Dec. 12 〜 Dec. 18 2022
カタール、E.マスク & トランプ、思惑通り&やりたい放題, ETC.
今週のアメリカでは火曜日に11月のCPIこと消費者物価指数が発表され、その結果インフレ率は予測を下回る前年比7.1%。
今年6月の9%をピークに 5ヵ月連続の下降傾向であったけれど、その翌日、水曜に連銀のパウエル議長が発表したのが予想通り0.5%の利上げ。
この日はパウエル議長が今後の利上げスローダウンを宣言するという期待感で午前中はマーケットが上昇していたけれど、
蓋を開けてみればパウエル氏の声明はその逆。インフレが目標の2%台に戻るまで2023年も利上げを続けることを表明したために、一気に高まったのが市場の不安。
ウォールストリートでは 連銀が掲げるインフレ率2%のポリシーは 「もはや意味を成さない」という声は多いけれど、
今年7回目の利上げ発表によって、年明けには0%であったアメリカの主要金利は4.4%に上昇しているのだった。
一方、12月12日月曜にバハマで逮捕されたのが破綻したクリプトカレンシー取引所の元CEO、サム・バンクマン・フリード(以下SBF)。
そして今週検察側に情報提供をする様子が報じられたのがFTXの共同CEO、ライアン・サラメ。
入社から僅か2年でFTXのトップに登り詰めながらも、SBFのインナーサークルからは外されていた彼は、FTXの経営の裏事情を知らされた時には「気分が悪くなって吐いた」と伝えられ、
SBFがFTXのユーザーの資金をアラミダ・リサーチに流して資金繰りに使っていたことを証言。
今後、自らの減刑と引き換えに捜査に協力することが見込まれるのだった。
結局カタールの思惑通りに終わったワールドカップ
2010年にワールドカップの誘致が決定して以来、12年間に渡ってメディアが叩き続けて来たのがカタールでのワールドカップ開催。
というのも誘致に際してFIFA上層部に対する多額の賄賂の支払い疑惑が浮上していたためで、
この時にカタールと誘致を争っていたのが 次回2026年のワールドカップをカナダ、メキシコと共にホストするアメリカ。
賄賂の容疑については、2015年に当時のオバマ政権下の米国司法長官、ロレッタ・リンチが 14人のFIFA上層部とマーケティング・エグゼクティブに対して1億5000ドルの支払いがあったとして訴追。
1998年から17年間に渡ってFIFAプレジデントを務めていたセップ・ブラダーを辞任に追い込んでいるのだった。
カタールは誘致の賄賂だけでなく、開催のための高速鉄道、ハイウェイ、スタジアムを含む関連施設を建設に約2200億ドルを投じており、これは2018年のロシア大会の15倍の資金。
その財源はカタールの世界最大規模の天然ガス油田で、2022年上半期だけでも石油とガスの売上で322億ドルを稼ぎ出しているのがカタール。
その施設建設に際しては多数の移民が過酷な環境と薄給での労働を強いられて、数千人が命を落としており、既にLGBTQや女性に対する差別が問題視されていたカタールに新たな人権問題をもたらしていたのは開催前から世界中で報じられていた事実。
本来ワールドカップをホストするにはあまりに国の規模が小さく、飲酒規定や女性のドレスコードを含む様々な障壁を抱えていたのがカタール。
何故ワールドカップ開催に固執したかと言えば、誘致決定当時 カタール・スポーツ・インベストメントの責任者であったナーセル・アル=ヘライフィー(写真上左)の言葉を借りれば 「ワールドカップはカタールに変革をもたらすツール」と捉えられていたため。
ワールドカップ開催権獲得の翌年、カタールは当時資金不足で成績が振るわなかったプロサッカー・クラブ、パリ・ サンジェルマンを買収。そのプレジデントにナーセル・アル=ヘライフィーが就任し、
約14億5000万ドルを投じて行ったのが リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペ等のスーパースター選手を獲得するチーム再構築。それが実ってカタールの買収以降の11年間にパリ・ サンジェルマンはリーグ優勝8回を記録し、
サッカー界におけるカタールのプレゼンスを大きく拡大。またデヴィッド・ベッカムをカタールのアンバサダーとして、10年契約 1億5000万英国ポンドで雇い、ベッカム本人は批判を浴びながらも確実にパブリシティを獲得。
その一方でカタール国内、特にドーハでは、西側諸国からの「ワールドカップ開催を買収した」という非難や人権問題に対する攻撃を逆手にとって、
「我々が我々の富をどう使おうが、西側諸国に口出しの権限はない」と国民の結束を高めたと言われるのだった。
開催前には人権問題を理由にスポンサー企業に対するボイコットの呼びかけが一部で起こっていたものの、FIFAスポンサー76社はいずれも「一度ワールドカップが始まれば、人権問題に対する怒りや反発はすぐに忘れ去られる」という強気の姿勢で、
最も高利益が上がるスポーツ・イベントのスポンサーを降りるなど論外のポジション。特にアディダスはワールドカップ期間中だけで見込まれる売上は約4億ドル。そもそも西側の先進諸国を除くアジア、アフリカ、南米諸国は
