Dec Week 1, 2024
Transgender in Women's Sports
トランスジェンダーの女子スポーツ参加を支持しないリベラル派っておかしいですか?


アメリカでブルーステートの大学院に通っています。
今回の大統領選挙は、人工妊娠中絶の権利が掛かっていたので女友達も男友達もハリスさんに投票していたのですが、結果には皆落胆してしまいました。 大学の知りあいで唯一、トランプに投票したことをオープンにしてドン引されている人が居るのですが、その人をAさんとすると、 Aさんがトランプを支持した理由は、彼女が大学時代に奨学金を貰うほどの競泳選手で、民主党を支持したらトランスジェンダー・アスリートに女子選手の長年の努力を簡単に奪われてしまうからだそうです。
私もトランスジェンダー・アスリートが女子スポーツに参加するのはアンフェアに感じるので、彼女の言い分に理解を示したのですが、 以来、私のことを唯一の仲間のように扱うので困っています。 そして「トランプに投票したっていうと皆がイライラして面白いから、開き直ってMAGAハットでも被ろうかな」などと言ってきます。
でも投票権が無いとは言え、私はリベラル派で、特に学校関係者にはドリーマーと呼ばれる移民の親に連れて来られたせいで不法移民になった人達が何人も居ます。 そうした人たちの方が、何不自由のないアメリカ人よりも優秀で努力をしている姿を目の当たりにして、ドリーマーのサポート・ラリーには参加するようにしていますし、 昨年からプロチョイス(妊娠中絶擁護派)のラリーにも参加しているので、私はAさんとは全く相容れない考えの持主なのです。 正直なところAと話していると、政治やトランプの話題を避けて通れないので、ストレスを感じることが多いのですが、 Aも私が好きな訳ではなく、選挙のほとぼりが冷めて、周囲が穏やかになるまでの場繋ぎバディだと思っているのは良く分かります。
でも今の調子だと、時間が経過しても他の友達とAが歩み寄れるようなことは無いように思えて、 この状態が続くのは嫌だなと思い始めています。 そこで、秋山さんにお尋ねしたいのは、LGBTQはサポートする立場で、トランスジェンダー・アスリートに対して女子スポーツ参加資格を否定するのって 私は、男子部門ではアヴェレージの実力しかないアスリートが、性転換で女子部門に移った途端にチャンピオンになるのは、 性同一障害ではなく、アスリートとしてメリットを追求しているように思えてしまいます。 例外を設けることが、差別に繋がっていくのことは理解していますが、女性アスリートに対してフェアであろうとした場合、 トランスジェンダーは排除するべきではないでしょうか。
いろいろ考えていると、分からなくなってくるので、秋山さんがこの件についてどうお考えかのアドバイスが頂けたら嬉しいです。 これからも頑張って下さい。

  ー J ー


アメリカ社会のトランスジェンダー問題


今回の選挙では、トランスジェンダーが保守有権者の間では大きな争点になっていたので、Aさんのように考えるアメリカ人は少なくないように思います。
数年前からレッドステーツを中心に、「子供達にLGBTQ+の存在を教えなければ、ゲイやトランスジェンダーになることは無い」という共和党の主張に親達が賛同した結果、 同性愛について1行でも書かれている書籍が学校図書館から追放されるようになり、フロリダ州ではドラッグ・クイーンが登場するイベントに子供を連れて行っただけで親が罪に問われるようになりました。 またアメリカのトランスジェンダーには現役・退役を問わず軍人が多く、彼らの性転換手術には一時保険が適用されていましたが、それについて上院議員時代にコメントしたカマラ・ハリス氏のビデオが スウィング・ステーツの共和党選挙CMに使用され、「カマラ・ハリスは国民の税金で、若者をトラスジェンダーにしようとしている」という誤解を招いたことで、ヒスパニック男性票がトランプ氏に大量に流れる要因にもなりました。
私個人の意見では、日本社会とアメリカ社会ではトランスジェンダーを含むLGBTQ+問題の奥深さは異次元です。 ですから日本に住む人々が 日本と同じ感覚でアメリカのLGBTQ+の問題をジャッジするのには無理があると考えていて、 そのままの考えをアメリカ人に語るといろいろな誤解を招く可能性を理解しておくべきだと思います。

