July Week 1, 2024
Easy Engagement, Easy Break-up?
そんな簡単に婚約?、そんな簡単に別れるなんて…と周囲に言われました


このコーナーの愛読者のアラサーです。
私は過去2年近く婚活パーティ―で出逢った男性と交際して、結婚前提の同棲、口頭の婚約まで行って、先日別れてしまいました。 そのことについてアドバイスというか、ご意見を聞かせて頂きたいと思ってメールしています。
私と彼は、お互いに結婚相手を探していたので、交際をスタートする時に「お互いに時間を無駄にするべきではない」ということで、 まずは1年付き合ってみて、問題が無かったら結婚前提の同棲をして、御互いを見極めて、 半年経過して問題が無かったら、婚約、結婚という運びにすることで合意しました。
周囲にそのことを話すと「そんな事務的な取り決めで結婚して大丈夫なの?」と言われましたが、交際は極めて順調で 特に共通の趣味などありませんでしたが 相手を通じてそれまで無縁だったものや、 初めてのことにトライすることが出来て、世界が広がったような気分を味わいましたし、御互いに気が合うとも思っていました。
それで交際を始めてから11ヵ月後に 彼の賃貸契約が切れたこと、私のマンションの方が彼の職場への通勤が便利ということで、彼が私のところに転がり込んでくる形で同棲をスタートしました。 同棲生活は 細かい行き違いや調整の必要はあったものの、私達はお互いに仕事で忙しかったので「会いに行く時間が省けて便利」という感じで、 自宅でまったりワインを飲んで食事をするのを好んでいたので、御互い同棲生活に満足していました。 それで「いよいよ婚約」という段階になって、私も彼も「エンゲージメントリングは無し」、「結婚式は身内と親しい友人だけの小規模なもの」、「その分新婚旅行を豪華にする」、「近い将来、都心のマンションを買うために貯金」、「子供は2人欲しい」など、結婚式や将来についても考えが同じであることを確認しました。
私がそのことを職場の同僚たちに話して 「彼とは本当に意見が合う」、「今まで一度も喧嘩したことがない」と結婚向けて順調に進んでいることを報告したところ、 「でも一度も喧嘩したことが無いのって、逆にちょっとリスクじゃない? もっと相手を見極めてから結婚するべき」、「相手が本当に怒ったら どんな態度を取るか、知らない訳でしょ?」、「取り決め通りの交際をしてきて、何かイレギュラーな事が起こったら対応できるの?」等と言われました。 確かに その時の私達はお互いの結婚願望から 相手に合わせて上手くやろうとしている時期で、譲り合う協調体制でしたが、いざ夫婦になって 譲れない問題と直面した時に、彼が協調的でいてくれる保証はありません。 そのことを彼に話して、夫婦喧嘩の原因になる問題について、夫婦になった場合を想定して、いろいろ話し合ってみようということになりました。

「何を話し合おうか」と考えて居た時に、彼の職場の先輩が子供の名前を巡って双方の実家を巻き込んだ大論争になって、あわや離婚という話になったことを思い出しました。 そこで私が第一子を妊娠したと想定して、性別が分からないまま名前を考えようということになりました。 やり方は男児、女児の名前の候補をそれぞれ3つずつお互いに選んで、その中から話し合いで将来子供が出来た場合の名前候補を選ぶというシンプルな方法です。
名前の候補を考える時間を1週間設けて、週末にその候補を発表し合いましたが、私は正直なところ彼の名前のリストに失望してしまいました。 例を挙げるならば、男児の名前の候補に”英雄”があったのですが、「ヒデオ」かと思ったら「英雄=ヒーロー」ということで「ヒロ」と読ませるというのです。
それに始まって他の男児、女児の名前も、何となく軽薄で、思い込みが強い印象のものが多く、 それを得意気に披露する彼を見ているうちに 彼を好きな気持ちに疑問を持つようになりました。
彼は彼で私のウケが悪いのを感じたようで、私が考えた名前を提示する番になったら、私の選んだ名前に理不尽なケチをつけてきました。 その場の雰囲気は 彼とこれまで一緒に過ごした中で最悪だと思いましたが、これがきっかけで彼が細かい事で文句を言うようになりました。 そして私も名前の件で彼に対する見方が変わってしまったこともあって、彼の文句や理不尽さがだんだん気になり始め、そういう時に限って相手に対して冷めるような出来事が続いたこともあり、 「結婚は無理」ということになりました。 私達の間では「お互いに思った相手では無かった」ということで、以前から「片方でもダメな場合は、しがみついて時間を無駄にしない」と決めていたので合意の上で別れました。 ですが散々簡単に結婚するなと言っていた周囲が、今度は「そんなことくらいで、婚約までした相手とあっさり別れるなんて」と言い出しました。 「夫婦というのは、様々なことを一緒に乗り越えて夫婦になって行くもの」などとお説教をされてしまったのですが、周囲のアドバイスを聞いて、相手を見極めた末に下した決断なのに、 今度はその相手と「合わない部分を乗り越えろ」と言われるのは腑に落ちず、しかもそのことで私が短絡的な合理主義のようなレッテルを貼られてしまいました。
秋山さんは私が彼と別れたことについてはどう思われますか?
私の中で彼は、「婚活パーティ―で出逢い、ゾッコンではないものの、結婚して上手くやっていけそうな相手だったから、 一緒に暮らして、口約束とは言え婚約まで行ったけれど、最終的にはダメだった」というだけで、特に自分が悪いとは思っていません。 ですが「相手に歩み寄る気持ちが無ければ結婚できない」などと言われて、「結婚が向いていないのかな?」とも思い始めています。 それならそれで構わないという感じですが、何か秋山さんにアドバイスして頂きたいと思ってメールをしています。
これといった質問という感じじゃないので、お答えが難しいかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。

