Mar. Week 5, 2024
Hesitation Before Marriage
ハイスペック婚約者と別れたいです


Cubeさんのサイトの長年の愛読者です。全てのコンテンツのレベルが高くて、非常に勉強になっています。 私の相談にもアドバイスを頂けたら嬉しいです。
私はアラサーで少し前に婚約したばかりです。彼は3歳年上です。知人を仲介して婚約者に出会いましたが、彼について周囲に話すと「そんなハイスペックな男性に出会えてラッキーだったわね」と言われます。 友人が言うハイスペックとは高身長、高収入、高学歴で、見た目も悪くないことなのですが、 私としては彼と婚約まで行きついたのは、彼が満遍無くまともで、話が弾んで、特に嫌なところが無い人だからと思ってきました。 ですが婚約してから、少しずつ彼が変わってきて、私が彼を見る目も変わってきました。
2人で決めるべき事に関して、私の希望を訊いてはくれますが取り合う気はないようで、特にこれからの結婚式や新婚旅行など、お互いの希望を考慮して 落とし所を探すべきだと思うのですが、常に私が諦めて折れるのを待つ感じです。 それで私が渋々折れて決めたことを、後から人の助言を聞き入れて覆すのですが、その助言というのが最初から私が主張し続けていた事だったりします。
家族や友人にもこのことを相談しましたが、周囲は「そういう噛み合わない部分は、どんな夫婦間にもあるもの。2人の人間が一緒に生きて行くためには仕方がないこと」 というズレたリアクションで、 「今時のアラサーがこんな条件が揃った男性と結婚出来る事なんてないから、とにかく結婚して、細かいことは夫婦の問題として取り組むべき」と言われてしまいます。 両親がそう言ってくるのは、私を早く結婚させたいためだと思っていますが、友人も彼を逃したら彼以上の人は簡単に見つからないだろうという意見です。

でもそんな人と結婚してしまったら、夫婦の問題に関して私に決定権が無いことになります。これからの人生で、子供を何人作るか、何処に家を買うか、どの学校に行かせるか等、 全て私が折れ続けることになります。 それと彼が男尊女卑の考えを持っているのも気になっています。私が言うことは聞かなくても、男性が言ったことにはすんなり言う事を聞く傾向にあります。 婚約直後に、結婚後も仕事を続けようと思っている私が「共働き家庭だと家事分担が必須」と話したのですが、 彼は「役割分担としては、妻が夫を支えるのが基本」だそうで、 「家事は要領を得ている側がやった方が効率的だよね」と遠回しに私に押し付けるようなことを言ってきます。
このことを 私の婚約者であることを伏せて既婚の友人に話すと「そういう人って結婚したら、仕事で疲れたとか言って、絶対に家事を全部妻に丸投げすると思う」 「新婚の時に家事を率先して頑張ってしまうと、それが当たり前になって、頑張っても感謝されないし、手伝ってもくれなくなる」 等と言います。でもそれが私の婚約者の言い分だと知ると「収入がある側を収入が低い側が家事でサポートするのは当たり前。結婚前には家事は分担って言っておきながら、 結局やらない有言不実行よりも、誠実なんじゃない?」と言い出して、結婚前からそんな事を心配し過ぎる私の方が悪いことになります。

頭を冷やしてみると、彼は外面が良くて、一度彼に会うと 家族も友だちも私より彼の味方になってしまい、 私に「ハイスペック男子と結婚できる私はラッキー」という意見を押し付けてきます。 そんな時に彼が私を誉めたり、「僕の方こそラッキー」というようなことを言ってくるので、益々彼の評判が良くなる感じです。 私の方は、よく考えると我慢と妥協の連続で、彼といると常に私が悪者にされるような被害妄想的な気持ちが強くなってきて、 「この人とは無理に結婚しても、遅かれ早かれ離婚するのでは?」と思うようになり、今では婚約解消を真剣に考えるようになっています。
私がこれまで不満に思ったり、不安に感じたことを書いたらキリがないのですが、それは大きな問題ではなく、小さな出来事の積み重ねです。 なので周囲に説明しても深刻に取り合ってもらえなくて、 「あんな良い人とのご縁はそうそう無いのだから、とにかく結婚してみて、努力をして、ダメだったら離婚すれば良い」、 「そんな我がままな考えを持っていたら、誰とも結婚出来ない」などと言われてしまいます。 最初は私も「マリッジブルーの前倒し?」、「誰と婚約しても、同じようにいろいろな不安材料を抱えるものなのかもしれない」と思い直そうとしたのですが、 先日、彼が私の再三に渡る懇願を無視して遣ってしまった事のせいでトラブルが起こってしまいました。 そして気付くと何故か彼は「私のせいで災難に見舞われた被害者」になっていて、全ての責任が私に転嫁されていました。 私が「そうじゃない」と必死で言い訳をしても、私の方が彼に責任をなすりつけようとしているように見えてしまい、 幸い彼は責任を認めてくれたのですが、周囲はすっかり私を悪者扱いでした。 その日は悔しくて、眠れず、不安を通り越して怒りの感情が沸き上がってきました。
「もうこうなったら、秋山さんにご相談するしかない」と思ったので、今このメールを打っています。 秋山さんはこの状況で、私に結婚を勧めるでしょうか。 それとも婚約破棄をしたい私をサポートして下さるでしょうか。 何でも良いので、お考えを聞かせて頂けると嬉しいです。長文で失礼いたしました。

