Sep Week 4, 2024
Sleep Divorce
夫婦別の寝室案に米国人夫が激怒しています


1年半前にアメリカ人の夫と結婚しました。 好きで結婚したとは言え、今では夫の隣で眠るのが不可能になってしまいました。
夫はいびきが煩いだけでなく、寝相が悪くて、私はなかなか眠ることが出来ません。やっと眠ったと思ったら、顔の上に彼の腕が降って来て起こされたことが何度もありましたが、 彼はそれで目を覚ますことはありません。婚前旅行に出掛けた時もいびきをかいて熟睡していましたが、何故かその時は彼の寝顔が可愛く思えた自分を今では呪っています。
最初は彼が故意にやっている訳ではないと自分に言い聞かせて我慢しましたが、3カ月もしないうちに耐えられなくなりました。 いびきには耳栓をしてみましたが、それでもいびきが聞こえますし、耳栓をすると自分の心臓の音が気になって、それはそれで眠れないのです。
それに寝相の悪い彼が、夜中に激しく動くせいで私の寝る場所がどんどん狭まり、マットレスも安定しないので、夫を説得して高額でサイズが大きめのものに買い替えました。 少しはマシになるかと思ったら、ベッドが広くなったせいで夫は安心して大の字で寝るようになって、寝がえりでマットレスが動くことは無くなりましたが、私が眠るスペースはまったく増えませんでした。 そして昨年冬に掛布団を独り占めして丸くなる夜が続いた時には、本当にキレてしまって、夫の背中を足で蹴り飛ばしてしまい、起こされて機嫌が悪くなった夫と大喧嘩をしました。 そのせいで今は掛布団も別々になりました。
もう手を尽くしましたが、私は慢性的な寝不足で、どんどん神経が逆立ってきたので、少し前に数日分の荷造りをして安眠を確保するために実家に帰ってしまいました。 その時に、丁度遊びに来た伯母に夫のいびきと寝相の話をして、「寝室を別にしない限りは彼とは無理、でもそんなスペースは無いし」と愚痴ったところ、 伯母の息子で、私にとっては従兄弟が3年間の転勤になり、その間に持ち家のマンションに住んでくれる人を探していると言われました。 従兄弟夫婦には子供も居るので間取りにはゆとりがあり、私達が身内で安心できることや、転勤先に持って行きたくない家具など、私達がいろいろな条件を受け入れたこともあり、 現在暮らしているマンションより安く借りることが出来ました。
それで夫婦して安い家賃でエクストラ・ベッドルームのあるマンションに引っ越せることを喜んでいたのですが、 コミュニケーション不足だったようで、私は自分だけの寝室で夫に邪魔されずに眠れると思って喜び、 夫はそれをゲスト・ベッドルームだと思いこんで、アメリカの家族や友人が遊びに来たら泊めてあげられることを喜んでいました。 円安で日本に来たがっている家族や友達が多いらしく、せっかく来てもらっても泊めてあげるスペースが無いことが罪悪感になっていたそうです。
そして誰も泊まっていない時でも、夫にとっては夫婦が別々の寝室で眠るというのは信じられない事だそうで、 「寝室を分けるなんて夫婦で居る意味がない。アメリカじゃそんなこと絶対にあり得ない」と言われました。
でも私は健康面を考えると夫と一緒の寝室はもう無理なところまで来ているので、もし夫が一緒の寝室にこだわる場合は 「離婚しかないのだろうか」と思い始めています。だとしたら従兄弟夫婦に迷惑を掛けないためにも早く決断して、マンションが借りられないことを伝えないと迷惑がかかります。
もしこれが他人事だったら「いびきくらいで離婚なんて」と思ったかもしれませんし、結婚前に夫からいびきや寝相の悪さを警告されていたら「そのくらい我慢できるでしょ」と思っていたと思います。 正直なところ、パートナーのいびきや寝相でこんなに辛い思いを強いられるとは思ってもみませんでした。 夜眠れないことも辛いのですが、眠りが足りていない状態で日中を過ごして、いつも疲れているのが本当に嫌です。
アメリカでは相手のいびきが酷くても、夫婦の寝室を分けないというのであれば、どういう対策をしているのでしょうか。 それとも夫の言い分は、単に私を説得するためのハッタリでしょうか。 どうしたら、夫にもっと私の辛さを分かってもらえるでしょうか。それともやっぱり離婚でしょうか。
何かアドバイスをして頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

  ー A ー


アメリカでも ”スリープ・ディヴォース” は珍しくありません


睡眠が十分に取れないと免疫システムからホルモン分泌まで、身体に悪影響を与えますので Aさんの辛い状況とお気持ち、心からお察しいたします。
以前このコーナーに書いたことがありますが、アメリカ人夫婦が離婚に追い込まれる日常の些細な原因トップ3が 相手のいびき、トイレの便座の上げ下げ、そしてエアコンの温度です。 特にいびきの問題は寝不足、体調不良を招きますし、体温が高い男性に心地好い温度にエアコンがセットされれば、冷え性の女性はたまりません。 それ以外にも食べ終わったお皿を食洗器に入れない、洗濯物をランドリー・バスケットに入れないといった、子供に言って聞かせるのと同じことを伴侶に注意しなければならない状況も 毎日の積み重ねによって、相手に対する愛情が冷める大きな要因になります。 ですから、Aさんが離婚を考えていらっしゃるのは良く理解できますし、少なくともアメリカのスタンダードでは全く珍しいことではありません。