かく言う私もアメリカに来たばかりの1990年代には、時代が時代だったこともあり 同性婚に反対の立場でした。 ですがNYに住み始めると ゲイの友達が出来たり、仕事を通じて関わるケースも出て来るので、そんな人たちから「何時から同性愛者だと悟ったのか」、「どうやって親にカミングアウトしたのか」、「親はどんな反応をしめしたのか」といった バックストーリーを聞くうちに、それまで未知だった人々への理解が深まり「誰に迷惑をかける訳でもないのだから、ゲイ同士を結婚させてあげればよいのに」と考えるようになりました。 やがて2004年にマサチューセッツ州が全米に先駆けて同性婚を合法にしましたが、この年の大統領選挙では 民主党大統領候補ジョン・ケリーがマサチューセッツ州上院議員だったことから、 「あいつが大統領になったら同性婚を全米に広める」という危機感を煽った共和党の戦略が見事に功を奏して、不人気だったはずのジョージ・W・ブッシュが再選されました。 同性婚が全米で認められたのは2015年、第二期オバマ政権下で、この頃までには時代がかなり変わっていましたが、それでもオバマ氏は再選を視野に入れる必要が無かったからこそ踏み切れたのだと思います。
NYで同性婚が合法になったのは2011年のことでしたが、私はこの時点ではゲイカップルの養子縁組には反対の立場だったのを覚えています。 理由は同性婚では最初から子供が持てないのは織り込み済なので、ヘテロ・セクシャルのカップルに養子縁組の機会を与えるべきだと考えたためです。 ですがその考えが変わったのは、ゲイ・カップルが極めて優秀なペアレンティングをしていると悟ったためで、 そもそも子供を養子縁組するゲイ・カップルは裕福で高学歴です。そして自分達のせいで子供達が差別されないように、気遣いと教育が行き届いていて、 NYやLAのPTAミーティングでは「ゲイカップルが居てくれる方が和やかになる」と言われるほどでした。考えを改めてからはゲイカップルのサロゲート出産や精子バンクの利用についても反対意見を持ったことはありません。

トランスジェンダーについては法律の規定がある訳ではなく、性転換は個人の自由だと思って来たので、良し悪しをジャッジしたことはありませんでしたが、 現在のアメリカ社会で人々がトランスジェンダーの権利について考えさせられる二大要因になっているのが、バスルーム(トイレ)の使用と トランスジェンダー・アスリートの問題です。
バスルームの使用が物議を醸しているのは職場よりも圧倒的に学校で、生まれた時の性別のバスルームの使用を義務付ける傾向にあることから、女性になったトランスジェンダーが男子トイレで性的嫌がらせを含む虐めに遭う一方で、 男性になったトランスジェンダーが女子トイレを使用することについては、女子生徒よりも親達が猛反対しています。 その解決策として、ユニセックス・バスルームを設けてトランスジェンダー学生に使わせようとすると「差別だ」と指摘されることから、解決策が見いだせない状況になっています。
今回の選挙ではデラウェア州から初のトランスジェンダー女性の下院議員、サラー・マクブライドが誕生し、早速 共和党から出されたのが「議員は生まれた性別でバスルームやロッカールームを使用する」という法案。 加えて共和党女性議員も嫌がらせ的プレッシャーをかけてきて、右派からは好意的、リベラル派からはネガティブなパブリシティを獲得していました。ですがサラー・マクブライド自身は 「自分はデラウェア州民の利益のために選出されたのであって、トイレの権利を巡って闘うために議員になったのではない」として、規則に従うと公言しました。 すなわちマクブライド議員は、彼女にトランスジェンダーの権利を主張させることで、保守派の炎上を煽ろうとする共和党の挑発には乗らなかった訳ですが、 LGBTQ+が市民権を獲得しようと努力するプロセスでは、このように本来の目的や意義を優先し、権利という名のエゴを振りかざさない毅然とした態度は全く珍しくありませんでした。
しかしLGBTQ+の権利が認められるようになってきてからは、彼らのために「They」を3人称単数で使わなければならない、書類の性別欄に「ノンバイナリー(男女でカテゴライズされない人々)」を設けなければならない等、 細かい要求が当たり前になり、それらに知識不足で対応出来ない場合、LGBTQ+をサポートする人にさえも SNSを通じたバッシングが行われるご時世になってしまいました。
そんな中で大きく問題視されるようになってきたのがトランスジェンダー・アスリートの女子競技への参加です。

