Sep Week 2, 2023
Californian Doesn't Know Ohtani
CA在住で大谷選手を知らないと”世捨て人”扱いですか?


大学時代を含め、10年ほどカリフォルニアで暮らしています。 結婚はしていませんがボーイフレンドはずっとアメリカ人で、アメリカ永住希望です。
少し前に日本に一時帰国した時に、大谷選手とアメリカでの大谷フィーバーについて、"アメリカの生の情報"を嫌というほど尋ねられました。 私は大学時代からフットボールは見続けていますが、ベースボールは退屈だと思っていて、全く観ません。ボーイフレンドやその家族も皆フットボール・ファンです。 野球を熱心に観る人は周囲に全然居ませんし、私はこちらの日本人コミュニティとはあまり関わっていないので、日本人選手の誰がメジャー・リーグでプレーしているかも知りません。 ニュースは社会人として常識的にフォローしていますが、それでも大谷選手については殆ど何も知りません。
そう正直に答えると日本の友達や知り合いはガッカリしていましたが、中には私がきちんと世の中の出来事をフォローしていなくて、 スポーツの話をする友達も居ないかのように決めつける人や、「今時、大谷を知らないなんて、本当にアメリカに住んでるの?」と言ってくる人まで居ました。
私が 周囲にはフットボール・ファンしかいないことを説明したのですが、何を根拠にか「野球はアメリカのパストタイム。付き合っている人間の程度が悪すぎる」とか言われて、 「アメリカに住んだこともないくせして、そこまで言う?」とは言いはしませんでしたが、心で思っていました。
そして一番アグレッシブだった人が「今や世界の大谷なんだよ。日本やアメリカだけでなく、プエルトリコでも皆大谷を知ってるんだよ。まったく、世捨て人みたいに生きてるな」と言ってきた時には、思わず唖然としました。 「プエルトリコってアメリカ領土なんだけど…」というと、「プエルトリコは国だ」と言う低レベルの論争になってしまい、その場でグーグル検索をさせてアメリカ領土だということは認めさせましたが、 それでも「私がアメリカの現状について無知」という考えは曲げませんでした。
そんなこんなで、今回の一時帰国中は大谷選手の話題が出る度に「また来た…」みたいな感じになってしまいました。
話は逸れますが、日本人は「チャーリーズ・エンジェル」とか、「エンジェル・ナンバー」とか正しいAngelの発音をしているのに、何故LA Angelsだけは 「エンゼルス / An"Z"els」って 発音するのかも不思議に思ってしまいました。

大谷選手のことと似ているのですが、以前視聴率がそこそこのリアリティTV番組に出て来た日本人パフォーマーについても、一時帰国中に「アメリカで有名なんでしょ?」 と訊かれてビックリしたことがあります。その場でYouTubeビデオをスマホで観せて貰ったのですが、私は全然知りませんでしたし、YouTubeビデオ自体も日本人が日本で製作して「全米が感動!」みたいに演出しているものでした。そう言うと愛国心が無いとか思われるので 何も言いませんでしたが…。
日本で報じられていることが、アメリカでも同じように報じられていると思うのは 日本のいかにも島国的な考えだと思うのですが、 秋山さんも一時帰国の時にそんなジレンマを味わったことはありますか? そして「日本で報道されているアメリカ」、「日本が思い込んでいるアメリカ」を押し付けられた時は、どう対処するべきでしょうか。
日本でのやり取りを思い返すと何となく気分が悪くなるので、ご相談してしまいました。よろしくお願いします。

- K -


日本とアメリカの最大の違いは


Kさんのご質問にアドバイスをさせて頂く前に、まずKさんがカリフォルニア在住で、大谷選手について知らなくても、それがごく普通であることをご説明したいと思います。
ちなみに私はアメリカに長く住んで、4大プロ・スポーツのホッケー以外は、全て夢中になってフォローした時期があります。 マイケル・ジョーダン全盛期はNBAにドップリで、1990年代後半のヤンキーズ黄金時代はメジャーリーグを夢中でフォローしていましたが、 その間もその後も ずっと熱心にゲームを観続けたのがNFL、すなわちフットボールでした。 事実、メディアでも1990年代には既にアメリカズ・パストタイム(アメリカの趣味)はベースボールからフットボールに移っていて、 ワールド・シリーズの全試合の視聴者数を合計してもスーパーボウル1試合の視聴者数には及ばない状態はその頃から続いていたかと思います。 現在ベースボールはNFL、NBAに次ぐ3位のプロスポーツとは言え、上位2つにかなり水を開けられて久しい状況です
例えば8月26日の土曜日、NYのシティー・フィールドではNYメッツと大谷選手が所属するエンジェルスの試合が行われていましたが、 この日の夜に3大ネットワークのNBCが放映したのはNFL NYジャイアンツVS.NYジェッツのプレシーズン・ゲームでした。 すなわちメジャーリーグのシーズン・ゲームよりも、NFLのレギュラー・プレーヤーが揃う前のオープン試合の方が視聴率が獲得出来てしまうのが今のアメリカなのです。

