Feb. Week 3, 2022
Decluttering is Overrated!?
世の中に乗せられて断捨離をしたら、かえって生活が… 


3年くらい一緒に住んでいた年下の彼と別れました。というか、家から追い出しました。 彼と彼の荷物が家から消えた途端に家が広く感じられて、空気までスムーズに流れているような爽快感を味わいました。 そして私が余計な人間関係や持ち物が多いせいで 時間やスペースを奪われていたことを痛感したのと、世の中の断捨離をしてミニマリズムを追求する風潮に乗せられたこともあって、 思い切って物を一気に捨てようと決心しました。
出て行った彼には本当に嫌気が差していたので、私の持ち物でも彼が使っていた物は捨てて、必要なものは買い直すことにしました。 それだけでなく ずっと捨てられなかった服や持ち物、使い掛けの化粧品などをどんどん始末して、家具も一部を捨ててコンパクトなものに買い替えました。 一番捨てるのに勇気が要ったのは手紙やカード、プリントアウトしたメッセージ、年賀状などだったのですが、いちいちチェックして時間を無駄にしたくなかったので、 自分の過去とはきっぱり線を引くためにも、貯めて取っておいた箱ごと捨てることにしました。 要らない食器、タダで貰った記念品のような物など、使わなくて、要らない物を沢山持っている自分にビックリしながら1ヵ月近くを掛けて家の中の物を捨て続けました。

最初はどんどん片付いていく気分の良さ、広くなったスペース、出て行った彼の痕跡がすっかり無くなったことを喜んでいたのですが、 ある日、姉がやってきて「断捨離し過ぎで殺風景になった」と言われたのがきっかけで、自分がまるで物に取りつかれたように断捨離をしていたこと、 そのせいで生活の潤いや心を和ませる物まで捨て去ってしまったことに気付きました。 特に後悔したのは 大きくて場所を取り過ぎると思って小さいものに買い替えたテーブルで、姉にも「どうしてあのテーブル、捨てちゃったの?」と真っ先に言われました。 1人暮らしには大きすぎると思ったのですが、今から思うとその大きさが便利で、部屋にも調和していました。 そしてもう1つ後悔したのが、やはり手紙やカードを捨てたことでした。

既に捨ててしまったので戻って来ないことは分かっているので、何とかこの後悔を割り切る方法はあるでしょうか。 秋山さんは どんなことでもポジティブ経験にすり替えてしまう術をご存知なので、お知恵をお借り出来たら嬉しいです。 宜しくお願いします。

- R -


物を悪役にすべきではありません。問題は自分の中にあります。


私は3年ほど前にそれまで15年以上住んだアパートから引っ越した際にかなり物を処分したつもりでしたが、この時に処分したのは奥にしまっていたので邪魔にはならないけれど、長年使っていない物が中心でした。 そしてパンデミックのロックダウンを迎えた時にも、世の中の人々同様にかなり持ち物を処分しましたが、この時は自分の生活を「シンプル、インディペンデント、サステイナブルにする」というポリシーを持って、 余計なメンテナンスが必要なもの、柄が付いた食器等を処分し、税金関連の書類等を毎年の保存と破棄がし易いように整理し直しましたが、非常に時間が掛かったのを覚えています。

ロックダウン中には、世捨て人のように物を捨てて 殆ど空っぽになったアパートをSNSで自慢する人も見られましたが、 私は要らない物は捨てるべきとは思うものの、物は財産なので むやみに捨てるべきではないという考えの持ち主です。 Rさんが「いちいちチェックして時間を無駄にしたくなかったので、自分の過去とはきっぱり線を引くためにも、貯めて取っておいた箱ごと捨てることにしました」と書いていらした 家族や友人からの手紙やカードについては、3年前に引っ越しをした際に一部を読み返しましたが、暫しの間 涙が止まりませんでした。 そして思ったのがそうした手紙やカード、写真といったこれまでの人生の思い出こそが自分にとって最も貴重な財産だということで、自分が如何にいろいろな人に支えられて幸せに生きてきたかを実感して、 謙虚に自分を奮い立たせるための宝物だと感じた次第です。 もちろんそのせいで引っ越しの荷造り作業はそこで脱線しましたが、私は人間には定期的に過去を振り返って、自分を見つめ直す時間がとても大切だと考えています。
Rさんも、手紙やカードが入っていた箱を開けて そのうちの1通にでも目を通していたら恐らく違う結果になっていたものと思います。 仰る通り 既に捨ててしまったものは戻ってくることはありませんが、だからと言ってRさんの様々な思いが一緒に捨てられてしまった訳ではないのも事実です。

