Feb 8 〜 Feb 14 2021

"#FreeBritney"
ブリットニー・スピアーズのドキュメンタリーが暴いた
成人後見制度の地獄、ファンは彼女を救えるか!?



今週のメディアで最も報道時間が割かれていたのは、トランプ大統領の二度目の弾劾裁判の行方。 民主党検察側が1月6日のトランプ支持者による議会乱入の未公開映像を含めたビデオ・プレゼンテーション、実際に議会に押し入った支持者達による「トランプ大統領の指示を受けて行った」という ビデオ証言等、周到に準備をして裁判に臨んだのに対して、トランプ氏の弁護団は有罪に必要な共和党議員17人の寝返りが無いことを見越した かなりの手抜き弁護を展開。基本的に共和党側は既に任期を終えた大統領の弾劾は違憲であるという立場を崩さず、 民主党はトランプ氏を弾劾しなければ 任期を終える直前の大統領が何をしても許されることになると主張。またトランプ氏有罪により再び政権を握るチャンスを閉ざすことにより、 トランプ氏が今後出馬するリスクではなく、出馬して敗れた場合に起こる同様の暴動のリスクを回避出来るという説を展開したものの、 予定より早い土曜日に投票が行われるスピード採決。結果は弾劾には10票及ばない57-43でトランプ氏の無罪が確定。 しかし7人の共和党議員が寝返ったのは史上最多記録で、共和党内、及び共和党支持者の間でトランプ支持派と不支持派の亀裂がさらに顕著になってきた様子を強く印象付けているのだった。



Bitcoin, Apple Next?


さて今週は週明けにテスラ社が15億ドル相当のビットコインを購入したニュースが流れ、ビットコインが新高値を更新する急上昇を見せたのは既に世界中で大きく報じられた通り。 通常これだけのビットコインを購入するにはOTC(Over the Counter/自身の大量購入によって市場価格が上がるのを避けるために市場外で購入すること)で最低でも6週間を要するので、テスラが実際に購入に 動き始めたのは年末年始の段階。テスラ社はビットコインを準備資産としてだけでなく、同社EVの支払い手段としても活用することを明らかにしているのだった。 先週にはビットコインをいち早く社の準備資産に加えて、ビットコインによる利益が本業の利益を上回ってしまったマイクロストラトジー社のCEO、マイケル・セイラーが、 S&P500にリストされる大企業を含む多くのCEOやエグゼクティブに対し、購入法や税金対策等ビットコインを企業として導入するノウハウのレクチャーを行っているけれど、 そのマイクロストラトジー社はビットコインを資産に加えてからの僅か数ヵ月でマーケットキャップが10倍に拡大。
今ではマス・ミューチュラルのような保守的な保険会社もビットコインを購入しているのに加えて、ハーバード、イエール、ブラウンといったアイヴィーリーグの大学も昨年からビットコインに投資をしていたことを発表。 今週にはマスター・カードがクリプトカレンシーによる支払いを採用する意向を明らかにし、Bank of NY メロン、ドイツ・バンクもビットコインを含むクリプトカレンシーをファイナンシャルサービスに加えることが伝えられ、 週末になってからはモルガン・スタンレーがそのカウンターポイント・グローバル・インヴェストメント部門でビットコインへの投資を示唆していることをブルームバーグが報じたところ。 アマゾンもまずはメキシコでクリプトカレンシーの支払いシステム導入をスタートし、マイアミは市の職員給与や税金の支払いをビットコインで行うことを承認。 そしてカナダではアメリカより一足先にビットコインのETFが今週認可されているのだった。
そんな状況なので ジェイZを含むラッパーからリンジー・ローハンのような世間が忘れかけたセレブまでもが、ソーシャル・メディアを通じてクリプトカレンシーへの支持や それを使ったプロジェクを表明する有り様。 前回2017年のビットコイン・ブル相場はケイティ・ペリーがビットコインのロゴをネールにフィーチャーした週に終焉したので、セレブが乗り込んでくることを嫌うビットコイナーは少なくないけれど、 今週 次にビットコイン大量購入の噂が飛び交っていたのがアップル社。 その中にはテスラのビットコイン購入を数週間前から予測していたグループによるポストもあり、それによればアップルが購入に動いているのはテスラの3倍以上に当たる5億ドル分のビットコイン。 既にアップルペイという支払いプラットフォームを持つアップル社は ビットコインを導入することにより、ロビンフッドやペイパルを上回る規模のクリプトカレンシーのビジネスが見込めるのだった。



