Oct 30 〜 Nov 5 2023
戦争国内対立, オールド・トランプ, ビジネス界の”テイラー・スウィフト”, Etc.
今週のアメリカは、イスラエル・ハマス戦争のニュースと共に先週末にショッキングな死が報じられた俳優のマシュー・ペリーに報道時間が割かれていたけれど、
彼の死の直後から売り上げが跳ね上がったのが昨年出版され、話題と物議を醸した彼の自叙伝、「Friends, Lovers, and the Big Terrible Thing: A Memoir」。
その2週前に発売され、暫くトップに居座ると見込まれたブリットニー・スピアーズの自叙伝「The Woman in Me」を抜いてベストセラー・ランキングのトップに返り咲き、
アマゾンのチャートではペーパーバック(単行本)までがトップ10内にランクインしていたのだった。
そんな中、今週水曜にはテキサス・レンジャースがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを降して、初のワールド・シリーズ制覇を達成。これが快挙と言えるのはレンジャースが2017年以来、ずっと勝率が5割に達したことが無く、
2021年にはシーズン戦102敗を記録する底辺チームであったため。
更に今週にはイギリスでAIセイフティ・サミットが開催されたけれど、これに招待されたのはAI開発者ではなく経営陣、しかも大手IT企業のみ。
そのためメディアとIT業界はこのサミットへの不信感を露わにしていたけれど、事実、大手ITエグゼクティブは3月にオープンレターで「AI開発をスローダウンすべき」と主張しておきながら、それに署名したイーロン・マスクが
裏で自らのITスタートアップで開発を急ぐなど、未来の主権を左右するAI開発については二枚舌であることが証明されている人々。
IT大手のトップは「今のままでは AIがやがて人類を滅ぼす」という脅し文句と正義を武器に、政府による規制を求めてはいるものの、
本来なら 政府の介入や規制を毛嫌いするはずの大手テクノロジー企業、ベンチャーキャピタルが、現在最も資金と力を注いでいるAIテクノロジーに対して 自ら規制を求めるのは本末転倒。
そのためITサミットに参加した顔ぶれは、開発競争相手へのけん制に加えて、政治家の理解を超えた分野の規制を作る側に回り、
自分達の利益拡大と責任逃れが出来るルール制定を目指しているという見方が有力。
現時点でメタ、グーグル、X(元ツイッター)など、大手ITがことごとく欧州政府の規制や罰金の支払いで苦しめられている状況を考慮すると、英語で言う "If you can't beat them, join them (勝てない相手なら、仲間になれ)”の
セオリーが働いていると疑われても仕方がない状況。
奇しくも今週にはアメリカでもバイデン政権がAI規定に関するガイドラインを纏め上げているけれど、 既に業界での軍配はバイデン政権側に上がっているのだった。
イスラエル・ハマス戦争、アメリカでの対立
イスラエル・ハマス戦争が始まってからというもの、アメリカ政府の揺るがぬ親イスラエル姿勢とは裏腹に、真二つに割れているのがアメリカ社会。
反イスラエル、親ハマスの活動がアメリカの大学キャンパスで起こっている様子は2週間前のこのコーナーでもお伝えしたけれど、アイヴィーリーグの1つ、コーネル大学では今週
インターネットを通じてユダヤ系の学生に危害を加える脅しをかけていた、どう見てもパレスチナ系とは思えない 親パレスチナ学生が逮捕されたばかり。
全米の大学では、キャンパス内で身の危険を感じるユダヤ系の学生が増えつつあるようで、コーネル大学、ハーバード大学では、パレスチナ系学生の制御に動かない大学側をユダヤ系学生が訴える動きも起こっているのだった。
ユダヤ系富裕層が多いマイアミでは、アンチセミティズム(反ユダヤ)運動が高まったのを受けて、ユダヤ系女性が護身用の銃を手に入れ、
シューティング・プラクティスに通う様子が報じられていたけれど、事実アメリカで過去2年間に400%増加しているのが反ユダヤのへイト・クライム。
そのきっかけになっているのは、2021年の11日間に渡るイスラエル軍によるガザ爆撃。