失礼ながら、Rさんは出て行った彼へのネガティブ感情に支配された状態で断捨離をしてしまったように思います。 彼の持ち物だけを片付ければ良いところを 自分に必要な物でも 彼が使っていたという理由で捨ててしまって 買い直したり、 彼からのメッセージだけを消せば良いところを 過去に受け取った全ての手紙やプリントアウトしたメッセージを捨ててしまうというのは少々極端だと感じました。
彼が使っていたとしても Rさんの持ち物である限りはRさんの財産です。彼を思い出したくない気持ちは理解できますが、 必要なものまで破棄して新たな出費をして買い直すというのは「精神状態だけでなく、金銭面でも彼に乗っ取られていたのでは?」と思えてしまうのが正直なところです。 そういった”All or Nothing” タイプの性格は、一度好きになった相手にはとことん尽くしてしまうので、恋愛中は自分の生活が相手中心に回りますし、別れた後はとことん相手を嫌うケースもあれば、 相手に気持ちが残っている場合にはメモラビリアの構築、すなわち相手との思い出の品をとことん保存して、復縁への望みと思い出に浸る時期を過ごすケースもあります。
出て行った彼はRさんにとって酷い存在であったかもしれませんが、彼との生活がRさんの過去の全てではありませんし、一緒に生活した部屋の中にあった物には何の罪もありません。 Rさんがそんな何でも一括りにして感情をぶつけてしまう姿勢をここで改めない限りは、今後も手紙やテーブル以上の大切なものを手放しては後悔することになってしまうと思います。

それと共に、私は断捨離ブームから始まった物を悪役にする傾向を改めるべきだと考えています。 そもそも物を貯め込む人というのは物に思い入れがあると考えられがちですが、本当の思い入れというのは大切な物を大切に扱うことです。 そのためには使おうとした時に何処にあるかが明確で、保管や保存に適したゆったりした収納とその整理された環境は不可欠です。 要る物も要らない物も窮屈な状態で収納したり、整理整頓がされていない状態で物を貯め込んでは 捨てるのを先送りするのは 物への思い入れや執着ではなく、 優柔不断な性格や決断のエネルギー欠落の成せる業です。 物を大切にしている人には、必要なものとそうでないものの区別がしっかりつくのです。
私が知る限り「持っていれば使うかもしれない」と考えて物が捨てられない人ほど、肝心な時にはそれを何処にしまったかだけでなく、それを持っていることさえ忘れていますし、 「捨てなければ良かった」という後悔だけを鮮明に脳裏に焼き付けて、 それが無くても事なきを得ていたことを すっかり忘れています。

さらに言えば大切な物、自分にとって意義深い物を自分の財産として所有しようとする意識は、お金儲けや裕福さの根源でもあります。 豊かさというのは必要を超えたところにあるのです。 逆に人が貧しくなっていくプロセスは、「第一段階:必要な物しか買わない」、「第二段階:必要な物しか買えない」、「第三段階:必要なものさえ買えない」というもので、 質や安全性を度外視して 量と価格だけが購買基準になった時には既に貧困生活に突入しています。 断捨離が取り沙汰されるようになってからの方が 日本のミドルクラスの購買力が落ちているのも、「給与が上がらない、物価が安い」という構造的な影響もあるかと思いますが、 生活を削ぎ落して小さく回すメンタリティも少なからず影響しているように思えます。
ですがどんな貧困家庭の子供達でも玩具等、自分だけの宝物を持っているものです。 財産所有欲は人間の本能なのです。そしてそれこそが健全な経済活動の基軸となるメンタリティです。 物でも、お金でも、人間関係や資質・才能でも自分にとって大切なものを財産としてきちんと認識すれば、不必要なものはゴミ同然、必要なものは生活のインフラ、 財産こそが人生の豊かさであることを理解して、必要なものだけでは味気ない人生しか送れないことを悟れるはずなのです。

物を捨てるより、使い続ける方が意義あることです

世の中には物を失くしたり、物が壊れたりすることに必要以上に悪い暗示を持ち込む人が多いのですが、私は物を紛失した時には「私の傍にあるべきでない何かを一緒に連れて行ってくれた」と解釈し、 物が壊れた際には「これだけ使わせてもらったので、もうお役御免の時期」と考えるケースもあれば、「ここで何かを悟る、もしくは学ぶべき時」と考えるケースもあります。
「人生において偶然は一切起こらず、全ての出来事に運命的な意味がある」と言われますが、私は物への執着が強く、人一倍物を大切にする主義なので、その私から物が離れて行く、 もしくは物が壊れる場合には、「物が私を幸せに導くための何等かのアクションを起こしてくれている」と、人から見れば楽観的、私自身にとっては理に叶った解釈をするようにしています。

