Jan. 23〜 Jan. 29 2023

Chat GPT Rules, Zoomtown, Amazon Returns, Etc. "
チャットGPTの実力、Zoomtownの危機、アマゾン返品で稼ぐ人々、Etc.


今週のアメリカで最大の報道になったのは、ルーナー・ニューイヤー前夜にアジア人住人が60%を占めるカリフォルニア州モントレー・パークのダンスホールで起こった11人の犠牲者を出した銃乱射事件 と、その僅か2日後に サンフランシスコにほど近いハーフムーン・ベイで起こった7人が殺害される銃乱射事件のニュース。 どちらも容疑者はアジア人男性で、特筆すべきはモントレー・パークの事件が72歳という銃乱射事件の最年長容疑者、ハーフムーン・ベイの事件の容疑者が67歳で、 銃乱射事件容疑者の平均年齢、38歳を大きく上回り、双方とも動機が怨恨であったと見られること。
また今週は 引き続きバイデン大統領の自宅やオフィスからトップ・シークレット扱いの書類が出て来た問題がメディアで取り沙汰され、 バイデン氏はFBIによる家宅捜査に協力する姿勢を見せていたけれど、それによって更に複数出て来たのが持ち出し書類。 ところが週半ばになってマイク・ペンス元副大統領の自宅からも 持ち出し書類が出て来たことがペンス氏の弁護士によって報告されたことから、 オバマ、ブッシュ、クリントンという歴代3人の大統領、及び副大統領に対してナショナル・アーカイブ(国立公文書館)が正式に協力を求めたのが その自宅の捜索。ペンス氏もバイデン氏同様、自主的に書類を返却し、捜査に協力していること、そして持ち出した書類の数が少ないことから、 捜査に当たっている司法省では 300もの書類を持ち出し、その返却を拒んでいるトランプ氏のケースとは別扱いという認識になっているのだった。



チャットGPTが更に賢く、ビジネスを脅かす存在に>


2週間前のこのコーナーで、その突如のブームについてお伝えしたAIチャットボット・アプリ、 ”チャットGPT”であるけれど、今週報じられたのが そのチャットGPTが超名門ウォルトン・ビジネス・スクールのMBA取得の最終試験にパス出来ることが 明らかになったニュース。
株式投資から不動産購入のアドバイスまでもが可能と言われるチャットGPTは、ウォルトンの試験でもその実力を披露。 人間同様に教育が必要であるもの、データと経験の蓄積による能力向上のスピードが著しく早い様子が伝えられるのだった。
また今週、オンライン・メディアのバズ・フィードはチャットGPTを編集コンテンツ制作に用いることを発表。その株価を2倍に押し上げているけれど、 マイクロソフト社もチャットGPTに100億ドルの出資をして、Eメール、スライド ショー、スプレッドシートなどのマイクロソフトの製品間で そのテクノロジーを統合するプランを発表。中でも最も恩恵を受けると言われるのが、マイクロソフト社が2022年に発表したViva Salesという顧客対応のアプリ。 Viva SalesはTeam、Outlookといったマイクロソフト製品全般で C.R.M (Customer Relationship Management / 顧客管理) 機能を 自動的に可能にするもの。 具体例を挙げれば、マイクロソフトTeamで行われたオンライン会議の概要を纏めた書類を自動的に作成し、討議された目標進捗状況を追跡するのがこのアプリで、 これにチャットGPTのテクノロジーが加わった場合、ビジネス・アイデアのキュレーション、メールのやり取りといった反復作業の自動化等、 数えきれない付加機能をもたらすことが指摘されるのだった。
それが実現した場合、現在30億ドルのマイクロソフト社のC.R.M関連の売上が70億ドルに伸びるのは時間の問題と言われ、それによって 窮地に立たされると見込まれるのが、昨今社内のガタガタが伝えられるセールスフォース。 今後アクティビスト・インヴェスターによる経営テコ入れが見込まれるセールスフォースでは、 AIテクノロジー導入に向けて独自の開発を続けて久しい状況で、C.R.M関連ソフトはセールスフォースのドル箱部門。 企業がソフトを切り替えるには費用と手間が掛かるとはいえ、マイクロソフトがチャットGPTのテクノロジーを統合した場合、 「軍配は間違いなくマイクロソフトに上がる」という声が圧倒的。
チャットGPTに関しては、やがてグーグル検索の存在意義をも脅かすことから、グーグルの親会社アルファベットも警戒感を強めていると伝えられ、 アマゾンでは社員に対して 「会社の内情についてチャットGPTと やり取りをしないように」とのお達しが出たばかり。 これから激化するIT企業サバイバル・ゲームでは、益々AIテクノロジーがキープレーヤー的役割を果たすことが確実視されているのだった。



