Apr. 4 〜 Apr. 10, 2022

"Ukraine, Twitter & BTS"
ツイッター社員が嫌うイーロン・マスク, 保守右派が嫌うBTS!? , ETC.


今週のアメリカではベースボール・シーズンが開幕し、タイガー・ウッズがマスターズで公式戦に復帰し、 上院では黒人女性初の最高裁判事、カタンジ・ジャクソンの就任が可決。引退を表明したリベラル派のスティーブン・ブライヤー判事に 代わってこの秋から新判事に就任することになり、これで最高裁判事は保守派6対リベラル派3のパワーバランスは同じであるものの、女性判事が史上最多の4人となるのだった。
その最高裁で先週から物議を醸しているのが、現在最長任期のクラレンス・トーマス判事の妻で 保守系右派のロビースト、ヴァージニア・トーマスが 2020年の大統領選挙でトランプ氏が敗れた際、 当時のホワイトハウス補佐官 マーク・ミドウズに「トランプ氏を救うために決して負けを認めず、陰謀説を広めて味方を集めるように」という約20通のEメールを送付していた事実が 現在行われている2021年1月6日の議会乱入事件調査委員会で公開されたこと。 ヴァージニア夫人は自らもワシントンの弁護士で、トーマス判事を史上初の黒人判事にのし上げたキー・パーソンと言われたやり手。 常日頃から「夫妻間ではお互いの仕事について語らない」と主張してきた夫人であるものの、最高裁判事の妻がここまでアクティブに動くのは 単に支持を打ち出すのとは全く別レベル。 そのため現在民主党を中心に高まっているのが、今後最高裁で見込まれる2020年大統領選挙、及び議会乱入の審議において トーマス判事が身を引くべきという圧力。世論調査でも 国民の52%が「トーマス判事が身を引くべき」という回答をしているけれど、当然のことながらこれに反発しているのが共和党。
その一方で、昨今では本来政治思想とは無関係に合衆国憲法に従って審議と決断を下すはずの最高裁判事が ドップリ政治思想にまみれて、票を投じる以前にその結果が分かり切っていることに失望する国民が増えており、最高裁の権威が衰え始めていることも指摘されるのだった。



戦争におけるレイプ


引き続き戦争が続くウクライナ情勢で、先週から大きく報じられ始めたのがキーウのブチャを始めとするエリアで、 ロシア軍が繰り広げたレイプ、略奪、殺戮といった残虐な行為の生々しい実態。 その惨状は、ロシア軍撤退を受けて現地入りしたウクライナ政府関係者やジャーナリスト達が目を覆うもので、 現地のウクライナ市民も「まさかロシア兵がここまで残酷になれるとは思わなかった」と語るほど。
女性たちはレイプを逃れるために髪を短くカットしていたというけれど、複数のロシア兵に3度に渡ってギャングレイプされた母親、 ギャング・レイプ後に自ら命を絶った女性達の様子が報じられ、今週改めて浮上していたのが 歴史的に戦争下で 何故常に多くの女性達がレイプされるのか、敵国に攻め入った兵士たちが何故レイプを当然の権利やプロセスのように行うのかという疑問。
戦争時のレイプはローマ帝国時代から史実に刻まれ、闘いの規模や国、地域を問わずに当たり前のように起こってきたもの。 1990年代のルワンダにおける人種浄化の際には、1日100件以上のレイプが乳幼児から75歳の女性に対して行われたというけれど、 ウクライナでもレイプの対象になった女性は16〜72歳で、ほぼ無差別状態。
レイプする側の兵士は決して連続レイプ犯などではなく、妻も子供も居るごく普通の男性と言われるけれど、 戦争という状況がそんな普通の男性をレイプに走らせるのは、何時の時代も 妻や娘達を通じて敵軍に屈辱を与えることにより、 相手の士気を打ち砕き、自分達の遺伝子を敵国に埋め込んで人種的アイデンティティを崩壊させる戦略として公認されてきたため。 また戦争という異常な状況下の兵士達にとって、レイプは伝統的にリチュアル(儀式)兼エンターテイメント。 更には兵士達が女性に対して日頃から抱いている優越意識や嫌悪、憎しみの はけ口となっているとも指摘されるけれど、 このことは戦争下に関わらず全てのレイプという犯罪のバックボーンにある心理。

