Apr. Week 2, 2023
Not in Thier Blood
親がまともなのに、その子供が酷い人間になる理由は?


初めまして。このコーナーは、姉に教えてもらってアクセスするようになり、今ではキューブさんのサイト全部をくまなくチェックしています。
私はつい最近夫の浮気と、モラハラ的言動を理由に離婚しました。 僅か3年半の短い結婚生活でしたが、離婚した途端に、幸せな気分になったので、バツがつきましたが後悔はしていません。
離婚が思ったよりも早く成立したのは、義両親がとても常識的な良い方達で、浮気をして開き直る夫を私に代わってしっかり叱責してくれました。 慰謝料も義両親の立て替えで 直ぐに支払われたので、新しい生活を直ぐにスタートすることが出来ました。 今では、「私の結婚は一体何だったんだろう」と振り返っています。

私の離婚が成立した途端に、姉も離婚を考え始めて、理由はやはり夫(義兄)の浮気です。 浮気は昨年発覚して、その時は義兄が謝罪し、愛人と別れるということで、再構築になりました。 2歳の娘が居たことも再構築の大きな理由でした。
ですがつい最近、実は愛人とは別れていなかったことが発覚して、それには姉の義父母も激怒してしまい、 姉が離婚を決断してもサポートするので、離婚後も孫には会わせて欲しい というような話になり、姉は義両親に感謝しています。

そんなことを姉と話しているうちに不思議に思ったのが、何故まともな親から私と姉の夫のような ウソツキで人間のクズのような男性が育ったのかということでした。 私はアラサーで、できれば再婚して、子供が欲しいと思っていて、今までは親がしっかり育てれば 子供もきちんとした人間になると思い込んでいました。 「あの親にして、あの子供」というのなら納得できますが、元夫と義両親を見ていると 「まともな親が一生懸命育てても、あんな風になる」という実例を見せつけられている感じがします。
秋山さんは、親がまともなのに、子供が身勝手で、思いやりや常識の無い人間に育つ原因は何だとお考えになりますか。 このコーナーを読んでいるうちに、是非伺ってみたいと思ってしまいました。
お時間がある時に分析して頂けたら嬉しいです。

- S -


穏やかで善良な親が子供や伴侶をダメにするケース


私の考えでは、善良なご両親に育てられた子供が、必ずしも良い人間になる訳ではない理由の1つは、 必ずしも「良い人間=良い親」とは限らないことですが、 それと同時に「子育て=人間としての教育」には当たらないこと、 一般に善良と思われる人物にも 実は知られざる人間的側面がある等、様々な要因がケース・バイ・ケースで関わっていると思います。
逆に反面教師で素晴らしい人格が育つケースも非常に多い訳ですから、子育てにおいては何が幸いし、何が災いするか、 そして何がどう影響するかは一概に言えないというのが正直な意見です。

人間は本能的に善悪の見極めが出来る生き物で、良いことをすれば気分が良くなり、悪い事をすれば罪悪感を感じるようにデザインされています。 しかし世の中はそれほどシンプルではありません。善悪の価値観は損得の観念や、快楽の追求、何等かオブセッション(強迫観念)によってあっさり崩れることは珍しくありません。 すなわちルールを破ったり、人を裏切ったとしても、それによって得られた利益で罪悪感が掻き消される人は少なくありません。 浮気というものが 社会一般で悪事と見なされ、伴侶や恋人を裏切る行為と知りながら、背徳感、自分が求められている自己肯定感や優越感、もしくは 浮気相手に対する固執などから、関係を続けてしまうのはテキストブック・ケースです。
また成長期にウソやごまかしで悪事の責任を逃れたり、得をした経験がある人、自分の悪事に対して「もう二度としない」と肝に銘じるまで咎められたり、 善悪を厳しく教え込まれることが無かった人は、どうしても「悪い事をしてもバレなければ大丈夫」、「バレたところで大したことは無い」という考えを潜在的にも持つようになりますし、 「どんなに上手くやったところで、ウソや悪事はやがてはバレる」ことを全く理解していないケースも少なくありません。 そんな歪んだ道徳観やモラルを持つ人間の親は、決して悪い人間ではなく、ごくまともで善良であるケースの方がむしろ多いのです。

私は個人的には、穏やかで善良な人ほど 子供や伴侶をダメにするケースが少なくないと思っています。 私が度々このコーナーに書いてきたように、何でも相手の言う通りにしていたら、犬でも人間を馬鹿にするようになるのです。 穏やかで、善良な人が 「怒るのが嫌い」、「家の中の雰囲気を穏やかに保ちたい」、「自分が我慢する方が簡単」、「キツク言って嫌われたくない」、「はっきり言ったら可哀想」、 「こういう時は理解を示してあげないと…」と思って行動すると、親子間でも、夫婦間でも 「この程度の我がままは大丈夫」、「自分のために遣ってくれるのは当たり前」という態度と メンタリティが育まれて、遣りたくない事がある時には甘えられ、気に入らない事が起こる度に見下される関係になって行きます。
そして穏やかで善良な人ほど 「今はこういう時期だから仕方がない」、「やがて落ち着くだろう、変わってくれるだろう」と 時間の経過に問題解決の希望を見出して、状況の悪化を野放しにする傾向が顕著です。

