Oct Week 4, 2024
USA Under Current Social Circumstances"
今後のアメリカ、社会情勢や人種差別等のリスクは?


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私は学生時代にアメリカに短期留学していたこともあって、アメリカのカルチャーや国民性が好きで、来年から勉強のために2年ほど渡米することにしています。 つい最近、私が行くエリアの近くに長く暮らす日本人の知りあいと話したのですが、もし大統領選でトランプ氏が勝ったら人種差別肯定の風潮が高まるので、 ある程度その覚悟が必要と言われました。 それと人工妊娠中絶の合憲が覆されたので、妊娠中絶する気が無くても、産婦人科の定期健診を受けるために1日掛かりになるとも言われました。 このことは秋山さんのコラムで産婦人科のクリニックがどんどん閉鎖されたことを読んでいましたが、知り合いの主治医も居なくなったと聞かされて、大変なことなのだと改めて感じました。
その知り合いには「デート・レイプに気を付けるように、交際相手が出来た場合、避妊を徹底するように」と言われてしまいましたが、 私が渡米後に暫く滞在するのは、所謂レッド・ステーツの1つで、中絶の取り締まりが厳しく、トランプ支持派が多いので、 不法移民でなくても、外国人には風当たりが強くなると脅されてしまいました。

それで「私のような勉強目的の滞在者もそういう扱いを受けるのかな?」とか、 「デートする場合はグループ・デートでなければ危ないのかな?」とかいろいろ考えるようになってしまいましたが、 長く日本の草食系の男性を見て来たせいか、デート・レイプなどと言われてもあまりピンときません。 一時期言われたアジア人差別とかもCOVID 19が収まったので、沈静化したと思っていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
せっかく勉強に行くので英語でのコミュ力をアップさせて、アメリカのカルチャーをしっかり理解して、出来るだけアメリカ人コミュニティに入って生活することも目的の1つなのですが、 秋山さんの目からご覧になった実態とか、日本人として注意すべき点、それと差別への対処などがあったら教えて頂きたいです。 レッドステートに数ヵ月滞在した後は、NYではありませんがブルー・ステートに移る予定なので、その違いとかも教えて頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。

  ー N ー


アメリカでの差別とは


大統領選挙の結果は蓋を開けて見ないと分かりませんが、再びトランプ氏が政権を握ることがあっても、なくても、 前回のトランプ政権誕生時に既に ”差別のパンドラの箱” は開かれています。
アメリカは多民族国家とあって、長きに渡って人種差別、移民差別、性差別を否定し、悪と見なすことが大義名分的な国の道徳になってきました。しかし、 2016年の大統領選挙活動中からトランプ氏が語って来た差別発言により、少なくともトランプ支持者の間では差別やへイトを行動や言動で示すことへの 罪悪感や精神的抑制が取り除かれ、逆に移民やLGBTQ+に対する差別はアメリカを守るための愛国心や正義として認定されて久しい状況です。
したがって人種・移民差別の度合いはどうしてもトランプ氏&共和党支持者が多いレッド・ステーツの方が激しくなりますが、 やはり一国の大統領が特定の人種や移民に対して差別的な発言をしていると、どうしてもそれが差別に対するGoサインとしてまかり通ってしまうのは前回のトランプ政権下で見られた現象です。

Nさんは「私のような勉強目的の長期滞者もそういう扱いを受けるのかな?」と書いていらしたのですが、差別する側にとってはNさんが日本人でも中国人でも、短期滞在でも不法移民でも、 中国系アメリカ人でも一切関係はありません。 人種差別は虐めの一種ですので、虫の居所が悪く、フラストレーションを発散させたい人物が、恰好の対象を見つけた時に持ち出す言い訳の1つに過ぎないと考えるべきです。 その意味で、格闘技に長けた がっしりした肉体の持主であれば、どんな人種であろうと差別的な嫌がらせの対象にはなり難いと思います。
ですが そんな体型でなくても、スキが無い振舞いや、芯の強さを態度示しているだけで虐め的差別は防ぐことが可能です。 アメリカ人は日本人よりも遥かにオーラなど、身体から発している雰囲気やエナジーに敏感です。 思想、宗教、カルチャーが異なる他民族が住む社会とあって、アメリカ人は言葉でアプローチする前に、まずは相手が敵か味方を見極めることを本能的に心得ています。 アメリカ人がスマイルを好むのは、相手が危険ではく、平和で友好的であることが確認できるためです。
私はアメリカに住むようになってから、自分のスマイルをパワーアップする目的も兼ねて、全く知らない人でも目が合ったり、ぶつかりそうになった時など、 何等かのエンカウンターがあった場合は微笑みかけることを習慣付けていますが、アメリカの方が日本よりも微笑み返してくる人の数が遥かに多いですし、 表情が笑顔に替わるスピードも遥かに速いことに気付きます。 そしてアメリカの方が ボッとしているように見える人や、生気が感じられない人の数が日本に比べて少ないです。 これはアメリカ人の方が表情が豊かという違いではなく、アメリカ人の方が いろいろな意味で日本人よりもスキがないのです。
ですからNさんには、言語のコミュニケーションもさることながら、アメリカ生活を通じて強いオーラを発すること、スキが無いご自身のプレゼンスを確立して頂きたいと思います。

