いつもはこのコーナーを楽しく拝読する側ですが、本日はご相談でメールをさせて頂いています。よろしくお願いします。
私には4歳年下の弟が居ますが、昨年母が他界したことから 私とのほぼ折半で そこそこの金額の遺産を手にしました。
私は実家の傍に住んで、最後まで母の面倒を見ていたので母の死がショックでしたし、母が私の子供達をとても可愛がってくれていたので、
遺産は子供達の将来のために使おうと思って 全く手を付けていません。
弟は私よりも母の死をあっさり受け止めていて、遺産手続きの時に さりげなく遣い道を尋ねたところ、
「投資の資金にする」と言うので、「まさかFXじゃないでしょうね」と言ったら
「主に株、FXもちょっとやるけど」という返答が帰ってきました。
「FXって、皆が大損しているじゃない」というと、「友達なんてFX億万長者だよ。株もFXも デモトレードをやってかなり鍛えたから、そんなに簡単に負けないよ」
と自信満々で、少し心配になりました。でも弟は一応大企業勤めで、妻子持ちの立派な大人なので無茶はしないと思っていました。
ところが少し前に義妹(弟の妻)が珍しく電話を掛けて来て、「どのくらいの金額を遺産相続したのか教えてくれないか」と尋ねてきました。
義妹は「遺産は夫の財産で口出しする権利はないのは分かっている」と言いながらも、弟が遺産で投資をしていて
最近機嫌が悪い日が増えて来たので、かなり負けている様子を心配しているらしいのです。
私は弟が相続した額さえ自分の妻に話していないことにまず驚きましたが、機嫌を左右するほど投資に入れ込んでいる様子にも驚いてしまいました。
義妹は 遺産を投資で使い果たす前に、一部を子供達の将来のための手堅い投資か貯蓄に回して欲しいと思っているようです。
でも話し合おうとしても 「お前に口出しをする権利がある金じゃない」と不機嫌になるそうで、最近では仕事から戻った途端に コンピューターのある部屋に1人で籠って、
夕食もそこで1人で食べる日が増えて来たそうです。
そのため義妹は、遺産の額を知っている私から 投資で使い切る前に 夫を何とか説得して欲しいと頼んできました。
実は私は4年という年齢差もあって あまり弟とは親しくないというか、接点が無い育ち方をしました。
義妹とも、年に2~3回会うくらいの間柄で、この時の電話が最も長い会話だったと言えるほど弟夫婦とは疎遠でした。
ですから「私から言ったところで、弟は聞き入れないと思う」と話して、介入しないつもりでいました。
しかし夫に相談すると、万一弟が遺産以上の金額を投資で失って
経済的援助が必要になってしまった場合、弟夫婦の家族関係を考えると 真っ先に頼って来そうなのが私達夫婦なので、
頼られるような事態にならないように 何か策を講じるべきだと言います。
何故 弟がそんなに投資に入れ込むようになったかを義妹に尋ねたところ、
弟の大学時代のあまり優秀ではなかった友人が暗号通貨の投資で大儲けをして、
外国に家族で移住したのだそうで、最初はその人を真似をして暗号通貨の取引をしようと考えたようですが、
その頃にはビットコインの値段が下がり始めていて、「暫くはFXか株の方が儲かる」と別の友人に勧められたらしいのです。
その友人も週末の国内旅行で、一泊13万円のホテルに泊まったり、持ち物はブランド物で固めているような贅沢をしているらしく、
弟はそれに感化されてしまったようで、母の遺産を元手に大儲けをしようと、株式投資やFXの本を読んで勉強していたらしいです。
ですから弟は、自分なりにはかなり勉強していたようですが、
いきなり素人がちょっと勉強したくらいで儲けられるほど簡単のだったら、世の中にFXの失敗談が溢れているはずはありません。
最近では子供達が避けるほど 弟がイライラしている日が多いらしく、かなり負けているのは確かですが、
私や義妹にはその損失がどの程度かを白状させることさえ難しいように思います。
弟は学生時代に成績が良く、良い大学に行って、大手の企業に務めているので挫折知らずというか、
変なエリート意識やプライドがあるので、投資に限らず負けを認めるのが嫌いな性格です。
実は私の夫は弟よりも世間で上と見なされる大学を出て、弟より規模が大きな企業に務めていますが、
夫との結婚が決まった時に 「夫と結婚したからといって私のステータスが上がる訳ではない」というようなことを言われたのを今でも覚えています。
私のことは4歳上の姉でありながら 見下してきたのだと思いますし、気のせいか母が他界してからの葬儀や遺産分けの際には、
その見下し態度が悪化したように感じることがありました。
私は個人的には弟夫婦には積極的に関わりたくないのですが、万一弟が多額の損失を被れば 気の毒なのは子供達なので、
そうなってから後悔したくない気持ちは強いです。
