Aug 7 〜 Aug 13 2023
WeWork, トランプと宝くじ, プロ・クリプト, Etc.
今週水曜からアメリカのメディアで トップに報じられてきたのがハワイのマウイ島で起こった大々的な山火事のニュース。
6つのエリアで起こった山火事が現地のドライなコンディションとハリケーンの通過に伴う強風の影響で、突然広がったのは火曜日の午後4時過ぎのこと。
島内の警報が作動しなかったこともあり、特にほぼ全焼と言える壊滅的な被害が報告されたのが人気観光地のラハイナ。
炎は人が走るスピードで広がり、迫り来る炎から逃れるために住民が海に飛び込む様子が観られたほど。
当然のことながら空港は帰路を急ぐ旅行者と、避難する島民でごった返し、各航空会社はインバウンド・フライトをキャンセルし、マウイからホノルルへのフライトを増やす等して対応していたのだった。
土曜の時点で報告されたのが最低80人の死者と約1000人の行方不明者。
マウイと言えばオプラ・ウィンフリー、ジェフ・べゾス、クリント・イーストウッド、オラクルのエグゼクティブ・チェアマンのラリー・エルソン、エアロスミスのスティーブン・タイラー等の大富豪やセレブリティが別荘を構えていることでも知られるけれど、現地でヴァケーションを楽しんでいたオプラ・ウィンフリーはシェルターを訪れて ホームレスになってしまった島の住民に食糧や当座の生活必需品を寄付。また同じく現地に別荘を構えるボクサーのフロイド・メイウェザーも住民や旅行者の避難用フライトの料金を負担する一方で救援物資を寄付。
バイデン政権も現地に多額の支援を約束しているけれど、現地での混乱を避けるために大統領の現地視察は暫し行わない意向を示しているのだった。
WeWork doesn't work
今週木曜にはCPIこと、アメリカの7月の消費者物価指数が発表されたけれど、それによれば7月のアメリカのインフレ率は前年同月比で3.2%上昇。前月比では0.2%のアップで
その上昇分を担っているのがレント。
中古車を含む自動車価格から、航空チケットまで多くのアイテムが値下がりしているにも関わらず、決して下がらないのがレントで、
都市部で急がれるのが空っぽのオフィス・ビルの住宅へのコンバート。2023年第1四半期終了時点で、アメリカ国内には約9000万平方メートルの埋まらないオフィス・スペースがあり、
この状況が続けば毎月5〜10件の割合でアメリカ国内のオフィス・タワーがデフォルトに陥ることがレポートされているのだった。
人々がオフィスに戻らず、金利が上昇している現在、ゴールドマン・サックス、JPモルガン等の大手バンクは業績の足を引っ張る商業不動産の債権を何とか処分しようと躍起になり、
大幅ディスカウントで買い手を模索する中、たとえ90%の利息を付けても社債の買い手がつかないと報じられたのが
レンタル・オフィス・ビジネスで一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったWeWork。
日本のソフトバンクがバッカーであったことも知られるWeWorkは、かつては企業評価額470億ドルを誇ったユニコーン企業。
しかし2021年10月に上場する頃には、当時のCEOアダム・ニューマンと その妻でグウィネス・パルトローの従妹でもあるレベッカ・ニューマンの会社を私物化した経営が問題視され、
その評価額が72億ドルにまで下落。
やがてニューマンを経営から追い出し、新経営陣を迎えたものの ビジネスが好転することは無く、
今週 同社CEO デービッド・トーリーが決済会見で述べたのが「企業として存続できるかは重大な疑問である」という倒産を示唆するコメント。
今週の時点で WeWorkの時価総額は テイラー・スウィフトの個人資産の3分の1にも満たない2億7,400万ドル。
以前同社を利用していたビジネスや個人がパンデミックをきっかけに自宅勤務となり、度重なる利上げで不動産ローンの利率が跳ね上がった現在、
好立地の高額物件のローンを払いながら、内装にも費用を掛けてレンタル・オフィスとして提供するWeWorkは完全に時代と逆行するビジネス。
既に倒産処理の専門家を取締役に迎えたことが伝えられており、WeWorkがベッド・バス&ビヨンド、ダイエットのジェニー・クレイグ、デイヴィッズ・ブライダル、
大手トラック会社のイエロー等と並んで2023年の倒産企業に名を連ねるのは時間の問題と見られるのだった。
トランプ訴追&メガミリオンに見る下火傾向
先週3度目の刑事訴追を受けたトランプ前大統領であるけれど、メディアが指摘したのが ”ドナルド・トランプ”、”訴追”のグーグル検索件数が、
訴追の回を追うごとに減ってきている状況。
上左のグラフはその検索件数の推移を示したもので、昨年ホワイトハウスからの書類持ち出し容疑でFBIがトランプ氏私邸のマーラゴを捜索した際に まず大きく跳ね上がったのがその検索数。
今年4月にNYの検事が選挙資金を巡る容疑で刑事訴追をした際に検索件数がピークとなり、6月に書類持ち出し容疑で訴追された際の検索はその半分以下に下落。
そして8月1日に2021年1月6日の議会乱入事件に関わる陰謀、他の容疑で訴追された際には更にその数が減っている(グーグル側の正式データは未発表)というのがその指摘で、
回を追うごとにトランプ氏の訴追に対する人々の関心が薄れている様子を示しているのだった。
このグラフと同じように推移しているのがトランプ氏に寄せられる寄附金の額。4月に訴追された際には支持者の同情と怒りと共に500万ドルの寄付を集めたものの、
支持者もそうそうお金が続かないためか、トランプ氏が自らのソーシャル・メディアで訴える怒りのコメントに寄附金で応える支持者は激減。
とは言っても2024年の大統領選挙の行方を決めると言われるのはトランプ支持派、アンチト・ランプ派ではなく、無党派層とトランプ氏を支持しない共和党支持者。
