることを見込んだもの。 しかしTikTok上で食べたエビの数を競うチャレンジがヴァイラルになった結果、来店客はエビを食べまくることに集中。 しかもそんな大食漢達が記録更新を目指して複数回通い続けたことは、レッド・ロブスターにとっては完全な計算違いとなったのだった。
その業績急降下があまりに顕著であったことから、レストラン業界では”エンドレス・シュリンプ”がレッド・ロブスター倒産の原因と思いこむ人々は多いようだけれど、 実際の経営難の発端はゴールデンゲート・キャピタルがレッド・ロブスターの不動産を売却して買収資金に充てたこと。 利益率が低い飲食業にとって、毎月の家賃の支払いは負担以外の何者でも無かったのだった。



アイヴィー・リーグ・クラブの危機


かつてはエリートの間でステータス・シンボルの1つになっていたのがアイヴィーリーグ・クラブのメンバーシップ。ハーバード・クラブ、コーネル・クラブ、イエール・クラブ等、 アイヴィーリーグ大学の卒業生のみが入会金と会費を支払ってメンバーになり、利用可能になるのが全米各州のクラブ内のホテル、レストラン、レセプション・ルームといった施設。結婚式場として利用されるケースも多く、 ステータスがあって、一流ホテルよりも料金が安いということで、アイヴィーリーグ卒業生の大きなメリットの1つになって来たのだった。
ところが近年、特にここ2年程の間に若い世代の卒業生を中心に不人気が顕著なのがアイヴィーリーグ・クラブ。 理由は時代遅れのインテリア、古臭いメニューのレストラン、若い世代には厳しすぎるドレス・コード、加えて歳上世代が優遇される年齢差別が顕著であるため。 でもアイヴィーリーグ・クラブ離れの最大の要因になっているのは、もっとモダンで完璧なサービスや施設を備えた新世代のプライベート・クラブが人気を博し、 そちらの方が人脈拡大やビジネスに役立つだけでなく、他人にひけらかすことが出来るステータス・シンボルとしての価値が高いため。
CUBE New Yorkでも NYのプライベート・クラブ・ブームについて以前記事にしたことがあるけれど、 2000ドル〜1万ドルのイニシエーション・フィー、ほぼ同額の年会費を支払うプライベート・クラブは、メンバーの定員数が決まっていて、空きが出ない限り入会できないケースや、 メンバーからの紹介と厳しい財産チェックを含む審査をクリアしなければ入会できないケースがあるものの、一度メンバーになれば スパ、ジム、レストラン&ラウンジ等、ライフスタイル全般のニーズを満たす様々な最新高額施設を 世の中のVIPと空間をシェアしながら利用できるとあって若い富裕層に大人気。
この状況に危機感を感じたアイヴィーリーグ・クラブの多くは厳しい規則を緩め、会費のディスカウントを提供する一方で、これまで行って来なかったデート・イベント等の新たな企画を提供。 従来のように卒業生が自動的にメンバーになる時代ではなくなったことを認識し始めたけれど、逆にメンバー獲得のターゲットが卒業生に限られることが不利に働くケースもあるのがアイヴィーリーグ・クラブ。 しかもイニシエーション・フィーや年会費を上げれば上げるほどステータスが高まるプライベート・クラブとは異なり、アイヴィーリーグ・クラブは常識的な金額しか請求できないディスアドバンテージもあり、 今後もプライベート・クラブとの資金格差は開く一方であることは明らかなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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