Aug. 2 〜 Aug. 8 2021

"Overrated Olympic Economy, Real Job of AntiVaxer, Etc."
州知事セクハラが刑事訴追に、五輪経済効果のオーバーレーテッド、アンチヴァクサーの本当の職業、 Etc.


今週金曜に発表された7月の米国雇用統計によれば、94万3000の仕事が生み出され 失業率は5.9%から5.4%に低下。 しかしこれだけ雇用が生まれても全米の人手不足は深刻で レストラン、ホテル、小売業等、ありとあらゆる業種で続くのが求人が埋まらない状況。
NYでは春先にスキャンダルになっていたアンドリュー・クォモ州知事のセクハラ問題にいよいよNY司法省のメスが入ったのが今週。 11人の女性被害者の証言を纏めた詳細なレポートが火曜日に発表され、その日のうちにバイデン大統領を含む 民主党の有力者がこぞってクォモに対する辞任を要求。 本人はビデオメッセージで容疑を否定したものの、ニューヨーカーの70%が彼が「辞任すべき」という意見で、春先には過半数が「任期を終えさせるべき」、「辞任は望まない」と回答していたことを思うと、 世論が大きくシフトした様子を窺わせているのだった。
また問題のレポートによれば、2014年から2020年8月までクォモ知事のプレス・オペレーションを担当し、その後フェイスブックのトップ・コミュニケーション・マネージャーとなったダニ・リーヴァ―が、 セクハラを訴えた被害者、リンジー・ボイランの個人情報をフェイスブックのデータベースから悪用し、彼女の 評判を落とす画策をしていたとのことで、クォモとリーヴァ―を相手取って損害賠償訴訟を起こしたのがボイラン。 さらに金曜には、匿名でレポートに登場した元エグゼクティブ ・アシスタントが、クォモに対して刑事責任を問う訴訟を起こしており、 週末のアンケートではニューヨーカーの55%が「クォモに刑事責任を問うべき」と考えていることも明らかになっているのだった。
アンドリュー・クォモは、彼同様にNY州知事を務め、民主党重鎮であった父親、マリオ・クォモの七光りで 政界のサラブレットとして地位を上げてきた存在。しかし彼の不祥事を受けて、 父親の名前が付いた”マリオ・クォモ・ブリッジ”を 以前からニューヨーカーに親しまれたてきた”タッパンジー・ブリッジ”に戻すプランが浮上。 彼の弟でCNNのパーソナリティであるクリス・クォモについても、番組で兄のセクハラ・ニュースを一切報じない姿勢が問題視され、 CNNに対してクリス・クォモ解雇を求める声も同時に高まっているのだった。



五輪経済ダメージ、東京は大丈夫か?


東京五輪開幕翌日のNYタイムズのニューズレターで掲載されたのが、「Are the Olympics a bad deal?」というコラム。 そこには東京五輪が当初73億ドルの予算を謳って準備がスタートしたものの2019年の段階でそれが280億ドルに膨らんでいたこと、 そして五輪経済効果リサーチの第一人者であるスミス・カレッジのアンドリュー・ジンバリスト教授の見積もりで 「東京五輪は延期コスト30億ドルを含めて、最低でも350億ドルの損失を出しているはず」というショッキングが数字が記載されていたのだった。
でもオリンピックがオーバーバジェットになるのは決して珍しいことではなく、2012年のロンドン大会は50億ドルの予算が 実際には180億ドルの出費、 史上最高額と言われた2014年のソチ冬季五輪は103億ドルの予算が終わってみれば510億ドルに膨れ上がり、2016年のリオ大会も予算は140億ドルで 実際のコストは200億ドル。1960年以降のオリンピックは、インフレをアジャストすると 平均172%のオーバーバジェットになっているのだった。
それでも各国がオリンピックを競って誘致してしてきた理由は言うまでも無く開催国にもたらされる経済効果であるけれど、 オリンピック最大の収入源である世界各国での放映権料のうち40億ドルを獲得するのがIOC。 開催国は誘致のための活動資金、IOCエグゼクティブへのVIP接待費、セキュリティ、アスリート達の食事、施設建設などの出費を強いられるけれど、 それが開催中の旅行者による観光収益、チケット売上、消費のアップ等の経済効果を上回るケースは殆ど無いことが指摘されて久しい状況。 サクセスフルな大会運営をした場合でも、掛け捨てになった多額の保険料、施設のメンテナンス料等、大会後の出費が 借金に加わることから、そのツケが納税者に回ってくるのが過去のホスト・カントリーの実態。 それでも誘致が競って行われてきたのは、ホスト国になれば オリンピックを口実に一部のビジネスが税金から莫大な利益を上げられるためで、 「オリンピックを誘致したがる国ほど、政治や企業の闇が深い」と言われるようになったのは前回2016年のリオ大会を前後してのこと。
また水泳、体操、陸上といった日頃は陽の目を見ないスポーツのメダリストにCM出演、自叙伝出版、モチベ―ショナル・スピーカーとしての引退後のキャリアが もたらされるのもオリンピックで、五輪経済効果は「Winners Take All」と言われて久しい状況。この場合、Winnersは莫大な利益を上げる政治家や企業、 メダル獲得でにわかセレブリティになるアスリート達、Losersは税金で彼らを潤す国民というのがシナリオなのだった。