支持がカルトになる二極化社会

アメリカではカレッジ・アスリート・アソシエーションはトランスジェンダーの女子競技参加は禁じていますが、NCAA(全米大学選手権)は、スポーツごとに 異なるガイドラインを設けていて、基準になっているのはホルモン・レベルですが、これは非常にグレーなガイドラインです。
Jさんや私を含め、LGBTQ+をサポートする人でも、トランスジェンダーの女子スポーツ参加をアンフェアだと考える人は沢山居ます。 特にボクシングのようなコンタクト・スポーツで、女性アスリートと 男性として成長し、トレーニングしてきたアスリートを闘わせるのは、 フェアネスや勝ち負け以前に、女性アスリートの身体的リスクが大き過ぎます。
未だトランスジェンダーに対する社会的理解が必要な段階で、トランスジェンダー・アスリートというさらに受け入れが難しい存在の権利を社会に受け入れさせようとしていることは、 LGBTQ+コミュニティが過去何十年にも渡って続けて来た努力を大きく後退させたと私は感じています。
もし性同一性障害で、心も身体も女性になりたいという願望から性転換手術をして、女性として認められることを望むのであれば、 全ての女性アスリートはアスリートになる前に女性として生まれて来た訳ですから、女性トランスジェンダーもアスリートとしての権利を主張する前に 女性として物事を考え、配慮、判断するべきだと私は考えます。 「身体が女性になったのだから、男性として成長し、トレーニングしてきた自分でも女性アスリートとして認めろ」という主張は、 私に言わせれば 社会システムに守られながら 自分の身勝手や不都合を女性に押し付けて当たり前と考える 俗に言う”クズ男性の思考”そのものです。 女子競技への参加が、「肉体的アドバンテージをフル活用し、弱い者相手に確実な勝利を収めようとしている」と判断されても仕方ないと思います。

私は特定の思想や主張、人物、団体を支持する場合、自分のモラルや正義に則した線引きをすることが非常に大切だと思っています。 そうしなければ、支持ではなくカルトになってしまいます。 その意味で、私はMAGAと呼ばれる狂信的なトランプ派に代表されるキリスト教保守右派、その対極に位置する極左の思考は非常にリスキーだと思っています。 MEGA信者はトランプ氏やその政権ポスト・ノミネート者がしてきた性的虐待行為や暴言について「その程度のこと誰でもやっている」という主張に始まり、 極右派に属する人間がやることは正義の概念を度外視して支持し、彼らを擁護するためにはヒットラーまで弁護します。
逆に極左派は、何に対しても差別撤廃、弱者擁護を持ち出してくる結果、そのシステムを悪人や犯罪者に利用される状況を招いています。 例えばNYやカリフォルニアでは、黒人・ヒスパニック系の逮捕者が保釈金が払えずに拘留され、その結果、刑務所内の大半が黒人・ヒスパニック層になってしまう状況を是正するために、 軽犯罪の保釈金制度を緩めました。すると1000ドル未満の窃盗は軽犯罪ですので、逮捕されても裁判まで拘留されることはなく、すぐに釈放されます。 そして裁判の日に出廷しなければ、わざわざ警察が探しに来る訳ではないので、そのまま罪逃れが出来ることが犯罪常習者の間で広まった結果、インターネットでコーディネートしたモブ窃盗事件が頻繁に起こるようになりました。 警察は苦労して逮捕しても犯人が直ぐに釈放されるので やる気を失っていましたが、カリフォルニアはこの秋の選挙で窃盗の連続犯を重罪扱いにする形で法律が改正されたばかりです。 要するに差別撤廃と平等を実現しようとしたシステムが、本来守る必要が無い犯罪者をプロテクトしただけで、逆にそれまで人種差別的な逮捕が問題視されてきた 警察へのサポートが高まる事態を招いた訳です。
このように偏った思想というのは、どちら側に寄ったところで社会には何のメリットももたらさない訳で、これがバランスより二極化を持ち上げて来た近年の歪みなのだと思います。

その意味で、私は共和党でも民主党でもワン・イッシュー・ヴォーター、すなわち1つの問題だけで支持政党を決めるというのは非常にリスキーで、極端な思想だと思います。 また共和党を支持するからといって、環境問題を否定し、DV加害者の銃購入を容認するような共和党の全ポリシーをパッケージでサポートするのもおかしいと思いますし、 逆に民主党支持者が犯罪に厳しい考えを持ち、トランスジェンダー・アスリートの女子スポーツ参加に反対したところで、矛盾でもなければ、問題でもないと思います。
これからの風の時代は、人々の価値観が揺らいで、理由も無く不安になって周囲の意見に流されたり、 何を信じたら良いのかが分からなくなる時代です。物事を決めつけ、頑固な考えを譲らず、それを周囲に押し付けて来た人は、土の時代は生きられても 風の時代はそうは行きません。 信念や正義にバランスと順応性をもたらせる人が心の安定と幸福を手に入れる時代になりますので、世の中の既成概念に捉われず、自分の信念に忠実に生きることが大切です。 他人の意見に腹を立てたり、悩むことなく、自分にとっての幸福にフォーカスしながら、思考が凝り固まったら、まずは身体を動かして、これからの時代を乗り切って頂きたいです。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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