モラルや社会問題への意識が低いことはFIFAもカタールも熟知しており、どちらもスポンサー以上に人権問題が開催の障壁にはならないと確信していたと言われるのだった。
そのため開催前には 欧州各国のプレーヤーがレインボー・カラーの”One Love”の腕章をつけることで示そうとしていたカタール政府のLGBTQ差別への抗議も FIFAがあっさりとペナルティを振りかざして禁止。
スタジアム内で観客によって行われる ありとあらゆる抗議活動も同様に厳しく取り締まった一方で、開催直前にはスタジアムでのアルコール販売許可も覆したことから
7500万ドルのスポンサー料を支払ったバドワイザーに許されたのはノンアルコール・ビールのみの販売。大赤字を強いられたバドワイザーであるものの、スポンサー権維持のためにFIFAとは良好な関係を保たなければならない立場とあって、
次回スポンサー料のディスカウントでFIFAと折り合いがついており、終わってみれば全てがカタール・ペースで進んだ開催。
そのため今回のカタールのホストぶりを”ワールドカップ・ウォッシュオフ”、すなわちカタールの人権問題や政府抑圧等をワールドカップのイメージで洗い流そうとしているとの批判は多いけれど、
アメリカではケーブル局でカタール観光のCMが流れるなど、ワールドカップのために建設した施設に今後は旅行者を迎えようとしているのがカタール政府。
サウジアラビアのゴルフ・ツアー参入に見られるように、今後もアラブ、イスラム諸国がその資金力に物を言わせてスポーツを介した西側カルチャー&エコノミーへのアプローチを続けることが見込まれるのだった。
Endless ツイッター・ドラマ 今週の物議
週問題と物議をもたらすイーロン・マスクが今週水曜にツイッターで行ったのが30以上のアカウントに対する突然の停止処分。
停止された大半がイーロン・マスクのプライベート・ジェットの飛行経路をリアルタイムでレポートする”イーロン・ジェット”を運営する大学生、ジャック・スウィーニー(20歳)のもの。
彼はイーロン・ジェットの他にも NASAのテストフライトのリアルタイム経路等、30以上のアカウントをツイッターで運営。
イーロン・ジェットの存在が知られるようになって以来、テスラCEOとして環境コンシャスなイメージを押し出すマスクが、実は10分以下の飛行時間の移動にも わざわざプライベート・ジェットを使用していることが明らかになり、
一時はマスクが「テスラ1台と引き換えに止めてくれ」と懇願する様子さえ見せていたのだった。
この停止処分はツイッターが新たに掲げたモニター・ポリシーに基づくもので、これは「特定人物の居場所をリアルタイムでモニター&シェアする、もしくはモニターしているウェブサイト情報等のシェアを禁じる」というもの。
その正当性を裏付けるために、マスクは「スウィーニーのアカウントから情報を得たストーカーに自分の子供を乗せた車が追い掛けられた」というエピソードを披露。
スウィーニーはイーロン・ジェットのアカウントをフェイスブックに移動させたけれど、翌日木曜には この一部始終をレポートをしたニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNを含む8人のジャーナリストのアカウントが
突如停止処分になったことから、猛烈なバックラッシュがマスクに寄せられる結果になったのだった。
フリースピーチの復活を掲げて ツイッターを高すぎる値段で買収したマスクは、11月6日には「たとえ身の危険があっても 自分のプライベート・ジェットを追い掛けるアカウントを停止処分にしないほど
自分はフリースピーチにコミットしている」とツイートしていた立場。 しかし突如そのポジションを覆し、それについてレポートした記者のアカウントまで予告も無しに停止処分にしたのは完全な矛盾。
しかも過去2週間以上に渡って ツイッターのコンテンツ・フィルター・テクニックを「政治圧力が掛かった陰謀」として批判していたマスクが、ジャック・スウィーニーのアカウントに対しては、フィルター・テクニックによって
ツイートが広く拡散しないようにトラスト&セイフティ部門に指示を出していたという内部情報が浮上しているのだった。
特定の人物のリアルタイムの居場所をシェアすることは”Doxx”と呼ばれ、ツイッターのDoxx禁止ポリシーは「マスクがジャック・スウィーニーを取り締まるために設けた」とさえ言われる内容。
その違反規定には「たとえ公表されている情報を、攻撃や嫌がらせ目的以外でシェアする場合も含む。ただしライブ・ロケーションの情報は例外」とあるけれど、
スウィーニーがイーロン・ジェットで公開しているフライト経路はパブリック・インフォメーションで、誰にでもアクセスできるもの。そしてその情報を極めて事務的に公開しているのがイーロン・ジェットのアカウント。
これを取り締まるツイッターの新ポリシーでは、街中でセレブを見かけた一般人がその写真を撮影した途端にツイートしただけで停止処分になるのだった。
批判を浴びたマスクは自分のアクションに対してフォロワーからのサポートが得たかったのか、ツイッター上で ジャーナリスト達のアカウントの停止解除をいつにするべきかの
アンケート調査を行ったけれど、それの回答は60%近くが ”Now”。