その私が過去20年以上に渡って愛用してきた オフィス・デスクのガラス製デスクトップに、突如大きなヒビが入ってしまったのが数週間前のこと。 私はこのデスクを非常に気に入っていただけでなく、ここでCUBE New Yorkの大半のコラムや記事を書いてきたので 本当にショックでしたが、「寿命が来ても仕方ない時期なのだろうか?」という気持ちもありました。 そこで買い替えの新しいデスクのリサーチを始めましたが、同じようなL字型オフィス・デスクで同等のクォリティを探すと2400~2800ドル。 2001年には約800ドルで買えたデスクだっただけに、インフレは昨今始まった訳ではないことを痛感してしまいました。
クォリティを落とせばアマゾン・ドットコムで120ドルからL字型オフィス・デスクが手に入りましたが、それではインテリアのクォリティがガタ落ちするだけでなく、 こんなデスクで仕事をしたら仕事のクォリティまでガタ落ちすることが目に見えていました。しかも私は人でも物でも気に入らない存在と一緒に過ごすのが何より苦手な性格です。
そう思いながら、安全のためにヒビをダクトテープで留めたデスクを眺めると、2001年当時チェルシーにあった家具店で このデスクに一目惚れした時の事などが頭に蘇って、 愛おしくてたまらない気持ちが高まってしまい、「絶対にこのデスクは手放さない!」と決心。 買い替えではなく「ガラスのデスクトップを取り換えて修理する」という方針に切り替えたのでした。
そこでブルックリンのカスタムグラス・ショップに写真とサイズを送付して、同じ物が作れるかと問い合わせると、ガラスの値段の見積もりは出してきたものの「金具はUBボンドでついているだけだから自分でつけろ」と 「さすがブルックリン!」という対応。でもそう言われて頭を冷やせば、ガラスと金具とネジ、ボンドさえあれば、私でも簡単にデスクが直せることに気付き、 そこから始まったのが部品探し。ボンドは簡単に業務用が手に入って、ガラスについては 私のデスクトップのサイズはL字デスクの一部とは言え、リサーチしてみると極めて一般的なサイズ。 わざわざカスタムグラスをオーダーしなくてもウォルマートで普通に販売されていたので、ブルックリンの業者が提示した3分の1の価格を無料配送で入手。 一番苦戦した金具は中国から10日以上掛かって到着し、その結果、100ドル以下の修理費で見事に復活してくれたのが私の愛するオフィス・デスク。 ボンドの接着部は素人の私の作業なので少々はみ出しているものの、今ではここに座って仕事をするという以前なら当たり前の事がとても有難く、幸せに思えて、 このデスクが私にとっていかに大切で掛けがえの無い財産であったかを再認識するに至りました。


あえてこのエピソードをここでご紹介したのは、Rさんにも「捨てることより 使い続けることの方が価値や意義がある」ことを感じて頂きたかったためです。 大切に使い続けて愛着があるものは誰にとっても貴重な財産で、その価値は他人に理解される必要などありません。嫌いな人間が一時的に愛用したところで価値が落ちることはありませんし、 利便性やスペースの問題などでジャッジするのも間違っています。
そもそも人間は仙人ではないのですから、物にこだわらず、執着しないで生きて行くのは不可能です。 物にこだわらなくなれば、食べ物のクォリティや生活のクォリティにもこだわりが無くなって、人生がどんどん味気なく、退屈で、変化やスリルの無いものになって行きます。
おしゃれをして、キレイにメークをしている人の方が、幸せで若々しく、生活も充実しているものですが、それは必要なものだけに囲まれるミニマムなライフスタイルからは実現しないのです。 「物への執着を捨てる」というコンセプトは 物欲にかられたり、見栄を張った出費をしないという形で実践すべきであって、 「自分の物的財産を排除・否定して生きる」と解釈するべきではありません。

最後に、捨ててしまった手紙やカードについてですが、それに代わるものとして私がお薦めするのは日記を書くこと。 それが面倒な場合には誕生日に5年後、10年後の自分への手紙を書いて、絶対に捨てない場所に保管しておくことです。 私は何年も前から未来の自分に宛てた手紙の執筆をいろいろな人に薦めてきましたが、久々に会った友達に突然感謝されたことが何度かあります。 それを何時見つけて読んだとしても、自分の生きて来た人生を振り返る素晴らしい機会をRさんにもたらてくれるはずです。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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