July 7 〜 July 13 2024
高級デパート苦戦の背景, FOGOとは?, 今年もあり得ないハンプトンズの物価, Etc.
今週のアメリカで益々盛り上がっていたのがバイデン氏の大統領選出馬断念を求める圧力。
バイデン陣営は引き続き戦う姿勢を崩さず、以前より精力的にキャンペーンを行っていたけれど、民主党内、民主党大口ドナーだけでなく、
ビジネス界やハリウッドからも聞かれていたのがバイデン氏出馬辞退を求める声。
メディア界でその先導役になっていたのは大統領選ディベート翌日に社説欄で「愛国心があるのなら、選挙から身を引くべき」とバイデン氏に強烈なメッセージを打ち出したNYタイムズ紙。
今週も複数のコラムでバイデン氏では勝てないこと、今回の選挙で民主党が勝てなければトランプ政権下でアメリカが大きく時代に逆行した保守化を辿る危惧が訴えられてきたけれど、
そのうちの1つを執筆したのは6月にジュリア・ロバーツ、オバマ元大統領と共にバイデン氏のために2800万ドルという記録破りの寄附金集めのイベントを行ったジョージ・クルーニー。
彼のコラムは妻で人権弁護士のアマル・クルーニーが執筆をアシストしたと言われ、その裏で糸を引いていると言われたのがオバマ元大統領。ハリウッド関係者では他にもウォルト・ディズニーの孫で
大口ドナーで知られるアビゲール・ディズニー、ネットフリックスのCEO リード・ヘイスティングス、作家のスティーブン・キング、映画監督のロブ・ライナー等が民主党支持者としてバイデン氏に出馬断念を求めていたのが今週。
民主党の実力者の中では長年下院のトップを務めたナンシー・ペロシが出馬再考を求めたと言われ、現在クリントン政権の上層部とオバマ政権の上層部が
バイデン氏の出馬断念に向けて調整をしている真最中。しかし政治的な作品で知られる映画監督マイケル・ムーアは、民主党が”エルダー・アビュース”、すなわち高齢者虐待をしていると反発しているのだった。
また今週には、過去8ヵ月間にパーキンソン病の専門医が8回ホワイトハウスを訪れ、そのうちの1回ではバイデン氏の主治医と面談していたことが報じられ、
バイデン氏にパーキンソン病の疑いが掛かる一幕が見られたけれど、今やホワイトハウスのプレス・ルームは日頃からバイデン氏の高齢ぶりを叩いていた共和党保守メディアの記者よりも、
バイデン氏に出馬を断念して欲しい民主党リベラル・メディアの方が報道官を厳しく追及するパラドックス状態。
そんな中、バイデン氏は木曜にNATOサミットの記者会見に臨んだけれど、ウクライナのゼレンスキー大統領を間違えてプーチン大統領と語り、カマラ・ハリス副大統領のことをトランプ副大統領と
間違えるお粗末ぶりを披露。しかしNATO諸国は、トランプ氏が大統領に返り咲けば 再び「アメリカ・ファースト」を打ち出してNATOを弱体化させると危惧しており、
ウクライナ戦争の行方もアメリカ大統領選挙結果に掛かっていると見られているのだった。
大手高級デパート買収合併の背景にある厳しいサバイバル時代
サックス・フィフス・アヴェニューの親会社、ハドソン・ベイ・カンパニーが先週末発表したのが、ライバルに当たる高級百貨店 ニーマン・マーカス・グループを26億5000万ドルで買収する意向。
これによってニーマン・マーカスの36店舗、NYのバーグドルフ・グッドマン2店舗、アウトレット・ストアのラストコール5店舗が新たに誕生する新会社、サックス・グローバルの傘下に入り、既にハドソン・ベイに買収されていたサックス・フィフス・アヴェニュー、
バーニーズ、そして老舗デパートのロード&テイラーが1つの企業として統合されるという、かつてなら冗談でもあり得ない状況が実現するのだった。
高級百貨店が現在苦戦する原因は、ラグジュアリー・ブランドがインターネットを通じて直接クライアントにアプローチする時代になり、高級百貨店への依存度が激減したため。