Zoomtownに移住したミレニアル世代の悲劇


アメリカでは過去3週間に渡って住宅金利が下降傾向にあることから、ここへ来て突如7%アップしたのが住宅ローンの申請。 アメリカでは2023年も引き続き不動産価格の下落が見込まれることから、不動産投資には格好の買い手市場。
今週ゴールドマン・サックスが発表した2023年のハウジング・マーケット予測でも、全米のほぼすべての都市部や郊外で不動産価格の下落が見込まれ、 NYでさえ0.3%の下落予想。NYと並んで不動産とレントの法外な高額ぶりで知られたサンフランシスコも、シリコンヴァレーのIT企業のレイオフ&在宅勤務継続を受けて 13.7%の下落が見込まれる状況。中でも最も下落が激しいのが パンデミック中に多くの人々が移住し、テスラまで工場を移したテキサス州オースティン(写真上右側)。 アリゾナ州フェニックス、カリフォルニア州のサンノゼとサンディエゴも同様の大幅下落が予測され、地域によっては近年のピーク時に比べて25%の下落が見込まれるのだった。 逆に唯一上昇が見込まれるのがフロリダ州マイアミ。

アメリカではパンデミック後に在宅勤務がニューノーマルになって以来、都市部からの流入組で人口が増えた街のことを ”Zoomtown”と呼んでいるけれど、これは新興住宅地を意味するBoomtownと 在宅勤務をする人々がZoomミーティングをしている様子と引っかけた造語。
人々がZoomtownへの移住に踏み切った要因は、不動産価格から物価、生活費までが都市部より安価で、特に不動産は広い物件が安価で手に入ること。 加えて 自然や環境、気候に恵まれて、経済的、時間的、精神的にゆとりある生活が出来ると判断したためで、最も移住組が多かったのが 結婚、出産のピーク年齢に達していたミレニアル世代。 家族生活をスタートして間もないミレニアル世代が、移住をきっかけに生涯初のマイホーム購入に走ったことから 大きく盛り上がったのが 2020〜2021年にかけてのアメリカの住宅ブーム。 ところがそんなミレニアル世代移住組が現在 訴えているのが 彼らの大誤算と後悔の様子。

そうなったのは、2022年以降の 連銀による度重なる金利引き上げのせいで、平均的な住宅の月々のローン返済額が 1000ドル以上跳ね上がったことが1つ。 加えて移住組によって人口が増えた地方都市や郊外では不動産価格、家賃、物価が上がり始め、それにインフレが拍車を掛けたことから生活費が増大。 気象変動による異常気象のせいで ハリケーン、干ばつ、山火事、竜巻といった自然災害が、これまで起こらなかったエリアでも起こるようになり、 せっかく購入した新居が自然災害の被害を受けるケースが続出。 そして最も深刻と言われるのが、まさかの交通渋滞。これまで車の絶対量が少なかった地方都市や郊外では 突如増えた交通量に対応できず、 店のパーキング・ロットまで不足する様子が伝えられるのが現在。
すなわち移住組のせいで、それまで穏やかに保たれていた需要と供給のバランスがすっかり崩れ、渋滞、混雑、物価高、そして時に治安の悪化が取り沙汰されているのが Zoomtown。それが原因で長年の住人と移住組との間で対立が生まれているエリアも多いことが指摘されるのだった。
そんな移住を後悔するミレニアル世代は、赤字覚悟で家を売りに出すケースが増えており、 それに伴って増える傾向にあるのがブーメラン現象、すなわち都市部に戻ろうという動き。 前述のようにミレニアル世代は2020〜2021年にかけての不動産ブームで、初の不動産購入をしているとあって、 その経験不足から 競合バイヤーに競り勝つために予算オーバーの価格支払い、物件価値に対してオーバーペイドの傾向が顕著。 そのため初のマイホーム購入が、高く買って 安く売却する 苦いレッスンになっているケースが多いと言われるのだった。



アマゾン返品で生活費が稼げる? 


