May 12 〜 May 18 2024
GameStop デジャヴ, セルフレジとビューティー・ページェントの限界, Etc.
今週のアメリカのトップニュースは、NYで行われているトランプ氏の刑事裁判の報道が占めていたけれど、それもそのはずで今週にはトランプ氏のかつてのフィクサーであり、
長年弁護士を務めたマイケル・コーヘンが証言台に立ち、裁判がクライマックスを迎えたところ。
水曜には、消費者物価指数が発表され、僅かにインフレ率が下がったことを好感してNYの株式市場は最高値を更新。
同じ水曜にはバイデン大統領がトランプ氏と6月と9月に2回のディベートを行うことに合意したけれど、今週バイデン氏が打ち出したのが中国に対する極めて厳しい関税政策。
中でも中国産EVに対する輸入関税は100%で、国内EVメーカーへの保護措置とは言え、消費者はとっては安価なEVが手に入らないということ。
そのため急激に冷めているEV市場が 益々冷え上がることが懸念されているのだった。
スポーツでは NBAがプレーオフを戦う中、初めてNBAと並ぶメディア・フォーカスを獲得して開幕したのが女子のWNBA。
理由はもちろん今年の大学バスケットボール選手権を大いに盛り上げたケイトリン・クラークがインディアナ・フィーバーの一員としてデビューしたため。
そのケイトリンの初年度の年俸は、7万6000ドルというあり得ない金額。通常スポーツ選手の年俸で「あり得ない金額」というと あり得ない高額を意味するけれど、
WNBAは規模が小さく、チームに資金が無いため、男子NBAプレーヤーの最低年俸額100万ドルに比べると信じられない安さ。もちろんケイトリンにはナイキを含む複数のスポンサー企業が、
広告出演料を支払うので、既に彼女はマルチミリオネアであるけれど、
WNBAチームは人気が盛り上がって来た今シーズン、初めて実現するのがチャーター機での移動。それまでは一般乗客に混じって、コマーシャル・フライトでの移動を強いられていたのだった。
WNBAはこの波に乗ってリーグ拡大を目論んでおり、現在の12チームから2025年にはゴールデン・ステーツとトロントに新チームを設立予定。
2026年までに16チーム体制を目指しているのだった。
GameStop デジャヴ
今週月曜、5月13日の取引開始前に既に100%価格が上昇していたのがゲームストップ。
ゲームストップは2021年1月に株価が大暴騰したMemeストックであり、全米に5000店舗を擁するゲームショップ・チェーン。
当時、業績不振が続いた同社の株は ヘッジファンドのショートセリング(空売り)の恰好のターゲットになっており、
空売とは投資家が株式を借りて、それを高値で売ったことにして、価格が下がったところで買い戻すことで差額を儲けることで、早い話が株の下落に賭ける手法。
一度ウォールストリートのショートセリングのターゲットにされた株式は、複数のヘッジ・ファンドが連携して株価下落を仕組む結果、一般投資家は投げ売りを強いられ、
大幅に株価が下落したところでヘッジファンドが買いを入れるので、一般投資家をカモにヘッジファンドが大儲けをするのが常。
この時のゲームストップに対しては極めてアグレッシブな連携空売りが行われており、空売りの株数が市場に出回る株式数を40%も上回るという異常さ。
このように借りる株式が無いにも関わらず空売りを強行することは、”ネイキッド・ショート(裸の空売り)”と呼ばれ、リスクが大きいのはもちろん、なりふり構わぬ貪欲ぶりが「えげつない」と批判される手法なのだった。
そんな様子に着眼したのがソーシャル・メディア、Reddit上に登場し、2021年のMemeストック・ブームを巻き起こした仕掛け人グループ、”ウォールストリート・ベッツ”。
一般投資家を食い物にして大儲けをするヘッジファンドに一泡食わせようと、ゲームストップに加えて、当時経営難で空売りのターゲットになっていた映画館チェーンのAMC、ブラック・ベリー、
アメリカン航空等の株式購入を促す一大ムーブメントがソーシャル・メディア上で繰り広げられたのだった。
それも俗に言う ”Pump & Dump / パンプ & ダンプ”のような一時的に価格を吊り上げて売り逃げる購入ではなく、買った株式を持ち続けることで
空売りをしていたヘッジファンドを ”ショート・スクイーズ” に追い込むのが目的。
ショート・スクイーズとは、空売りしていた株式が予定通り暴落せず、暴騰した場合に損失をカバーするために 株を高値で購入しなければならない状況。