  ー M ー


子供の名付けにはエゴや人柄、センスが現れます


結婚していない上に、シングル人口がアメリカで最も多いNY在住の私の意見が日本でどう受け取られるかは別として、私はMさんのように結婚を合理的に割り切って、 合理的なプロセスで相手を選ぼうとするのは悪い事ではないと思います。 ですが、そうするには徹底的に合理主義である必要があるとも思っています。そしてメールを拝見する限りでは、Mさんも彼もそれに該当しなかったように思えるのが正直なところです。
私の知り合いには、ある程度シングル生活が長くなり、「人生のパートナーが必要」、「結婚して子供が欲しい」という人生設計の見地から選んだ最善の相手と結ばれたカップルがいますが、 恋愛感情は無くても、相手の知能レベルや稼ぐ力には絶大な信頼を寄せていて、御互いに「恋愛感情のような一時的なもので結婚するなんて馬鹿げている」という考えの持主。 先に結婚した彼らの友人達がそれを立証してくれる例が少なく無かったようです。 2人は互いに別の会社に勤めながら、同じプロジェクトに関わるうちに親しくなったそうで、「お互いの仕事ぶりに惚れこんで、その信頼から違うプロジェクトも積極的に一緒にこなすうちに、私生活もこれなら上手く行くと思った」 というのが結婚に踏み切った理由した。結婚前に3年ほど一緒に仕事をしたそうですが、交際期間は僅か半年だったそうです。
彼らは自分達を「結婚生活を仕事のようにこなしている」と常日頃から話していて、喧嘩は殆どしないらしく、実際に非常に上手く行っている印象を受けます。 何処が仕事のようなのかと言えば「自分の役割分担をきちんとこなす」、「約束や期日を守り、時間やお金をきちんと管理する」、 「相手に甘えず、感情的にならない」、「相手が自分をカバーしてくれたら 何等かのお返しをしてイーブンな関係を保つ」、「しっかりコミュニケーションを取る」というような内容で、 列挙すると本当に仕事のようですが、アメリカのデートの指南本には「良好な結婚をしたいのなら、恋愛も仕事のようにこなすべき」というものがあるので、2人のアプローチは決して世の中的にも間違っていないのだと思います。

私はそういう実例を知っているので、Mさんと彼も そんな合理的なカップルなのかと思ってメールを拝読していましたが、 読み進めるうちに、御互いを知らないままタイムテーブルと合理性で結婚前提の同棲まで突き進んでしまったような印象を受けたのが正直なところです。 人間は、数字でも時間でも、ゴールを設定されると、単純でピュアな人ほど深く考えずにそれに向かって努力する傾向にあります。 これは何事にも駆け引きが絡むような世慣れたタイプにはあまり見られない傾向です。
いずれにしてもMさんと彼の交際は、タイムテーブルとゴールが明確になってからは、1年間波風を立てずに交際し、その後の半年間は波風を立てずに一緒に暮らして、婚約…というような ステップアップ・プロジェクトになってしまったように思います。御互いに それに夢中に取り組んでいる最中は、相手の人柄や性格を見極めるよりも、ゴール達成の目的意識の方が脳内の占有率が高くなっていたはずですので、 無事にタスクを終えて、ゴールに近付くための要素が過大評価された結果、相手の欠点や問題点よりも、良い所や自分と合う部分だけに目が行ったと思います。 そして文字通り一緒にゴールインするためにチームワークを重視して、喧嘩もしなかったのだと思います。

そんな時に子供の名付けというイレギュラーなチャレンジに取り組んだことで、お互いの考えや人柄に着眼する機会が持てたのは良かったと思いますし、一事が万事なので、 子供の名付けで軽薄に見えた人が、それ以外では全て完璧ということはありません。
特に子供の名付けには、自分の名前コンプレックスやこだわり、思い込み、エゴ、過去の経験、家族を含む過去と現在の人間関係や好き嫌い、 言葉の響きや文字から受ける印象、個人のセンスやテイスト等、日頃は表に出ない 様々な人間性が現れます。 私も個人的に子供の名前を巡って大喧嘩をしたカップルを知っていますし、日本でも、アメリカでも、子供の名付けを巡って離婚するケースは決して珍しくありません。 彼と夫婦になって子供が生まれたら、確実に同じ状況になっていたはずですので、結婚してからの失望でなくて良かったと思う次第です。