纏まらない文章でごめんなさい。弟に投資で自重して欲しくても、私の言うことを聞かないことが分かっている場合、
秋山さんは どういう策を講じるのが有効だと思われますか。
義妹は「遺産の半分の額を失ったところで止めるべき」と私から言って欲しかったようなのですが、それを説得する方法はあるでしょうか。
何かアドバイスを頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
今後の秋山さん、CUBE New Yorkの皆さまのご活躍をお祈りします。
- T -
メールを拝読した限りでは、Tさんの義妹さんがおっしゃる通り、弟さんは投資の損失で 焦りやフラストレーションを感じていらっしゃる印象を受けます。
本を読んで知識を付けたり、デモトレードもされていたようですが、
FXでも、株でも デモトレードで上手く行ったからと自信を付けて、いきなり強気のトレードするのは 資産を失う典型的なシナリオです。
「実際の投資で失敗する人ほど、デモトレードでは上手く行く」というのは皮肉なジンクスと言えるかもしれません。
それほど自分のお金の損得が絡むと 価格が上がれば欲が出ますし、価格が下がれば焦りや苛立ち、恐怖感に襲われて、正当な判断が出来なくなるのが人間心理です。
基本的に株式、FX、クリプトカレンシーでも相場と名が付くものは、専門家さえも先がどうなるかは分かりません。
プロバビリティ(確率)は語れても、「絶対」はあり得ませんので、実際に儲けている人ほど
自分の勝ちパターンを確立して、 ストップ・ロス/損切り でリスクを防ぎ、テイク・プロフィット/利食い で確実に利益を上げる
地道な作業を 感情を交えずに理性的に行う投資をしているものです。
もちろん市場全体が大きく拡大しているブル相場の時代であれば、株でもクリプトカレンシーでも、持っているだけで値が上がりますので、
ビギナーズ・ラッキーや、気まぐれな投資で儲けてしまうケースも珍しくありません。
ですが2022年以降の値動きが大きく、不安定な相場では、多くの一般投資家がマーケットに翻弄されて 資金をむしり取られてしまう傾向にあります。
そんな不安定な相場では、値動きが好転して 素人が安心したり、期待を寄せたりして 投入する資金を増やした途端に 大きく値が下がって大損をするというのがありがちなシナリオで、
その損失を取り戻そうとして、また同じことを繰り返すスパイラル状態に陥ると、多額の資産を失うことになります。
私自身、トレードというものは人間の愚かさ、傲慢さ、計画性の無さ、時に怠慢ぶりを 残酷なまでに損失という形で思い知らせてくれるものだと
個人の経験から認識していますが、注意深く周囲を見回してみると、
プライドが高く、思い込みが激しいタイプ、人を見下す態度を取ったり、感情に振り回される人間性は特に相場で負ける傾向が顕著です。
加えて私個人の見解では、そんな相場に負ける人間性の中には男尊女卑も含まれます。
ウォールストリート自体が男尊女卑カルチャーであることを思うと 私の見解は間違っていることになりますが、それはシステム全体に守られてマーケット・メーカーになっている機関投資と個人投資の違いだと思っています。
どんな大手投資会社のトレーダーでも 個人投資では有り得ない大損失を出した経験がある男性は、私が知る限りその時点では、女性アシスタントや妻に自分の損失の八つ当たりをするなどの男尊女卑タイプでした。
ですが、一度苦い思いをして相場について深く学び始めると、様々な偏見や傲り高ぶった態度が改善され、冷静で公平な判断が出来るようになるので、
それに伴って人間的にも成長して、精神が安定するのも また事実です。
実際に投資の指南書には、メンタリティの鍛え方、保ち方について書かれたものが非常に多く、ベテラン・トレーダーでも頻繁に読み直しているのがそうした書物です。
投資で大儲けをしている訳ではない私がこんなことを申し上げるのは、不適切で失礼であることは重々承知ですが、
Tさんがメールに書いていらした弟さんはプライドが高く、負けを認めるのが苦手とのことですし、
義妹さんに遺産の額も知らせず、その気遣いを乱暴な言葉で跳ねのける男尊女卑的なご様子からして、
相場で痛い目に遭う典型的なお人柄のように思われます。
こうした人物は、よほどの危機感を覚えない限りは 自分のやり方を変えようとか、根本から間違えを正そうというお気持ちにはならないかもしれません。
男尊女卑思考が強いうちは、Tさんや義妹さんが何を言っても 聞く耳を持たないだけでなく、
親身になればなるほど侮辱されているような気分を味わって、かえって逆効果になるケースもあり得ると思います。
このメールの登場人物の中で、弟さんを説得して もっと慎重な投資に方向転換をさせることができるのは