かつての一流ブランドのランウェイ・ショーと言えば、高級百貨店のバイヤーがフロント・ロウに陣取り、VIP扱いを受けていたけれど、
今やブランドがオンライン・ショッピングと直営店、ソーシャル・メディアで直接顧客にアプローチする時代。 利益を半分持っていかれる百貨店の販売力に頼らない方が、
自社で顧客データを集めることができ、それを販売戦略に生かせるメリットがあるのは言うまでもないこと。
その一流ブランド・ビジネスはLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の企業評価額が3900億ドルに達していることからも分かる通り、着実に拡大を続けており、
商品価格を強気で引き上げ、限られた顧客をターゲットにして高利益を上げるのが業績好調の要因になっているのだった。
一方のサックス・フィフス・アヴェニューやニーマン・マーカスといった高級百貨店は、売り上げの大半を担うのが高額デザイナー・ブランドのアパレル、アクセサリー、化粧品。
しかし、これまでデパートでグッチやシャネルを購入していたアッパー・ミドルクラスの消費者は、現在の一流ブランドの高額ぶりについて行けなくなった客層。
それより財力がある顧客は、ブティックから直接大量買いをした方がランウェイ・ショーやイベントに招待してもらえたり、先行オーダー受付、シーズナル・ギフトが送付されてくるなど、気分が良くなる優遇が盛り沢山。
同じブランドの同じ商品をデパートから購入することは無いのだった。
デパートと同じようなサバイバル状態は、一流ブランドを取りそろえるオンライン・ストアにも言えること。英国に拠点を置くマッチズは2024年の年明け早々倒産。同じく倒産寸前だったファー・フェッチはクーパンによる買収で一命を取り留めた状況。
いずれも一流デザイナー・ブランドや高級オンライン・ショップと限られた顧客を争った結果、マーケティングとディスカウントで利益をむしり取られ、
インターナショナル・シッピングに掛かる送料、関税を含む出費や手間、返品対応に振り回されての業績悪化が指摘されるのだった。
小売りの専門家はサックス・グローバルの傘下でデパートが終結したところで、一流ブランドが顧客に行うダイレクト・アプローチには勝てないだろうと予測するけれど、そもそも一流ブランドとて単体ではなく、
ルイ・ヴィトン傘下にはセリーヌ、ディオール、ティファニー等、名だたるブランドが集結。グッチの親会社であるカーリング社の傘下にはイヴ・サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、アレクザンダー・マックイーン等が名を連らね、
小売業を上回る資金力とマーケティング・パワーを擁しているのが実情。
つい最近にはこの2大勢力に対抗して、ジェンZをターゲットに復活したコーチ、スチュワート・ワイツマン、ケイト・スペードを傘下に収めるタペストリーが、マイケル・コース、ヴェエルサーチ、ジミー・チューを擁するカプリ・ホールディングスを
85億ドルで買収しようとして連邦公正取引委員会からストップが掛かったばかり。
サックス・グローバルにとって巻き返しの希望を担っているのは、同社のマイノリティ株式をアマゾンとセールスフォースが保有すること。
アマゾンは世界最大の小売業であり、アメリカ最大のアパレル小売り業者。長きに渡って高級アパレル市場への進出を目論んできたものの、昨年にはアマゾン・スタイル・ストアを閉鎖。
現在はその仕切り直しをしている最中。
そんなアマゾンとセールスフォースは、サックス・グローバルに対して最先端の顧客データ管理とロジスティクス開発の支援を行っていくようで、
その見返りとして見込まれるのがサックス・グローバルの顧客データにアクセスし、その分析情報を得ること。
でも今後、一流ブランドから売り上げを奪えると見込まれるのはデパートよりも、高級カスタムメイドを手掛ける小規模なブランド。メンズウェアの世界では、アパレル・ブランドが勢力を拡大する前の時代のような