ここまでの惨状を見せつけられても未だドラスティックには動けないのがNATO諸国で、特にアメリカに対するフラストレーションが高まる中、逆にロシアではその惨状が ウクライナ・ナチスによる犯罪として報じられていることから、プーチン大統領の支持率が大幅にアップ。 2021年11月の63%だったプーチン大統領の支持率は3月の段階で83%にアップ。 今週には、ウクライナの惨状が自国の兵士によるものとは夢にも思わないロシア市民が、声を震わせてウクライナ・ナチス、及びその後ろ盾をするアメリカを批判する様子が報じられていたのだった。
そんな中、ハンガリーで行われた総選挙では現職で、ゼレンスキー批判を繰り広げるヴィクトル・オーバーン首相が圧勝で4期目の当選を果たし、 これによってさらに強まると見られるのが中国とロシアとの関係強化。同じく今週行われたセルビアの選挙でも、ロシアへの制裁を拒んだ 現職のアレクサンダー・ブチッチ大統領が再選を果たしており、そんな状況もロシアのプロパガンダに巧みに利用されて、プーチン氏の正当性がロシア国民にアピールされているのだった。



ツイッター社員が最大株主イーロン・マスクを警戒する理由


今週月曜にツイッターが明らかにしたのが テスラCEOのイーロン・マスクがツイッターの株式9.2%を取得し、同社筆頭株主になったというニュース。 これを好感して月曜と火曜の2日間でツイッターの株価は30%アップ。イーロン・マスクが更に10億ドル以上の資産を増やしたことが伝えられるけれど、 マスクはツイッターが2021年1月6日の議会乱入以来行って来たセンサーシップに批判的で、一時は自らセンサー・フリーのディセンタライズ・ソーシャル・メディアの 立ち上げを掲げていたほど。彼がセンサーを嫌うのは「全ての意見を平等に扱わなければ正当な論議は生まれない」という立場からと言われるけれど、 そんなマスクの影響でツイッターがセンサー・フリーになることを見越して これを大歓迎したのが保守右派、及び共和党議員達。
ツイッター株式買収は 過去数週間に渡ってイーロン・マスク主導でツイッターと協議されてきたもので、ツイッター側は敵対的買収を防ぐためにマスクを最大株主として迎え、 彼が14.9%以上の株式を取得出来ない制限を設けているのだった。