ショート・スクイーズが起これば更に株価が跳ね上がる訳で、2021年1月のゲームストップ株は1800%の上昇を見せる狂乱相場。
逆にネイキッド・ショートをしていたヘッジファンドの一部は破綻に追い込まれていたのだった。
この時の様子は、ネットフリックスで公開された映画「Dumb Money/ダム・マネー」でも描かれているけれど、「馬鹿マネー」というタイトルは、
ウォールストリートのヘッジファンドや金融大手を「スマート・マネー」と呼ぶのに対して、通常なら彼らにカモられる一般投資家を意味する言葉。
そしてその”デジャヴ”と言われた今週に何が起こっていたかと言えば、映画「ダム・マネー」のメイン・キャラクターであり、ヘッジファンドをショート・スクイーズに追い込むムーブメントの中心的存在であった、
「Roaring Kitty / ロアーリング・キティ」ことキース・パトリック・ギルが、過去3年の沈黙を破って、上中央のビジュアルをX(元ツイッター)上に投稿したこと。
これを見た彼のフォロワーが「眠っていた獅子が目覚めた」と解釈したようで、直後から暴騰し始めたのがゲームストップ株とAMC株。
週明けから2社の株価は毎日のように40、60%値上がりし、証券取引所は、月曜、火曜だけで10回以上、2社の取引を停止する様子が見られたのだった。
その様子は2021年に一般投資家によるゲームストップ株の取引をブロックし、ヘッジファンドに逃げ道を与えた当時のロビンフッドや証券取引委員会の歪んだポリシーを思い起こさせていたけれど、
ロアーリング・キティがそれ以降は動きを見せないこと、彼のX以外のソーシャル・メディアが沈黙を続けていることから、彼のポストがフェイクという説が浮上したのが週半ば。
それに伴って、一時的にパニックになりかけていたウォールストリートもファイナンス・メディアも落ち着きを取り戻したのが週末のこと。
しかしながら2021年時点よりも 更に若い世代の投資家が増え、彼らがソーシャル・メディアを通じてマーケット・メーカーになれる時代になったのは、トラッドファイ(トラディショナル・ファイナンス)には
軽視出来ない事実。2021年のデジャブと言えるMemeブーム再来が起こるかは、まだまだ動向が見守られるところなのだった。
アメリカのスーパーがセルフレジを止める理由
今では世界の先進国のスーパーでほぼ当たり前になりつつあるのがセルフ・レジの存在。会計をスピードアップし、人件費を削減するために導入されたセルフレジに関しては、
今も賛否両論で、2500人を対象としたアンケート調査によれば、セルフレジを好む一般消費者は36%、残りの64%は有人レジを好んでいるとのこと。
実際に一部の来店客は、セルフレジを嫌って従来の行きつけ店舗から、レジが有人のセブン・イレブンのような小型店での買い物に切り換えるほど。
そうなってしまうのは、スキャナーがなかなかバーコードを読まなかったり、バーコードが付いていない野菜や果物の価格が分からない、機械が一度ストップしてしまうと
店員を呼ばなければ会計作業が進まないといったトラブルに見舞われるケースがあるため。また一部にはセルフレジを「来店客に本来店員がやるべき作業を押し付けている」と捉えてサービス低下と受け取る傾向も顕著。
比較的セルフレジが好まれるのは、1人暮らしが多く、テクノロジーに抵抗が無い若い世代が多い都市部。
逆に大家族や高齢者が多く、店員とコミュニケーションを好む地方の大型店では、圧倒的に従来の友人レジが好まれるようなのだった。
そんな中、ウォルマート、ターゲット、クロガー、コストコ、ダラー・ジェネラルといった大手チェーンほど、昨今撤去に動いているのがセルフ・レジ。
ウォルマートはセルフレジ撤去について「従業員や顧客からのフィードバック、購買パターン、地域のビジネスニーズに基づいた分析の結果、よりパーソナルで、効率的なサービスを提供するため」と表向きの理由を説明しているけれど、
本当の理由は盗難による損失を抑えるため。
実際にセルフレジでの盗難率は、意図的な盗難と偶発的な間違いの双方が重なってかなり高いのが実情。
盗難で多いのは、バーコードをスキャンをしたふりをして、そのまま買い物袋に入れる手法や、オーガニックの高額野菜を安価の品種と偽って入力する手法。これらと同じ事は、
悪意が無い来店客も勘違いやミスで行っていることから、盗難を目論む側は 万一見つかったところで悪意がないふりさえすればお咎め無し。
それが後を絶たない盗難を招いているのだった。
これを受けてウォルマートでは、盗難の多い店舗で有人レジを復活させ、セルフレジで会計が出来る商品数を10点までに制限。