2024年に入って予備選がスタートする中で 訴追容疑の裁判が始まった時に、これらの人々がその状況をどう捉えるかで次期大統領が決まると見込まれるのだった。
同じくメディアが下火傾向をレポートしたのは、今週アメリカ史上三番目となる賞金額 15億8000万ドルの当選が出たメガミリオンの宝くじ。
メガミリオンは1〜25の中からメガボール・ナンバー1つ、それとは別に1〜70までの中から5つの番号選んで、それら全てが当選番号とマッチするのがジャックポットという最高プライズ。
その当選確率は3億300万分の1。
メガミリオンの当選発表は毎週火曜と金曜の2回行われ、2017年以降、ジャックポット勝者が生まれるのは年間に5〜7回程度。
ジャックポット当選が出ない場合は賞金が繰り越しになるのがルールで、4月18日以降 今週まで当選者が出ていなかったことから賞金額が膨れ上がっていたのだった。
宝くじ業界では近年、ジャックポットが出難く、賞金額が膨れ上がるように番号枠が拡大され、
多額の賞金額でパブリシティを獲得し、それに煽られた人々がチケット購入に走るようにルールが改定されたのは周知の事実。
しかしながら実際のデータでは2016年をピークに逆に落ち込み始めているのが宝くじの売り上げ。
2023年1月14日と今週の当選者が出る前の8月4日は、共に13億5000万ドルの賞金が掛かったメガボールであったけれど、1月に売れたチケットは1億7310万枚。これに対して8月4日の
チケット売上はその23%減の1億3270万枚。
そこで浮上してきたのが、当たらない仕組みにしたことが災いして、以前ほど人々が熱心にチケットを買わない心理を招いたという指摘。
引き続き多くの人々が一攫千金を夢見て宝くじを買いはするものの、当たる確率が低いことを熟知しているだけに その購入枚数を減らす、
もしくは「どうせ今回も当選者は出ないだろう」と考えて わざわざ無理をしてまでチケットを買いに行かない傾向が高まっているのだった。
ギャンブルというものは 適度に、そして不定期にリワードを与えるからこそ 人々が夢中になることは日本のパチンコなどでも立証されているけれど、
メガミリオンの場合、賞金額を大きくするために リワードがあまりに無さ過ぎた結果、欲に目がくらむよりも、人間の理性が働き始めているのだった。
ちなみにメガミリオンのチケットは2ドルで、その売り上げの内訳は35セントが販売店やチケットの印刷代等の賞金以外のコスト、75セントが賞金、残りの90セントが州政府の収入。
全米50州のうちアラバマ、アラスカ、ハワイ、ラスヴェガスがあるネヴァダ、ユタ州の5州では行われていないのだった。
ブラックロックのETF申請に続きPYUSD、トラッドファイが突如クリプト寄り?
今週金融業界が最も注目したニュースの1つが、PayPalがステーブル・コイン(ドルと同価値のクリプトカレンシー)のローンチをアナウンスしたこと。
PYUSDというネーミングのコインはイーサリアムのブロックチェーンを使用した取引で、世界中に4億3000万人以上と言われるPayPalカストマーがPayPal上で送金する際に利用されるもの。
このローンチが注目されているのは、過去にフェイスブックが”Libra”、”Diem”と名前を替えてトライしても実現しなかった 通貨の代わりを果すクリプトカレンシーの発行を遂にPayPalが実現したため。
そもそもPayPalの創業者は2016年大統領選挙の際にトランプ政権を生み出す原動力となり、フェイスブックの早期出資者でもある著名VC(ヴェンチャー・キャピタリスト)のピーター・ティールとイーロン・マスク。
ワシントンでロビー活動を行って久しい存在で、政府機関から優遇を得易い存在。PayPal自体は2020年からビットコインを取り扱っているので、
これが初めてのクリプトカレンシー導入ではないけれど、このところ顕著なのが今までアンチクリプト一色だったメディアやトラッドファイ(トラディショナル・ファイナンス)がクリプトに好意的な姿勢に転換する様子。
先週には、これまでの「ビットコインのマイニングに掛かる電力が環境を破壊する」という説が覆されて、突如ビットコインが環境フレンドリーな存在として報じられたけれど、
ビットコインに対する見解が180度変わったきっかけは、世界最大のアセットマネージメント会社、ブラックロックがビットコインのETF申請を行ったこと。
初夏までクリプト潰しに全力を挙げていたSEC(証券取引委員会)チェアマン、ゲーリー・ゲンスラーも、今週にはその取り締まりターゲットをクリプトからAIに転換することを発表したほど。
そのブラックロックは国民のリタイアメント基金を仕切っているとあって、バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領に金融アドバイザーを送り込む、政界で最も大きな影響力を持つ金融機関。
ブラックロックのCEO、ラリー・フィンクは、かつてビットコインを「テロリストや犯罪者の通貨」と呼んでいたけれど、
今ではすっかりビットコインのスポークス・パーソン。
アメリカの資産運用会社は、ブラックロックの投資モデルを叩き台にしているだけに、ブラックロックのビットコインETFが認可された場合には 多額の資金が流れ込むことが見込まれるのがクリプト業界。
ブラックロック申請のETFは、今週末が最初の審査締め切りであったけれど、これまでブラックロックが申請して認可されたETFは577件。
逆に認可が下りなかったのは僅か1件。そのため金融業界では 「ブラックロックのビットコインETFは認可が下りるか否かではなく、何時認可が下りるかの問題」と言われるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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