Tさんのご主人だと思います。
まず男性ですし、弟さんよりも上のレベルの大学に行き、上のレベルの職場にお勤めとのことなので、
弟さんでさえ一目を置いている存在であるはずです。
プライドが高い人への説得は、遠慮のある関係の人やポジションが上の人でない限りは 上手く行かないのが常です。
ご主人も弟さんの投資を危惧していらっしゃるようなので、引き受けて下さるのではないかと思いますし、
こうしたケースではご主人と弟さんの接点が少なければ少ないほど、説得の効果が得易くなります。
ご主人には、弟さんに「投資を見直すように」とダイレクトに伝えて頂くのではなく、
どなたかの致命的な失敗談を語って頂くのが効果的です。
弟さんは、お友だちの投資の成功談でFOMO(Fear of Missing Out/取り残される強迫観念)を煽られたくらいですから、
Tさんのご主人から 現状の投資を続けた場合の行く末を、今なら未だ引き返せるという段階で聞かされれば、直ぐに方向転換をするところまで行かなくても、
現在のやり方に疑問を持って、立ち止まる程度には心が動くはずです。
もし弟さんが相場の負けでかなり疲弊していらっしゃるようでしたら、「精神的、体力的エネルギーを取り戻して 仕切り直す」という理由で、損失覚悟で一度全てを売却して
ブレークを入れるように説得するのも有効です。負けが込んで焦っている時は 「相場から逃げ出したい」という気持ちをある程度持っているはずですので、撤退ではなく「仕切り直す」という名目でしたら、
一時的に相場から手を引くことは厭わないように思います。
そして一度プレッシャーから解き放たれると、自分がやっていたことが違った形で見えて来るケースも多いのです。
アメリカでは、「マルチ・ミリオネアはブル相場の時よりもベア相場の時に生まれている」と言われて久しいですが、
恐らく弟さんのお友達の暗号通貨で大儲けをしたという方も、前回のベア相場で有望なコインを底値で購入して
辛抱強く持ち続けて、ブル相場の価格が跳ね上がったところで売却したものと思います。
一攫千金に見えるような投資ほど、時間と辛抱が伴うケースが多いこと、
世の中にはハイ・レバレッジで儲けている人が如何に少ないか、そして どんなに能力があっても
相場において「自分だけは特別」ということなどあり得ないことを、一度しっかり弟さんに認識して頂かなければなりません。
資産は通貨で持っていると インフレの影響でどんどん目減りして行きますので、投資を止めて貯蓄に回すのは 今の世の中では必ずしも手堅い選択とは言えません。
ですが もし弟さんが 遺産全額を投資に回せる資金プールのように考えていらっしゃるようでしたら、まずはその考えを改めて頂くことが最優先です。
そして少しでも多く遺産が残っているうちに、短期、中期、長期に分散したポートフォリオの構築に取り組むこと、すなわち計画性とストラテジーを
持った投資に切り換えて頂く必要があります。
人生は大きな視点から見ると、小さな障壁や挫折で方向転換を繰り返しながら生きて行く人と、それが無いまま生きて来た人が 大きな障壁や挫折に見舞われて 大きな方向転換を強いられるパターンに分かれると思いますが、メールを拝読した限りでは 弟さんは後者のように思われます。
これは過去200年間続いた土の時代に生まれた男性にはありがちな人生です。それほど強さやゴリ押しがまかり通ったのが土の時代なのです。
ですが今年から本格的な影響が高まる風の時代はそうは行きません。風向きを見ながら方向転換が出来るかが明暗を分ける時代に入ったのです。
お母さまの遺産がきっかけで 弟さんがこれまでの生き方を改めることがあれば、それはお母さまからのご加護とも解釈すべきですが、
以前のこのコーナーの風の時代の考察でも書きましたが、この時代には 過干渉はタブーです。
ですからTさんの「弟夫婦には積極的に関わりたくない」というお気持ちは正しいと言えます。
Tさんのご主人には、一度は弟さんに出来る限りのアドバイスをして頂きたいと思いますが、
それ以上の関りを持つ必要はありません。
風の時代に追い風に乗る生き方をするには、重たく、不必要なしがらみを自ら増やすべきではないのです。
それを「家族なのに ドライ過ぎる対応」と、罪悪感や後ろめたさを感じるのは土の時代の思考です。
風の時代では 過干渉やお節介はせずに 「本人の意志と自主性を尊重するポジション」を貫いて、自分は自分の人生に集中するべきなのです。
Yoko Akiyama
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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