アメリカ人の夫さんは「寝室を分けるなんて夫婦で居る意味がない。アメリカじゃそんなこと絶対にあり得ない」とおっしゃったようですが、 その主張とは裏腹にアメリカでは現在、夫婦が別の寝室で眠るケースが急増中で、”スリープ・ディヴォース”、すなわち睡眠離婚というネーミングが付いているほどです。
アメリカはそもそも家の間取りが広いので、相手のいびきや寝相、時に夢遊病などの被害を受ける側が逃げ込む部屋がある場合が多く、 一軒家ならゲスト・ルームがある場合が多いので そこに逃げ込むことになるようです。
そういう生活に慣れてしまうとヴァケーションに出掛けて同じホテル・ルームで眠った時に、いびきや相手の寝相の問題を思い出すことになるので、 被害を受ける側が旅行を楽しめないことが指摘されていたりします。 いずれにしても、アメリカでは離婚をしたくない人が選択するのが ”スリープ・ディヴォース”で、「お互いに快眠が取れた方が夫婦仲も上手く行く」 ということで、睡眠障害を抱えるカップルの間ではむしろ奨励される傾向にあります。
もしAさんの夫さんが、妻の睡眠を妨害しているのを承知で、睡眠中の意識が無い時まで「夫婦が一緒に居るべき」と考え、 しかも「アメリカじゃそんなこと絶対にあり得ない」と自分が思い込むスタンダードを押し付けながら、無駄なことに固執するお人柄の場合、 生涯を共にするのはかなり難しいと思います。
私の意見では、これは いびきや寝相の問題ではありません。 Aさんが問題視すべきは、伴侶の健康や伴侶にかけている迷惑を顧みずに自分の主張を通そうする夫さんの身勝手さ、 伴侶よりもゲスト滞在を優先させて、更なる迷惑を掛けようとする非常識さです。 こうした人物との結婚生活は、まともな神経の持主がまともな生活を送ろうとした場合には不可能です。
私の知りあいの離婚経験者が「結婚生活っていうのは、自分が選んだ相手が生涯を共にする価値があるか、それとも単なる恋愛感情に惑わされた誤った選択であったかを見極めるためのもの。 妙な思い込みやこだわりがあると間違いに気付くのに5年、10年が掛かることもあるけれど、それでも間違いを悟って離婚に踏み切れば、後悔することは決してない」と言っていたことがありましたが、 Aさんのケースでは Aさんが折れたり、妥協をする必要は全くありません。それを理解した上で 相手に改善の希望が見い出せない場合には、早めに離婚を決断する方が賢明であると私は考えます。

離婚される人のキャラクター

私が知るアメリカ人の離婚のケースの中でユニークなものに、夫の背が高過ぎるというものがありました。
天井の低い家には住めないのでアパート探しが大変で、家を建てようとした時には施工費に4割増しの見積りを出されたとのこと。 長身用のベッドやシーツ、長身用のアパレルも高額で、飛行機もビジネス・クラスでは居心地が悪いと文句を言い、とにかくすべてが夫の高身長のせいで高くついたそうです。 さらに彼の服2~3枚でランドリー・バスケットが一杯になってしまい、彼にとっては大判のビーチタオルがバスタオル代わり。シーツも大判なので とにかく洗濯物が多かったのも妻の苦痛の種。 また夫は油断していると外出先の扉のフレームで頭をぶつけることもしばしばで、その都度機嫌が悪くなっていたとのこと。 一度腰を痛めてからは頻繁にぎっくり腰のような症状で動けなくなることがあり、その度に妻が介護士のような生活になりましたが、何をしてあげても 夫に軽く「Thank You」で片づけられることにも嫌気が差したようです。
他にも夫が大食漢で、食材の手配と料理があまりに大変過ぎて別れるケースなどもあるようですが、 トリガーが何であれ、離婚の直接原因になるのは 伴侶からの配慮、感謝、おもいやりの無さ、相手の権利や立場を尊重せずに身勝手や不必要なこだわり、見栄を貫く姿勢、 一緒に居て楽しい時間が共有できなくなることです。
心理学者に言わせれば、恋愛感情は一種の錯乱状態ですので、自分にとって正しい相手であったかは 結婚後の錯乱状態から冷めた段階で見極めることになるケースが殆どですが、恋愛感情が少しでも残っている段階では 一緒に楽しい時間、有意義な時間を過ごすことで、 相手の欠点に対する許容範囲が広がらなかったとしても、保たれるのは紛れもない事実です。 たとえ何年も楽しい時間を共有していないカップルでも、いざ別れようとした時はその思い出で後ろ髪を引かれるものなので、楽しい時間の共有というのは結婚生活を続ける上で極めて大切です。
このことは仕事にも言えることで、人間は安い給与の長時間労働でも、仕事が好きで楽しければそれを続けて幸福感を味わうことが出来ます。 その意味で人間は非常に単純な生き物です。 多少の障壁は簡単な心理トリックで乗り越えられるように出来ているのです。
そんな人間本来のメカニズムを理解して、実践することで 誰もが幸せや満足感、未来への希望が抱けますし、 多くの人々は経済状態や社会的ステータスに対する無駄な執着や思いこみ、コンプレックスを除去するだけで、 何の変化ももたらすことなく幸福感が味わえるものなのです。 そう考えると、友人でも伴侶でも、訳が分からない価値観や体裁にこだわる人、自己主張や勝手な思いこみを押し付けて来る人と一緒に居るのは人生をマイナスに導きます。
逆に幸せになりたければ、思慮深く、柔軟性がある人と、互いに敬意と思いやりを持って時間を共有すべきです。 見方をかえれば、そういう人達に囲まれて生きられることこそが真の幸福なのだと思います。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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