採寸からスタートし、仮縫いをして仕上げるカスタムメイドがメガリッチを中心にブレークし始めているところ。
こうしたブランドは一見様お断り、完全紹介制のエクスクルーシブをウリにする傾向にあり、それがルイ・ヴィトンやグッチを上回るステータス、お値段、着心地、既製服には不可能な行き届いたディテールで大金持ちを魅了しているのだった。
ミレニアル世代、ジェンZが抱くFOGOとは…
自分が世の中や、交友関係から取り残される恐怖心を FOMO (Fear Of Missing Out)と呼ぶようになって20年以上が経過したけれど、
その後も 人と同じにするオブセッションから解き放たれたリラックスした状態を指すJOMO (Joy Of Missing Out)、
決断を下そうとした時に「他に良い選択があるのでは?」と考えて決心できない状態を指すFOBO (Fear Of Better Choice)等、
FOMOを起点にして生まれて来たのが様々なアレンジ・ヴァージョン。
そして今ミレニアル世代、ジェネレーションZが感じていると言われるのがFOGO。これはFear of Getting Oldの略。
「年齢を重ねるなんて誰でも怖い」と思うのはある程度歳を取った人間の考えで、通常ならば若さを謳歌して、自分が歳をとるなんて考えもしないはずの世代が恐れているからこそ
生まれるのがこの言葉。
具体的にこの心理がどうミレニアル世代やジェンZに影響しているかと言えば、老けて見える服装や髪型を毛嫌いする、
エイジング・サインに過剰反応し、老化予防策に不必要なお金を遣うといった現象。例えば昨今ソーシャル・メディア上で取り沙汰されているのがミレニアル世代、ジェンZが年寄り臭く見えるのを嫌って、
アンクル・ソックスを履かなくなったということ。特に若い男性がアンクル・ソックスを毛嫌いする現象が起こっていて、記録破りの猛暑の中、通勤でもエクササイズでも
ふくらはぎ丈のクルー・ソックスを履くのが若さの証になっているのだった。
さらにFOGOを裏付ける現象として顕著なのが20代でもボトックスやフィラー、レーザー・トリートメントといった美容施術を受ける傾向。
美容整形医によれば、ミレニアル世代、ジェンZは、その上のブーマー世代、ジェネレーションXに比べて年齢の割に肌の老化が進んでいるとのこと。
そんな若い世代が美容施術を受ける理由は老化予防で、僅かな老化のサインでも、それを悪化させないことで若々しいルックスが保てるという思いこみが強いという。
しかし残念ながら ボトックスやフィラーには予防効果はなく、レーザーも含めて美容施術に若い頃から取り組むのはオーバー・トリートメントで逆効果。
大金持ちが完璧な健康を手に入れようと、お金に物を言わせてMRIで頻繁に検査をして被ばくしてしまうのと同様、
不必要なトリートメントは逆にエイジングを加速する要因。写真上右2枚は久々にカムバックしたTV女優、エリン・モリアーティのデビュー当時20歳の頃の写真と、30歳になった現在の写真であるけれど、
この変化に驚いたファンの間で取り沙汰されているのが、不必要な美容施術によってスピードアップしたエイジング。
彼女に限らず、20代、30代前半の女性達がボトックスやフィラー、小顔にするためのバッカル・ファット除去等をする結果、お金を投じて老け顔になるのは現在のネガティブ・トレンディングと言えるのだった。
また代謝力があって、ダイエットとエクササイズで体重が落とせる若い世代が、現在オゼンピックに代表される処方箋ダイエット薬で不必要に体重を落とそうとしているのも、太っていると老けて見えるという意識から。
オゼンピックが手に入らない若い世代の間では、下剤を大量摂取するダイエットがソーシャル・メディアを通じて拡散しており、医療業界がメディアを通じて警告をしたほど。