今週話題が集中したブリットニー・スピアーズのドキュメンタリー


さて先週末に公開されて以来、アメリカの話題が集中してきたのがブリットニー・スピアーズのコンサバターシップ(成人後見制度)に問題を投げかける ドキュメンタリー「Framing Britney Spears / フレーミング・ブリットニー・スピアーズ」。フレーミングとは英語で人を陥れることを意味するけれど、 ティーンエイジャーとして世界のトップスターになったブリットニー・スピアーズは、その後のメルトダウンの影響で、 過去13年間に渡って父親であるジェイミー・スピアーズのコンサバターシップ下にあり、財産管理からキャリアの決断、彼女の結婚に至るまで 全てをコントロールしてきたのが父親。その父親はブリットニーがスターになる段階で尽力した”ステージ・ファーザー”という訳ではなく、 彼女がメディア・バッシングやパパラッツィの執拗な追い掛けのせいで精神不安定な状況になってから乗り出してきた存在。 現在は、財産管理を家族ではなくファイナンス企業に託すことを希望するブリットニーと コンサバターシップの継続を主張する父親が裁判で争っている真っ最中で、 ブリットニーは父親がコンサバターである限り、一切のパフォーマンスやレコーディングをしないと宣言しているのだった。
それもそのはずで、これまでのレコード売上やラスヴェガスのレジデンシーで7億ドル以上を稼ぎ出しているはずのブリットニーの個人資産は6900万ドル。 父親はヴェガスのレジデンシーやブリットニーのライセンス・グッズの売上のパーセンテージをコンサバターシップのフィーとして受け取っているだけでなく、 ブリットニーと対決する裁判の費用まで彼女の資産から支払っている完全なパラサイト状態。

ブリットニー・スピアーズのファンの間では既に何年にも渡って、彼女をコンサバターシップの地獄から救い出すための#FreeBritneyの活動が続いてきたけれど、 それがメディアと世論の大きな注目を浴びるきっかけとなったのがニューヨーク・タイムズが製作し、Huluで放映された「フレーミング・ブリットニー・スピアーズ」。 本来、コンサバターシップとは年老いてアルツハイマー症等の影響で自らの決断が出来ない人物に対して後見人の代行権利が法律で認められること。 しかしブリットニー・スピアーズの場合、一時的に精神が不安定になった時期があるとは言え、1人で普通に暮らせる39歳。パフォーマーとしてもカムバックしてしていた訳で、 その財産を含む全てを後見人がコントロールするというのは 明らかに不適切な状況。
しかしアメリカでは一度後見人が付くと その排除は不可能で、特にブリットニー・スピアーズのように巨額の収入が黙っていても入り込むケースでは、 後見人だけでなく その恩恵を受ける複数の人物や企業が、組織的かつ意図的に後見人制度を継続させるのは全く珍しくない状況。 父親側にとってコンサバターシップ継続の切り札になってきたのブリットニーの精神状態で、彼女はこれまでに複数回 本人の意志や行動とは無関係に 精神医療施設に入院させられており、ブリットニーが選んだ弁護士は裁判所の判事に提出された診断書の内容にアクセスすることが出来なかっただけでなく、 判事による「本人には弁護士を雇うだけの正当の判断力が無い」という判断で解雇されるなど、 医療と司法が共に後見人である父親の思惑通りに動いてきたのがこれまで。
しかし昨年11月の裁判では、ブリットニー側は父親を後見人から外すことは出来なかったものの、彼とファイナンス企業がコンサバターシップをシェアする判決が下っており、 これを不服とした父親の訴えが棄却されたのが今週のこと。 その判決には、ドキュメンタリーの公開によって大きく盛り上がった#FreeBritneyのムーブメントが少なからず影響していると見られるのだった。



