June 16 〜 June 22 2024

Juneteeth, Mouse Jiggler, NBA Moneyball, Etc.
ジュンティース, エヌビディア, マウスジグラー, NBA版マネーボール, Etc.


今週の木曜はジュンティースのフェデラル・ホリデイ(連邦祝日)。これは南北戦争後も最後まで奴隷制を廃止しなかったテキサス州ガルベストン湾に1865年6月19日に奴隷解放宣言が届いたことを記念する日で、 黒人層のコミュニティでは「Freedom Day」とも呼ばれる日。フェデラル・ホリデイになったのはバイデン政権下の2021年のことで、連邦祝日なので銀行や郵便局はクローズ。 しかし歴史の浅いホリデイとあって一般人の間では認識度が未だ低く、休日にしていない企業は41%。UPSやFedExも通常営業。それでも休業にする企業数は2021年の9%から確実に増えていて、 これまでアメリカでは6月にホリデイが無かったので、休日になる就労者にとっては有難い日。また理由をつけてセールをしたい小売業にとっても、7月4日の建国記念日を待たずして消費者に財布を開かせるチャンスでもあるのだった。
そのジュンティーズ前日には、半導体メーカーのエヌビディアが企業価値でマイクロソフトを抜いて世界No.1になっているけれど、 株価の推移という見地からは、エヌビディアが、マイクロソフト、アップルという3兆ドル企業の中で、真っ先に企業価値が4兆ドルに達するという見方が有力。 史上初めて1兆ドル企業となったのはアップルで、設立から42年後の2018年のこと。その後2兆ドル企業になったのは2020年、そして3兆ドル企業になったのは2023年のこと。 これに対してエヌビディアは設立は31年前。1兆ドル企業となったのは2023年6月13日のこと。3兆ドル企業となったのはそれから約1年後の2024年6月5日で、 その13日後に世界最高価値の企業に上り詰めているのだった。



マウスジグラーで解雇!?


アメリカは、現在多くの企業がWFH(ワーク・フロム・ホーム)とオフィス勤務のハイブリッド。金融機関を中心に経営側による 何とかパンデミック前の100%オフィス勤務に戻そうという努力もむなしく、 今ではハイブリッドにしない限りは、有能な人材が獲得・維持出来ないご時世。
自宅勤務の生産性については、オフィス勤務とさほど変わらないというデータが比較的多いものの、金融に関しては落ちているという指摘が多く、 そのせいか 金融機関を中心に WFHの従業員に対するリモート・サヴェイランス、すなわち遠隔監視システムが導入されているのが昨今。 具体的には従業員のコンピューターがオンラインであるかが 一般的なチェックポイントで、今時のコンピューターはキーボードを打ったり、マウスを動かす等、何等かの作業をしていない限りは、 直ぐに画面がブラックアウトしてしまうけれど、それによってモニターする側が察知するのがコンピューターが使用されていない様子。
そのモニター・システムを欺いて サボったり、出掛けたりする手法として登場したのがマウスジグラー。これはネーミング通り、放っておいてもコンピューター・マウスを自動的に動かす、もしくは動かしていると同等のシグナルを送ることで、 常にコンピューターをオンの状態にしてくれるガジェット。 マウスジグラーの登場によって 「WFHの日は就業時間を気にせず外出できるようになった」と喜ぶ声が聞かれたのも束の間、経営側もそれを察知してモニターし始めたようで、 今週アメリカで第3位のバンク、ウェル・ファーゴが解雇したのがウェルス・マネージメント部門を中心に、マウスジグラーを使用していた従業員。
これがニュースとして報じられたことで、「WFHであっても 職場同様上司の目が光っている」という意識を新たにした人々は多かったようだけれど、 現在危惧されるのが、AIテクノロジーがリモート・サヴェイランスを徹底的に強化するようになる状況。  しかし監視の目を光らせれば光らせるほど、従業員のロイヤルティが低下して、労働意欲が失せるのは当然の人間心理。 しかも金融、文筆業、プログラマー等、就業時間の量と成果がマッチしない職業も多いのも言うまでもないこと。 それでも生産性を重視する企業ほど、積極的に取り組んでいるのがリモート・サヴェイランスの強化で、 その度合いは今後、給与や職場環境、福利厚生等と並んで、働く側にとっては仕事選びのポイントになるとさえ見込まれているのだった。



