Jan Week 4, 2025
Musk=Trojan Horse?
OG VS.テックブロ、MAGA勢力が分断、イーロン・マスクは「トロイの木馬」?


今回はこのコーナーへの質問ではなく、年末にCatch of the Weekのコラムで触れた MAGA(トランプ支持勢力)の分裂と対立について複数ご質問を頂きましたので、 大統領就任式までにさらに変化した現状のご説明を兼ねて、思うところを書かせて頂きたいと思います。

就任式でお祭りムードのMAGA勢力であるものの、その内部分裂が始まったのはクリスマス直後。 H1-B就労VISAについて DOGE(政府効率化局)を運営するビリオネア・コンビ、イーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワニーが 「アメリカには、ハードワークで有能なエンジニアがいない」、「H1B労働VISA制度を見直し、有能なエンジニア、特にインドからのエンジニアに対して数の制限なく与えるべき」 「スペースXで働く人材としてH1Bヴィザを持つ有能な外国人エンジニアと、トウモロコシを食べて育った純粋なアメリカ人の何方が相応しいか」と、アメリカ人を無能扱いし、インドからの優秀なエンジニアの受け入れをツイートしたのがきっかけ。
H1-Bは、管理職以外の企業駐在員が申請するVISAであり、アメリカで大学を卒業、もしくはキャリアアップのためにMBAを取得した人々が、卒業後に米国で就労経験を積む際に申請するVISA。 審査基準は「高度技術、特殊技能を必要とする職種」で、延長期間を含めて通常6年間有効。しかし発行数に制限があり、限度に達するとたとえ審査基準を満たしていても取得は不可能。 そのためシリコン・ヴァレーでは、各企業が有能な移民弁護士チームを擁して、H1-B VISAの獲得に凌ぎを削っており、H1-Bの数が業績を左右するとも言われたほど。 ちなみに現時点で最多のH1-B VISA労働者を抱えるのは、他ならぬテスラなのだった。
トランプ陣営は選挙戦中から、不法移民の強制送還だけでなく、アメリカ人から高額給与の仕事を奪う H1-Bヴィザの廃止を謳って、移民反対の保守右派の支持を集めてきただけに、 マスクとラマスワニーのツイートには第一期トランプ政権誕生時からトランプ氏を支持してきた OG(Original Gangsterの略) MAGAが大激怒。 その抗議をツイートしたところ、イーロン・マスクが報復として 複数のOG MAGAアカウントを閉鎖する措置を取り、それによって対立がスタート。 トランプ氏がマスクとラマスワニーの主張に反論することを期待していたOG MAGAは、トランプ氏が「H1-Bは良いプログラムだ。自分の会社でも使って来た」という手のひら返しのポストを自らのSNSにしたことで、 トランプ氏を引き続き熱烈に支持しながらも、イーロン・マスクに対する不快感、不信感を募らせているのだった。

ここで対立勢力についてご説明すると…

最後のインド人への警戒については、グーグルCEOのスンダー・ピチャイ、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ、YouTube CEOのニール・モーハン等、近年のアメリカの大企業は多数のインド系CEOを擁していることから、 筋金入りのナショナリストが多いOG MAGAはインド人を「新たなユダヤ人だ」と主張。これまで米国財界を牛耳ってきたユダヤ人に代わる新勢力と警戒し始めて久しく、 DOGEのラマスワニー、米国史上初のインド系セカンド・レディになる副大統領J.D.ヴァンスの妻、ウシャ・ヴァンス、トランプ氏がFBI長官に指名し大波紋を呼んだキャッシュ・パテル、 ホワイトハウス上級AIアドバイザーに就任するインド人エンジニア、スリラム・クリシュナンらが、インド勢力を拡大することを危惧しているのだった。

VISA問題については トランプ氏やマスクはそもそも二枚舌。既にクローズしたトランプ・モデルエージェンシーでは、30人以上がH1-B VISAで働いており、 その中に含まれていたのがメラニア夫人。夫人は前トランプ政権下の2018年、スロヴァニアの両親のグリーンカード取得のスポンサーになっており、 トランプ氏が廃止を訴えていた「芋づる式の移民システム」を活用して物議を呼んだのだった。
イーロン・マスクにしても、選挙戦中には不法移民を「人食い人種」呼ばわりして 罵倒していたものの、本人は南アフリカで生まれ育ち、その後移住したカナダから 1990年代に弟のキンバルと共に学生VISAでアメリカに入国。 大学を直ぐに辞めて労働VISA無しに違法でビジネスを始め、2002年にインベスターをスポンサーにグリーンカードを取得したことは 数年前に自らポッドキャストで語っていた事実。
このことは 選挙前に民主党メディアが批判していたものの、当時は取り合わなかったのが OG MAGA。 しかし自分達の投票がイーロン・マスクの利益に利用されたと感じ始めてからは、徐々に問題視するようになってきたのだった。