話を人種差別に戻すと、アメリカ社会では 日本で思い描くのとは異なる類の差別が見られます。 例えば、ブロンドの白人女性に冷たくデートを断られた場合は 大人しく諦めるしかない白人男性でも、人種で差別的な優位性を一方的に抱いているアジア人女性に 同じ態度を取られた場合、烈火のごとく腹を立てることは全く珍しくありません。 要するに「白人の俺様がハードルを下げてアジア人にアプローチしてやっているのに」というようなメンタリティなので、丁寧に断ったとしても男性側が侮辱されたように感じるケースは少なくありません。
またアメリカ、特にレッド・ステーツでは警官による人種差別が非常に顕著です。私の中国人の友人は フィラデルフィア州を車で走っていた時にテール・ランプが壊れていたために 往路でチケットを切られたそうですが、 同じ警官に復路でも再びチケットを切られ、しかも2度目のチケットを切りながら ランプが壊れた理由を「アジア人は運転が下手だから」と勝手に決めつけられたことに腹を立てていたことがあります。
でも彼女は頭に来たとは言え、冷静に振舞ってそれ以上の難を逃れた例で、カリフォルニア州では 明らかに嫌がらせという感じの交通違反で車を止められた日本人男性が、 フラストレーションから警官と口論になり、Fワードを使ってしまったことで Resisting Arrest、すなわち逮捕拒否の前科がついてしまい、そのせいで、VISAの更新が一時的に出来なくなった事例があります。 結局、弁護士を雇ってVISAは更新されたようですが、逮捕時を含めた2回の弁護士費用に数千ドルが掛かったようです。
ちなみにFワードは ”F@#k You”と言えば明らかに失礼な罵倒ですが、”That's F@#king Ridiculous(それは馬鹿げている)"のように 形容詞を強調する用途で 進行形で用いるのは、日常会話では全く珍しくありません。 過去にはバイデン氏も副大統領時代に、オバマケアが実現した際に ”This is a big f@#king deal"と語ってオバマ氏を祝福したことがありましたし、クリントン元大統領も非常に寒い屋外で「It's F@#king Cold」と言った 様子がマイクで拾われたことがありましたが、この程度のFワードは品性や知性とは無関係にアメリカ人が普通に遣っているのです。 それに対して「Fワードを使った」として逮捕拒否罪を問うのは、明らかに差別的と言わなければなりません。
見方を変えれば、些細なことにでも難癖をつけられることが人種、移民、LGBTQに対する性差別とも言える訳ですが、 レッド・ステーツは銃のオープン・キャリーが合法な州も多いので、口喧嘩で発砲に至るケースは少なくありません。 そして地元のアメリカ人が移民と口論の末に発砲した場合、100%正当防衛がまかり通るのがレッド・ステーツの怖さですし、銃をキャリーしているのは女性も同様です。 アメリカという国には様々なエリアと側面があること、そして日本人が一括りにして描くアメリカのイメージは主にブルー・ステーツであることはしっかり頭に入れておくべきだと思います。

人工中絶合憲覆しが与えた影響

Nさんがご相談文に書いて下さったように、2022年に連邦最高裁が妊娠人工中絶の合憲を覆して以来、レッド・ステーツでは中絶を行う医師に刑事責任を問う州もあり、 そのせいで産婦人科医のクリニックがどんどんクローズする傾向にあります。そうした州だと婦人科の定期健診も自分が住む州内で行えないので車の移動で一日掛かりになるかと思います。
その一方で ジェネレーションZ、ミレニアル世代を中心に50歳以下の米国の生殖年齢の男女間では、「妊娠したら大変」、「妊娠させたら大変」という意識から、 セックスに消極的になってきたというアンケート調査結果が得られています。 女性にとって予定外の妊娠はキャリアを含む将来設計を台無しにするリスクですし、男性にとっても子供が成人するまでチャイルド・サポートを支払う義務が生じます。 アメリカではチャイルド・サポートを踏み倒すと運転免許の更新が出来ないシステムになっています。
ですが女性と結婚したくても出来ない男性、特に保守右派の男性は、「女性が妊娠さえすれば結婚できる」、もしくは「自分の子供を産ませることが出来る」と考えることから、 ”ステルシング” というコンドームに穴を開けて、避妊をしていると見せかけて相手を妊娠させるという姑息な手段が増えています。 そのため最高裁判決直後にアメリカ国内で一時増えていたコンドームの売り上げが、現在は逆に減少していると言われます。 そしてカップルが性交渉をする前に避妊の手段について話し合うケースも増えていますので、TV版の「セックス・アンド・ザ・シティ」のような恋愛事情は、すっかり過去のものになっています。