マネーボール、NBAバージョン


「マネーボール」という映画があったけれど、これは低迷を続けていたMLBオークランド・アスレチックスのジェネラル・マネージャーが、データ分析の専門家を雇い入れ、 年俸が高く勝利に繋がらないスタープレーヤーを手放し、成績はパッとしなくても、出塁率の高いプレーヤーを中心にチームを再編成したことで2002年に、チャンピオンにはなれなかったものの、 アメリカン・リーグ史上最多となる20連勝を記録するミラクル・シーズンを迎えた実話を描いたストーリー。映画公開は2011年で、ジェネラル・マネージャー役に扮したブラッド・ピットは翌年のオスカーの主演男優賞にもノミネートされていたのだった。
その「マネーボール」のNBAバージョンを綿密に行った結果、今週月曜にダラス・マーベリックスを全く寄せ付けず、対戦成績4勝1敗、最終戦は106対88で、見事チャンピオンに輝いたのがボストン・セルティックス。
そして翌日のウォールストリート・ジャーナルに掲載されていたのが、データ解析と戦略がビジネスだけでなく、スポーツの世界でも成功の鍵を握るという分析。 スポーツもプロやカレッジ・レベルになればビジネスではあるけれど、今回のセルティックスの勝利は他のどのチームよりもデータ分析、統計にこだわりと、そこから割り出された戦略による計算された勝利と言えるのだった。
セルティクスのコーチ、ジョー・マズーラは「うちの選手達はバスケットボールIQが極めて高い」と語っていたけれど、 スタッツ・パフォームのデータによれば、今年のセルティックスは100回のポゼッション(ボールを保有している状態)当たりのスコアが対戦相手を11.3ポイント上回っている計算。 これはNBAレジェンドのマイケル・ジョーダン、ゴールデンステート・ウォリアーズのステッフ・カリーに次いでNBA史上3番目に当たる数字であると同時に、チームとしてはNBA史上最強の攻撃力を持つことを意味するのだった。
現在のNBAは3ポイント・シュートが何本決まるかで試合の行方が決まると言っても過言ではない状況。 今回のチャンピオンシップの計5戦を通じて3ポイント・シュートの数で比較すると、セルティックスが207本、ダラス・マーヴェリックスが152本。この55本の差はそのまま55ポイント、1試合当たり11ポイントの差となって現れるだけでなく、 オープン・ポジションからのイージー3ポイントは、相手チームのディフェンスが機能していない証。回を重ねるごとに相手を精神的に追い込んで行くのだった。
セルティックスは既に数年前から3ポイント・シュートに絞ったオフェンスでチームをデザインしており、昨年はカンファレンス・ファイナルで第8シードのマイアミ・ヒートに敗れたことから、 その手法に異論を唱える声も聞かれたものの、その後のオフシーズンにディフェンス力に優れた3ポイント・シューターを2人補強することにより、今シーズンは構想通りのチームが実現。 その結果、NBAで最高のディフェンスとオフェンスを誇るチームが誕生。試合中、常に最も確率の高いシュートで攻撃し、 相手チームには確率の低いショットを強いるゲームを展開。この最も確率が高いシュートこそが、ノーマークでオープンな状態からの3ポイント・シュート。 その圧倒的な強さは、プレーオフからファイナルまでの4ラウンドを16勝-3敗で圧勝した過程にも表れているのだった。



ファイナル攻略の意外な戦略



セルティックスが、NBAファイナルで対決したダラス・マーヴェリックスは、カンファレンス・ファイナルで昨年のチャンピオン、デンバー・ナゲッツを破って決勝に駒を進めており、 今年のNBA最多得点プレーヤーであるスーパースター、ルカ・ドンチッチ(写真上一番左)を要する強敵。しかもドンチッチはプレーオフに入ってから上り調子。 ナゲッツを含む対戦チームは、何とかドンチッチを封じ込めようと ダブルチームで彼をガードしてきたものの、ドンチッチがそれを上回るオフェンスを展開。 さらにはドンチッチに気を取られる対戦相手の隙をついて、他のマーヴェリックスの選手が要所で貴重なポイントを稼いできたのも、勝ち上がりの要因となっていたのだった。
そんなマーヴェリックスのデータ解析を行った結果、セルティックスがファイナルで取った戦略は それまでの対戦相手とは正反対。 ドンチッチを封じ込めるよりも、彼のチームメイトによる得点のチャンス、ドンチッチに対するアシストの機会を徹底的に奪うという手法。 それによって、ドンチッチは確率の低い、難しいシュートばかりを強いられ、孤軍奮闘状態となり 肉体的にも精神的にも疲れ切ってきたタイミングで、徹底的にたたみ掛ける戦略を取ったのがセルティックス。
今回のNBAファイナルを 「セルティックスのシステム VS. ドンチッチ」と表する声も聞かれたけれど、ドンチッチ本人は「セルティックスはコートに居る5人全員が得点出来る」 と語っており、たとえコート上に同じ人数のプレーヤーが居ても、事実上は セルティックス5人 VS.ドンチッチ1人の対戦に持っていかれたのが今回のファイナル。ドンチッチにとって勝ち目の無い闘いになっていたのだった。
セルティックスはNBAチャンピオンとしては珍しく、今シーズンのMVP投票でトップ5に入った選手がいないチーム。実際にジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウン、ジュルー・ホリデー、デリック・ホワイトといったラインナップは、 それぞれが優秀なディフェンス力を含むオールアラウンド・プレーヤーで、もちろん3ポイント・シュートが打てる存在。しかし特に誰かが突出している訳ではなく、 ラインナップを多少入れ替えてもチームのレベルが保てることは、長いシーズンを勝ちぬくに当たっては大きな利点。
そのプレーヤー達が、データ分析を駆使した戦略を徹底的に叩きこまれて、バスケットボールIQをアップさせた結果、 試合中の彼らの頭の中でチェックされているのは 「相手に対して戦略通りのプレーが出来ているか、自分達が適切なオフェンスをして、相手にはフラストレーションがつのる難しいポジションからのシュートのみを許しているか」。
ファンからのウケよりも、コーチにとって理想的なプレーヤーが揃っているとも言われた今年のセルティックスであるけれど、その結果、宿敵ロサンジェルス・レイカーズを1つ上回る 18回目のNBAチャンピオンに輝いており、これはNBA史上最多記録。 セルティックスは、今年のようにチャンピオンにならなくても、過去数シーズン、コンスタントにプレーオフを勝ち進んでいた実績も認められており、 今後は他のNBAチームのみならず、多くのチーム・スポーツにおいて、セルティックスのようなデータ解析が導入されると見る声も多いのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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