Anti Vaxerの正体


今週世直しツイートで知られるチャッド・ローダーが暴いたのが、ロサンジェルスで行われているアンチ・ワクチン抗議活動の主要メンバー達が ことごとくIMDBにプロフィールを登録しながら、出演作のクレジットが殆ど無い、いわゆる売れないアクター達である事実。 すなわち「仕事が無いので収入をアンチワクチンの抗議活動の”出演料”で賄っている」のが彼らの実態で、 メディアのインタビューで問い詰められるとワクチンに関する知識はほぼ皆無、もしくは付け焼刃の科学的根拠がない理論しか語れない醜態をさらすビデオまで ポストされているのだった。
これに対しては「保守右派が今年1月6日の議会乱入の首謀者から、銃乱射事件で子供を失った親までを ”左翼に雇われた役者”と言っていたのは、 自分達が役者を雇っていたからなのか?」との皮肉も聞かれていたけれど、 仕事が無い俳優達に同情する声が聞かれていたのも事実。 というのもソーシャル・メディア上のアンチ・ワクチン陰謀説の出所は僅か12人程のインフルエンサーで、彼らはそれぞれに裏で巨大なスポンサーが付いていたり、 自ら科学を否定するホリスティック・メディスンの企業を経営するマルチ・ミリオネア。 ソーシャル・メディア・ポストが黙っていてもヴァイラルになるようにデザインされており、最小の労力で多額の利益を上げている存在。
それに対して売れない俳優たちは抗議活動の告知から、イベント・ホストの準備、インフルエンサーのポストのリツイートやコメント、 プラカードやTシャツの製作をした上に、毎日のように場所を変えては屋外で何時間も抗議活動をしなければならず、 しかも給与は時給やプロジェクト払い。フリーランス扱いなので健康保険や失業保険、401Kが無いのは当然のこと。 そのため「ワクチンについてどう考えるか以前に 売れない俳優になると 別の仕事をしても一生エキストラ同然の扱いに甘んじてしまう」というリアクションが聞かれたほど。
また「健康保険が無い状態で ワクチン未接種者が集まる抗議活動をホストするのだから、きっと陰でワクチンを接種しているに違いない」、 「そもそも役者志望なのだから 実際にはワクチンを打っていて、お金のためにAnti Vaxerの演技をしているだけだろう」という憶測も飛び交う結果になっているのだった。



ジェニファー・アニストンが説明、ワクチン接種者が未接種者と距離を置く理由


アメリカは今週、ワクチンを最低1回接種した国民が70%に達し、Fully Vaccinated(モデルナ&ファイザーの2回の接種、またはJ&Jの1回接種)の人口も50%を超えたばかり。 しかしデルタ変異種の感染スピードは ワクチンの普及を上回っており、今週の全米の1日の新規感染者数は10万人、死者数は500人を超えて、昨年のピークを上回る勢い。
そのためNYでは全米に先駆けて レストランのインドア・ダイニング、シアターを含むエンターテイメント施設、ジムでのワクチン接種証明提示が義務付けられ、 その実施前に駆け込み接種をする市民が急増。またワクチン接種率がルイジアナ、アラバマと並んで極めて低かったアーカンソー州でも、 猛威を振るうデルタ変異種のせいで入院ベッドが州全体で25床しか残っていない危機的状況を迎えたこと、死者のほぼ100%がワクチン未接種者であることを受けて、 今週はワクチン接種者が150%以上アップしているのだった。 また企業も一定の期限を設けて、それまでにワクチン接種を義務付けるところが増えてきたのが今週のこと。

そんな中「今となってはワクチン未接種の友人とは 距離を置かざるを得ない」とソーシャル・メディアにポストしたのがジェニファー・アニストン。 これに対しては 「ワクチンを打ってプロテクトされているのなら、何故周囲の未接種者を危険視する必要があるのか?」といった内容の批判やコメントが多数寄せられたけれど、 同様の批判やコメントはワクチン接種を呼びかけるワクチン接種者にも頻繁に寄せられるもの。 それに対して”完璧”と評価される回答をしたのがジェニファーで、内容を要約すると 「もし未接種者が変異種のウィルスを持っていたら、私は入院や死亡には至らなくても変異種に感染してしまう。 そして私がその変異種を他のワクチン未接種者に感染させてしまえば、その人の命に多大なリスクを与えてしまう。 今は自分達だけをケアすれば良いという時期ではない」というもの。
またアメリカの感染症の第一人者でパンデミック以降すっかりセレブになっているアンソニー・ファウチ博士(写真上右)は、 「感染が続く限り、ウィルスはワクチン未接種で抗体を持たない人々のDNAの影響を受けるので、変異種が生まれ続ける」と警告。 特にデルタ変異種は、既往症の無い健康な10代、20代が発熱等の初期症状を訴えた3日後には集中治療室入りし、最悪の場合死亡するケースが相次いでおり、 命が救われても味覚が戻らない、微熱が数ヵ月続くなどの後遺症を引きずるリスクは年齢を問わず決して侮れないもの。 今週は我が子を失った親達がメディアで「ワクチンを打ったら子供の生殖機能が衰えるという陰謀説を信じてしまった」と後悔と悲しみを訴える一方で、 病院側が「入院段階になってワクチンを投与してくれという患者が非常に多い」実態を語る様子も見られていたのだった。
前述のように8月半ばからワクチン・パスポートが必要になるNYでは、アンチ・ワクチン派の間でフェイク・ワクチン・カード入手情報が飛び交っているけれど、 それに対して「フェイク・ワクチン・カードを所持すれば、公文書偽造容疑で逮捕される」と一釘刺すコメントをしたのがNY州司法長官。 ワクチン・カード提示義務が法的効力を持つのは9月半ばであるものの、フェイク・カードを所持した場合はそれを待たずして立派な犯罪扱いになるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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