逆に欠点があったり、多少の感情の起伏があっても、それをカバーして余りある魅力を持つ人の方が親子間、夫婦間に限らず、全ての人間関係において 深い絆を構築しながら、 様々な事を周囲に学ばせてくれる存在と言えます。 私はそもそも完璧な人間など存在しないという考えの持ち主ですが、親というものは 子供の健全な成長のためには不完全であるべきと思っています。 そんな不完全な親が子供に愛情を持って、1つ屋根の下で 家族として喜怒哀楽を共にして、良い事から悪いことまで、沢山の思い出を築くことが理想の子育てだと私は考えます。
「子供は親の背中を見て育つ」という言葉通り、子供のピュアな心と視点は 親の表向きの姿や言動よりも、 見えないところでしている行動や、ちょっとした瞬間に垣間見せる本来の姿を捉えて、様々なことを感じ取っています。 だからこそ 不完全な親が 自分自身の人生で葛藤しながらも、家族愛によって幸せを感じながら 頑張る姿を見せることこそが 最も有益な教育だと考えますし、 コミュニケーションがあってぶつかり合う家族の方が、一見穏やかでも 御互いを構わない家族よりも遥かに人格形成に好影響を与えると信じています。

親が与えるもので、子供が唯一応えてくれるのは

人間の健康全般、老化のスピード、生きている間に患う病、知能レベル等に関して、親からのDNA、すなわち先天性が影響するのは30%と言われます。 残りの70%は 自分が生きて来たライフスタイルによって築かれた体質や思考など、後天的要素によって決められます。 要するに親子というものは血が繋がっていて、DNAをシェアしているとは言え、少なくとも70%が全く別の人間ということです。 ですので良い意味でも、悪い意味でも親子を1つのDNAパッケージとしてジャッジするのは間違いです。
子供は生まれた時から1人の人間であり、親の付属物ではありません。親が教えた通りに物事を学んだり、親が意図した通りに解釈する訳ではありません。 どんなに親が守ろうとしても、守り切ることなど出来ませんし、守れば守るほど子供は弱くなります。 現代の親は「教育熱心で過保護でも、愛情を注いでいない」と言われますが、 実際には親が与える物の中で、子供が唯一応えて育ってくれるのが愛情です。
それを象徴するストーリーとして、私が頻繁に引用し、過去のこのコーナーでもご紹介したことがあるのが 1990年代に読んだ短い実話エピソードです。
サクセスフルで、誰が見ても理想の夫兼 父親である男性が、妻と子供に愛情と理解を示しながら、子供達をきちんと教育する様子を見た人が、 その男性に「貴方のお父さんは一体どんな素晴らしい父親だったのか?」と尋ねたとのこと。彼の答えは「父は自分に最高の愛情を注いでくれた」というものでしたが、 聞けば男性の父親は アル中気味で、毎晩のように夫婦喧嘩ばかり。彼は殆ど父親と一緒に時間を過ごした記憶がありませんでした。 にも関わらず男性がそう答えた理由は 父親が毎晩、彼が寝静まった頃を見計らって、彼の寝室の扉を開けて 「I Love You, Son」と呟いていたためで、 父が自分に面と向かっては言えない そのセンテンスを 眠ったふりをしながら、毎晩聞いて育った彼は 「常に父親からの最高の愛情を感じていた」 というのがそのストーリーでした。
たとえ人間的に不器用であっても、人にはその人なりの愛情の示し方があり、大切なのはどんな形でも愛情を示すことですが、 愛情に限らず、知識や思想はこのストーリーのように、小さな事で毎日フィードする方が、深く脳裏に刻まれるのは紛れもない事実です。 愛情や正義、知識のように人間が本能的に欲して、価値を見出すものは、 カルト宗教の洗脳などとは異なり 時間が経っても色褪せることなく、 生涯に渡って意識や思考の中核を成すようになります。

私はかに座生まれですが、かに座は「自分のインナー・サークルには信頼を寄せて、サポートを惜しまないものの、アウター・サークルには全く関心を注がない」という性質があります。 そんな私が人を信頼する際の重要なポイントの1つが 「親に愛されて育ったか」です。 もちろん親でなくても、成長期に親同様の愛情を注いでくれる存在が居た場合は、信頼に値すると考えます。 そして このことは生い立ちを聞かなくても、目つきやちょっとした時の視線に見事に表れます。
成長期に愛されなかった人は 笑顔なのに目が心から笑っていなかったり、優しそうにしていても ふと逸らした視線が意地悪そうに見えるもので、どんなに人当たりが良くて、よく笑う人でも こればかりはごまかせないと思って私は見ています。 実際に私が要注意と思った人については、人を裏切ったり、ウソをついたり、嫉妬深かったりと、関わりたくない噂話を聞くことになります。
親に愛されて育った人はトラブルが起こったり、仲がこじれた場合でも、陰湿な嫌がらせをしたり、理不尽な復讐心を抱くことはありません。 それは愛情によって育まれたプライドの成せる業とも言えますが、やはり育ちが良いということなのだと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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