とは言っても反パレスチナの”イスラムフォビア”も急増中で、特に都市部は双方をターゲットにしたへイト・クライムが急増中。そのため今週にはバイデン政権が、
アンチセミティズムとイスラムフォビアに対する 初の国家戦略を策定中であると発表。
しかし政府がイスラエル支援を打ち出しているだけに、イスラム系アメリカ人はこれに懐疑的で、大統領選挙を来年に控えたバイデン氏のバランシング・アクトと見る声が大半。
そのバイデン氏はイスラム系だけでなく、多くの国民が望む停戦要求を「ハマスに有利になる」と拒み、代わりに「人質解放と人道的援助のための一時攻撃中断」という中途半端な要求を
イスラエル政府に行っていることが反感を買っているのだった。
今週、戦争への140億ドルの緊急支援策を可決した米国下院では、先週就任したばかりの共和党 マイク・ジョンソン下院議長が、「支援はイスラエルとウクライナの双方に行う」というバイデン大統領の要請を拒否。
アメリカでは共和党支持者を中心に「ウクライナ援助に国費を使い過ぎている」という批判が高まっている最中で、
ウクライナ支援打ち切りを主張する極右超保守のジョンソン議長は、同じ共和党内のミッチ・マコネル上院院内総務を含むウクライナ支援継続派と真っ向から対立。
過去の実績ゼロで下院議長に就任したマイク・ジョンソンであるものの、その主張のお陰でイスラエル系の企業トップからは多額の政治献金を集め始めているのだった。
戦争が原因で対立が見られるのは企業内も同様。
アップル、マイクロソフトはいずれもイスラエル・ハマス戦争に関する社内ディスカッション・フォラムを閉鎖しており、アップルでそのきっかけになったのは 経営陣の一方的なイスラエル寄りの姿勢を批判した社員の
長文メッセージ。これに60件のサポート・レスポンスが付いたところでコラムが閉鎖されたとのこと。
CEOのティム・クックはそんな社内の状況や戦争について、「多くの命が失われ、心を痛めている」という当たり障りの無いコメントに止まっているけれど、
同様のCEOは多く、善悪の概念を持ち出せばユダヤ・パレスチナ両サイドからのバッシングを受けるのが現在のアメリカ。
IT業界に関して言えば、前述の2021年のイスラエルによるガザ爆撃の段階で、グーグル、アマゾン、アップルで働くパレスチナ系従業員が団結。経営陣に対してパレスチナの人々の人権を認め、企業として人道的サポートをする要請を
書面で突きつけており、他業界よりも遥かに親パレスチナ運動が活発。それと同時にハイテク業界とイスラエル政府の近すぎる関係にも業界内から反対の声が上がって久しい状況なのだった。(写真上右は2021年当時の抗議活動)
一方、ニューヨーク市ではヘルスケア・ワーカーが、爆撃による負傷者への医療と救急サービスを遮断し続けるイスラエルに対して抗議を表明。
即時停戦を求める抗議活動を行ったばかり。
そうかと思えばBLM(ブラック・ライブス・マター)のオーガニゼーションがそのウェブサイトで「End of Israel」という声明をポストしたことから、共和党の元大統領候補、テッド・クルーズ上院議員が行ったのが、
BLMを責めるのではなく、2020年に同団体に50万ドルの寄付をしたコカ・コーラ社に対する猛抗議。そしてコカ・コーラからBLMに「End of Israel」のポスト削除の圧力を掛けるよう、
意味不明な要求をする様子が見られていたのだった。
他国の動きとしては、ボリビアがガザ攻撃に抗議してイスラエルとの国交を断絶。 チリとコロンビアも駐イスラエル大使の召還を発表しているけれど、
宗教人口に着眼すると、世界のユダヤ教は2021年の段階で152万人。それに対してイスラム教信者は世界に20億人で、キリスト教に次ぐ数。
キリスト教信者が減少傾向にあるのに対して、イスラム教は最もハイペースで信者を増やす宗教となっているのだった。
トランプ氏、年齢攻撃のブーメラン
2024年の大統領選挙も、現時点ではバイデンVS.トランプ対決になる気配が濃厚であるけれど、トランプ氏がバイデン氏を攻撃するネタと言えば、もっぱら今年80歳のバイデン氏の年齢。再選されれば任期を終える頃には
