Oct. 17 〜 Oct. 23 2022
ソーシャル・メディア三銃士!?、セレブの悪態、Netflix ムーチャー、ETC.
今週、アメリカでも世界各国でも大きく報じられていたのがイギリスのリズ・トラス首相が僅か44日間の任期で辞任したニュース。
トラス首相の財源の裏付けが無い大型減税案は アメリカの経済関係者からも「80年代のレーガン政権の減税政策を2022年にやろうとするなんて」と
冷ややかな目で見られていたけれど、打ち出した政策全てにUターンを強いられての退陣は欧米で ”サーカス”、日本語で言えば ”茶番”と批判されていた事態。
2024年まで与党である保守党は、1週間以内に今年3人目の首相を選ばなければならず、現時点では前回の党首選でトラス氏に敗れたリシ・スナックが最有力。
次いで党首選で3位に終わったペニー・モーダント、夏に辞任したばかりのボリス・ジョンソン元首相の3人から選ばれる見込みであるけれど、
ジョンソン元首相が選ばれた場合は 次の正式な後任までの間を繋ぐブリッジ政権という見方が有力。
イギリスは10%を超えるインフレ、金利の上昇、政府負債の増加、エネルギー価格の高騰、生活費の上昇など、深刻な経済問題を抱える中、
英国経済の立て直し以前に、まずはその信頼回復から取り組むことになるのは必至。
エリザベス女王の死去に加えて、過去6年間で5人目の首相が程なく誕生する現在のイギリスは、かつてないほど国内外に不確定要素が多い印象を与えているのだった。
ソーシャル・メディアの保守右派三銃士!?
このところアンチ・ユダヤ発言で大きな物議を醸してきたのがカニエ・ウエスト。先週のこのコラムでも触れた通り、
ツイッターやインスタグラムからアカウントを停止されただけでなく、J.P.モルガン・チェースからは口座閉鎖と取引停止を言い渡されていたけれど、
今週に入って彼とのコラボレーションを展開していたバレンシアガも そのアンチ・セメティック(反ユダヤ)発言を問題視して、彼とのパートナーシップ打ち切りを発表。
週末には これまでカニエのブランド "Yeezy / イージー" で大儲けをしてきたアディダスまでもが 警告したのがそのパートナーシップの見直し。
バレンシアガからのコラボ打ち切りについては カニエ側は訴訟を起こすとしており、その代理人として ジョニー・デップが元妻アンバー・ハードを
名誉棄損で訴えた際に勝訴を勝ち取り、一躍時の人になった女性弁護士 カミール・ヴァスケス(写真上右)が起用されたことが明らかになっているのだった。(追記:週明けにカミール・ヴァスケスはカニエの弁護から身を引いています)
そのカニエ・ウエストは先週から「自分はユダヤ系のメディアに発言権を奪われている」と猛烈な抗議を展開。そして週明けに報じられたのが
保守右派のソーシャル・メディアで 白人至上主義の暴力的なポストや Qアノンを始めとする陰謀説のメッカとして知られる ”Parler / パーラー” の買収にカニエが動き始めたというニュース。
財政難が伝えられたパーラーは先月1600万ドルの新たな出資を取り付けたばかりで、カニエ・ウエストがいくらで買収するかは定かではないものの、年内には買収を成立させることで合意しているとのこと。
この報道を受けて、イーロン・マスクがツイートしたのが 彼自身とカニエ、トランプ前大統領を 保守右派ソーシャル・メディアの三銃士に見立てた左から2番目のツイート。
しかしさすがに現在反ユダヤ発言で叩かれているカニエと、様々な法的問題で追い詰められているトランプ氏と運命共同体のようなイメージはマイナスになるとアドバイスされたようで、このツイートは程なく消去。
リベラル派の間では「精神不安定な保守右派3人組がソーシャル・メディアの三銃士だなんて冗談じゃない!」と嘆く声が聞かれていたのだった。
現時点でパーラーの人気は下降線を辿っていて、アクティブ・ユーザー数は僅か10万1000人。トランプ氏が今年スタートしたトゥルース・ソーシャルのユーザーは約100万人、
そしてツイッターのユーザーは2億3800万人であるけれど、その多くはリベラル派。
今週はテスラの第3四半期の成績が発表されたけれど、マスクによるツイッター買収はテスラ株主にとって業績の不安材料。
今年に入ってイーロン・マスクが買収資金を捻出するために売却したテスラ株は155億ドル相当。多くの株主はそれがテスラ株下落の要因と捉えているのだった。
昨年の今頃はアップル、グーグルの親会社アルファベット、マイクロソフトと共に1兆ドル企業であったテスラの現在の企業価値は7000億ドル。
イーロン・マスクは第3四半期の業績発表後にテスラ株が6%下落したことを受けて、
テスラはやがてアップルとサウジ・アラムコを合わせた以上の企業規模になると宣言。株主の不安を払拭しようと試みていたけれど、
同時にツイッターの440億ドルでの買収はオーバーペイであることも公の場で初めて認めているのだった。