そのため金曜の夜中にはアカウント停止が解除されたけれど、今回のジャーナリスト・アカウントの停止処分は言論の自由を掲げていたマスクによる言論弾圧。
またツイッター社内では コンテンツ・モニター部門の人員を削減し、作業をA.I.に頼るマスクの方針に批判が集まっていたところに、
マスクがそれまで批判してきたフィルター・テクノロジーを自分本位に活用したことで、既に高まっていた彼への不信感が更に高まったと言われるのだった。
この問題は、マスクによる経営方針が明確になるまでツイッターでの広告掲載を見合わせている企業にも不信感を与えていたけれど、
イエール大学CEOサミットが 今週大手企業のCEOに対して行ったアンケート調査によれば、56%が「ツイッターでの広告をストップするべき」と考え、69%が「ツイッターのソーシャル・メディアとしてのピークは過去のもの」という考えを示し、
79%が「イーロン・マスクはツイッターにとって不利益をもたらしている」と回答。
マスクの不人気ぶりはCEOの間に限ったことではなく、先週日曜にサンフランシスコで行われたコメディアン、デイブ・シャペルのパフォーマンスで
飛び入りでステージに上がった彼に寄せられたのが猛烈なブーイング。サンフランシスコと言えばツイッターのお膝元とあって
デイブ・シャペルは「クビにされたツイッター社員が沢山来ているみたいだね」とジョークにしていたけれど、マスク経営下のツイッターは今や「決して働くべきでないトキシック・エンバイロメント」という
ブラック企業扱いになっているのだった。
その他、今週のキャッチアップ
★ 重大発表予告でトランプ氏が発売したNFT
"AMERICA NEEDS A SUPERHERO! I will be making a MAJOR ANNOUNCEMENT tomorrow." という事前予告で、
2024年大統領選挙を睨んだ新たな展開を匂わせ、支持者の期待を煽ったトランプ前大統領が
12月15日に発売を開始したのが自らの姿をフィーチャーしたNFTトレーディング・カード。
予告通りスーパーヒーローのコスチュームを纏い、実物とはかけ離れたスリムで筋肉質なボディのトランプ氏の姿をフィーチャーしたカードのお値段は1枚99ドル。
限定で4万5000枚が発売され、購入者にはトランプ氏とのマー・ラゴでのディナーや、
ゴルフのラウンド等を含むプライズへの申し込み権利が与えられるとのこと。
カードはその日のうちに売り切れたと言われるので 1日で445万5000ドルを売り上げた計算になるけれど、
デザイナー・ブランドのリミテッド・エディション同様、既にカードは再販ルートで2万ユニット以上が転売されており、そのお値段は損失覚悟の80ドルから
上は2550ドルという高値が付いているとのこと。
トランプ・サポーターと彼ら相手に儲けようとする人々が飛びついた企画ではあるものの、トランプ氏の元ホワイトハウス・アドバイザーで、下院捜査委員会での議会乱入に関する証言を拒否して
実刑判決を受けたばかりのスティーブ・バノンは、このNFT販売に腹を立てて「もっとマシなことで時間と労力を使え」と珍しくトランプ氏を厳しく批判。
同じく議会乱入に加担して6ヵ月以下の服役判決を受けた極右メディア・パーソナリティ、”ベイクド・アラスカ”ことアンシム・ギオネットも「NFTセールスマンのために自分が刑務所に行くなんて信じられない」とツイート。
それもそのはずで、トランプ氏のビデオ・ピッチはすっかり リアリティTV出演時代の姿に戻って「クリスマスがやって来る、トランプ・コレクティブル・カードはギフトにピッタリ」と、とても元大統領、2年後の選挙の大統領候補とは思えない
商魂の逞しさを披露しているのだった。
★ 空港チェック・ポイントでの銃押収が過去最高を記録
アメリカでは30以上の州で銃のオープン・キャリーが許可され、そのうち10州が許可書無しでの銃所持を認めているけれど、
日頃から銃を持ち歩く人々が旅行時にも持参する結果、2022年の空港のチェックポイントでの銃押収は今週末までに6301件。
年末の段階で6600件を超えることが見込まれており、これは昨年に比べて10%増で史上最多。
そうなってしまったのはパンデミック中に護身用を目的に銃を初めて購入した人々が増え、銃を持つ総人口が増えたことが1つの理由。
またその中には銃を機内に持ち込めないことを知らない、もしくは忘れている人々も多いとのこと。
全米の430の空港のうち、最も押収件数が多いのは、ジョージア州のアトランタ空港、次いでテキサス州ダラスのフォートワース空港、3位が同じくテキサス州のヒューストン空港。
銃の持ち込みだけでなく、2022年はナイフの持ち込みも増えたことも伝えられるけれど、銃に関しては押収されたうちの88%に実弾が込められていたとのこと。
これを受けてTSA(交通安全管理局)では、銃持ち込みのペナルティを今後1万5000ドルに引き上げることを発表しているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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