Nさんがお友だちに忠告された デート・レイプについては、男性側が犯罪の意識を持たずに軽い気持ちで 女性のドリンクに睡眠薬を入れるようなことが実際に起こっています。 女性にとってショッキングなのは、そうした行為に及ぶのがバーで出逢ったばかりの男性ではなく、信頼していた男友達であるケースが多いことです。 アメリカ人は正義感が強いので、バーやレストランで男性が女性のドリンクに薬を入れる光景を目撃すれば、見て見ぬふりなどせずに女性や店員に知らせますし、店員が通報すれば男性は確実に逮捕されます。 またアメリカではドリンクに薬品を入れられたかをチェックする液体等のデート・レイプ対策グッズが普通に販売されていて、ペッパー・スプレーと共にそれを護身用に持ち歩く女性も少なくないようです。 それほど薬品を使ったデート・レイプは珍しくないもので、薬品はインターネットで簡単に手に入ります。
ですから「自分が席を外している間に運ばれてきたドリンク、注がれたドリンクは飲まない」というのが、女性が身を守るための鉄則になっていますが、 これは男性にも言えることです。 現在、逮捕されて服役中のラッパー、ショーン・ディディ・コムズの性的虐待被害者の半数は男性だったことからも想像がつくように、 レイプの対象は女性だけではありません。事実、大学キャンパスで起こるレイプの犠牲者の30%を占めるのが男性です。
今アメリカでは、若い世代を中心にアルコールを飲まない傾向が高まっていますが、その理由は「アルコール・ドリンクが高額過ぎる」、「親世代のアルコール中毒を見て、飲まない主義になった」、「2日酔いになると、次の日が台無しになる」 といったものに加えて、「酔っていると、何かトラブルに巻き込まれた時に自分の正当性が認められない」と考える人々が多いためと言われます。 要するにアルコールを飲んでいるだけで、記憶を疑われたり、レイプが合意の上での行為にされてしまう訳で、 何か事が起こった場合に、自分に不利に働くリスクになることは否定できないのです。
さらに言えばアメリカの方がアルコールに対するモラルが厳しいので、日本の映画やドラマで普通に描かれる酔っ払いのレベルは、アメリカではスプリング・ブレーク中の大学生でもない限りは”アル中扱い”であることも覚えておいてください。

こうしてかなり厳しいことを書いてしまいましたが、Nさんが書いて下さった 「せっかく勉強に行くので英語でのコミュ力をアップさせて、アメリカのカルチャーをしっかり理解して、出来るだけアメリカ人コミュニティに入って生活することも目的の1つ」という部分は、 考えてようによっては 勉強のために費やすべき2年間の目的意識を希薄にしてしまうリスクにも見受けられました。 現在の英語力にもよりますが、僅か2年でアメリカ人コミュニティに入り込むのは通常は不可能ですし、どの国においても国のカルチャーとは僅か2年でしっかり理解できるほど薄っぺらいものでもありません。
簡単に攻略出来る気持で出掛けると、落ち込んだり、逆におだてられて騙されるような事態を招きますので、まずは世の中、特にアメリカは甘くないと考えて下さい。
そしてご自身の安全を最優先に考えた上で、メインの目的にフォーカスすること、そしてアメリカという国を一括りにする考えを捨てて、日本人としての思いこみの視点からではなく、 現地の空気を吸って、地磁気を浴びた上で、滞在するエリアとそこに住む人々、土地柄や、カルチャーを本質で捉えることをお薦めします。
私は、アメリカ滞在は日本人が視野を広げて、様々な世界観を持つためには非常に有益だと思っています。 何でも一括りにして、一面的に捉える考えを解き放つだけでも、これからの風の時代を生きる大きな武器を手に入れることができますので、2年間の貴重な時間を大切に過ごして頂きたいと思います。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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