またカリフォルニアはプロ・スポーツチームが多く、プロ・ホッケーが3チーム、NBAが4チーム、NFLが3チーム、メジャーリーグ・サッカーが3チーム、 そしてメジャーリーグ・ベースボールは5チームも存在するので、合計18チーム。それ以外に女子のバスケットボールとサッカーが3チームありますが、 カリフォルニアは日本の国土より面積が9%広いので、Kさんがどちらにお住まいかは書いていらっしゃいませんでしたが、サンフランシスコ在住であれば、同じカリフォルニアでもサンディエゴのチームを ホームチームとは見なしていません。
もしLAにお住まいだとしても、プロ・スポーツだけで12チームが存在し、UCLAなどのカレッジ・スポーツの報道も盛んな中、 ローカル・ニュースのスポーツ・セクションは常に3~4分程度の放送枠ですので、ESPNやFOXスポーツといったスポーツ専門メディアでない限りは、 ロサンジェルスのTV局でもエンジェルスのニュースが試合の度に報じられることはありません。
したがって普通にニュースを観て、世の中の出来事をフォローしていても、自分が興味の無いスポーツであれば、地元チームのスター・プレーヤーについて知らないというのは アメリカではごく普通のことです。
NYのローカル・メディアでも大谷選手の報道を見る機会があるとすれば、エンジェルスがヤンキーズ、メッツと対戦した時程度です。 ですが限られた報道枠の中では、メジャーリーグの試合結果よりもNFLやNBAのドラフトやトレードを含むオフシーズンのニュースを優先する傾向が顕著です。 NY以外チームのメジャーリーグ・プレーヤーがニュースになるとすれば、よほど珍しいプレーか記録達成があった場合のみですので、NYメディアをフォローしている私は、 Kさんから頂いたご質問に答えるためにYouTubeをリサーチするまで、大谷選手については通り一遍の知識しかありませんでした。

日本の野球ファンがよく「メジャーの球場はガラガラ」と言いますが、アメリカではプレイオフに突入するまで メジャーリーグが5万人前後のキャパシティのスタジアムが埋められない一方で、 カレッジ・フットボールは8~10万人入りのスタジアムを毎週の試合の度に満員にします。 メジャーリーグは試合数が多過ぎて有難味が無いとも言われますが、NFLやNBAに比べるとマーケティング努力が乏しく、新しいファンの獲得を怠ってきたスポーツなので、 今もファンベースのマジョリティはベビーブーマー、すなわち高齢者です。 今年からピッチクロックを導入したり、フォアボールを申告制にして試合時間短縮を図ったことからも分かる通り、 アクションが少ない割に試合時間が長過ぎたのも、アテンション・スパンが短いジェネレーションZにはアピールしていなかったようで、この世代でベースボールをフォローしているのは36%に過ぎません。
でもルール改正の甲斐あって、今シーズンはベースボール人気が若干アップしたことが伝えられていて、 その人気上昇要因の一端を大谷選手の2ウェイ・プレーヤー(二刀流)としての活躍が担っているのは紛れもない事実です。 エンジェルスのホーム・スタジアムには、プレー・オフでもないのにグウェン・ステファニのようなセレブが観戦に訪れるようになりましたし、そんな珍しい光景が見られた場合にはさすがのNYメディアも着眼します。 また大谷選手のホームランを打った直後のバット・フリップ(バットを放り投げるアクション)が話題を提供したお陰で、今やメジャーリーグを観戦する人々が 試合の行方とは全く無関係なバット・フリップに着眼するようになりました。 さらに私が毎朝読んでいるビジネス中心のニュース・レターでも、大谷選手が怪我をして今シーズン、ピッチャーとして登板することが無くなったニュースについて2行程度の記述がありましたが、 チーム名や2ウェイ・プレーヤー(二刀流)である説明も無しに、 ”Shohei Ohtani, a Unicorn of MLB” とだけ書かれていたので、アメリカでの知名度が上昇した様子を実感しました。 ちなみにユニコーンを人に例えて使う場合は、類まれなる能力の持主を指します。時価総額10億ドルを超えるスタートアップ企業をユニコーンと呼ぶのも同様です。
ですが知名度や人気が上昇したとは言え、日本のYouTubeチャンネルが謳っているような「大谷に全米がXXX」というようなフェノメノンには未だ至っていません。 アメリカは国土も広く、人種も多く、カルチャーも多様化していますので、 テイラー・スウィフトでさえデビューから17年掛かりでこの夏、全米規模の経済効果をもたらしていることを思えば、僅か6年のMLBでのプレーで「全米がXXX」というセンセーションは不可能です。
そうした大谷選手を褒め称えるYouTubeチャンネルのクリエーターも、彼の成功や活躍を大きく伝えれば伝えるほど、サブスクライバーや高評価が増えることを理解した上での ”愛国心マーケティング”で 大袈裟に事実を伝えている訳ですから、YouTubeが報道ではなく、クリエータ―にとってのビジネスであることを考慮すれば、 それは理に叶ったストラテジーとして割り切ることが出来るかと思います。