要するに”FOGO”というフレーズで老化への危機感や恐怖を煽られて、逆に老化を早める状況を招いているのだった。
ハンプトンズ、今年もあり得ない高額ぶり
アメリカでは5月4週目、月曜のメモリアル・デイのホリデイ以降が事実上のサマー・シーズン。その週末からビーチが解禁になり、
同時にスターとするのがサマー・レンタル。これは9月1週目月曜日のレイバー・デイまでの夏休み期間を過ごすビーチ・ハウス、リゾート・ハウスのレンタル。
その需要は、ハイブリッド勤務の定着も手伝ってパンデミック以降うなぎ上り。
オフィス物件のテナントが埋まらず、ディスカウント・レントを提供しているのとは正反対に、サマー・ハウスのレントはどんどん跳ね上がる一方。
特にNY郊外の人気リゾート地、ハンプトンズではビーチが近いプール付きのラグジュアリー・ハウスになると、今年は1カ月のレントが何と200万ドル。
他の土地ならばサマー・ハウスが一軒買えるお値段。
高額なのはレントだけでなく、物価も然りで 先月からソーシャル・メディア上でヴァイラルになって来たのがハンプトンズのあり得ないほど高い物価。
トマト2つが10ドル、ワカモレ(アヴォカド・ディップ)が15オンスのコンテナで約30ドル。これはホールフーズの3倍、ウォルマートの6倍のお値段。ロブスター・サラダは1パウンド(約450g)で120ドル。
その他、通常8ドル程度で買えるグラノラが25ドル等、食材店でさえこのお値段なので、レストランでロブスター・サラダをオーダーすれば、ロブスターの量が4分の1以下になって、それにレタスを含む野菜が追加されたものが120ドル。これに税金、
ハンプトンズで一般的なチップが加わると、そのお値段が約35%増しになるのだった。
とは言ってもハンプトンズのメガリッチは、家で食事をする回数が多く、それというのもプライベート・シェフを雇っているため。
夏のハンプトンズはプライベート・シェフにとっては稼ぎ時。大金持ちになればなるほど、家庭菜園で野菜を育てているケースが多く、2年前に女性シェフが、メガリッチのための朝食、昼食、夕食前のスナック、ディナー、デザート・メニュー、それを調理したり、食材ショッピング、家庭菜園からの野菜のピックップ、片付けから就寝までのスケジュールをソーシャル・メディアに投稿してヴァイラルになって以来、シェフ達もハンプトンズでの仕事ぶりをレポートしてソーシャル・メディアのフォロワー数を増やし、ネームバリューとフィーを高めようとしているのが現在。
物価同様プライベート・シェフのフィーも年々アップしているけれど、少し前までは以前どの著名人宅やレストランで働いた経験があるかがプライベート・シェフにとって高額フィーを受け取るための唯一の目安。
しかし今ではソーシャル・メディア上でのプレゼンスも重要なポイントになりつつあるのだった。
ハンプトンズでの食費は、食材費だけでも 都市部のホールフーズ常連客の4倍以上と言われるけれど、プライベート・シェフが雇えるメガリッチは食料品の物価については認識が欠落しているのが常。
それよりも庶民的な富裕層は高い物価を愚痴りながらも、それがハンプトンズに社会の底辺を寄せ付けないバリアと捉える傾向にあり、それだけの高額を支払っても生活に影響がない財力をステータスとして捉える傾向は1990年代から続いてきたもの。
実際にTV版の「セックス・アンド・ザ・シティ」の台詞にも、当時マンハッタンのレストランで12〜14ドルだったシーザース・サラダが、ハンプトンズでは40ドルという台詞があったほど。
それを考慮すると ハンプトンの物価高は、毎年驚かれるものの、 大きな変化ではないのもまた事実なのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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