Vol.14 June 30 2026
Officiating Crisis
NBAからワールドカップまで、審判が構造的にスポーツをダメにするシナリオ!?


 ワールドカップが6月11日に始まり、6月13日にNYニックスがNBAチャンピオンに輝いた際、ニューヨーカーが口々に言っていたのが ”We need a break”、すなわち ワールドカップで熱くなる前に休息が必要だということ。というのもニックスのチャンピオンシップまでの道のりは英語で言う"Nail-Biter"、手に汗握る接戦の連続。 加えてニックスは伝統的にレフリーに冷遇されがちなチーム。今回のNBAファイナルでもサンアントニオ・スパーズのスター・プレーヤー"Wemby"ことヴィクター・ウェンバンヤマがニックスのプレーヤーを 投げ倒してもノーファウル。逆にニックス・プレーヤーが少しでも彼に触れると直ぐにファウルを取られ、アメリカ唯一の全国紙 USAトゥデイは、 「どうしたらレフリーがウェンバンヤマにファール・コールをするようになるか?」とニックス・ファンに尋ねる皮肉を込めたビデオ・セグメントを設けたほど。 熱心なファンほど試合観戦で血圧と心拍数が上がってしまうので、「プレーオフに入ってから10歳老けた」というニックス・ファンも居たほど。
 NBAとサッカーのワールドカップと言えば、最もレフリーの誤審が物議を醸す2大スポーツ・イベントであるけれど、 これらに限らず審判による物議でエンターテインメント性や公平性が失われているのが現在のスポーツ界。  これにはスポーツ賭博合法化、超高性能なリプレイ、過度に細分化されたルール、審判育成制度の崩壊等の複数の要因が絡んでおり、 プロ&アマチュア・リーグに止まらず、子供達の野球やサッカーの試合に至るまで、審判問題はスポーツに深刻な影を落としているのだった。


スタープレーヤーへの反則をカウントしない審判、処分しないリーグにボイコットが…


 アメリカで先週末からSNSとスポーツ・メディアで大きな物議を醸しているのがWNBA。 インディアナ・フィーバーのスーパースター、ケイトリン・クラークが対戦相手、フェニックス・マーキュリーの選手に故意に転倒させられ、 倒れた彼女の首元にパンチを浴びせたのがマーキュリーのアリッサ・トーマス(写真上右)。下手をすれば命に関わる暴力をレフリーはノーファウルで見逃し、ファンの激怒を受けて 後日リーグがトーマスに下した処分は僅か1試合の出場停止処分。審判は「見ていなかった、気付かなかった」で無罪放免。
 カレッジ・スーパースターから2024年に鳴り物入りでWNBAにデビューしたケイトリンは、リーグの人気とスポンサーシップを1人で背負う、かつてのマイケル・ジョーダンのような存在。 それがリーグ会長とほぼ全プレーヤーからの嫉妬と憎しみの対象になり、ケイトリンへの格闘技並みのファウルは軽視され、彼女が何もしなくても不当なファウルを受ける様子は 見る側に不快感を与えて久しい状況。そのためファンは怪我でケイトリンが出場しなかった先週末のフィーバー戦をボイコット。通常満席になるスタジアムは空席だらけで、 同様の試合ボイコットは”ゲームコット”という名称がついて、リーグ全体に呼び掛けられる異常事態。これにはジョーダン、ステッフ・カリーなどNBAのレジェンドも苦言どころか抗議の声明を出し、 WNBA審判とリーグ運営側に猛烈な非難が殺到しているのが現在。