未だ買収が成立していない割には 既にツイッターのオーナーのように振舞っているマスクは、今週ツイッターの7500人の従業員のうち75%の解雇を宣言。
しかし翌日にはツイッター側が あっさりその宣言を否定。
その一方で、マスクがここへ来てウクライナ戦争についてロシアをサポートする発言を繰り返し、ウクライナのゼレンスキー大統領と
ツイッター上でやり合った後、スペースXがウクライナのサテライト・インターネット提供支援を打ち切る姿勢を見せたことから、
バイデン政権はマスクに対して警戒感を強めていることが伝えられるのだった。
3人目の三銃士であるトランプ氏は、1990年代にバーグドルフ・グッドマンのドレッシング・ルームでトランプ氏にレイプされた被害を訴えていた元エル誌のコラムニストの裁判で、今週非公開の
証言を行ったけれど、金曜には議会乱入事件の独立調査委員会が トランプ氏に対して「選挙結果を覆すための首謀者である可能性が否定できない」として正式に証言を要請。
同じ日には同委員会での証言を拒否したトランプ氏の元アドバイザー、スティーブ・バノンが証言拒否と議会に対する犯罪的侮辱罪で4ヵ月の禁固刑を言い渡されているけれど、
もしトランプ氏が証言に応じる場合、中間選挙後の11月14日が予定されているのだった。
Be Nice to Your Server
今週ソーシャル・メディアや芸能メディアを中心に大きく報じられていたのが、CBSが放映する”Late Late Show”のホストで、カープール・カラオケ等でも知られるジェームス・コーデン(44歳、写真上左から3番目)が
SoHoの長寿人気レストラン、バルタザールでサーバーを含むスタッフ2人を怒鳴りつける大柄な態度を取ったことから オーナーのキース・マクナリー(写真上左)に出入り禁止にされたニュース。
キース・マクナリーはバルタザール以外にもパスティス等の人気レストランを経営するベテラン・レストランターで、彼が経営する店はセレブリティでも特別扱いをしないポリシーでありながら、セレブの常連客が多い事で知られる存在。
ジェームス・コーデンはバルタザールに夫人とブランチに訪れ、まずは夫人がオーダーしたエッグヨーク・オムレツに僅かに卵白が入っていたことから、サーバーを呼びつけて猛烈に抗議。キッチン・スタッフが作り直しをしたものの、
オムレツのサイドに夫人がオーダーしていたサラダではなく、フライド・ポテトを誤って乗せて出してしまったことから、再びサーバーを「お前はこんな簡単な仕事も出来ないのか?」と大声で罵倒し続け、無料のドリンクを要求しただけでなく、
それまで自分達が飲んでいたシャンパンも店が払うように要求。マネージャーが謝罪してからは機嫌を取り直したものの、レストラン・サイト Yelpに「酷いレビューを書いてやる」とも脅しており、その一部始終の報告と
スタッフへの聞き取り調査結果がキース・マクナリーに報告された結果、以前にもコーデンの悪態が報告されていたこともあり、マクナリーがコーデンの出入り禁止をツイートしたというのがその経緯。
それが大報道になったことから、コーデンは翌日マクナリー側に謝罪。それを受け入れたマクナリーは出入り禁止令を取り下げたけれど、その報道がトリガーになって次から次へと出て来たのが
コーデンの悪評。彼に同様になじられた別のレストランのサーバーからの苦情もあれば、コーデンが自分の番組のカメラマンの名前を1人たりとも知らないこと、コーデンはトークショーがCMに入ると態度がガラリと変わるといったオーディエンスの証言など、
多方面から攻撃されたことから 言い出しっぺであるキース・マクナリーが同情する様子を見せていたほど。
レストランやストアでの態度が悪くてセレブリティが叩かれるケースは 昨今徐々に増えていて、特にサーバーやフライトアテンダント、ブティックの店員等が
セレブリティの悪態を暴露するのがTikTok上。
今週末には同じSoHoの長寿レストラン、ラウルのサーバーが ナオミ・キャンベル、ヴォーグ誌編集長のアナ・ウィンターの最悪の態度、
ハリー王子と婚約直後のメーガン・マークルがスーパースター気取りで予約なしに着席を要求したことなどが暴露されていたけれど、
過去にはヘイリー・ビーバーがトレンディ・レストランのサーバーに批判されたり、ビリオネア時代のカイリー・ジェナが常識的なチップを払わなかったこと、
ニッキー・ミナージが些細なことでフライトアテンダントを怒鳴りつけたこと、アナ・ケンドリックがブティックで100点満点中マイナス100点の態度の悪さだったエピソードなどが公開され、
その中には一般の人々の名前も存在も知らないようなソーシャル・メディアのインフルエンサーも何人か含まれているのだった。
レストランやショップ、航空会社は スタッフがどんなに酷い扱いを受けてもが よほどの事が無い限りはセレブリティに対して公にクレームをすることは無いけれど、
スタッフ個人のソーシャル・メディア・ポストについては責任を負う必要も無ければ、言論統制をする権利も無いのが事実。