半年の同棲より確実に相手を知るには…

恐らく周囲が「そんなことくらいで別れるなんて…」とおっしゃったのは、婚約中のカップルが生まれてもいな子供のネーミングを巡って別れることを意味しているのかと思いますが、 意図はどうあれ、俗に”周囲”という表現で纏められる人々は「所詮他人事」という見解しか語らないものです。 既婚者の多くは、他人の婚活を高みの見物的な視点から見ているので、上手く行かなかった場合に「相手に歩み寄る気持ちが無ければ結婚できない」といった 別れの状況に応じたお説教をしてくるのは珍しいことではないようです。ですがそういう人ほど日頃は伴侶の愚痴が多いですし、 歩み寄っているうちに、自分だけが我慢したり、問題を背負う結婚生活をしている人も居ます。
「他人の結婚生活のお説教をする人ほど、幸せな結婚生活をしていない」というのが定番解釈ですが、Mさんが惚気ムード一杯だった時に 「もっと相手を見極めてから結婚するべきじゃない?」と水を差して、子供の名付けチャレンジのきっかけを作って下さったのも そんな方達だったかと思います。

人間は言われたことを心で受け止める習慣がついていると、どうしても共感、誉め言葉、励まし、気休めを優先して聞いてしまう傾向にあります。 ですが実際には頭に引っ掛かるようなこと、ちょっとカチンと来るような言葉の中に本当の人柄、それまで気付かなかった事態の真相、取り組むべき課題、問題解決の糸口等が隠れているケースは多いのです。 ですからMさんには今後、人に言われたことを、後からで良いので情報として受け止めて分析するように心掛けて頂きたいと思います。 言葉やそれが語られた状況は、感情を抑えて頭で分析してみると、内容以上の情報を含んでいるものなのです。デジタルフォトに撮影された時間や場所の情報が刻まれているのと同様で、 言動は頭を冷やして分析することで、その意図的、状況的な出所等が分かって来ます。その分析が出来るようになると、おのずと人付き合いにも、自分自身の言動にも気を付ける習慣がついてきますので、 結婚する、しないに関わらず、その後の人間関係、自分自身や人生そのものが改善されていくはずです。


それとは別に私個人の考えでは、結婚前にお試しの同棲をしたところで、実際に夫婦として一蓮托生の「簡単に解消出来ない関係」になってみないと、相手の本性は分からないと思いますし、 どんなに長く婚前の同棲をしたところで、一度結婚すれば 相手が何歳で、どんな性格でも必ず変わります。同時に、たとえ「自分は変わっていない」と思っていても、相手から見た自分も変わっているはずです。
以前にこのコラムに書いたことがありますが、私は半年や1年同棲するよりも、お互いに行ったことが無い外国、出来れば言葉が通じない場所に1週間程度の旅行をする方が、相手の本性が分かるという考えです。 日常生活よりも、助け合うしかない状況になった方が、相手が自分を支えて 思いやってくれるか、小さなことでイライラしたり、八つ当たりをしてこないか等、本質が見極められる機会に短期間で多数遭遇出来ると思います。 それを裏付けるように、旅行好きのカップルは結婚して、年月が経過しても仲が良い傾向にあります。

最後に子供の名付けについて、全くの余談ですが、かなり前に私のアメリカ人の友人のドライバーズ・ライセンスを見せてもらった時、ミドル・イニシャルが ”J” となっていたので、「Jって何の略?」と尋ねたところ、 「ただのJ、イニシャルがそのままミドル・ネーム」と言われました。本人もそれを知ったのは7歳の時だったそうで、母親に「Jって何の略?」と尋ねた際に、教えてくれたこともないのに 「あなた本当に知らなかったの?」と呆れられたそうです。
彼は医者の父、教師の母の間にやっと生まれた第一子で、子供に恵まれる前から、両親がそれぞれに男の子が生まれた場合、Jで始まる別の名前を付けたいと考えていたとのこと。 そのため両親は彼の名前を巡って口論を続け、何時まで経っても平行線であることから「このままでは 名前が決まる前に離婚になる…」と危惧したようで、お互いにJで始まる第一候補をギブアップ。 ”J”をミドル・イニシャルで残して、代わりに彼につけられたのは両親が合意したTで始まる名前。 そんなバックストーリーも、彼が言葉と自分のネーミングの経緯を理解する年齢になった時には、両親共々すっかり忘れていたようで、彼が尋ねるまで話題に上ることさえありませんでした。
親の良識が問われるような名付けは子供のために避けるべきですが、そうでない限りは 夫婦どちらかの思い入れを優先するよりも、 お互いに不満が出ない落とし所を見つけるのが関係円満のためには良いようです。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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