 そんな審判の不正や誤審を防ぐ手段として、今シーズンのMLBにはABS(自動ボール・ストライク判定システム)、2026年ワールドカップには、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されたけれど、 少なくともワールドカップに関してはこれが大きな火種を提供しているのが実情。 というのもVARがミリ単位のオフサイドを見逃さない一方で、誰の目にも明らかな反則をあっさり見落とすため。
 その典型例がイラン対エジプト戦のロスタイムに決まった決勝と思われたイランのゴールが僅か1ミリのオフサイド、過去の大会では誰も気付かなかった微細なレベルで取り消されたこと。 コロンビア対ポルトガル戦でも同様のオフサイドでコロンビアが重要な勝利を逃した様子は、サッカー本来のエキサイトメントを殺ぐと同時に、後味の悪い思いを残すもの。
 ブラジル対スコットランド戦では、特に問題がないプレーでVARが使用された結果、軽微な接触を理由にブラジルのヴィニシウス・ジュニオールのゴールが取り消される事態が発生。 要するにVARはレフリーの誤審を正す目的よりも、レフリーが粗探しをしてゲームの流れを変えるための道具として使用されている感が否めないのだった。



審判の若手が育たない背景

 かつては「レフリーの誤審も運のうち」と言われ、1986年のワールドカップでアルゼンチンのディエゴ・マラドーナが見せた"The Hand of God(神の手)"によるゴールは、 主審の目を欺いたことが責められるより、讃えられた伝説のプレー。
 それから40年が経過した今では、スポーツ賭博が爆発的に普及。グループ戦終了時点で今回のワールドカップには110億ドルの掛け金が動いており、 賭けの内容も勝敗や得点差だけでなく、イエロー・カードの数などゲームの詳細に渡っているのは周知の事実。 そのため、例え勝敗を左右しなくてもレフリーの判断1つが掛け金の行方を左右するけれど、野球やNBAの審判が エゴや感情でブレると言われる一方で、試合をコントロールする目的で誤審を行うと指摘されて久しいのがサッカー、特にワールドカップのレフリー。
 FIFAは過去に誤審で物議をかもしたレフリーを起用し続けることは有名で、アジア・アフリカ勢のファウルに厳しく、時に言いがかり的なクレームをするのは毎度のこと。 今回のワールドカップの主審は大会期間中の基本報酬として、過去最高の10万ドルを受け取り、グループ・ステージは1試合ごとに3千〜5千ドル、 決勝トーナメントは1試合ごとに最大1万ドルが追加で支払われ、決勝まで担当するトップクラスの審判は最大30万ドルを手にする計算。  しかしここまで効率良く稼げる機会はそうそう無いのが実情で、プロ・レベルのサッカー・レフリーの年収は10万ドル程度。 NBAレフリーの25万ドル~50万ドルの年収に比べると少ない印象なのだった。

 スポーツ審判の世界でも現在は人材不足が深刻で、そうなるのはユース・リーグやハイスクール等の審判育成段階で大量に人材が離脱するため。 原因は審判が保護者やコーチによる暴言・暴力のターゲットになるためで、リトル・リーグのアンパイアが判定を不服とした親に銃を突き付けられたり、 サッカーのレフリーが試合後にプレーヤーの父親やチームのコーチに殴られるといった事件が決して珍しくないのが今のご時世。 もちろんコーチも「息子がスタメンから外された」といった理由で保護者からの暴力や罵倒の対象になって久しいけれど、 こうした下部組織からの育成ルートが機能しないことから、プロリーグは例え誤審が多くてもベテランを起用し続ける一方で、 試合管理能力を身につける前の経験不足の審判を使わざるを得ない状況。
 プロリーグが女性レフリーを採用するようになったのも、男女平等よりも むしろレフリーの数が足りないためで、 どんなにファンやメディアから顰蹙を買おうと、よほどの事が無い限りはクビにならないことを熟知しているのがレフリー側。 だからこそ彼らが理不尽なエゴやプライドをゲームに持ち込むと言われ、今やスポーツは 対戦相手との闘いだけでなく、 正義や公平性、モラルを欠いた審判との闘い、時にその上に存在するリーグやトーナメントの母体との闘いまでもが強いられる時代になっているのだった。

Yoko Akiyama

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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