これに対して反発と危惧を見せたのがツイッター社内。そもそもイーロン・マスクは自他ともに認めるエゴイスト、ナルシストで、最も好き嫌いが大きく分かれる存在。 加えて彼が過去にLGBTQに対する差別的発言を含む問題ツイートを行って来たこと、彼が自分のビジネスに都合が良いツイートをすることによって これれまで マスク1人の問題であったことが、ツイッター側にもトラブルをもたらす可能性が出て来たことは大きなリスク要因。 さらにはツイッターが既にエディット・ボタンの導入準備を進めていたのを承知していたマスクが、 自分が株主になった途端にツイッター・フォロワーに「エディット・ボタンを加えるべき?」という問いかけをして、いかにも自分の影響力でエディット・ボタンが追加されるかのような 小細工をしていた様子も社内スタッフが反発した理由の一つ。
その一方で学識者の間ではディセンタライズされたツイッターを危惧する声も多く、ミスインフォメーション、陰謀説、暴力的コンテンツを 取り締まることが出来ない状況が社会に与える悪影響は計り知れないと批判。そんな状況が 世界で最も影響力が強いツイッターで実現するのは、ソーシャル・メディアからしかニュースを拾わない人々が多い現在において あまりにリスキーというのがその意見。
またテスラやスペースXの株主の間では、既にこの2社以外にニューラリンク、ボーリング・カンパニーといったプロジェクトを抱え、それらで手一杯であることを理由に つい最近タレントエージェンシー、エンデヴァーの役員を辞任したばかりのイーロン・マスクが、ツイッターに彼の時間と関心を注ぐことを嫌う意見が決して少なくない状況。 イーロン・マスクの掲げるビジョンでは、ディセントラリゼーションもさることながら、 ツイッターにクリプトカレンシーによる支払い機能を持たせるとのことで、これは彼のドージ・コインびいきや ペイパルを共同設立したバックグラウンドからも容易に理解できること。
しかしツイッター社内ではイーロン・マスクに対する不安が高まる一方であったことから、ツイッターCEO、パラグ・アグワルが木曜に通達したのが マスクを迎えて 社員からのありとあらゆる質問に彼が答えるミーティングを開催する意向。 CEOではなく株主が今後の社の方針について社員から質問を受けるイベントが開催されるというのは極めて異例なことで、 これが象徴するように 今後ツイッターでは様々な形で物議や問題が生じることが見込まれるのだった。



BTSが保守右派から攻撃される理由!?


先週日曜に行われたグラミー賞授賞式で2年連続でポップ・グループ&デュオ部門にノミネートされ、2年連続で受賞を逃し、 2年連続でグラミー側に視聴率獲得の手段として利用されたのが、今ではすっかりKポップの枠を超えたスターダムを確立したBTS。 受賞を逃した彼らに対してはビリー・アイリッシュや俳優のトム・ホーランドといったセレブリティまでもが抗議のクレームをし、 グラミー賞選考基準の不明瞭さが指摘されていたけれど、これは今に始まった話ではなく、ウィークエンドやドレークといった ミュージシャンがグラミーをボイコットする理由になって久しいもの。
そのグラミー賞が行われたラスヴェガスで今週末、来週末にコンサートを行うのがBTSで、 ヴェガスではホテル&カジノ、市庁舎ビル、空港等がBTSカラーのパープルでライトアップされ、11のホテルがコンサート期間中にBTSスウィートを含むBTSテーマのホテル・ルームを設置。 べラジオ・ホテルの噴水ではBTSの楽曲に合わせたショーが行われ、ナイトクラブ”ジュエルズ”では BTSコンサートのアフター・パーティーがホストされ、オフィシャル・グッズのストアとそのポップアップが街中にオープン。 韓国フードのカフェも期間限定でオープンするなど文字通りラスヴェガス全体がBTS一色。 ヴェガスが特定のアーティストのためにここまで大々的プロジェクトを行ったのは初めてのことで、その中には コロナ明けに旅行者誘致を狙う韓国のプロモーションも含まれているのだった。