- H -


It is easier to stay out than get out 


メールを拝読した印象をズバリ申し上げると、私はHさんの婚約解消をサポートする立場です。
Hさんが彼との結婚への不安を掻き消そうとした時の「誰と婚約しても、同じようにいろいろな不安材料を抱えるものなのかもしれない」という思いは、 「結婚したら相手が変わってくれるかもしれない」という思いと並んで、結婚に失敗した人が抱く希望的観測です。 また離婚した人々の多くが、以前から気付いていた相手の欠点を美化したり、軽視したことを後悔するもので、 やがて離婚の原因になるような人格的な問題を交際中、婚約期間中に気付いた場合は、深刻に捉えるべきなのです。
離婚経験者の中には「私が妊娠した頃から、夫の人柄が変わってしまった」などと、結婚してから相手が変わってしまったと考える人は少なくありません。 ですが人間、特に男性の人格はそう簡単に変わることはありません。むしろ簡単に変わってくれることが無いからこそ慎重に選ばなければならない訳で、 不安を抱えた状態で結婚に踏み切るのは、多額の借金をしてまで儲かる保証が無いビジネスを始めるようなものです。 世の中にはやってみなければ分からないことは沢山ありますが、やってみなくても分かることも沢山あるのです。 本人が信じて情熱を注ぐことが出来ないことは、周囲が何と言おうと 自分の意志を捻じ曲げてまで行う価値などありません。
離婚経験者や、離婚弁護士は 「離婚は結婚の10倍大変な作業」と異口同音に言いますが、実際に結婚は「嫌なら別れれば良い」程度の簡単な結びつきではありません。 小見出しに用いたマーク・トゥウェインの「It is easier to stay out than get out」という語録のように 人生には喫煙、ギャンブル等、一度関わってから抜け出すよりも、関わらない方が楽で簡単、効率的に生きられるものが沢山あるのです。 厄介な人間関係もその1つですが、結婚となるとそれに法的手続きが絡むだけに更に厄介です。 人生を効率良く、幸せに生きるには 「逃げる、避ける、関わらない」ことが、 「実行、鍛錬、継続」と同じくらい大切なのです。

Hさんは、彼に不満や不安を感じたのが 「小さな出来事積み重ね」と書いて下さいましたが、 世の中の大半の人は、突然起こる事故や災難、悲劇よりも、毎日の小さな不満や苛立ち、不安、失望等の積み重ねで不幸になっていくのです。 そんな小さな負の要素に蝕まれながら、利用されたり、洗脳されたり、疲弊していく生活を不幸と呼ぶのです。
このコーナーで何度も申し上げている通り、人間は誰もが自分を幸せに導く本能が備わっています。 特に結婚に際しては、多くの人々が 「とにかく結婚したい」という盲目的な結婚願望によって、本能の警告を無視して、 独身時代に終止符を打つ優越感、家族や友人達に祝福され、美しいウェディング・ドレスを着てヴァージン・ロードを歩く姿、といった華やかに思える目先の幸せを選んで、 それに踊らされる傾向が顕著です。 ですがHさんは、そんな狂騒曲に巻き込まれない冷静な視点をお持ちの聡明な女性でいらっしゃるので、 ご自身が信じる幸せを追求して頂きたいと思います。 たとえこの先、彼より高スペックな男性が現れなかったとしても、 彼と結婚するより Hさんが幸せになれるオプションは新しいお相手、キャリアの新展開といった形でこれからの人生に幾らでも巡って来ます。 言い方を変えれば、相手がどんなにハイスペックでも Hさんが幸せになれなければ、結婚する意味などありません。 彼の肩だけを持つ周囲に説得されて、不本意な気持ちで結婚する必要など無いのです。

