Jan.10 〜 Jan. 16, 2022
今週話題と物議を醸した2つのプロダクト & ノントキシック・メールの時代
今週報じられたアソシエ―テッド・プレスとNORCセンターによる世論調査によれば、「ウィルスを恐れている」と回答したアメリカ人は昨年同時期の53%から37%にダウン。
医療のエキスパートの間でもコロナウィルスをインフルエンザと同格に扱うべきという意見が高まっていることが報じられたのが今週。
それよりもアメリカ国民が恐れているのは経済の先行きで 68%が現在最大の懸念事項に挙げていたけれど、それを象徴するかのように
水曜に発表された昨年12月のCPI(消費者物価指数)によれば、昨年同月に比べて7%進んだのが米国のインフレーション。これは今から40年前の1982年以来最速のペース。
住宅、中古車、アパレル、家具、スポーツグッズ等、全ての価格が上昇しているけれど、何と言ってもアメリカ社会に大打撃を与えているのはガソリン代が前年比で50%の上昇を見せていること。
加えてベーコンが19%、ステーキが21%、卵が11%という食材の値上がりは消費者だけでなく、レストラン業界にとっても打撃で、
ドミノ・ピザは今週、それまで10ピース入りで7.99ドルだったチキン・ウィングを 価格は据え置きのまま8つ入りにして販売することを発表。
またオミクロン感染が広まった影響で、今週は全米で500万人以上が仕事を欠勤した結果、既に崩れていたサプライチェーンに更に打撃を与えて、
全米各地のスーパーで見られたのが食肉、パン、乳製品等の棚が埋まらない品薄状態。
パンデミック突入直後のパニック買いが原因の品薄状態とは異なる状況とは言え、食材不足はオミクロン感染が一段落するまで続くと見られているのだった。
KFCからデビューした”ビヨンド・フライド・チキン”のリアクション
フード・デリバリーの最大手、グラブハブによれば2021年に全米で最もオーダーされたメニューが、ヴィーガン・ミートを用いたヴェジタリアン・バーガー。
アメリカでヴィーガン・ミートの二大勢力になっているのはバーガー・キングとパートナーシップを結ぶインポッシブル・ミートと、マクドナルドのパートナーになっているビヨンド・ミート。
ファストフード業界はヴィーガン・ミートのメニュー導入に最も積極的に動いている存在で、
バーガー・キングのインポッシブル・ワッパ−、ダンキン・ドーナツのビヨンド・ソーセージ・ブレックファスト、リトル・シーザーのインポッシブル・ソーセージ・ピザ、
サブウェイのビヨンド・ミートボール・マリナラ、ホワイト・キャッスルのインポッシブル・スライダー等、
今やビヨンド&インポッシブルのヴィーガン・ミート・メニューを手掛けていないチェーンは無いと言えるほど。
そんな中、今週KFCから鳴り物入りで登場したのが、ビヨンド・ミートとのパートナーシップで生まれた”ビヨンド・フライド・チキン”。
フライド・チキンとパッケージに書かれていても、これは実際にはチキン・ナゲットで、そもそもチキン・ナゲットとは細かく挽いた鶏肉を含む正体不明の肉に調味料と混ぜ物を加えたペースト状の物体。
チキン・ナゲットのDNA検査をすると鶏肉が殆ど検出されないと言われるほど。しかもそれをハニー・マスタードやBBQソース等、味の濃いソースにディップして味わうとあって さほど肉本来の風味が問われないアイテム。
そのためチキン・ナゲットは最もフェイク・ミートに適したプロダクトとも言われ、既にインポッシブル・ミートを始めとする幾つものブランドが冷凍食品として販売しているほど。
インポッシブル・チキン・ナゲットはパートナーであるバーガー・キングの店舗でも試験販売が行われており、そのスポンジ的な食感がマクドナルドのマックナゲットに近いと評価(?) されていたのだった。
KFCのチキン・ナゲットは正式デビュー前に2回試験展開が行われていて、その都度 取り扱い店舗には大行列が出来て、ソーシャル・メディア上でもトレンディングになっていた人気商品。
それが今週から4000を超える米国内のチェーン店舗で販売されたけれど、大方のリアクションは「Taste exactly like chicken」というもので、
チキン・マックナゲットよりもテクスチャーが密で肉に近いとの指摘もあるけれど、こうしたポジティブなリアクションはもっぱら日頃からファスト・フードを食べつけている人々。
これがフード・クリティックになると「悲惨なほど不味い」というリアクションになる訳で、要するにジャンクな味わいを好むか好まないかで評価が真二つに分かれるのだった。
ヴィーガン・ミート自体が肉より割高とあって、KFCチキン・ナゲット6ピース入りのお値段は7ドル。12ピースのナゲット・コンボ(コールスローやフライド・ポテト等のサイド・ディッシュ1つ、2種類のディッピング・ソースとドリンクのセット) のお値段は