ファンの怒りが集中したジャスティン・ティンバーレイク


「フレーミング・ブリットニー・スピアーズ」では、ブリットニーにコンサバターシップが認められるきっかけになった彼女のメルトダウンがいかにして起こったかをタイムラインで描くことにより、 当時の彼女の奇行の数々がごく普通の精神状態の人間に起こるべくして起こった悲劇であることを検証。 その大きなきっかけになっていたのが、2002年にシンガー、ジャスティン・ティンバーレイクとの交際が終焉した際、ティンバーレイクがそのヒット曲「Cry Me the River」で ブリットニーを不貞を働いた悪者に仕立て上げ、彼女とのセックスについてメディアでコメントするなど、英語で言う ”Slut Shaming/スラット・シェイミング” を展開したこと。 そのメディアと世間の注目を利用して彼のソロ・キャリアが大きく花開いたのは周知の事実。
それとは別に ブリットニーがパパラッツィに追い掛け回されていた2000年前後は、タブロイド紙の1号の編集予算が約1400万ドル。そんなご時世に1枚100万ドルで買い取られていたのが ブリットニーの写真。特に彼女が見るからに取り乱した写真を掲載すると雑誌の売上が大きく伸びており、彼女を追い掛け回すパパラッツィのアグレッシブさが尋常でなかった様子を裏付けているのだった。 またメディアに叩かれるブリットニーに弁明の機会を与えるかのように装っていた報道番組のインタビューでも、ABCTVのかつてのトップ・アンカー、ダイアン・ソーヤーが 厳しい質問で責めつけた挙句、当時のメリーランド州知事夫人が語った「もしブリットニー・スピアーズを撃ち殺すチャンスがあるなら、私は実行する」という過激なコメントを本人にフィードバック。 ショックを受けたブリットニーが泣き出して 途中でストップした2003年のインタビューは、ファンならずとも覚えている人が多い有名なエピソード。 さらに当時はトークショーからクイズ番組までもがブリットニーをジョークの対象にしており、20代にして国を挙げたバッシングのターゲットになっていたのがこの頃の彼女なのだった。

今週にはドキュメンタリーにフィーチャーされていなかった当時のブリットニー・バッシングの様子もソーシャル・メディア上でヴァイラルになり、 ティンバーレイク、ダイアン・ソーヤー、当時彼女をネタにしていたコメディアン達に対して 「ブリットニーに謝罪をしろ!」という猛烈なプレッシャーと、当時の冷血ぶりを批判するバッシングが集中。 特にジャスティン・ティンバーレイクについては、2004年のスーパーボウルでジャネット・ジャクソンと共演した際に、”ワードローブ・マルファンクション”により彼女の胸が露出したトラブルで、 ジャネットだけが批判の対象となってキャリアを台無しにされ、彼は軽く謝罪をしただけで上手く逃げてしまったことから、今も彼を責めるジャネットのファンが今週のバッシングに便乗。 ティンバーレイクは金曜になってブリットニー、ジャネットの双方に謝罪すると共に、白人男性の優位性を理解していなかった反省をインスタグラムでポストしているのだった。
ジャスティン・ティンバーレイクやダイアン・ソーヤーの残酷さは、2002年、2003年には誰も問題提起をしなかったことであるけれど、 今では世の中がポリティカリー・コレクトになったのに加えて、インターネットによって過去の出来事が決して消え失せない時代になったのは言うまでもないこと。 「フレーミング・ブリットニー・スピアーズ」は、今だったら大騒ぎになるような問題発言や意地悪なジョーク、厳しいインタビュー、無神経なパパラッツィ等によって追い詰められ、 一時的に自分を見失ってしまったブリットニーが、その後何年にも渡って払い続けている代償が あまりに大き過ぎる実態を赤裸々に描いたドキュメンタリーで、 多くの人々の同情と怒りを掻き立てているのだった。

今週にはファンだけでなく、サラー・ジェシカ・パ―カー、マイリ―・サイラスといった多くのセレブリティも#FreeBritneyの活動をサポートしているけれど、 ブリットニー本人は現在インスタグラムを通じてのみファンとコミュニケートする状況。 長年彼女をフォローしている活動者によれば、近年の彼女のポストはダイレクトなメッセージを避けて、暗示的なものになっているとのことで、 それはアウトスポークンなポストをすれば、またいつ精神医療施設に押し込まれるか分からないことを本人が危惧しているためと説明されるのだった。
#FreeBritneyの活動はブリットニー本人だけでなく、これまで、そして現在も不当な成人後見人制度で苦しむ人々全体の問題と言われるもの。 一時的に精神が不安定になった資産家を、その後も一生に渡って精神状態を理由に後見人となった家族や親類等が 収入源としてコントロールするのは堂々と行われてきた犯罪行為。 特に精神医療の世界では 一度でも「精神不安定」のレッテルが張られた人物については 何の医学的根拠が無くても 家族や後見人の適当な嘘やでっち上げにしたがって 精神医療施設に送りこんだり、強力な処方箋薬を投与するなど、まともな人でも精神病を患うような”医療行為”が行われるのは決して珍しくないこと。
ブリットニーのケースは 彼女が大衆を魅了するスターであったからこそ 多くのファンが何年も諦めずに活動を続けてきたけれど、 普通の人であれば 救おうとする側がギブアップせざるを得ないのが成人後見人制度の地獄なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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