OG MAGAが唱える 「マスクはトロイの木馬」説


対する テックブロMAGAとその主張を簡単に纏めると、

このMAGA対立は年明け以降も深刻化しており、スティーブ・バノンは「イーロン・マスクをMAGAから追放する」と宣言。しかし そのマスクはトランプ氏の選挙勝利以来、1泊2000ドルのマー・ラゴのコテージに住み着いており、 政権人事から、予算に至るまでをアドバイス。年末にマスクがマーラゴを数日離れた際には、 ビル・ゲイツからマー・ラゴ訪問の申し出を受けたトランプ氏が 「ビル・ゲイツが来たいって言っているけれど、イーロン、何時戻って来る?」というメッセージをマスクに送付。 これは本来はプライベート・メッセージであったけれど、トランプ氏が誤って自らが所有するSNS、トゥルース・ソーシャルにポストしたことで明らかになったもの。
OG MAGAの不満がくすぶっている間に、インド人のH1-B VISAは更新時に国外に出る必要が無くなり、 トランプ政権下では 宇宙開発、AI、クリプトカレンシー等、テクノロジーに関わる有能な人材にその枠が使われるとのこと。 それによってアメリカの高額給与ポジションを移民が占めると、大手IT企業はヴィザ・サポートを理由に移民の給与額を抑えることが可能になり、 アメリカ人従業員の給与も 能力が高い移民の給与額を引き合いに出して抑えることが出来るとあって、企業は人件費が大きく削減できるシナリオ。 このことはトランプ氏が大統領就任演説で語った「アメリカはメリット・ベースになり、人種は関係ない」という言葉に表れているのだった。

もはや再選を狙う必要が無いトランプ氏にとって、有権者として自分を支えたOG MAGAは既に蚊帳の外に追いやられつつある存在。 それを悟り始めた ConservativeOG代表のインフルエンサー、プレストン・パラ(23歳)は、「シリコンバレーのIT大富豪が、アメリカ、そして世界を乗っ取るシナリオが進んでいる。」とバイデン氏が国民への最後のスピーチで語ったのと同じ内容のセンテンスをポスト。加えて「イーロン・マスクはトランプ政権の ”トロイの木馬”だ」と発言。
この「トロイの木馬(英語でトロ―ジャン・ホース)」とは、トロイア戦争でギリシャ軍が 難攻不落の城塞都市”トロイア”を攻略するため、巨大な木馬を残したまま 敗北を装って撤退。 油断したトロイア軍が 木馬を戦利品のように城塞の中に運び入れて勝利を祝っていたところ、木馬の中に潜んでいたギリシャ兵たちの攻撃で 街ごと乗っ取られてしまったエピソードからきた表現。 要するに味方、もしくは無害な存在と見せ掛けて、内側に深く入り込んでから攻撃することを意味し、同名のコンピューター・ウィルスはあまりにも有名。 OG MAGAは、選挙戦後半で強い味方として登場したイーロン・マスクが、内側からトランプ政権を支配すると見ている訳で、それは一連の就任式イベントで トランプ氏がマスクを持ち上げる姿を見て多くのアメリカ国民が実感したこと。
トランプ氏自身は、今後4年間の任期で目指すのは米国大統領として歴史上稀なるレガシーを残すこと。
宇宙開発、AI、クリプトカレンシーといった未来を担うセクターの礎を自分の政権下で築くのもその一環で、これらは78歳のトランプ氏にとって理解の域を遥かに超えた分野。 そのため規制、予算、政策をイーロン・マスクに頼らざるを得ないのは織り込み済みで、シリコンヴァレーの富豪がトランプ支持を打ち出したのも 自分達が遣ろうとしている未来計画にトランプ氏が口を出せないと見込んだため。
トランプ氏は今も OG MAGAを上手くコントロールし続ける意欲は満々で、メインストリート・メディア弱体化を狙うトランプ政権下で大衆心理をコントロールする役割を担うのは保守右派のインフルエンサー達。 そのことは 若い男性OG MAGAに絶大な影響力を持つポッド・キャスターのジョー・ローガンやインフルエンサーのジェイク&ローガン・ポールが就任式イベントでVIP扱いされていた様子から見て取れるもの。 同時に行っているのがドイツ、フランス等先進諸外国の保守右派インフルエンサーの手懐け。彼等はマー・ラゴに招待され、トランプ氏のマウス・ピースになる意気込みが最高潮に高まっているところで、今後4年間、Xを始めとするSNSでトランプ氏の広めたい情報を拡散する役割を担うのだった。

とは言えアメリカ国内のSNS上では、昨年末から「我々はトランプとヴァンスに投票したが、当選したのはイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワニーだった」等、 OG MAGAの嘆きや怒りの声が収まっていないのが実情。実際に 今となっては2024年の選挙で勝利を収めたのはトランプ氏と 大富豪のトランプ支持者達。シリコンヴァレーもウォールストリートも、 DEI(多様性、公平性、包括性)といった社会的道徳や建て前を切り捨てたビジネス最優先の政策を支持しており、 それが実践されて 庶民が虐げられても OG MAGAが諸悪の根源と見なすはトランプ氏ではなくイーロン・マスク。 トランプ陣営はマスクの手腕を利用しながら、彼に悪役を引き受けてもらう気満々とも言われる中、マーク・ザッカーバーグ、 ジェフ・ベゾス、アップルのティム・クックらも IT大手有利の展開にマスクを利用してはいるものの、それぞれにトランプ氏に取り入りながら、 マスクの独り勝ちは許さないとばかりに裏で団結を深めていると噂され、まるで戦国時代のような 勢力合戦が表面でも水面下でも繰り広げられるのが今後。
ロイターが就任式当日に「乱気流に巻き込まれる4年間の始まり」と報じた通り、今後のアメリカを含む世界全体が向かうのは 果たして何が事実かウソか、 何が社会の善悪かの見分けがつかないまま、事態が二転三転して、数多くの「まさか」が起こるフィクションのような時代。 これはまさに風の時代の乱気流そのもので、そんなご時世では精神状態をまともに保てることが極めて重要。 思いこみが激しい人、SNSに書き込みをせずにはいられないような 他人事を流せない人々から 精神的に潰されていくことが見込まれるのだった。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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