14.99ドル。これはもっと満腹感が得られるフライドチキンの12ピース入りバケットと同価格。そのためファスト・フードを食べ慣れている人にとってはコスト・パフォーマンスが悪いのは言うまでもないこと。
バーガー・キングもインポッシブル・ワッパーを販売し始めた2019年にはそのお値段が8ドルであったけれど、今では2つで6ドルのセットメニューが登場しており、これはコストが落とせるほど販売数が増えたため。
KFCでも人気が高まれば同様のプライスダウンが見込まれるのだった。
KFCのチキン・ナゲットを早速トライした中にはヴィーガンの人も多かったようだけれど、ナゲットは通常のフライド・チキンと同じフライヤーで調理されおり、
揚げている油には肉のエキスが混入しているので、これが果たしてヴィーガンと言えるかは意見が分かれるところ。
同様のことはバーガー・キングのインポッシブル・ワッパーでも指摘されており、牛肉のパティを焼いた肉汁が残った鉄板でヴェジタリアン・パティが調理されるので、
本物のビーフの風味が味わえるのはそのためとさえ言われるのだった。
KFCのビヨンド・フライドチキンの原料には小麦粉、大豆プロテイン、植物油、小麦グルテン、酵母エキス、ジャガイモ澱粉、レブニング、米粉、エンドウ豆繊維、そしてクエン酸がリストされていて、
肉の味を演出するケミカルがたっぷり使われているのは言うまでもないこと。それにパン粉をつけて揚げることを考えるとカロリーは若干下がっても不健康フードには変わりがないのもまた事実。
アメリカのヴェジタリアン・ミートの売上は過去5年間に100%アップし、その市場規模は14億ドル。それに対して本物の肉の市場規模は約2000億ドル。
パブリシティやソーシャル・メディアのバズの割にはまだまだ本物の肉に替わるには程遠い存在。事実、スーパーの食肉棚がスカスカだった今週のアメリカでも
ビヨンド・ミートのヴィーガン挽肉は棚に並んでいた訳で、ファスト・フードとしてトライする人は多くても自宅で調理しようという人はまだまだ少ないようなのだった。
何故こんなプロダクトが商品化?、犯罪をサポートするアップルのエア・タグ
今週スポーツ・イラストレーテッド誌のスイムウェア・モデルとして知られるブルック・ネイダー(写真上左)が ソーシャル・メディアを通じて訴えたのがアップル社のエア・タグのリスク。
1月5日にトライベッカのレストラン、オデオンで友人とナイトアウトを楽しんでいた彼女のアイフォンにその後5時間に渡って出続けたのが
「不明なアクセサリーが検出された」というメッセージと共に「This item has been moving with you for a while. The owner can see its location (このアイテムは貴方と共に動いて、アイテムの持ち主は
そのロケーションを知ることが出来ます)」という警告。
その不明なアクセサリーが彼女のコートのポケットに何者かが忍び込ませたエア・タグ。すなわちこれを入れた人物は、彼女の自宅を突き止めようとしていた訳で、
あやうくストーカー被害、もしくはレイプ等の犯罪に見舞われるかもしれなかった彼女が女性達にリスクを警告していたのだった。
同様のケースはカリフォルニア州でナイトアウトを楽しんでいた2人の若い女性や、ノース・キャロライナ州の女子大生からもレポートされているけれど、
エア・タグは本来キーホルダー等に装着して、それが見つからない時にアイフォンの「Find my...」の機能で探し出すためのもの。
サイズはアメリカの25セント硬貨とほぼ同じで、これによって出掛ける前に車のキーが見つからない等のジレンマが防げる個人用途に開発されたディバイス。
しかし実際には犯罪ツールとして使用されるケースが多く、2021年末にレポートされた最新の自動車泥棒の手口もこのエア・タグを使用したもの。
ギャング団が高級車にエア・タグを装着し、車の持ち主の自宅を突き止め、後に自宅からキー共々車を盗み出すというのがその手口。
また1日に3人の割合で女性が夫やボーイフレンドによって殺害されているアメリカで危惧されているのが、
ドメスティック・ヴァイオレンスをようやく逃れて身を隠している女性や その女性を訪ねる家族の荷物やコートにエア・タグを忍ばせれば、尾行することなく
容易に居場所が判明してしまうこと。そこまでして追いかける男性ほど女性に対して強い憎しみや殺意を抱いている訳で、
エア・タグはすっかり犯罪の便利グッズになっているのだった。
アップル社はこれらの事態を受けて、「カストマーの安全を重視している」、「不明なエア・タグの存在を知らせる機能によって悪意のある使用を防いでいる」と
釈明しているけれど、ブルック・ネイダーを含むリスクをレポートしている女性たちはこぞって、不明なアクセサリーの存在は知らされても、それが何で何処にあるかが分からなかったことをレポートしているので、
