Feb . 13〜 Feb. 19 2023
トキシック、スーパー・プロフィット、ディープフェイク、Etc.
今週のアメリカで報道時間が割かれていたのが2月3日にオハイオ州で起こった複数の列車の脱線事故がもたらした
甚大な環境汚染のニュース。列車に積まれていた塩化ビニル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシルといった毒性の強いケミカルが事故で燃え上がったことから、
巨大な黒煙が立ち上った様子は隣の州からも目撃されたほど。燃えている薬品の消火作業に手間取る中、大気の状態だけでなく 水質までもが悪化した結果、
現地ではペットや家畜がどんどん死に始め、河川では3500もの魚の死骸が流される有り様。その毒性の強いケミカルの影響は人体にも現れ始め、
地元住民は呼吸困難、吐き気、嘔吐、皮膚や目のかゆみ、頭痛といった症状を訴えているのだった。
そんな中、今週にはミシガン州でも再び同様の脱線事故が起こって人々を恐れさせていたけれど、アメリカでは年間に大小含めて1000件の脱線事故が起こっており、
近年は経費削減のために少人数で 車両数の多い列車を走らせることが事故の原因になっているのだった。
政治では今週、元国連大使のニッキー・ヘイリーがトランプ前大統領に続く2人目の共和党候補として大統領選に名乗りを上げたけれど、
ヘイリーは2016年の大統領選ではサウス・キャロライナ州知事として いち早くトランプ支持を打ち出し、そのお礼人事として国連大使に就任。
トランプ氏寄りの政治家であったものの、立候補の声明では「80歳が大統領になるべきではない」とトランプ、バイデン両氏を年齢でけん制。
現在51歳のヘイリーは 大統領当選の可能性は低いものの 選挙の行方に影響を与えると見られ、インド系のバックグラウンドを武器に副大統領候補になる
可能性も高いと見られるのだった。
リアーナはギャラ無し、それでも大儲けのスーパーボウル
先週の日曜はスーパーサンデーだったので、週明けはスーパーボウルに関する報道が盛んに行われていたけれど、
NYを始めとする全米の複数の州でスポーツ・ギャンブルが合法となった影響で、今年のスーパーボウルには5000万人以上の人々が
総額160億ドルを賭けていたとのことで、これは昨年の2倍に当たる金額。
TVとストリーミングの視聴者数はここ数年 ほぼ横ばいの約1億人であったけれど、それでも上がり続けているのがCM放映料。
今年は30秒のCM放映料が平均650万ドルで、昨年の560万ドルから16%上昇。2016年と比較すると48%の上昇。
放映局のFOXは約6億ドルのCM放映料を稼ぎ出し、これはもちろん史上最高額。この金額は2027年には10億ドルに達すると見込まれるのだった。
昨年はクリプトカレンシー関連のCMが幾つも放映されたけれど、今年はFTX破綻を受けて クリプトカレンシーのCMは放映禁止。
代わりに増えたのがアルコール関連の広告で、スーパーボウルでは1989年以来、独占のアルコール・スポンサーであったのがバドワイザーを傘下に収めるアンハイザー・ブッシュ。
しかし今回はハイネケンやクアーズといった競合メーカーが初めて広告を放映。
ちなみにアメリカでは 今もビールが1番人気のアルコールであるものの、2000年にアルコール総売上の58%を占めていたビールのシェアは、
2022年には46%にまで減少しているのだった。
ハーフタイム・ショーは今年からスポンサーが ペプシからアップル・ミュージックに代わっており、そのスポンサー・フィーは5年契約で2億5000万ドル。
今回久々にライブ・パフォーマンスに復帰したリアーナのギャラは スポンサー料には含まれておらず、スーパーボウルでは例年パフォーマーはノー・ギャラ。
にも関わらず一流アーティストがこぞってパフォーマンスを引き受ける理由は、スーパーボウルのハーフタイム・ショーが
レコード・セールスやソーシャル・メディア等に莫大な影響を与えるため。
2017年にパフォーマンスを行ったレディ・ガガは、その直後からアルバムとシングルの売上が1000%アップ。
2020年にシャキーラとジョイント・パフォーマンスを行ったジェニファー・ロペスは、ソーシャル・メディアのフォロワーを230万人増やした上に、
スーパーボウル・パフォーマンスとその準備を描いたドキュメンタリーを撮影。2022年にスヌープ・ドッグやケンドリック・ラマーらとジョイント・パフォーマンスを行った
Dr.ドレも アルバム・セールスが183%アップしており、こうした爆発的な効果はグラミー賞でのパフォーマンスや受賞では決して得られないもの。
2023年のスーパーボウルがホスト・シティにもたらしたエコノミック・インパクトは6億ドル以上。6万8000人の観戦者、15万人の関連イベント来訪者が
ホテルやレストラン、ギフトショップで散財するのはもちろんのこと、
スーパーボウル・ウィークエンドに数多く開催されるプレ・パーティー、アフター・パーティー、ウォッチ・パーティーにはスポンサー企業だけでなく、
ありとあらゆるビジネス界のVIPが集まり、高額ダイニング&ケータリングが潤うことから、カジュアル版のワールド・エコノミック・フォーラムと言われるほど。
世界最大のスポーツ・イベントはワールドカップとは言え、たった1つのプロリーグが 僅か1回の試合でこれだけの利益を生み出すというのは
常識では考えられない メガビジネス・モデル。
それだけに 今後 身売りの可能性があるワシントン・コマンダーズ、デンバー・ブロンコ、バッファロー・ビルズといったNFLフランチャイズの買収には、
大手のヘッジファンドやベンチャー・キャピタル、アマゾンのジェフ・ベゾスらが並々ならぬ興味を示しているのだった。
ホログラフィック・テクノロジーで 若き日のスーパーモデルが復活!?