”論破=敗北”、”逃げ=裏勝利”

私がKさん同様の形で 日本とアメリカの意識の違いを感じたのは、ディズニーランドについて一時帰国の際に友人の夫と話していた時でした。 私が「ディズニーランドは日本でしか行ったことが無い」、「アメリカでは子供が居なかったら、休暇でディスニーには行くことはまず無い」と言ったところ、 「そんなことはあり得ない」と思い切り否定されてしまいました。彼はアメリカに住んだことも無く、アメリカのディズニーランド、ディズニーワールドにも来たこともありませんが、 「それくらいニュースを見ていれば分かる」というのが断言の理由でした。
ですが実際にアメリカの概念では、ディズニーワールドやディズニー・ランドという場所は、子供にせがまれた親が、事前に様々なチケットを購入し、アトラクションを予約するなどして、周到な準備をして、混雑や割高を承知で出掛ける旅行地です。大人が休暇を過ごすのなら 東海岸ならバハマ諸島、西海岸に住んでいたらメキシコで、その3分の1以下の費用で ずっと上のランクのホテルに滞在しながらのビーチ・ヴァケーション等を選ぶもので、よほどのディズニーファンでない限りは、日本の20倍の国土を移動してまで、あえて子供達で混み合う場所で休暇を過ごそうなどとは思いません。
ですが、私の言い分の方が間違っていると決めつける人には そんな説明は耳に入りません。説明しようとしても、言葉尻を捉えて遮られてしまいますので、 そういう時は 逃げの一手に徹するしかないと諦めるようにしています。

アメリカではトランプ政権が誕生したのをきっかけに、トランプ支持派、アンチ・トランプ派の二極化が進みましたが、それと同時に 「思い込みが強い人間は、対立する意見には耳を貸さない」、「ここまで考えが異なると、決して歩み寄れない」と悟った人が多いと言われます。 そして現在では「相手の主張を攻撃するために論争をしたがるタイプ」と、「無益な争いでしかない論争を避けるタイプ」という 二極化が進みつつあります。
そうなってからは まともなYouTuberやセレブリティは、より多くの人々にアピールし、敵を作らないポジションに徹して、論争を招くような話題や論点を避けるようになってきました。 そう心掛けていると思しき人の間では、一方の主張に寄ったコメントをした直後に、逆の立場を持ち上げて、バランシング・アクトをする傾向が顕著です。 2020年から突入した風の時代の影響が強くなってきた結果、それを肌で感じる人々が、「一方に入れ込むよりも、世の中の風向きに応じて どんな立場でも取れるようにリスク・マネージメントをし始めた」とも取れるのがそうした傾向です。
そんな風の時代は、思い込みの強さ、偏見に満ちた考え、聞く耳を持たない頑固さ、柔軟性の乏しさは、これまでの土の時代とは比にならないほどのマイナス要因になります。 ですからプエルトリコがアメリカ領であることくらいは 教えてあげるべきかと思いますが、 一方的な意見や思い込みを押し付ける人に対しては、「時代が制裁してくれる」と割り切って、サバサバしたメンタリティを心掛けてみてください。
これは決して簡単なことではありませんが、思い込みが激しい人は、根に持つ人でもありますから、一時的に論破したところで 競争心や復讐心を駆り立てることになりかねません。 風の時代には固執や粘着質が凶とされますが、 その時代の中で運が悪く、恵まれない人ほど、凶のアクションで周囲をかき乱すのです。 ですから一時的に気分が悪くても、そういう相手とは「闘わない」、「逃げる」姿勢に徹して、後から根に持たれないようにすることが ”裏勝利”のフォーミュラです。

最後に、今アメリカで人気の上昇率だけに着眼した場合、最も急速にファンベースを広げているスポーツは意外にもクリケットです。 既にメジャーリーグ・クリケットの設立に向けた水面下の動きが始まっていますが、 今やスポーツ・チームは最もビリオネアを生み出すビジネスなので、様々なスポーツに多額の資金が流れ込んでいます。 そのため今後はプロ・スポーツが益々多様化して、その人気も分散傾向に向かう見込みです。
これまでの”中央集権”から”分散型”に向かうのも 風の時代を象徴する動きですので、今後世の中が益々風の時代を色濃く反映した変化を遂げて行くことは間違いないと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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