これだけでは不十分。またアップル社では警察に通報すれば 知らない間に装着されたエア・タグに関する入手可能な情報を法的機関に提供するともコメントしているけれど、
レイプや殺人が起こってから犯人が分かったところで報われない訳で、今後何らかの事件が起こって、それにエア・タグが使用されていたことが立証された場合には、
アップル社がかなりの損害賠償リスクを抱えるのは必至と言えるのだった。
アルファ・メールは女性に嫌われる!?、ノントキシック & シグマ・メールの時代
今週オーストリアの大学の心理学教授が発表したのが、平均年齢23歳の75人の男女を対象に調査したところ、男性の方が鏡で自分の姿を見る時間が平均で5秒長かったというデータ。
これが男性にもルックスが問われる時代になったためか、ジェネレーションZの男性がよりナルシストなのかは不明であるけれど、
女性側の男性に対する好みは時代と共に確実に変わってきていて、今や女性に嫌われる存在になっているのが俗に言う ”α Male / アルファ・メール”。
これはマスキュランで人の上に立ちたがるリーダータイプ、サクセス志向やエゴ、物欲、性欲が強く、良く言えばダイナミック、悪く言えば身勝手な昔ながらの強い男性像。
これに対して”β Male / ベータ・メール”というものもあるけれど、これは見た目に地味で、弱く、社交性も無い受け入れ型。世の中や組織の底辺に甘んじ、消極的で落ち込んだ印象の男性。
長きに渡ってハリウッド映画の主役になってきたのがアルファ・メールで、古くは西部劇のジョン・ウェイン、007のショーン・コネリー、80年代以降ならアーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローン、
近年ではリアム・ヘムズワース、デュウェイン・ジョンソン、ジェイソン・モモア等、アクション俳優系がその好例。
でもミレニアル世代がショーン・コネリー時代の007映画を見ると、彼は単なる女性蔑視が激しいレイピスト。ジョン・ウェインの映画は時代背景を反映した人種差別や女性蔑視が問題視されて
全く放映されなくなって久しい状況。
しかも昨今ではアルファ・メールというと 「自動小銃で武装しないとマスキュランなエゴが保てない保守派の白人至上主義者」というイメージも強く、
オンラインのデート・サイトに登録しても全く相手が見つからないのがこのタイプ。ちなみにメディアの多くが1月6日の議会乱入に加担したトランプ支持者の顔写真を拾っていたのが
彼らが登録していたデート・サイトのプロフィール。
そのオンライン・デート・サービスでは、「女性に人工中絶権利を認める」ボックスにチェックを入れるだけで
デート相手が見つかる確率が60%以上アップするのだった。
そんなことからも分かる通り、現在女性が好むのは性差別、人種差別の意識が無く、インテリジェンス、自己表現力、ユーモアのセンス、人の心理を思いやる繊細さ、肉体的な強さよりも精神的な強さを備えた
ノントキシックな男性像。MeTooムーブメントの影響も手伝って性欲を剥き出しにしないタイプが人気。
セレブリティではティモシー・シャラメ、ハリー・スタイル、KポップのBTS、最新のスパイダーマン・シリーズの主演 トム・ホーランド等がその好例で、
エンターテイメント界もミレニアルやジェンZが好む男性像にシフトしてきているのだった。
それとは別に2020年を前後して注目を集めてきたのが前述のアルファにもベータにも属さない ”Σ Male / シグマ・メール”。
シグマ・メールを表現する際に最も頻繁に用いられるのが”Lone Wolf”、すなわち一匹狼という言葉で、スポーツ観戦からナイト・アウトまで男友達と群れたがる”Broカルチャー”とは正反対。
余計な人間関係を作らず、プライバシーを重んじ、世の中の価値観には捉われず、自分を極めることに徹し、信頼できるパートナー等 ごく少数にしか心を開かないミステリアスな男性像。
ミニマリストでファッションや持ち物には自分のこだわりを反映しても トレンドは決してフォローせず、ソーシャル・メディアで自分のライフスタイルをオープンにしたり、他人をフォローするなどはあり得ないのがこのタイプ。
大企業で上司の命令に従って のし上がって行くのではなく、自分で起業した会社を大きくする野心を持ち、リーダーシップはパワーでコントロールするよりも、経験と能力で自ら引っ張って行くスタイル。
そんなシグマ・メールの好例と言われるのがキアヌ・リーヴスで、彼の場合、演じる役どころもプライバシーを重んじる私生活もシグマ・メールそのものと言われる存在。
でも冷静に考察すれば、アルファにもベータにも属さない「まともな男性」を意味するのがシグマ・メールで、そのノントキシック・ヴァージョンこそがこれからの時代にアピールする最強の男性像と言えるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2022.