NYで2月10日から6日間の日程で行われていたのがファッション・ウィーク。
期間中、ファッション関係者が話題にしていたのが「何時まで生身のモデルが歩くランウェイ・ショーが続くか?」で、
昨年2月のNYコレクションでは、デザイナーのメイジ―・ウィレンが合計28人もの 身長2メートルのホログラフィック・モデルを使って
コレクションを発表して話題になっていたのだった。
ロンドンでは昨年5月から1970〜1980年代に活躍したポップ・グループABBAが、全盛期のメンバーのホログラム(写真上中央)を使ったコンサートを行い。
既に80万人の観客動員を獲得。同様のコンサートは、故ホイットニー・ヒューストンのホログラムでも行われており、そのテクノロジーの進化は日進月歩。
ファッション業界でも 1990年にカルバン・クラインのモデルとしてデビューした当時のケイト・モス、美容施術で失敗する前のリンダ・エヴァンジェリスタらを
スーパーモデル全盛期の若さと美しさと共にホログラムで再現するプロジェクトが進行中とのこと。
再現されるのはモデルに止まらず、オードリー・ヘップバーン、マリリン・モンロー等、
ファッションに多大な影響を与えたハリウッド・アイコンをランウェイに登場させる計画もあり、
チャットGPTの大ブレークで 突如身近になったAIテクノロジーが
ビジュアルの世界では完璧なアバターを創造しつつあるのだった。
そのテクノロジーがメタバースにまで発展すると、ショーの観客自身もアバターになって
会場に出掛けることになるけれど、そうなる前に 程無く実現するのがアバターによるファッション・ショー。
NYのファッション・テクノロジー・エージェンシー、モダン・ミラーによれば、
ホログラフィック・テクノロジーを使えば、3Dモデルがランウェイを歩くショーは 問題無く実現するとのこと。
もちろんセレブやスーパーモデルのアバターを起用するとなれば、デジタル写像権の問題等をクリアしなければならないけれど、
近い将来エルメスのファッション・ショーにケリー・バッグを持ったグレース・ケリーが登場するのも夢ではないのだった。
現在のホログラフィック・テクノロジーを使えば、セレブリティやモデルよりも完璧な容姿のアバターがクリエイトできるのは言うまでもないこと。
しかしどんなに容姿が整っていても、キャラクターに魅力がなければ 人々の関心や興味を惹きつけて、好意を抱かせるのは不可能。
ということで既に登場しているヴァ―チャル・モデルは ソーシャル・メディアでバックグラウンドやライフスタイルを公開しているものの、
やはり生身の人間と同じアピールが低いことは立証済。
したがって商業効果やインパクトを狙うには、実在する人間のアバターをクリエイトする方が 確実な成果が見込めるのだった。
陰謀説に登場するディープフェイクのリスク
AIテクノロジーによる 若き日のスーパーモデルや全盛期のセレブリティの再現が歓迎される一方で、
「世界情勢を混乱させるリスクになりかねない」と危惧されて久しいのが、そのAIが作り出す 実在の人物そっくりの画像や映像、すなわちディープフェイク。
例えば 昨年ロシアがウクライナに侵攻した直後にネット上に出回ったのが写真左上、ウクライナのゼレンスキー大統領による
降伏宣言のビデオ。よく目を凝らせば 「ゼレンスキー大統領のそっくりさん」 程度の出来 とは言え、
このビデオは 重要な案件を語る世界の要人にディープフェイクが用いられた初めてのケース。
それまではディープフェイクと言えば、もっぱらエンターテイメント目的。
中には ソーシャル・メディアのインフルエンサーのディープフェイクがポルノサイトで使われる等、悪質なものも存在していたのだった。
巧妙なディープフェイクのテクノロジーが登場したのは2014年前後で、顔の表情や筋肉の動きを含む膨大なデータと それを処理するパワフルなコンピューターが
”ディープ・ラーニング”、すなわち掘り下げた分析と学習をして、その結果を別のコンピューターが実物と比較して修正するプロセスが加わったことから、
格段にリアリティを増したのがディープフェイク。
既にアメリカ軍はテロ対策プロジェクトとしてイスラミック・テロリストのディープフェイクをクリエイトして、
その映像を発信しているとも言われるけれど、テクノロジー自体はオープン・ソースなので、
超高性能のコンピューターと専門知識を擁する個人や団体であれば、一般人に識別不可能なディープフェイクをクリエイトできるのが現在。
すなわちプーチン大統領とシージンピン主席が
世界征服を目論んでいるディープフェイク・ビデオなども作れてしまう訳で、世界的に急がれているのが要人のディープフェイクを禁じる法律、
そしてその発信を妨げるテクノロジーの活用。このテクノロジーはプレバンキングと呼ばれるもので、
特定の情報がインターネット上にポスト出来ないようにするセンサーシップ。ただし使い方を誤ると、プレバンキングも恐ろしい結果をもたらすことになるのだった。
既にディープフェイクがソーシャル・メディア上の様々な陰謀説ポストに登場しているのは周知の事実で、
それらは実在の人々の写真を叩き台に、観る側が好感を持つ顔立ちにアレンジされているのが常。女性なら額が若干広くなり、
男性なら顎のラインを強調するのが一般的な修正。
したがってこれからの時代は何を見ても、聞いても、まずはディープフェイクの可能性を
疑うのがファースト・ステップと言えるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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