今や韓国GDPの6%を稼ぎ出すBTSであるけれど、そのファンはアーミー(A.R.M.Y./ Adorable Representative Master of Ceremonies for Youth,)と呼ばれ、 結束が固く、BTSに対する人種差別や不当な扱いに極めて敏感かつ、それと闘う姿勢で知られる一方で、BTSの音楽から受けたポジティブな影響を社会に広めるためのチャリティにも熱心。 世界各国のファンがメンバーの名前で彼らがサポートするチャリティに寄付を寄せているだけでなく、”One in an ARMY / ワン・イン・アン・アーミー”という ファンベースをグローバルに結ぶボランティア・オーガニゼーションも存在するほど。同団体は2018年からシリアの難民支援、 貧困地域へのクリーン・ウォーターの提供や貧困層への奨学金や食糧の提供、LGBTQの青少年ホームレス救済等、 多岐に渡る活動を行っており、これだけ機動力のあるファンベースのオーガニゼーションは前例を見ないと言われるほどなのだった。
BTS自体も2020年にはブラック・ライブス・マター(BLM)の運動に、アーミーが集めた寄付金と同額の100万ドルを寄付した他、 メンバー全員が個人でもチャリティに寄付を行い、国連のユニセフで過去に2回 若い世代にインスピレーションを与えるスピーチを行うなど、社会問題コンシャスで知られる存在。 しかし世界的に今も根強いのが 彼らをボーイバンド、それもアジアのボーイバンドとして見下す偏見。過去を振り返っても、ニューキッズ・オン・ザ・ブロック、インシンク、バックストリート・ボーイズ、ワン・ディレクション等の ボーイバンドは音楽的に評価されないだけでなく、ティーンエイジャーが一時的に夢中になるだけのエンターテイメントと捉えられがち。 それがアジア人となると 見下す態度に人種差別が絡んでくるのは容易に想像がつくところ。
そうした歪んだ視点から眺めると、BTSがBLMに寄付をしたり、メンタルヘルスや虐めの問題を語ること、 アーミーがBTSに対する人種差別や攻撃に反応し、チャリティに熱心に取り組む様子はネガティブに映るようで、BTSが不当な批判や攻撃のターゲットになってきたのは 世界的人気が高まってからも継続する状況。 特に世界各国で観られるのが右寄り勢力による風当たりの強さで、そもそもBTS及びアーミーがサポートする 環境問題やLGBTQの権利、差別とヴァイオレンスへの抗議、および社会の古いシステムに反発する姿勢は ミレニアル&ジェネレーションZには共感を呼ぶものであっても、保守右派からは反感を買うもの。
またアーミーはBLMの抗議活動が盛んに行われていた2020年春にソーシャル・メディア上で右翼のハッシュタグを乗っ取り、BLMの抗議活動者を逮捕するためにダラス警察が使っていたアプリにスパムを送り込むといった アクションも起こしており、さらには同じく2020年6月にはトランプ前大統領がオクラホマ州で企画していた選挙キャンペーン・イベントに約100万人分のフェイクの参加申し込みを寄せて、 主宰者側が会場外のイベントまで企画したにも関わらず、僅か6000人程度の支持者しか集まらずに終わったという伝説的エピソードにも加担。 それが右翼の反感を買ったのか、その直後にはFOXニュースに登場した女性コメンテーターが、BTSの写真を提示して「このハイライトが入った肌が男のアイドルだなんて先行きを危惧せざるを得ない」と 意味不明な批判を展開。それとは別にインドでは、イスラム教徒に市民権を与えない市民権改正法にアーミーが抗議をしたことから、そのファンサイトが 保守派政府によって一時的ながらも閉鎖される事態も起こっているのだった。

BTSアーミーはメディアの世界では最も機動力と結束力があると同時に最もポリティカルなファンベースと言われて久しいけれど、 問題はBTS側もアーミーも「政治的意図はない」という意志表示をしてチャリティ活動を行っていることで、これに政治的な意味を持たせているのは それぞれの思惑が絡む右左双方のメディア。
ところで今年のグラミーでは、黒人差別用語であるNワードを使っている様子を捉えたビデオがヴァイラルになったカントリー・シンガー、 モーガン・ウオーレンが一切ノミネートされなかったけれど、3月に行われたアメリカン・カントリー・ミュージック・アワードでは 彼が最高の栄誉であるアルバム・オブ・ジ・イヤーを受賞。 そのアルバムセールスが大きく伸びたのは 人種差別発言ビデオがヴァイラルになって以来 ウォーレンの楽曲がラジオ局やストリーミングのプレイリストから外されたことに反発した 保守右派がアルバム購入で彼をサポートしたためで、アメリカン・カントリー・ミュージック・アワードはまさにそんな保守右派による保守右派のための音楽賞。 要するにミュージシャンは音楽だけで評価されることは決して無く、常に人種を含む政治的視点でまずジャッジされるということなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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