”ソーシャル・サイコパス”の恐ろしさ

Hさんのメールを拝読していて、非常に気になったのが 婚約者について「頭を冷やしてみると、彼は外面が良くて、一度彼に会うと 家族も友だちも私より彼の味方になってしまい、 私に”ハイスペック男子と結婚できる私はラッキー”という意見を押し付けてきます。 そんな時に彼が私を誉めたり、”僕の方こそラッキー”というようなことを言ってくるので、益々彼の評判が良くなる感じです」と書いていらした部分です。
これは、私が”ソーシャル・サイコパス”と呼んでいる危険人物にありがちな特徴です。 世の中には自分では手を下さずに、周囲を使って特定の相手に対して自分の優位を示す行為を本能的かつ巧妙に行うようにプログラムされた人間が時に存在するのです。 そしてルックスや人当たりが良く、社会的ステータスが高い場合、その悪質さは更に高まります。 Hさんは 周囲に「あんな良い人とのご縁はそうそう無い」とか、「今時のアラサーがこんな条件が揃った男性と結婚出来る事なんてない」と言われ続けたご様子を書いて下さいましたが、 私も彼が ”ソーシャル・サイコパス”という名の逸材だと考えています。

”ソーシャル・サイコパス”を伴侶に持つと、常に自分が悪者になってしまって、真実が周囲に理解してもらえない、 訴えようとすればするほど、ヒステリックで頑固なイメージを与えて、”ソーシャル・サイコパス”に同情、評価、好意が集まる状況を招きます。 そんな”ソーシャル・サイコパス”は成長過程では、自分と比較される兄弟姉妹にも同じ思いをさせているはずです。
Hさんのケースでは、家族やお友達が 彼の味方になってしまった背景には 外面が良くて、ハイスペックな”ソーシャル・サイコパス”に好意を抱く裏返しで、 彼の婚約者であるHさんに対する嫉妬心、そこから生まれる競争心もあったかと思いますが、 いずれにしても 周囲の間で彼に対する好感度がアップすればするほど、Hさんに対する批判や風当たりは強くなって行くのです。
Hさんが悔しくて眠れなかったトラブルが起こり、事情を周囲に説明しようとした時、恐らく彼は自分の否を認めただけでなく、 Hさんをかばう言動をしていたように思います。 そしてHさんが必死で誤解を晴らそうとしている時に、彼がHさんの唯一の味方のように振舞っていなかったでしょうか。 もしそうであれば、彼は筋金入りの ”ソーシャル・サイコパス” であることは確定です。
そんな夫を持てば、Hさんのようなまともで聡明な女性であればあるほど、 「誰にも分かってもらえない」、「そんなつもりじゃない」という気持だけが空回りして、やがては人格が崩壊してしまいます。 一度でも「必死の言い訳=ヒステリックに見える言動」をしてしまうと、周囲は先入観を持ちますので 益々”ソーシャル・サイコパス”に有利なシナリオが確立されて、覆すのが不可能になって行きます。

こういう相手とは婚約破棄も そう簡単ではないと思いますので、結婚を先延ばしにしながら、彼には自己主張をせず、やる気のない同意を繰り返して ”追い込んでも面白くない存在”になって行くのがまず第一段階です。”暖簾(のれん)に腕押し”という言葉がありますが、Hさんはその暖簾のような存在を心掛けて下さい。 そして「彼は私に勿体ないほどのハイスペック」、「彼がハイスペック過ぎて、繋ぎ留められるかが不安」というような、 別れの理由として周囲が納得する 彼への賞賛を続けながら、他のシングルの友人と彼をさり気なくマッチメーキングしてみるなど、 正攻法ではない婚約解消を段階的かつ計画的に、進めることをお薦めします。この時、周囲は皆彼の味方だと疑って、 他言せずに実行することが大切です。
”ソーシャル・サイコパス”は、執念深いので上手く別れてからも暫くは気が抜けませんが、 「不幸の入口からの脱出計画」と考えて下さい。そうすることで自分の人生の主導権を取り戻したと実感すれば、 不安やストレス、フラストレーションを大きく軽減することが出来るはずです。
最後に不幸が時に幸せを装ってやってくるのと同様に、幸せというものも一見不幸と思われる状況からスタートします。 幸せを装った不幸に踊らされることが無かったHさんならば、きっと不幸と思われる状況を幸せに転換することも出来るはずですので、 是非頑張って下さい。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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