アメリカでは58%の人々がホリデイ・ギフトを返品した結果、アフター・クリスマスに返品されたギフトの総額は約1710億ドル。 とは言ってもアメリカ人の返品はホリデイ・シーズンに限ったものではなく、2021年にアマゾンに寄せられた返品総額は7610億ドル。 これはアメリカの年間の国防予算、7410億ドルを上回る金額。
アマゾンはフリー・シッピング&フリー・リターンのプライム・メンバーをアメリカ国内に2億人抱えているとあって、 売上の拡大と共に 返品数とその処理コストが増加の一途を辿っており、現時点で返品商品の3分の1を破棄していると伝えられるのだった。 これはアマゾンに限った問題ではなく、ターゲット、ウォルマートといったアマゾンの競合企業も同様。 そうなってしまうのが特にオンライン・ショッピングの場合、96%のカスタマーが「返品がし易いストアから商品を購入する」、 「返品に手間やコストが掛かる場合は、極力買い物を控える」という考えを持っており、 ビジネス側が売上を増やすために どんどん返品がし易いシステムを構築しているため。

そうして増えた返品商品の行き場として、このところ地方都市にオープンしているのが アウトレット・ストアを遥かにみすぼらしくしたようなストア。 ここは 一部の品物はカテゴリー別に分かれているものの、アパレルの場合、サイズやメンズ&ウーマンズがゴチャゴチャに混ざって単にラックに吊ってあるだけで、 売る側の労力をミニマムにしたセッティング。しかしそのお値段は曜日によって2枚で10ドル、3枚で10ドルという激安ぶり。 写真上左、NY郊外の「Everyday Crazy Hot Deals」は品物を搬入する木曜日が定休日。一番価格が高めに設定されるのが 搬入されたばかりの品物が豊富に並ぶ金曜日。 その後、日を追うごとに価格が下がり、最も品薄になる水曜日が最も安価というシステム。 商品はパッケージが破けたもの、外箱や説明書が無い物などが多いとは言え、とにかく激安。そのため Eベイなどで商品を転売する目的でやって来る人々が多いのだった。

そんなリセーラーにとって、もっと大きな利益が望めるのが アマゾン、ウォルマート、ターゲットといった小売り大手の返品をパレットで購入すること。 パレットとは 日本の福袋同様に 売り手が返品商品を集めたパッケージをクリエイトし、それを中に何が入っているかが分からない状態で買い取るスタイル。 パレットに含まれる商品は 家具やランプ、車の子供用シート等、サイズが大きめで、当たれば高額で転売可能なプロダクトが多いのが特徴で、 積み上げられた段ボールのひと山が1パレット。 中には製品名が書かれた段ボールもあるので、リセーラーは箱の表記やそのコンディションをチェックしながらパレットを買い取ることになるけれど、 もちろん時には 使用不可能、転売不可能なコンディションの品物も含まれているとのこと。 それでも総額7150ドル分のパレットを購入し、それをフェイスブック・グループやEベイで転売し約2万ドルの利益を上げたリセーラーも居るほどで、 品物のオリジナル価格の4割引で価格を設定するのがリセール価格の相場。 4割引で転売してもリセーラーにとって労力に見合う利益が上がるくらいなので、パレットに含まれる商品は小売価格の90〜95%オフのお値段。
それでも返品商品の量が膨大であることから、アマゾン、ウォルマート、ターゲットにとってはお金を払って処分するよりも、 超薄利多売で利益が上がる方がベターという計算。一方、リセーラー達はそれによって生活費稼ぎが出来ており、 双方にWin Winの構図を生み出しているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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