そのためセレブリティだからといって特別待遇を押し付けたり、店員を見下した態度を取れば、ソーシャル・メディア上にリベンジ・ポストをされるのは今の時代には当然考慮しておくべきリスク。
店員に対して横柄な態度を取るべきでないのは一般人も同様で、多くのマッチング・アプリのユーザーの間では「女性でも 男性でも、サーバーに対する態度が悪い相手は1回のデートで見切りをつける」のは常識として認識されていること。
またビジネス・ディナーの席でもチェックされているのがサーバーに対する態度で、ディナーの相手が取引先でも上司でも その態度が悪ければ 下がるのが仕事上での評価。
同じトークショー・ホストでも コナン・オブライアンは、レストラン・スタッフに対する劣悪な態度を理由にスタッフを解雇していたことが今回のジェームス・コーデン絡みの報道で明らかになっていたけれど、
ウォールストリートのエグゼクティブにしても、行きつけのラウンジの女性バーテンダーに対する部下の態度が悪く、しかもチップも支払わなかったことから、後日その部下を謝罪、及び2倍のチップの支払いのためにラウンジに出向かせたエピソードもあるのだった。
結局のところ 「人を見て態度を変えるような人間であってはいけない」という結論に辿り着くけれど、ジェームス・コーデンは今週末になって
謝罪を取り下げて「自分は一切悪いことはしていない」という開き直りの態度に逆戻り。2015年から”Late Late Show”のホストを務めるコーデンは来年5月までの今シーズンを最後に降板が決まっており、
「もはや番組視聴率のために自分のエゴを抑えてまで評判を保つ必要が無いと考えている」という指摘が聞かれるのだった。
その他、今週のキャッチアップ
★ ネットフリックス・ムーチャー対策
今週2022年第3四半期の業績を発表し、新規サブスクライバーを241万人増やすカムバックをアピールしたのがネットフリックス。
第1、第2四半期で117万人のサブスクライバーを失ったネットフリックスが盛り返した要因は、連続殺人犯を描くドラマ「ダーマ―」が
アマゾンの「ロード・オブ・ザ・リング: リング・オブ・パワー」、HBO/Maxの「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」を凌ぐ大人気になったためで、
2億2300万人のサブスクライバーを擁する 世界最大のストリーミング・サービスに返り咲いているのだった。
そのネットフリックスがいよいよ2023年からスタートするのがパスワード・シェアリングの取り締まり。ネットフリックスは 家族でサービスがシェア出来るシステムが
支払い逃れの手段に悪用され、現在 ”ネットフリックス・ムーチャー” と呼ばれるフィーを支払わないビューワーの数は約300万人。
ネットフリックスではムーチャー達にフィーを支払わせるための複数の手法をテストしてきたとのことで、広告入りの安いオプションへの切り替え、
エクストラ・ビューワー・フィーとして1人当たり3ドル前後の追加料金を支払う等の複数の選択肢を提供。いずれのケースもビューイング履歴を新しいアカウントに引き継ぐことが出来るので、
プロフィール製作の手間が省けるだけでなく、従来と全く同じ感覚で視聴を継続できるように配慮されているとのこと。
既にネットフリックス側がムーチャーの存在を認識するプログラムを持っているだけに、遂に「払わなければ観られない」ネットフリックスの時代がやって来るようなのだった。
★ インフレの影響でロイヤルティ・プログラムの質が低下
アメリカではファストフード店から航空会社まで、ありとあらゆるビジネスが行っているのがポイント制のロイヤルティ・プログラム。
しかし昨今のインフレによるコスト高を受けて、そのプログラムの質を低下させるビジネスが続出。メキシカン・ファストフード・チェーンのチポトレでは無料のブリトーを貰うためのハードルが高くなり、
アメリカン航空でもアップグレードや無料チケットをゲットするためのポイントラインが上昇。同様のことはスターバックスのフリー・コーヒーにも見られているけれど、
今週それで消費者の怒りを買ったのがダンキン・ドーナツ。それまで200ポイントを貯めれば得られたフリードリンクが その4倍以上の900ポイント、金額にして50ドルを支払わないと得られない制度に変ったことから、
ダンキンのロイヤルティ・アプリを利用する1000万人が激怒し、ソーシャル・メディアで不満をぶちまけていたのが今週。
ロイヤルティ・プログラムは消費者に特定のブランドを利用させ続けるために極めて有効な手段と見なされてきたけれど、そのプログラムの質の著しい低下は
逆にブランド離れを招くようで、今週はダンキン・ドーナツよりも遥かに利点が多いパネラ・ブレッドのロイヤルティ・プログラムに移行する人々が増えたことが指摘されているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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