一方 ターゲットは、同様にセルフレジでの会計を10点までに制限したのに加え、TruScan/トゥルースキャン という盗難防止システムを導入。これはAIを搭載したコンピューターがカメラとセンサーからのデータを使用して、
未スキャンの商品を検出し、それを買い物客と店のスタッフに音声や視覚的な合図で通知するというもの。
日本の100円ショップに当たる ダラー・ジェネラルは、盗難や不適切な商品スキャンが多かった300店舗からのセルフレジ完全撤去を発表。
それ以外の4,500店舗ではセルフレジでの購入を5品目以下に制限しているのだった。
同様に大手スーパー、クローガーも完全セルフレジだったストアを、通常レジとのミックスに戻し始めたところ。
コストコでは、セルフレジを導入してから増えたのがメンバー・カードのシェア。
セルフレジではメンバー・カードの名前&顔写真が、買い物客のルックス&クレジットカード名と一致するかがチェックされないことから、家族や友人のカードを不当に使用する買い物客が急増。
そのためセルフレジにメンバー本人確認のためのスタッフを配置し、同時にそのスタッフが商品スキャンが適切に行われているかをモニターする役割を担っているのだった。
大手チェーンは当初、セルフレジ導入で多額の人件費が削減出来ることから、来店客のミスや盗難によるレジ損失を軽視しがちであったけれど、
組織的盗難も増加しているようで、被害総額は有人レジを復活させるほど深刻と言われるのだった。
ビューティー・ページェントのサプライズ危機
アメリカではビューティー・ページェントは、女性を外観で判断する悪しき過去の遺物としてTV視聴率が稼げなくなって久しい状態。
イベントの存在意義が問われて久しいけれど、ここへ来て更なる物議を醸したのが、
2024年度のミスUSAがそのタイトルを返還する辞退表明をし、その3日後にミス・ティーンUSAが同様の辞退をする異例の状況。
2人はその後に控えている世界大会、ミス・ユニヴァースのためにプロの手腕でトレーニングを受けていた真最中での辞退で、
代わりにミス・ティーンUSAのタイトルをオファーされたランナーアップ(次点候補)、ミスNYまでもがそれを辞退したことから、
長年指摘されていた組織内の問題を改めて露呈する形になったのだった。
ちなみにミス・ユニヴァースは2015年までドナルド・トランプ氏が所有しており、当時から経営難が伝えられたページェント。
トランプ氏が大統領選出馬を機に売却した後も、オーナー企業の倒産、候補者のえこひいき問題等で、
次々と経営陣が交代し、経営は更に悪化。現在はファッション・デザイナーのレイラ・ローズが社長を務めるものの、前任者たち同様に彼女の評判も最悪で知られるのだった。
ミス・ユニヴァースが経営危機に陥った理由の1つは コンテスタントが集まらないことで、以前であればミス・コンテストの勝者になることは
芸能界入りを果たす近道。しかし今ではソーシャル・メディアのインフルエンサーになる方が、遥かに効率が良く、しかも実入りが多いのが実情。
わざわざ予選から勝ち抜いて、虐めで悪名高い組織の下でトレーニングを積んから、世界大会に臨むという 1年掛かりのプロセスを 好んで実践する若い女性はどんどん減っているのだった。
ミスUSA、ミス・ティーンUSAは、共にソーシャル・メディアを通じて辞退表明を発表しており、その内容はミスUSA、ミス・ティーンUSAの任務を全うすることが、
彼女らの意思や生き方に反し、自分を曲げてまで遂行したくなというもの。一見当たり障りのない声明であったものの、
ミスUSAの声明文のセンテンスの一文字目を並べると「I AM SILENCED (私は口封じをされた)」になることがソーシャル・メディア上で指摘され、
事態の闇の深さを感じさせていたのだった。
その後は過去のコンテスタントや内部関係者が 若い女性達にコンテストに参加しないよう呼び掛けており、
ミス・ユニヴァースのソーシャル・メディア担当者はフリーランス扱いで、今年に入ってから一度も給与を支払われていないことを告白。
世の中がビューティー・ページェントの存続意義を論議するまでもなく、既に経営が成り立たないところまで来ている様子が明らかになっているのだった。
来週、再来週のこのコーナーは、執筆者旅行中につき、勝手ながらお休みをいただきます。次回更新はNY時間の6月8日となります。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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