85歳になるバイデン氏を ”Sleepy Joe”と呼んで、バイデン氏が転んだり、躓いたり、まごついたりするたびに、あたかも痴呆が始まっているかのように その様子をビデオ映像でからかうのはトランプ氏やトランプ支持者のありがちなソーシャル・メディアのポスト。
しかしイスラエル・ハマス戦争が始まって以来、トランプ氏の存在感が若干薄くなってきたせいか、このところ対立する共和党大統領候補やメディアがどんどん指摘するようになってきたのが、
「トランプ氏とて年齢的に大統領としてはかなり厳しい」という現実。
そもそも今回の選挙戦では 支持率こそ獲得しているとは言え、トランプ氏のキャンペーン・スケジュールは、年齢を感じさせないほど精力的であった過去2回の選挙とは比べ物にならないほどスカスカのスケジュール。
また、トランプ氏は以前から歴史の順序が逆であったり、死去した人間が生きていることになっていたりと「歴代大統領の中で”最も無知”」と言われてきたけれど、
昨今ではハンガリーのヴィクター・オーバン首相をトルコの首相と言い間違えたり、キャンペーンに訪れたアイオワ州の町の名前の代わりにサウス・ダコタ州の町の名前を言ったり、
イスラエル・ハマス戦争が始まる直前の演説では、「バイデンはアメリカを第二次世界大戦に導く」と1945年に終わっている戦争を持ち出すなど、
徐々に知識不足ではない 言い間違えが増えているのだった。
ちなみに日本語で「第二次」と「第三次」ならば言い間違いの印象が強くても、英語で「Second」と「Third」を間違えて、しかもそれに気付かないでスピーチを続けた場合、どうしても年齢の偏見も手伝ってボケを疑いたくなるというもの。
そんなトランプ氏を容赦なく攻撃し始めたのが 支持率が伸び悩むフロリダ州知事、ロン・ディサンティス。 「今のトランプは、もう2015年、16年のトランプじゃない」と語り、
トランプ氏が前日にキャンペーンに訪れた町の名前が思い出せないのは仕方ないとしても、州の名前が思い出せなかった様子を披露。それに止まらず、ディサンティス陣営は”トランプ・アクシデント・トラッカー”なるものを作り、
トランプ氏の間違いをいちいち突っついては記録するようになっているのだった。
他の共和党大統領候補者も、ここまでストレートではないものの、ティム・スコット上院議員はジムでワークアウトをする様子のビデオをソーシャル・メディアにポストし、そのスタミナと健康管理をきちんと行うライフスタイルをアピール。
最年少候補者のヴィクター・ラマスワミー(38歳)は医師の診断書を提示して、ドクターお墨付きの健康状態をアピール。現時点で医師の健康診断書を公開している候補者は彼のみなのだった。
トランプ氏は、税金申告書と健康診断書も事前に提示せずに当選した近代初の大統領であったけれど、
2016年に「完璧な健康体」という内容の4行のレターを診断書として提出したトランプ氏の長年の主治医は既に死去。
ホワイトハウス時代に 良好な数値のみの発表でトランプ氏の健康状態に太鼓伴を押した主治医、ロニー・ジャクソンは その後トランプ氏の後押しを受けて、今では共和党議員。
今年8月にジョージア州で不正選挙容疑で訴追されたトランプ氏が 刑務所に出頭した際の、自己申告の体重 93キロには、「嘘もほどほどにするべき」との批判やジョークが飛び交うあり様で、
トランプ氏の健康状態に関する正式な情報は現時点では皆無。
一方のバイデン氏は、自分の年齢が選挙でディスアドバンテージになっていることを察知しているためか、それともトランプ氏との対比を強めるためか、健康に関する詳細情報をあえて公開する戦略に出ているのだった。
共和党候補がこのまま予備選で トランプ氏の年齢や健康状態を攻める姿勢を続けた場合、今回は年齢が年齢なだけに トランプ氏が医師の診断書無しに大統領選挙を乗り切れるかは極めて微妙。
バイデン氏、トランプ氏に限らず、アメリカの政治家が高齢であることを嫌う国民は多く、政治家に対する年齢制限を設け、健康診断証明書提出を義務付けるべきとの声は高まる一方なのだった。
その一方で、民主党からバイデン氏の対立候補として唯一出馬表明をしていたロバート・ケネディJr.が民主党を離れ、インディペンデント(無党派)で出馬する意志を発表したのが10月初旬のこと。
環境弁護士で、アンチ・ワクチン派の旗印、「農薬がトランスジェンダーを作り出す」といった陰謀説を吹聴し、アンチLGBTQ姿勢も打ち出す彼の主張は、ケネディのラストネームとは裏腹に共和党保守派に近いもの。
それもあって、現時点で彼が支持率を奪っているのはバイデン氏よりもトランプ氏。
バイデン支持者も、トランプ支持者も「適切な若い候補者が現れた場合は、そちらを支持する」とアンケート調査で回答してはいるけれど、セックス・トラフィッカーのジェフリー・エプスティーンと交流があり、不倫で前妻を自殺に追い込んだロバート・ケネディJr.が果たして何処まで選挙戦を闘えるかは、政界では一種のエンターテイメントとして捉えられているのだった。
ビジネス市場の”テイラー・スウィフト”
アメリカでは、”Googled”や”FedExed”のように企業や商品&サービス名が動詞として使われるようになることが、ビジエスのメガサクセスの証と言われるけれど、
昨今その仲間入りを果たしたつつあるのが、処方箋ダイエット薬で、今年に入ってメガブレークしているオゼンピック。
オゼンピックで痩せることや、オゼンピックの影響でビジネスがスリムダウン(減益)することが徐々に ”Ozempic'ed/オゼンピックト” と言われるようになる一方で、
今週新たに オゼンピックについたニックネームが、”Taylor Swift of Business Market(ビジネス市場のテイラー・スウィフト)”。
テイラー・スウィフトと言えば、今年夏のエラス・ツアーで、アメリカにオリンピック開催と同等のビジネス効果をもたらしただけでなく、
音楽、ファッション、旅行業界、映画業界、昨今ではNFLカンサスシティ・チーフのボーイフレンドとのロマンスでフットボール界にまで、ありとあらゆる分野でビジネス効果もたらした存在。
そんなテイラーと同じように、広範囲でビジネス効果をもたらすと言われるオゼンピックは、今週、クリスピー・クリーム社の売り上げ低迷と株価が下落の要因に挙げられたばかり。
全米のスーパーで ビールやスナックの在庫量が急落する原因とも言われ、アパレル業界はオゼンピックの影響で 従来のプラス・サイズ展開の見直しを迫られているだけでなく、
スリムダウン中の ”脱プラス・サイズ”ニーズにも着眼し始めたところ。
航空会社は、乗客の軽量化によって「どれだけ燃料費が節約できるか」のシミュレーションを既にスタートしており、
胃のバイパス手術を含む肥満手術用機器やインスリン・ポンプ等の糖尿病機器メーカーは、需要激減に神経質になる投資家への対応に追われる様子がレポートされているのだった。
オゼンピックのメーカー、ノヴォ・ノルディック社も世界最大のインスリン・メーカーではあるけれど、同社を今年9月に欧州最大の企業にのし上げたのはオゼンピックの売り上げ。
テイラー・スウィフトに話を戻せば、彼女のお陰でNFLカンサスシティ・チーフの人気が高まっただけでなく、試合観戦に訪れるテイラーを一目見ようとファンがカンサスシティを訪れるようになり、
町の経済が活性化。ボーイフレンドのトラヴィス・ケルシーも、そのジャージーの売り上げが400%アップし、CM出演が増えただけでなく、自分の名前で6つの特許を取得。
テイラー効果の恩恵を受けているのだった。
そんなテイラー効果は、遂に来春のセメスターから サウスダコタ大学のショーン・カマー教授による「The Taylor Swift Effect/ザ・テイラー・スウィフト効果」というクラスになることが決定。
同大学の教授陣の中には「一体何を教えるのか?」と疑問視する声も聞かれるものの、
2023年のテイラー・スウィフトほど国の経済とカルチャーに多大な影響を及ぼしたシンガー、及びセレブリティは過去に存在しないのは紛れもない事実。
そのテイラーは今週ブルームバーグ・ニュースによって個人資産11億ドルで、ビリオネアの仲間入りを果たしたことが正式に発表されているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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